屋外暴露試験と金属加工製品の耐久性評価方法

金属加工製品の耐久性を正確に評価するには屋外暴露試験が欠かせません。本記事では試験方法から結果の解釈まで詳しく解説します。あなたの製品は適切な耐候性評価を受けていますか?

屋外暴露試験と金属加工

屋外暴露試験のポイント
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実環境での評価

製品が実際に使用される環境下での材料の変化を直接観察できる唯一の方法

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長期間の試験

通常数ヶ月から数年にわたり実施され、材料の経年変化を正確に把握

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促進試験の基準

各種促進試験の結果を評価するための基準データとして活用

屋外暴露試験の基本原理と金属材料への適用方法

屋外暴露試験とは、工業材料や製品を実際の大気環境に長期間さらし、その化学的・物理的性質の経時変化を調査する評価方法です。金属加工品、特に屋外で使用される製品にとって、この試験は耐候性を評価する上で最も信頼性の高い方法とされています。

 

屋外暴露試験の基本原理は非常にシンプルです。試験対象となる金属材料を、日光、雨、風、温度変化などの自然環境因子に直接曝すことで、実際の使用環境における材料の挙動を観察します。JIS Z 2381(大気暴露試験方法通則)では、この試験方法について詳細に規定されています。

 

金属材料への適用においては、以下のポイントが重要です。

  1. 試料の準備
    • 試験材料の表面状態を均一に整える
    • 試験前の初期値(表面状態、質量、光沢度など)を測定
    • 比較用の参照試料と保存用試料を準備
  2. 試験条件の設定
    • 地理的環境(沿岸部、都市部、工業地帯など)の選択
    • 暴露角度の決定(通常は緯度に応じて設定)
    • 暴露方向の選択(通常は南向きを基本とする)
  3. 試験期間
    • 金属材料の場合、最低でも1年以上の試験期間が望ましい
    • 定期的な中間検査を実施して経時変化を記録

特に金属加工品では、試験架台への固定方法が試験結果に大きな影響を与えます。JIS Z 2381では「試料相互間の接触による影響が生じないように、適当な間隔を空けて、試料に余分な外力を加わらないように固定する」と規定されています。また、「年間を通じて風が強い場所(台風の影響を受けやすい場所等)では、試料が飛ばされないようにしっかりと固定する(ボルト締め等)」ことも求められています。

 

屋外暴露試験における試験架台と金属試料の設置条件

屋外暴露試験の結果に大きく影響するのが、試験架台の構造と試料の設置条件です。JIS規格では、試験装置の構成材料について「暴風雨、積雪による重さ及び暴露架台の全面に試料を取り付けた場合の最大の負荷に耐える強度及び耐久性をもつもの」と定めています。

 

金属試料を設置する際の主な条件は以下の通りです。
1. 試験架台の材質選択

これらの材質は試験対象の金属材料に影響を与えない不活性なものであることが重要です。特に異種金属接触による電位差腐食を避けるため、試験架台と試料間の絶縁に注意が必要です。

 

2. 試料の取り付け方法
試料の取り付けには主に二つの方法があります。

  1. 裏打ちなし暴露

    材料の両面(表面、裏面)が周囲の空気循環に曝されるよう、試料の両端を固定またはクランプする方法です。これにより、試料の両面における環境因子の影響を評価できます。

     

  2. 裏打ちあり暴露

    試料の片面のみを環境に曝し、裏面は架台に密着させる方法です。建材や外装材などの実際の使用状況に近い条件での評価に適しています。

     

3. 暴露角度と方向
暴露角度は試験の目的によって異なりますが、一般的には以下のように設定されます。

  • 水平暴露(0°):雨水や埃の堆積の影響を最大化
  • 45°暴露:日射と雨水の影響をバランスよく評価
  • 垂直暴露(90°):壁面材料など垂直に設置される材料の評価

方向については、北半球では南向き、南半球では北向きが標準とされていますが、実際の使用環境に合わせた方向設定も重要です。

 

特に注意すべき点として、暴露試験場は「東、西及び赤道方向の仰角20°以上、反赤道方向の仰角45°以上に日照、降水、通風などの環境条件に著しい影響を及ぼすような地形的特徴、建築物等の地上物件、樹木などがない場所」であることが求められています。

 

屋外暴露試験と促進試験の相関性からみる金属加工品の評価

金属加工品の耐候性評価において、屋外暴露試験は最も信頼性の高い方法ですが、長期間を要するという難点があります。そこで実務では、促進試験との併用が一般的です。促進試験は短期間で結果が得られる利点がありますが、実環境との相関性が常に課題となります。

 

促進試験と屋外暴露試験の相関性
関西ねじ協同組合研究開発委員会の研究によると、従来の塩水噴霧試験と屋外暴露試験との間には相関性に課題がありました。そこで開発されたのが「FCK法」と呼ばれる新しい試験方法です。この方法では以下の条件が設定されています。

  • 噴霧溶液:0.5wt%NaCl+0.1wt%CaCl2+0.0001N(H2SO4)(溶液≒pH4)
  • 1サイクル:噴霧(50±1℃、16時間)→乾燥(50±1℃、湿度20~30%、8時間)

FCK法の興味深い点は、屋外暴露試験との相関性を数値化していることです。

  • 都市部:4.41×サイクル数=〇〇ヶ月
  • 沿岸部:0.77×サイクル数=〇〇ヶ月

例えば、FCK法で15サイクル実施した場合。

  • 都市部では約66ヶ月(5.5年)
  • 沿岸部では約12ヶ月(1年)

の屋外暴露に相当するとされています。この相関関係を活用することで、製品開発サイクルを大幅に短縮できます。

 

主な促進試験方法と特徴

  1. キセノンアーク試験

    太陽光スペクトルに近い光源を使用し、JIS K 7350-2では300~400nmの範囲で60W/㎡と規定されています。紫外線による劣化を再現するのに適しています。

     

  2. メタルハライドランプ試験

    紫外線の放射照度が極めて高く、オープンフレームカーボンの10倍以上強い紫外線を放射します。表面の色変化などの促進性に優れていますが、試験方法の標準化が課題です。

     

  3. 複合サイクル試験

    温度、湿度、紫外線照射、塩水噴霧などを組み合わせたサイクル試験で、海岸地域など複合的な環境因子による劣化を再現するのに適しています。

     

金属加工業界では、これらの促進試験と屋外暴露試験の結果を比較検証し、製品の耐久性予測モデルの精度向上に取り組んでいます。

 

促進試験と屋外暴露試験の比較に関する詳細な研究はこちらで参照できます

屋外暴露試験の国際規格と金属加工業界の品質保証

金属加工業界において、屋外暴露試験は品質保証の重要な柱となっています。これらの試験は国際的に認められた規格に基づいて実施されることで、信頼性の高いデータとなります。

 

主な関連国際規格

  1. JIS Z 2381

    日本工業規格の「大気暴露試験方法通則」で、屋外大気環境および遮蔽大気環境下における工業材料および工業製品の大気暴露試験方法の一般要求事項について規定しています。

     

  2. ISO 8566

    「Metals and alloys -Atmospheric corrosion testing -General requirements for field tests」という国際規格で、金属および合金の大気腐食試験に関するフィールドテストの一般要件を定めています。

     

  3. JIS K 5600-7-6

    「塗料一般試験方法―第7部:塗膜の長期耐久性―第6節:屋外暴露耐候性」として、塗装された金属材料の耐候性評価方法を規定しています。

     

これらの規格に準拠した試験を実施することで、金属加工製品の品質保証が可能になります。特にグローバル市場で競争力を持つためには、これらの国際規格への準拠が重要です。

 

品質保証システムへの組み込み
先進的な金属加工企業では、屋外暴露試験を品質保証システムの中核に位置づけています。具体的には以下のようなアプローチが取られています。

  1. 製品開発段階
    • 試作品の屋外暴露試験を早期に開始
    • 促進試験と並行して実施し、相関データを蓄積
    • 結果に基づいた材料・構造の最適化
  2. 量産段階
    • ロットごとのサンプリング検査
    • 定点観測による長期データの収集
    • 顧客向け保証データとしての活用
  3. アフターサービス
    • 市場回収サンプルとの比較検証
    • 耐用年数予測の精度向上
    • 次世代製品へのフィードバック

これらのプロセスを通じて、金属加工業界では製品の信頼性向上と長寿命化が図られています。特に建築用金属部材や自動車部品など、長期間の使用が想定される製品では、屋外暴露試験データに基づく品質保証が顧客からの信頼獲得につながっています。

 

屋外暴露試験データの活用による金属加工製品のデジタルツイン設計

最先端の金属加工業界では、屋外暴露試験から得られるデータを活用した「デジタルツイン設計」が注目されています。これは実物の金属製品と同じ挙動をする仮想モデルを作成し、様々な環境条件下での経年変化をシミュレーションする革新的なアプローチです。

 

デジタルツイン設計の基本概念
デジタルツイン設計とは、実物の製品と同じ特性を持つデジタルモデルを作成し、様々な条件下でのシミュレーションを可能にする技術です。金属加工製品への適用では、以下のステップで進められます。

  1. 実データの収集
    • 様々な環境下での屋外暴露試験データを収集
    • 材料特性、表面処理、形状などの変数ごとのデータベース構築
    • 定点観測による経時変化データの蓄積
  2. モデル化とパラメータ設定
    • 金属の劣化メカニズムに基づいたアルゴリズム開発
    • 環境因子(紫外線量、雨量、温度サイクル、塩分濃度など)のパラメータ化
    • 各種表面処理や合金組成による影響の数値化
  3. シミュレーションと検証
    • 様々な環境条件下での経年変化シミュレーション
    • 実際の屋外暴露試験データとの比較検証
    • モデルの継続的な精度向上

この技術により、数年~数十年先の製品状態を高精度に予測することが可能になります。

 

デジタルツイン設計のメリット

  1. 製品開発サイクルの短縮

    長期間の屋外暴露試験を待たずに、高精度な耐候性予測が可能になります。

     

  2. コスト効率の向上

    試験片の大量生産や長期保管にかかるコストを削減できます。

     

  3. カスタマイズの容易さ

    特定の環境(極寒地域、高温多湿地域、塩害地域など)に特化した製品設計が効率化されます。

     

  4. 予防保全の最適化

    製品の劣化進行を予測し、最適なメンテナンス時期を提案できます。

     

実施例と将来展望
先進的な金属加工企業では、屋外暴露試験データを20年以上蓄積し、それを基にしたデジタルツインモデルを開発しています。例えば、ある建築金具メーカーでは、様々な気候区分ごとにシミュレーションを行い、最適な合金組成と表面処理の組み合わせを地域特性に合わせて提案するシステムを構築しています。

 

将来的には、IoT技術との連携により、実際に設置された製品からリアルタイムデータを取得し、デジタルツインモデルの精度をさらに高める取り組みも進められています。これにより、製品の寿命予測と予防保全の最適化が実現し、金属加工製品の長寿命化とライフサイクルコストの削減が期待されています。

 

屋外暴露試験と相関性の高いFCK法について詳しくはこちらを参照してください
金属加工業界では、今後も屋外暴露試験データの継続的な蓄積とデジタル技術の融合により、より信頼性の高い製品開発が進んでいくことでしょう。気候変動による環境変化も考慮した新たな試験方法やシミュレーションモデルの開発が期待されています。