PAI樹脂の特性と用途、切削加工の注意点とPEEK比較

PAI樹脂は優れた特性を持つスーパーエンプラですが、その高機能性ゆえに加工が難しいと感じていませんか?本記事ではPAI樹脂の基本特性から、PEEKとの違い、そして加工を成功させるための具体的な注意点までを徹底解説。あなたの悩みを解決するヒントが見つかるかもしれません。

PAI樹脂の特性と加工のポイント

PAI樹脂完全ガイド
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驚異の耐熱性

連続使用温度260℃を誇り、高温下でも高い機械的強度を維持します。

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多様な用途

航空宇宙から電子部品まで、その優れた摺動性と電気絶縁性で活躍します。

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加工の秘訣

予備乾燥や発熱抑制など、難加工材を攻略するための重要なポイントを解説します。

PAI樹脂の驚くべき耐熱性と機械的強度

 

PAI樹脂(ポリアミドイミド)は、スーパーエンジニアリングプラスチックの中でもトップクラスの性能を誇る素材です。その最大の特徴は、なんといっても並外れた「耐熱性」と「機械的強度」にあります。
まず耐熱性についてですが、PAI樹脂の連続使用温度はグレードにもよりますが約260℃にも達します。これは、熱可塑性樹脂の中では最高レベルの数値です。荷重たわみ温度(熱変形温度)も260℃以上と非常に高く、高温環境下でも変形しにくい性質を持っています。そのため、エンジン周辺部品や半導体製造装置など、常に高温に晒される過酷な環境での使用に耐えることができます。さらに、-196℃といった極低温環境でも優れた特性を維持するため、幅広い温度範囲で安定した性能を発揮できるのが強みです。

 

参考)ポリアミドイミド(PAI)とは?特徴・用途・PEEKとの比較…

次に機械的強度ですが、PAI樹脂は無充填のプラスチックの中では最高の機械的強度を持つと言われています。特に、高温環境下でのクリープ性(持続的な荷重による変形への耐性)や、耐疲労性に優れている点が注目されます。一般的な樹脂が高温で軟化し強度を失っていくのに対し、PAI樹脂は200℃を超える環境でも高い強度と剛性を保ち続けます。この強度は、金属の代替材料として検討されるほどで、軽量化が求められる航空宇宙分野の構造部品などにも採用されています。

 

参考)無充填プラスチックで最高の機械強度を持つPAI(ポリアミドイ…

💡豆知識:PAI樹脂の強度の秘密
PAI樹脂が持つ強靭な構造は、イミド結合とアミド結合が組み合わさった特殊な分子構造に由来します。この堅固な化学構造が、優れた耐熱性と機械的強度を実現しているのです。

 

参考)PAI樹脂(ポリアミドイミド樹脂)

このように、PAI樹脂は他の樹脂では対応できないような厳しい条件下でこそ、その真価を発揮する高機能材料と言えるでしょう。

 

PAI樹脂の優れた摺動性と電気絶縁性が活きる用途

PAI樹脂が持つ優れた特性は「耐熱性」や「機械的強度」だけではありません。「摺動性(滑りやすさ)」と「電気絶縁性」も、PAI樹脂を語る上で欠かせない重要なポイントです。これらの特性が、PAI樹脂の用途をさらに広げています。
摺動性に関しては、特に摺動グレードのPAI樹脂が非常に高い性能を示し、同じスーパーエンプラであるPEEK樹脂をも上回ることがあります。自己潤滑性があり、摩擦係数が低いため、ベアリングやギア、シール部品といった、常に摩擦が発生する部品に最適です。特に高温環境下での摺動性は他の樹脂の追随を許さず、潤滑油が使えないような状況でも安定した性能を発揮します。これにより、機械の長寿命化やメンテナンスフリー化に大きく貢献します。

 

参考)PAI(ポリアミドイミド)

もう一つの重要な特性である電気絶縁性も、PAI樹脂の価値を高めています。高い絶縁破壊強度を持ち、幅広い周波数帯域で安定した電気特性を示すため、電子部品の分野で広く採用されています。

 

参考)https://www.kpra.jp/index.php?document_srl=343

具体的な用途としては、以下のようなものが挙げられます。

 

     

  • 半導体・電子部品分野:ICテストソケット、コネクタ、絶縁保護膜、センサーハウジングなど。製造工程の高温にも耐え、精密な部品を確実に保護します。
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  • 自動車・航空宇宙分野:エンジン部品、トランスミッション部品、ベアリング、スラストワッシャーなど。軽量化と高信頼性を両立させる素材として重宝されています。
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  • 産業機械分野:コンプレッサー部品、ポンプ部品、摺動ブッシュなど。過酷な運転条件下でも摩耗が少なく、長期間の使用に耐えます。

これらの用途からわかるように、PAI樹脂は「高温」「高荷重」「摩擦」「電気」といった厳しい条件が複数重なるような、最も要求の厳しい環境でその能力を発揮する材料なのです。

 

PAI樹脂の切削加工における注意点と成功の秘訣

PAI樹脂は非常に優れた特性を持つ一方で、その高性能さゆえに「加工が難しい」材料としても知られています。特に切削加工においては、いくつかの重要なポイントを押さえないと、寸法精度の低下やクラック(ひび割れ)といった不具合を引き起こす可能性があります。しかし、要点を理解し、適切な手順を踏めば、高精度な加工は決して不可能ではありません。
成功の秘訣は、大きく分けて以下の3つです。

 

1. 加工前の「完全予備乾燥」は必須! 💧➡️🔥
PAI樹脂は吸湿性があるため、材料内部に水分を含んだまま加工を行うのは絶対に避けるべきです。切削時に発生する熱で内部の水分が気化し、膨張することで、微小な亀裂(マイクロクラック)が生じる原因となります。これをぐため、加工前には必ずオーブンなどを使用して、メーカーが推奨する条件(例:150℃で24時間以上など)で十分に予備乾燥を行う必要があります。この一手間を惜しまないことが、高品質な加工への第一歩です。

 

参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/marketplace/51255/

2. 加工時の「発熱抑制」を徹底する!
PAI樹脂は耐熱性が高い材料ですが、樹脂そのものの熱伝導率は低いため、切削加工で発生した熱が局所的に溜まりやすいという性質があります。刃先に熱がこもりすぎると、樹脂が溶融して加工面に付着したり、切削精度が悪化したりする原因になります。

 

参考)ポリアミドイミド切削加工品

発熱を抑制するための具体的な対策は以下の通りです。

 

     

  • 工具の選定:切れ味の鋭い超硬工具やダイヤモンドコーティングされた工具を使用し、すくい角を大きく設定します。
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  • 切削条件:回転数を上げすぎず、適切な送り速度を設定することが重要です。高すぎる回転数は熱を発生させ、低すぎると表面粗さが悪化します。
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  • クーラントの使用:切削油(クーラント)を適切に使用し、刃先と加工点を効率的に冷却します。

3. 「段階的な加工」で応力を緩和する! 😌
PAI樹脂は非常に硬い材質であるため、一度に大きく削り取ろうとすると、材料内部に応力が溜まりやすくなります。この内部応力が、加工後の変形や割れの原因となることがあります。

 

参考)PAI加工の依頼を1個から

これを避けるためには、荒加工と仕上げ加工を分けることが有効です。荒加工で大まかな形状を作り出した後、一度材料を休ませて内部応力を緩和させる「アニーリング(熱処理)」を行うか、しばらく時間を置いてから仕上げ加工に入ることで、寸法安定性の高い部品を作ることができます。

これらのポイントを確実に実行することで、PAI樹脂の優れた性能を最大限に引き出した高精度な部品加工が実現できるでしょう。

 

より詳細な加工技術については、専門の加工メーカーの技術資料が参考になります。

 

湯本電機株式会社のPAI加工に関する技術情報ページ。具体的な加工のポイントがまとめられています。

PAI樹脂とPEEK樹脂の特性比較と使い分け

スーパーエンプラを選定する際、PAI樹脂としばしば比較対象となるのが「PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)」です。どちらも非常に高性能な樹脂ですが、その特性には違いがあり、用途によって最適な選択は異なります。ここでは、両者の違いを明確にし、適切な使い分けの指針を示します。
まずは、それぞれの特性を比較した表を見てみましょう。

 

特性項目 PAI樹脂 (ポリアミドイミド) PEEK樹脂 (ポリエーテルエーテルケトン) 備考
連続使用温度

◎ 約260℃
参考)PAIポリアミドイミド樹脂|KDAのプラスチック加工技術

◎ 約260℃ ​ どちらも最高クラスの耐熱性を誇ります。
機械的強度 (高温時) ◎ 優れる ​ 〇 良好 ​ 200℃以上の高温域ではPAI樹脂がより高い強度を維持します​。
靭性耐衝撃性 ◎ 優れる ​ 〇 良好 ​ 衝撃に対する強さではPAI樹脂に軍配が上がります。
摺動性 ◎ 優れる ​ 〇 良好 ​ 特に摺動グレードではPAI樹脂がPEEK樹脂を上回る性能を示します​。
耐薬品性 〇 良好 ◎ 優れる ​ 幅広い薬品に対する耐性ではPEEK樹脂が優れています​。
耐加水分解性 △ 注意が必要 ◎ 優れる 高温のスチーム環境などではPEEK樹脂が適しています。
加工性 △ 難しい ​ 〇 比較的容易 ​ PEEK樹脂は射出成形も可能で、加工の自由度が高いです​。
コスト △ 高価 ​ 〇 PAIよりは安価 一般的にPAI樹脂の方が高価な傾向にあります。


この比較から、どのような場合にどちらの樹脂を選ぶべきかが見えてきます。

 

✅ PAI樹脂が適しているケース

     

  • 200℃以上の高温環境で、常に高い機械的負荷がかかる用途 (例: 高温での軸受)
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  • 最高の摺動性が求められ、摩擦・摩耗を極限まで抑えたい用途 (例: 潤滑不要の摺動部品)
  •  

  • 金属からの代替で、軽量でありながら高い靭性や耐衝撃性が必要な構造部品

一言でいうと、「極限環境下での機械的性能」を最優先するならPAI樹脂が最適です。

 

✅ PEEK樹脂が適しているケース

     

  • 強酸や強アルカリなど、厳しい薬品環境に晒される用途 (例: 化学プラントのバルブ部品)
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  • 高温スチームや熱水中での使用が想定される用途 (例: 医療機器の滅菌部品)
  •  

  • 複雑な形状の部品を、射出成形などで大量生産したい場合
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  • 150℃以下の環境で、コストと性能のバランスを取りたい場合

こちらは、「耐薬品性や生産性、コストパフォーマンス」を重視する場合に強みを発揮します。

 

両者はライバルであると同時に、それぞれの得意分野で補完しあう関係とも言えます。設計する部品に求められる最も重要な特性は何かを明確にすることが、最適な材料選定への近道です。

 

PAI樹脂のコストは本当に高いのか?メーカー別の特徴と意外な事実

「PAI樹脂は高性能だが、とにかく高価だ」というイメージが定着しています。確かに、汎用プラスチックや多くのエンジニアリングプラスチックと比較すれば、その価格は数倍から数十倍にもなります。このコストが、採用への大きなハードルとなっていることは否めません。しかし、その価格の背景と、トータルコストという視点を持つことで、PAI樹脂の価値を再評価できるかもしれません。
なぜPAI樹脂は高価なのか?
PAI樹脂が高価である主な理由は、その複雑な製造プロセスにあります。原料となるモノマーの合成に時間がかかり、特殊な設備と高度な品質管理が求められるため、製造コストが必然的に高くなります。また、需要が特殊な用途に限られるため、大量生産によるコストダウンが難しいという側面もあります。

主要メーカーと製品ブランド
PAI樹脂を製造しているメーカーは限られており、それぞれが特徴的な製品ブランドを展開しています。代表的なメーカーとブランドは以下の通りです。

 

     

  • ソルベイ・スペシャルティ・ポリマーズ (Solvay): 「TORLON® (トーロン)」というブランド名で世界的に知られる、PAI樹脂のパイオニアです。豊富なグレードと長年の実績が強みです。
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  • 三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ: 「デュラトロン® PAI」というブランドで製品を提供しています。様々な形状の素材(板、丸棒など)を供給しています。
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  • 東レプラスチック精工: 「TI-POLYMER」などの名称で知られ、国内メーカーとして高い技術力を誇ります。

これらのメーカーは、それぞれ標準グレード、摺動グレード、ガラス繊維炭素繊維で強化したグレードなど、多様な製品ラインナップを持っています。当然、グレードによって価格は大きく変動します。例えば、特殊なフィラーを添加した高性能グレードは、標準グレードよりもさらに高価になります。
意外な事実:トータルコストで考えると?
ここで視点を変えて、「初期コスト」だけでなく「ライフサイクルコスト(トータルコスト)」で考えてみましょう。

 

例えば、ある機械の金属製摺動部品が摩耗により頻繁な交換とメンテナンスを必要としていたとします。この部品をPAI樹脂製に置き換えた場合、以下のようなメリットが考えられます。

 

     

  1. 長寿命化:優れた耐摩耗性と摺動性により、部品の交換サイクルが劇的に延びる。
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  3. メンテナンスコストの削減:交換作業にかかる人件費や、装置のダウンタイム(停止時間)による生産損失が削減できる。
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  5. 潤滑不要によるコスト削減とクリーン化:自己潤滑性により給油が不要になれば、潤滑油のコストや管理の手間が省け、周辺環境の汚染も防げる。

初期の材料費(イニシャルコスト)は確かに高額ですが、長期的に見ればメンテナンスコストや関連コストの大幅な削減につながり、結果としてトータルコストでは金属部品よりも安価になるというケースは決して珍しくありません。

 

「高価だから使えない」と最初から諦めるのではなく、その部品が使われる環境、求められる性能、そして交換やメンテナンスにかかる全てのコストを総合的に評価することが、PAI樹脂を真に有効活用するための鍵となります。材料選定の際には、ぜひこの「トータルコスト」という視点を持ってみてください。意外なところで、PAI樹脂が最適な解決策となるかもしれません。

 

 


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