複合腐食試験JISで金属加工品の耐食性を正しく評価する方法

複合腐食試験のJIS規格(JIS H 8502、JASO M609等)を正しく理解できていますか?塩水噴霧試験との違いや試験サイクルの選び方、試験片の準備まで、金属加工従事者が知っておくべきポイントを解説します。

複合腐食試験JISの基礎から実践まで正しく理解する

塩水噴霧試験で「合格」でも、実環境では先にさびる製品がある。


この記事でわかること
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複合腐食試験(CCT)とは何か

JIS H 8502やJASO M609など、代表的な規格のサイクル条件と狙いを整理します。塩水噴霧試験(SST)との根本的な違いも解説。

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JIS規格の選び方と試験サイクルの読み方

JIS・JASO・ISO・海外規格の使い分けや、45サイクルが沖縄暴露1年に相当する根拠など、実務で使える換算知識を紹介。

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試験片の準備と結果の正しい読み方

端面処理の見落としが試験結果を狂わせる理由、腐食評価指標(レイティングナンバ法)の使い方まで解説します。


複合腐食試験(CCT)とJIS規格の基本的な仕組み

複合腐食試験(CCT:Cyclic Corrosion Testing)とは、塩水噴霧・乾燥・湿潤といった複数の環境条件を1サイクルとして繰り返す腐食促進試験です。単純に塩水を吹き続ける塩水噴霧試験(SST)に比べ、実際の屋外環境に近い腐食の進み方を再現できる点が最大の特長です。


金属加工の現場では、JIS H 8502「めっきの耐食性試験方法」が複合サイクル試験の基本規格として最も広く参照されます。この規格は中性塩水噴霧サイクル試験と人工酸性雨サイクル試験の2種類のサイクル試験方法を定めており、電気めっき・無電解めっき・溶融めっきなど、幅広いめっき製品の耐食性評価に対応しています。


関連する主なJIS規格をまとめると次のようになります。


規格番号 名称 主な対象
JIS H 8502 めっきの耐食性試験方法 各種めっき製品
JIS Z 2371 塩水噴霧試験方法 連続噴霧試験(SST)
JIS K 5600-7-9 塗料一般試験方法(サイクル腐食性 塗膜・塗装製品
JIS K 5621 一般用さび止めペイント 塗料製品
JASO M609 自動車用材料腐食試験方法 自動車部品・鋼板


これが基本です。


腐食反応は電気化学的なプロセスであり、表面が「ぬれ状態」「乾燥状態」を交互に繰り返すことで腐食生成物の生成と皮膜への浸透が繰り返し促進されます。連続噴霧だけでは金属表面が常時湿潤な状態になり、むしろ実環境とは異なる腐食形態が現れることがあります。複合サイクル試験が重要な理由はここにあります。


標準的なJASOサイクル(JASO M609)の条件は以下のとおりです。


  • 🌊 塩水噴霧:35℃±1℃、5%NaCl溶液、2時間
  • 🌬️ 乾燥:60℃±1℃、相対湿度20〜30%、4時間
  • 💧 湿潤:50℃±1℃、相対湿度95%以上、2時間


これを1サイクル(8時間)として繰り返します。1日に3サイクルが回る計算です。


腐食は「表面状態によって腐食の進行が変わる」という重要な性質があります。食塩が付着した表面では、相対湿度78%以上で腐食が急激に進行します。清浄な表面なら相対湿度100%近くにならないと腐食はほとんど進みません。つまり、塩分の付着量や付着部位のコントロールも、複合サイクル試験の精度に直結するわけです。


スガ試験機株式会社「腐食性を極める」|各腐食因子の役割と複合サイクル試験規格の詳細解説


複合腐食試験のJIS規格と塩水噴霧試験(SST)の違い

金属加工の現場では、塩水噴霧試験(SST)の方がまだ主流という会社も少なくありません。ただし、SSTと複合サイクル試験では「測れているもの」が根本的に異なります。


塩水噴霧試験(JIS Z 2371)は、試験槽内で35℃、5%塩化ナトリウム溶液を連続噴霧し続ける方法です。試験の再現性が高く、品質管理や比較評価には優れています。一方で、実際の屋外環境では金属表面は「濡れ→乾き→また濡れ」を繰り返します。この乾湿サイクルがない分、SSTの結果が実環境の腐食進行と乖離することがあります。


意外な事実があります。塩水噴霧試験での耐食性ランキングが、複合サイクル試験や実環境での暴露試験とは逆転することが複数の研究事例で報告されています。あるめっき仕様ではSSTで「優秀」でもJASOサイクル試験や沖縄屋外暴露では「劣位」になるケースがあるのです。これが複合腐食試験をSSTと併用すべき最大の理由です。


両試験の特徴を比較すると次のようになります。


項目 塩水噴霧試験(SST) 複合サイクル試験(CCT)
主なJIS規格 JIS Z 2371 JIS H 8502、JASO M609 等
試験条件 連続塩水噴霧(35℃) 噴霧・乾燥・湿潤のサイクル
実環境との相関 低い(腐食形態が異なる) 高い(乾湿繰り返しを模擬)
再現性・管理のしやすさ 高い やや複雑
主な用途 品質管理・比較評価 実環境耐久性評価


これは使えそうです。


SSTはめっきの品質管理や出荷検査には依然として有効です。ただし「製品が実際の使用環境でどれだけ持つか」を評価したいなら、複合サイクル試験が必要になります。塗装板・めっき板・自動車部品など、実際に屋外や過酷環境にさらされる製品については、CCTの結果を耐食性設計の根拠として使うことが業界標準に近づいています。


また、SSTの推奨試験時間はJIS Z 2371で96時間、168時間、240時間などが設定されています。「240時間=1年相当」という換算が使われることもありますが、これは飽くまで参考値です。製品の使用環境や目標耐用年数によって、適切な試験方法と試験時間を選ぶことが大切です。


イビデンエンジニアリング「塩水噴霧試験(塩水噴霧・塩水噴霧複合サイクル試験)」|SST・CCTの条件比較と各種金属の試験事例を詳細に解説


複合腐食試験における主なJIS・JASO規格の選び方

複合腐食試験の規格は国内だけでも複数存在し、JIS・JASO・ISOが混在しています。どの規格を選ぶかで試験結果の意味が変わるため、目的に合った選択が必要です。


まず、国内で最も基本となるのがJIS H 8502です。めっき製品全般に使えるサイクル試験方法で、中性塩水噴霧サイクルと人工酸性雨サイクルの2種類を規定しています。人工酸性雨サイクルは、5%NaCl溶液に硫酸・硝酸を加えてpH3.5に調整した液を使用し、SOxやNOxを含む大気汚染環境を模擬します。都市部や工業地帯に近い環境で使用される製品の評価に適しています。


次に、自動車部品・材料の評価で広く使われるのがJASO M609です。このサイクルは、裸鋼板で45サイクル(約15日)が沖縄屋外暴露の約1年分に相当するというデータが得られており、実環境との相関が高い規格として信頼性があります。塗装板では180サイクル(約60日)が沖縄暴露の1年6ヵ月に相当するとも報告されています。


「45サイクルが1年分」というのは驚きますね。これを知っておくと、試験期間の設計に役立ちます。


塗料・塗装製品の評価にはJIS K 5600-7-9が使われます。塩水噴霧・乾燥・湿潤を繰り返す試験で、28〜120サイクルが標準的な試験サイクルとして設定されています。


海外規格への対応も増えています。自動車メーカーや電機メーカーの海外取引先向けには、VDA 233-102(ドイツ)、GMW 14872(GM)、SAE J2334(米国)などの規格が要求されるケースがあります。これらはJIS・JASOとは試験サイクルの条件が異なるため、受託試験機関に事前確認が必要です。


規格選択のポイントを整理すると、次のようになります。


  • ⚙️ めっき製品全般の耐食評価:JIS H 8502(中性または人工酸性雨サイクル)
  • 🚗 自動車部品・鋼板の評価:JASO M609、JASO M610
  • 🎨 塗装製品・塗膜評価:JIS K 5600-7-9、JIS K 5621
  • 🌍 海外メーカー向け部品:VDA 233-102、GMW 14872、SAE J2334 等(要個別確認)


発注者・顧客から「JIS H 8502 のサイクル試験で○○時間」と指定されることも多いため、自社で試験を実施する場合も、受託に出す場合も、規格番号と試験サイクルの条件を一致させて管理することが基本です。


JFEテクノリサーチ「複合サイクル腐食試験と評価技術」|国内・海外規格の対応一覧と超大型CCT試験機の仕様まで詳細に紹介


複合腐食試験の試験片準備で見落としやすいJISの規定

複合腐食試験の結果を信頼できるものにするには、試験片の準備が非常に重要です。ここを疎かにすると、試験データが実態を反映しなくなります。


JIS H 8502では試験片の取り扱いについて明確な規定があります。まず、試験片は「素手で持たないこと」が義務付けられています。手の皮脂や汗が試験面に付着すると、腐食反応に影響を与えるためです。必ず手袋を使用します。


切断・プレス加工を経た試験片では、切口や端面に素地の金属が露出します。この露出部分をそのまま試験にかけると、端面から腐食が急速に進み、本来評価したい表面処理(めっきや塗装)の性能が正確に測れなくなります。JIS H 8502では、切口・端面など試験面でない部分の素地露出部は「試験条件下で安定な皮膜を施して保護しなければならない」と明記されています。電気絶縁テープなどを使う方法が一般的です。


これは見落としがちな注意点です。


試験前の脱脂処理も規定されています。適切な溶剤(エタノール、揮発油など)で試験面をよく拭くか、酸化マグネシウムや沈降性炭酸カルシウムの微粉末を付けた水でぬらした脱脂綿で丁寧にこすり、水洗後に清浄な布で水分を取り除きます。ただし、クロメート処理や塗装が施された試験片にはこの処理を避けることが推奨されています。


試験片のサイズは150×70mm または100×100mmが望ましいとされています。はがきサイズ(148×100mm)よりやや細長い寸法が基本です。ただし、受渡当事者間の協定があれば別サイズも可とされています。製品そのものを試験片とすることも認められているため、実部品を試験に使う場合は端面処理の要否を必ず確認します。


試験片の設置角度や他の試験片との接触防止も重要な管理項目です。試験片相互が接触すると腐食電池が形成されてしまい、単体での評価ができなくなります。試験槽内での配置は、JIS規定に準拠した試験機メーカーの推奨方法を参照してください。


複合腐食試験後の評価方法と金属加工現場での活用のコツ

試験が終わった後の評価方法も、JIS規格によって定められています。正しい読み方を知らないと、せっかくの試験データが意思決定に活かせません。


腐食評価の代表的な方法がJIS Z 2371に準拠する「レイティングナンバ(RN)法」です。試験面に発生した腐食面積率によって0〜10のスコアで評価します。RN10が腐食なし(完全な状態)、RN0が腐食面積率50%以上の最悪の状態を表します。数字が大きいほど良い状態です。


レイティングナンバ(RN) 腐食面積率の目安 状態の目安
10 0%(腐食なし) 優良
8 0.1〜0.25% 良好
6 1〜2.5% 注意
4 10〜25% 不良
0 50%以上 極めて不良


RN8以上が合格ラインとなる製品規格が多い状況です。


腐食量(腐食減量、g/m²)の定量評価には、ISO 8407:2021に記載された腐食生成物の除去方法を使い、試験前後の重量差から計算します。さらに精密な評価が必要な場合は、ワンショット3D形状測定機などで孔食の深さや分布を面的に計測することも可能です。


複合腐食試験の結果を現場で活かすコツは、「単独の試験結果で合否判定しない」ことです。同じ製品に対してSST・CCT・屋外暴露試験の3種類を実施し、それぞれの結果を比較対照することで、実環境での耐食性をより正確に把握できます。自社での試験設備がない場合は、JFEテクノリサーチや日鉄テクノロジーのような公的・民間受託試験機関を活用できます。なお、受託試験に出す際は「どの規格の・何サイクルの・どの評価方法で」を明確に指示することで、意図した結果が得られます。


試験費用は試験機関や規格・サイクル数によって変わりますが、一般的な受託試験では数千円〜数万円の範囲で対応していることが多く、開発段階での品質確認に積極的に取り入れることでクレームや手戻りコストの削減に直結します。この投資は大切です。


試験後には腐食形態の記録も合わせて残すことをすすめます。写真・断面観察・SEM-EDX分析などのデータを蓄積しておくと、次の材料選定や表面処理設計の根拠資料として活用できます。


kikakurui「JIS H 8502:1999 めっきの耐食性試験方法」|試験片の取り扱い規定・各種試験方法の条件等、JIS規格全文の参照に