ワイヤー放電加工機とは?その原理と種類、加工精度向上のコツ

ワイヤー放電加工機について、基本的な原理や仕組み、加工液による種類の違いなどを知りたいと思っていませんか?この記事では、加工精度をさらに高めるための具体的なコツから、意外と知られていないワイヤー線と加工液の関係性、そして未来の展望までを深掘りします。あなたの加工技術を一段階引き上げるヒントが見つかるかもしれません。

ワイヤー放電加工機とは

この記事でわかること
基本原理と仕組み

非接触で金属を溶かす放電加工のメカニズムをわかりやすく解説します。

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水と油の違い

加工液による種類の違いと、それぞれのメリット・デメリットを比較します。

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精度向上の秘訣

加工精度を極めるための具体的なノウハウや条件設定のコツを紹介します。

ワイヤー放電加工機の基本原理と加工の仕組み

 

ワイヤー放電加工機は、電気のエネルギーを利用して金属を精密に加工する工作機械の一種です 。その最大の特徴は、糸ノコギリのようにワイヤー状の電極(ワイヤー線)を使い、加工物(ワーク)に触れることなく切り抜く「非接触加工」である点です 。硬い金属でも、電気を通す性質(導電性)さえあれば、どんなに複雑な形状でも加工できる驚異の技術です 。
加工のプロセスは、まるでミクロの世界で雷を制御するかのようです 。

 

参考)ワイヤーカットとは?原理・仕組みから特徴まで、まとめて解説!…

     

  1. まず、加工槽を絶縁性の高い「加工液」(主に水または油)で満たし、その中に加工物をセットします 。
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  3. 次に、真鍮タングステンなどで作られた直径0.03mm~0.3mmほどの非常に細いワイヤー電極を加工物のごく近くまで接近させます 。
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  5. ワイヤーと加工物の間に高い電圧をかけると、加工液の絶縁が破壊され、火花放電(スパーク)が発生します 。
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  7. この放電の瞬間、局所的に6,000℃以上もの超高温が発生し、金属の表面を瞬時に溶かします 。
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  9. 溶かされた金属は加工液によって急激に冷却され、ごく小さな加工くずとなって吹き飛ばされます 。同時に、加工液は放電で汚れた部分を洗い流し、再び絶縁状態を回復させる役割も担います 。

この一連のサイクルを毎秒数千回から数万回という猛烈な速さで繰り返すことで、コンピュータ制御された通りに金属が正確に切り抜かれていくのです 。接触しないため、加工物にかかる物理的なストレスが極めて小さく、薄くて変形しやすい素材や、もろい材料の加工にも適しています 。

ワイヤー放電加工機の種類と比較(水加工液 vs 油加工液)

ワイヤー放電加工機は、使用する加工液によって大きく「水仕様機」と「油仕様機」の2種類に分類されます 。どちらも放電を安定させ、加工くずを排出し、加工部を冷却するという基本的な役割は同じですが、その特性の違いが加工結果に大きく影響します 。
💧 水加工液(水仕様機)
一般的に最も広く使用されているタイプです 。ただし、使用される水は水道水ではなく、イオン交換樹脂などを用いて不純物を取り除いた「純水(脱イオン水)」です 。

 

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  • メリット: 加工速度が速く、生産性が高いのが最大の特徴です 。また、冷却性能が高く、厚みのある加工物の加工にも適しています 。ランニングコストも油に比べて安価な傾向にあります。
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  • デメリット: 油に比べて放電ギャップ(ワイヤーと加工物の隙間)が広くなるため、加工精度や面粗さ(表面の滑らかさ)の限界は油仕様機に劣るとされています 。

⛽ 油加工液(油仕様機)
超高精度な加工が求められる場面で活躍するのが油仕様機です。絶縁性の高い専用の加工油を使用します 。

 

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  • メリット: 絶縁性が高いため放電ギャップを非常に小さくでき、安定した放電が可能です 。これにより、ミクロン単位の極めて高い加工精度と、鏡面に迫るほどの優れた面粗さを実現できます 。微細なコネクタ部品や半導体関連の金型加工に不可欠な存在です 。
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  • デメリット: 加工速度は水仕様機に比べて遅くなる傾向があります。また、油は引火性があるため、火災対策など安全管理にはより一層の注意が必要です。

【水と油の特性比較表】
| 特性 | 水加工液 | 油加工液 |
| :--- | :--- | :--- |
| **加工速度** | 速い | 遅い |
| **加工精度** | 良い | 非常に良い |
| **面粗さ** | 良い | 非常に良い |
| **コスト** | 比較的安価 | 比較的高価 |
| **主な用途** | 一般的な金型、部品加工 | 超精密金型、微細部品、コネクタ |
| **安全性** | 燃えない | 引火性あり、火災対策が必要 |
メーカーの技術解説ページでは、それぞれの加工液の特性を活かした具体的な加工事例が紹介されており、より深い理解の助けとなります。

 

ソディック社による加工液の役割解説

ワイヤー放電加工の精度を向上させる具体的なコツ

ワイヤー放電加工でミクロンオーダーの精度を追求するためには、機械の性能だけに頼るのではなく、いくつかの重要なコツが存在します。これらは日々の業務ですぐに実践できるものばかりです 。
加工回数を増やして仕上げる
高精度を狙う場合、一度で切り抜いて終わり(ファーストカット)ではありません 。同じ輪郭を、条件を少しずつ変えながら2回、3回と繰り返しなぞるように加工(セカンドカット、サードカット...)します 。これにより、ファーストカットで生じた微細な歪みや表面の凹凸が取り除かれ、寸法精度と面粗さが劇的に向上します 。

 

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加工条件(電流・電圧)を最適化する
仕上げ加工に移行するにつれて、電流値を下げるなど、加工エネルギーを徐々に小さくしていくのがセオリーです 。これにより、一回あたりの加工量を減らし、より繊細な仕上げが可能になります。ただし、条件を追い込みすぎると加工が不安定になるため、材質や板厚に応じた最適な条件を見つける経験が重要になります。

 

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🧵 ワイヤー線の太さと張力を使い分ける
加工精度はワイヤー線の直径に大きく影響されます 。特に、鋭いコーナー形状を加工する場合、ワイヤー径がそのまま内Rの最小サイズを決めてしまいます。そのため、Φ0.03mmやΦ0.05mmといった極細ワイヤーを使用することで、よりシャープなコーナー加工が可能になります 。ただし、細いワイヤーは切れやすいため、加工速度を落としたり、張力(テンション)を適切に管理したりする繊細な調整が求められます 。

 

参考)https://www.mdpi.com/2072-666X/13/8/1231/pdf?version=1659259875

🌡️ 温度管理を徹底する
金属は温度によって伸縮するため、加工中の温度変化は精度の大きな敵です 。加工液の温度を一定に保つチラー(冷却装置)の管理はもちろん、工場全体の室温を安定させることも、最高レベルの精度を維持するためには不可欠です 。

以下の資料では、コーナー加工精度など、より具体的な精度向上のための技術的アプローチが解説されています。

 

高知工科大学によるワイヤカット放電加工の加工精度向上に関する研究

【独自視点】ワイヤー放電加工におけるワイヤー線と加工液の意外な相互作用

ワイヤー放電加工において、ワイヤー線と加工液はそれぞれ独立して機能しているように思われがちですが、実は両者の間には加工精度や効率を左右する、あまり知られていない相互作用が存在します。

 

一つ目は、「加工液の噴流によるワイヤー振動の抑制効果」です 。ワイヤー線は常に高速で走行していますが、その張力だけでは微細な振動(フラッター)が発生してしまい、加工精度を悪化させる一因となります 。実は、上下のノズルから噴射される加工液の圧力は、このワイヤーの振動を物理的に抑え込むダンパーのような役割も果たしているのです。加工液の適切な圧力管理は、切りくずを排出するだけでなく、ワイヤーの挙動を安定させ、まっすぐな加工面を得るための重要な要素と言えます 。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9412553/

二つ目は、「材質の組み合わせによる化学的な影響」です。例えば、水加工液を使用する際、亜鉛コーティングされたワイヤー線を使うと、亜鉛が水に溶け出すことで加工液の電気的な特性が微妙に変化し、加工速度に影響を与えることがあります。また、油加工液に含まれる特殊な添加剤が、ワイヤー線の表面や加工面に作用し、面粗度の向上に寄与するケースも報告されています。

 

さらに踏み込んだ視点として、「電解作用による影響」も無視できません。特に水加工液の場合、加工物とそれを固定する治具(クランプ)の材質が異なると、電池のように微弱な電流が流れ、意図しない電解腐食を引き起こす可能性があります。これは加工精度に悪影響を及ぼすだけでなく、治具の寿命を縮める原因にもなり得ます。

 

最近では、こうした放電と化学作用を積極的に利用する新しい研究も進んでいます 。例えば、従来の放電加工で問題となる「再鋳造層(溶けた金属が再凝固してできる硬くてもろい層)」を、特殊な電解液(加工液)を使って化学的に除去しながら加工を進める「ワイヤー電気化学放電マイクロマシニング(WECDMM)」という技術が開発されており、部品の性能向上に繋がると期待されています 。

 

参考)https://www.mdpi.com/2072-666X/14/8/1505/pdf?version=1690444005

ワイヤー放電加工機の応用分野と未来の展望

ワイヤー放電加工技術は、その高い精度と汎用性から、現代のものづくりに欠かせない基幹技術として、幅広い産業分野で活用されています 。
主な応用分野:

     

  • 精密金型: 自動車のボディをプレスする金型や、スマートフォンの筐体を作る射出成形金型など、複雑で高精度な金型の製作に最も多く利用されています 。
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  • 自動車産業: エンジン部品やトランスミッションギアなど、高い耐久性と精度が求められる重要部品の加工に使われています 。
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  • 航空宇宙産業: タービンブレードなどの耐熱合金や、軽量な特殊材料といった難削材の加工でその能力を発揮します 。
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  • 医療機器: 手術器具やインプラントなど、人体に関わる微細で複雑な形状を持つ部品の製造に不可欠です 。
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  • 電子部品: 半導体のリードフレームや基板に実装される極小コネクタなど、μm(マイクロメートル)単位の精度が要求される世界の主役です 。

未来の展望:
ワイヤー放電加工機の技術は、今もなお進化を続けており、将来的にはAIやIoTとの融合によって、さらなる飛躍が期待されています 。

 

参考)放電加工(EDM)とは?DXとの連携で進化する精密加工技術

     

  1. AIによる加工条件の完全自動化: 熟練技術者が経験と勘で導き出していた最適な加工条件を、AIが3Dモデルデータから自動で生成。誰でも最高の加工品質を引き出せる時代が来るかもしれません 。
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  3. IoTによる予知保全とスマートファクトリー化: 機械の稼働状況や消耗品の劣化具合をセンサーが常に監視し、故障や品質低下を未然にぎます。これにより、工場の無人化・自動化がさらに加速するでしょう。
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  5. 他の加工技術とのハイブリッド化: ワイヤー放電加工とレーザー加工、切削加工などを一台に組み合わせた「複合加工機」が登場し、ワンチャッキングであらゆる加工を完結できるようになる可能性があります 。
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  7. 超微細・超精密加工への挑戦: MEMS(微小電気機械システム)に代表されるマイクロマシンの分野では、より細いワイヤーや新しい加工原理によって、ナノレベルの加工が現実のものとなるかもしれません 。

精密加工技術への要求は今後ますます高まることが予想され、ワイヤー放電加工機市場は持続的な成長が見込まれています 。この技術の進化が、未来の製品や産業を形作っていくと言っても過言ではないでしょう。

 

 


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