3軸加工と5軸加工の違い
3軸加工 vs 5軸加工 早わかり比較
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構造と動き
3軸はXYZの直線移動のみ。5軸はXYZに加え、回転・傾斜の2軸が追加され、工具やテーブルを傾けて複雑な加工に対応します。
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メリット・デメリット
5軸は複雑形状が得意で段取りも少ないですが高コスト。3軸は単純加工向きで低コストかつ高剛性な点が魅力です。
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最適な選び方
加工物の形状、要求精度、予算、そして作業者のスキルセットを総合的に評価し、将来性も見据えて選ぶことが重要です。
3軸加工と5軸加工の基本的な構造と軸数の違い
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金属加工の世界で頻繁に耳にする「3軸加工」と「5軸加工」。これらの最も基本的な違いは、その名の通り「軸の数」にあります 。
マシニングセンタにおける軸とは、工具や加工対象物(ワーク)を動かす方向の数を指します。
まず、3軸加工機は、以下の3つの直線軸で構成されています 。
この3軸を制御することで、工具を立体的に移動させ、ワークの上面から穴あけや平面削り、溝加工などを行います 。構造が比較的シンプルなため、剛性が高く、プログラミングも容易なのが特徴です 。しかし、加工できるのは工具が向いている一方向からのみ。例えばサイコロの6面すべてを加工する場合、1面加工するごとに手動でワークの向きを変えて固定し直す「段取り替え」という作業が6回必要になります 。
一方、5軸加工機は、このXYZの3軸に加えて、2つの回転・傾斜軸が追加されています 。この追加される2軸は、機械の構造によって異なりますが、一般的には以下の組み合わせです。
- A軸:X軸周りの回転
- B軸:Y軸周りの回転
- C軸:Z軸周りの回転
例えば、ワークを載せたテーブルが回転(C軸)し、さらに傾斜(A軸 or B軸)するタイプや、工具のヘッド部分が首を振るように傾斜・回転するタイプなどがあります 。この2軸が加わることで、ワークを一度固定しただけで、上面だけでなく側面や斜めの面など、5面を連続して加工することが可能になります 。これにより、複雑な曲面を持つ部品や、多面的な加工が必要な部品を効率よく製造できるのです 。
3軸加工と5軸加工のメリット・デメリット徹底比較!精度とコストの真実
3軸加工機と5軸加工機、それぞれに利点と欠点があり、どちらが優れていると一概には言えません。加工する製品の形状、求められる精度、そして最も重要なコストを天秤にかけ、自社に最適な選択をすることが重要です 。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを徹底的に比較してみましょう。
💰 コスト面での比較最大の判断基準の一つがコストでしょう。一般的に、5軸加工機は3軸加工機に比べて構造が複雑なため、機械本体の価格が非常に高価です 。例えば、ある試算では同程度のサイズの加工機で約1,500万円もの価格差が出ることが示されています 。さらに、設置費用やメンテナンス費用、そして複雑な加工プログラムを作成するための高性能なCAMソフトウェアや専門知識を持つオペレーターの人件費といったランニングコストも5軸加工の方が高くなる傾向にあります 。
一方、3軸加工機は導入コストを大幅に抑えられます。ただし、多面加工が多い場合、段取り替えに多くの時間と人手を取られ、結果的に総コストが高くつく可能性も考慮しなければなりません 。
⚙️ 精度と品質面での比較「5軸加工は高精度」というイメージが強いですが、一概にそうとは言い切れないのが面白い点です。
5軸加工の最大の精度メリットは、一度のセッティングで多面加工が完了すること(ワンチャック加工)です 。段取り替えのたびに発生する取り付け誤差がなくなるため、各加工面の位置関係の精度が非常に高くなります 。また、工具を最適な角度に傾けることで、工具の先端ではなく切れ味の良い側面を使って加工でき、加工面の品質(面粗さ)が向上します 。実際に、5軸加工を用いることで表面粗さが劇的に改善したという研究結果も報告されています 。
しかし、意外なことに、単純な平面加工や重切削においては、構造がシンプルで剛性の高い3軸加工機の方が高い精度を出せる場合があります 。軸数が増えるほど機械の構造が複雑になり、剛性が低下する傾向があるためです 。
⏱️ 生産性と効率面での比較複雑な形状の部品を製造する場合、5軸加工機は圧倒的な生産性を誇ります。3軸加工では何度も必要だった段取り替えが不要になるため、機械の非稼働時間が大幅に短縮され、加工時間が短くなります 。ある部品の加工事例では、3軸加工に比べて5軸加工の方が約20%もコストダウンできたという報告もあります 。これは、段取り替えの手間が省けたことによる時間短縮が、マシンチャージの高さというデメリットを上回った良い例です。
一方で、単純な形状の部品を大量生産するようなケースでは、段取り替えがほとんど発生しないため、加工速度自体に大差はなく、むしろ安価な3軸加工機を複数台並べた方が効率的な場合もあります。
以下の表に、メリット・デメリットをまとめます。
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👍 メリット |
👎 デメリット |
| 5軸加工 |
・段取り替えが少なく、工数削減・高精度化 ・インペラなど複雑な曲面形状の加工が可能 ・短い工具で加工でき、びびりを抑制 ・治具の簡素化・削減 |
・機械が高価で、初期投資が大きい ・プログラミング(CAM)が複雑で高度な技術が必要 ・構造が複雑なため、3軸機より剛性が低い場合がある |
| 3軸加工 |
・機械が安価で、導入コストを抑えられる ・構造がシンプルで剛性が高く、重切削に有利 ・プログラミングや操作が比較的容易 ・重量物の加工に対応しやすい機種が多い |
・多面加工には段取り替えが必須で時間がかかる ・段取り替えによる位置決め誤差が発生しやすい ・アンダーカットなど複雑な形状の加工は困難 |
3軸加工では難しい?同時5軸加工と割出5軸加工で実現する複雑形状
「5軸加工」と一括りにされがちですが、その動き方には大きく分けて「同時5軸加工」と「割出5軸加工(位置決め5軸加工)」の2種類が存在し、それぞれ得意なことや用途が異なります 。この違いを理解することが、5軸加工の能力を最大限に引き出す鍵となります。
📍 割出5軸加工(インデックス5軸)割出5軸加工とは、まず回転・傾斜の2軸を使ってワークを任意の角度に位置決めし、その角度で固定した状態で、XYZの3軸を動かして加工を行う方法です 。つまり、加工中は3軸加工機と同じ動きをします。
- 特徴: 一度の段取りで、サイコロの複数の面を加工するように、異なる角度の平面や穴を加工するのに適しています 。プログラムは比較的シンプルで、導入のハードルも同時5軸に比べて低いとされています 。
- 用途: 航空機部品の多面的な穴あけ加工、自動車部品のブラケットなど、複数の加工面を持つが、自由な曲面は含まない部品の加工に多用されます。
簡単に言えば、「面倒な段取り替えを自動でやってくれる賢い3軸加工」とイメージすると分かりやすいでしょう。3軸加工では治具を複数用意したり、何度も手作業で角度を変えたりする必要があった加工を、ワンチャックで完了させられるため、大幅な効率アップと精度向上が見込めます 。
🌀 同時5軸加工同時5軸加工は、XYZの3直線軸とAB(またはC)の2回転軸の合計5つの軸すべてを、コンピュータ制御(CNC)によって同時に、かつ滑らかに連動させて加工を行う方法です 。工具の刃先を常に最適な角度でワークに当てながら、複雑な3次元曲面を削り出していきます。
- 特徴: 自由曲面や複雑な輪郭を持つ形状の加工を得意とします。例えば、スクリューやタービンブレード、人工関節といった、滑らかな曲線で構成される部品の製造には不可欠な技術です 。
- 用途: 航空宇宙産業のインペラ、エネルギー分野のタービンブレード、医療分野の人工骨頭、金型の高品位な仕上げ加工など、極めて高い精度と複雑な形状が求められる分野で活躍します。
割出5軸が「点と点を結ぶ」加工だとすれば、同時5軸は「滑らかな曲線を描く」加工です。この加工を実現するには、非常に高度で複雑なNCプログラムと、それを正確に実行できる高性能な機械および制御装置が必要不可るため、導入コストも運用技術の難易度も高くなります。
参考リンク:DMG森精機株式会社のウェブサイトでは、同時5軸加工と割出5軸加工の違いがアニメーション付きで分かりやすく解説されており、視覚的に理解を深めることができます。
3軸加工機の剛性が高精度加工に有利なケースとは?意外な選択基準
「最新の5軸加工機こそ最高・最強」という風潮がありますが、実は特定の条件下においては、旧来の3軸加工機の方が優れた結果をもたらすことがある、というのはあまり知られていない事実かもしれません。その鍵を握るのが「機械剛性」です。
機械剛性とは、加工時に工具やワークにかかる力(切削抵抗)に対して、機械がどれだけ変形しにくいかを示す指標です。剛性が低いと、加工中に機械がたわんでしまい、設計通りの寸法が出なかったり、加工面に「びびり」と呼ばれる振動模様が発生したりと、精度や品質の低下に直結します。
5軸加工機は、テーブルや主軸に回転・傾斜といった複雑な機構を持つため、構造的に3軸加工機よりも剛性が低くなる傾向があります 。特に、テーブルが傾斜するタイプの5軸機では、重いワークを傾けた際に重心が大きく移動し、機械全体のバランスが崩れて剛性不足を招くことがあります。
では、どのような場合に3軸加工機の剛性が有利に働くのでしょうか?
- 📦 厚板の平面加工や重切削: 金型のベースプレートのように、大きく厚い金属の塊から大量に切り屑を出す「重切削」を行う場合、非常に大きな切削抵抗が発生します。このような加工では、構造がシンプルでがっしりとした3軸加工機の方が、びびりを抑えて高い加工能率と良好な平面度を達成できることがあります 。
- 📏 高い直角度や平行度が求められる加工: 5軸加工機は回転軸を持つため、その回転軸自体に微小なバックラッシ(遊び)や誤差が含まれます。直線的な動きだけで構成される3軸加工機は、この回転軸に起因する誤差要因がないため、原理的に高い直角度や平行度を出しやすいというメリットがあります。
- ⚖️ 重量物の加工: 5軸加工機の回転テーブルは、その積載重量に厳しい制限があることがほとんどです 。一方、門型の大型3軸加工機などは、非常に重いワークを安定して積載できる設計になっており、重量物の加工では3軸機に軍配が上がります。
もちろん、最近の高性能な5軸加工機は、設計の工夫や高度な制御技術によって剛性不足を補い、重切削にも対応できるモデルが増えています。しかし、「軸数が多いほど優れている」という単純な発想で機械選定をするのではなく、加工内容の本質を見極め、「敢えて3軸機を選ぶ」という戦略が、結果的に高品質・低コストなモノづくりに繋がるケースもあるのです。これは、長年現場で加工に携わってきたベテラン技術者ならではの視点と言えるかもしれません。
3軸加工から5軸加工へ!自社に最適なマシニングセンタの選び方
3軸加工と5軸加工の違いを理解した上で、最後に、自社にとって最適なマシニングセンタを選ぶための具体的なポイントを解説します 。高価な投資だからこそ、失敗は許されません。以下の4つの視点から、多角的に検討しましょう 。
- 何を加工するのか?(ワークの材質・形状・サイズ)
- 材質: アルミのような柔らかいものから、チタンやインコネルといった難削材まで、加工する素材の硬さによって必要な機械の剛性や主軸のトルク、回転数が決まります 。
- 形状: 主に平面や2.5D形状の加工であれば、3軸加工機で十分対応可能です 。しかし、インペラや金型の曲面、医療部品のような自由曲面を含む複雑な形状の加工が将来的に見込まれるのであれば、5軸加工機が必須となります 。
- サイズと重量: 加工したいワークの最大サイズと重量を確認し、それが機械のテーブルサイズや積載重量の仕様内に収まるかを確認します。特に5軸機は積載重量がシビアな場合が多いため注意が必要です 。
- どれくらいの精度が必要か?(要求精度)
- 一般的な部品加工であれば、多くの3軸加工機、5軸加工機で十分な精度が得られます。
- しかし、サブミクロン単位の超高精度が求められる金型加工や光学部品加工などでは、機械本体の熱変位を補正する機能や、リニアスケールによるフルクローズドループ制御など、特別な高精度仕様が必要になります。5軸加工は段取り替えによる誤差を排除できるため、多面加工の累積精度では有利です 。
- いくらかけられるのか?(予算)
- 機械本体の価格だけでなく、治具、工具、CAMソフトウェア、オペレーターの教育費用、設置費用、そして年間のメンテナンス費用まで含めた「トータルコスト」で判断することが重要です 。
- 初期投資を抑えたい場合は3軸加工機が有利ですが、5軸加工機を導入することによる段取り工数の削減や加工時間の短縮が、長期的に見てコスト削減に繋がる可能性も十分にあります。具体的な部品で加工時間をシミュレーションし、費用対効果を試算してみましょう 。
- 誰が使うのか?(作業者のスキル)
- 3軸加工機は比較的プログラムがシンプルで、操作を習熟しやすいというメリットがあります。
- 一方、同時5軸加工を使いこなすには、CAMの高度な知識と複雑な機械の動きを理解できる経験豊富なオペレーターが不可欠です 。もし社内に適任者がいない場合は、導入と同時に人材を育成するか、手厚いサポートを提供してくれるメーカーや代理店を選ぶ必要があります。操作が比較的容易な「割出5軸加工」から始めるというのも一つの手です 。
これらの要素を総合的に評価し、優先順位をつけることで、自社の現在、そして未来にとって本当に価値のある一台が見えてくるはずです。DMG森精機、ヤマザキマザック、オークマといった主要メーカーのショールームで実機を確認し、テスト加工を依頼してみるのも有効な手段です。
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