ウレタンとプラスチックの違い、種類と加工における耐久性の特徴

ウレタンとプラスチック、どちらも高分子材料ですが、その特性には大きな違いがあります。本記事では、金属加工の現場で役立つウレタンの基本的な知識から、種類別の特徴、加工や塗装のポイント、さらには意外な弱点である劣化のメカニ-ズムまでを深掘りします。あなたの現場での材料選定は本当に最適でしょうか?

ウレタンとプラスチックの基本的な違いと特性

ウレタンとプラスチック早わかりガイド
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物性の違い

ウレタンはゴムのような弾性と高い耐摩耗性が特徴。一方、プラスチックは硬質で多様な形状に加工しやすい。

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種類と選び方

加熱して再加工できる熱可塑性と、一度固まると戻らない熱硬化性がある。用途に応じた選択が重要。

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加工と注意点

接着や塗装にはプライマーによる下地処理が必須。加水分解という特有の劣化にも注意が必要。

ウレタンの物性:プラスチックにはない弾性と驚異の耐摩耗性

 


金属加工の現場で「プラスチック」と一括りにされがちな材料ですが、その中でも「ウレタン(ポリウレタン)」は際立った個性を持つ素材です 。一般的なプラスチックが硬質なものであるのに対し、ウレタンの最大の特徴はゴムのような優れた弾力性と、それに相反するような驚異的な耐摩耗性にあります 。例えば、フォークリフトのタイヤやコンベアベルトなど、過酷な環境で使われる部品にウレタンゴムが採用されるのは、この強靭な性質のおかげです 。
具体的に他の合成ゴムと比較しても、ウレタンゴムの機械的強度は群を抜いています 。この強さの秘密は、ソフトセグメントとハードセグメントと呼ばれる2つの構造に由来します 。柔軟な鎖状のソフトセグメントがゴム弾性を、そして強固に結合したハードセグメントが機械的強度や耐熱性を生み出しているのです。この2つのセグメントの配合比率を変えることで、消しゴムのような柔らかいものから、硬質プラスチックに近いものまで、自由自在に硬度を調整できるのもウレタンならではの大きなメリットです 。
さらに、ウレタンは衝撃吸収性や振性、吸音性にも優れています 。工場の騒音対策や、精密機械の振動防止材として使われることも少なくありません。一方で、多くのプラスチックは、ここまでの弾性や耐摩耗性を両立することは困難です。材料選定の際には、単に「プラスチック」としてではなく、「ウレタン」という選択肢を念頭に置くことで、部品の長寿命化や性能向上に繋がる可能性があります。

参考リンク:イノアックコーポレーションのウレタン紹介ページでは、軽量性、衝撃吸収性、断熱性など、ウレタンの多様な特徴が分かりやすくまとめられています。
https://www.inoac.co.jp/urethane/about/index.html

ウレタンの種類と用途:熱可塑性と熱硬化性の違いを理解する


ウレタンは、大きく「熱可塑性ウレタン」と「熱硬化性ウレタン」の2種類に分類されます。この違いは、熱に対する挙動の違いであり、製品の加工方法やリサイクル性に大きく関わってきます 。

     

  • 熱可塑性ウレタン (TPU)

    チョコレートのように、熱を加えると溶けて柔らかくなり、冷やすと固まる性質を持っています 。このため、射出成形や押出成形といった一般的なプラスチックと同じ方法で大量生産が可能で、リサイクルも比較的容易です。電線の被覆、スマートフォンのケース、自動車の部品、チューブなど、複雑な形状の製品に多く利用されています 。
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  • 熱硬化性ウレタン

    ホットケーキのように、一度熱を加えて化学反応で硬化させると、再び熱を加えても元の液体には戻らない性質を持ちます 。主剤と硬化剤という2つの液体を混ぜて反応させることで作られ、熱可塑性ウレタンよりも優れた耐熱性や機械的強度、耐薬品性を持ちます 。大型の工業用ローラーや、強力な接着剤、塗料、断熱材などに使用されます 。

さらに、ウレタンゴムは化学構造によって「エーテル系」と「エステル系」にも分けられます 。


 

 

 


 


 

 

 


 


 

 

 



種類

長所

短所

主な用途

エーテル系

耐水性、耐寒性に優れる

機械的強度はエステル系に劣る

水中や湿度の高い環境で使われるパッキン、シール材

エステル系

機械的強度、耐摩耗性、耐油性に優れる

耐水性に劣り、加水分解しやすい

工業用ローラー、ベルト、タイヤなど強度と耐油性が求められる箇所

このように、一口にウレタンと言っても多様な種類が存在します。使用環境(水、油、熱、応力など)を正確に把握し、最適な種類のウレタンを選定することが、性能を最大限に引き出す鍵となります。

ウレタンの加工と塗装:接着を成功させる下地処理の秘訣


ウレタンは非常に優れた素材ですが、その表面は化学的に安定しているため、接着や塗装が難しいという側面も持っています。金属加工の現場でウレタン部品を接着したり、保護のために塗装したりする際には、適切な下処理が不可欠です。この工程を怠ると、簡単に剥がれてしまい、トラブルの原因となります 。
接着や塗装を成功させる最大の秘訣は、「プライマー」の使用にあります 。プライマーは、ウレタンの表面と接着剤・塗料との間に介在し、両者を強力に結びつける「橋渡し」の役割を果たします。手順は以下の通りです。

     

  1. 表面の洗浄と脱脂

    まず、接着または塗装するウレタンの表面を、アルコールや専用のクリーナーで念入りに洗浄します。油分や汚れ、離型剤などが残っていると、プライマーの密着を著しく妨げるため、この工程は非常に重要です。

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  3. プライマーの塗布

    ウレタン専用のプライマーを選定し、刷毛やスプレーで均一に薄く塗布します 。厚塗りすると乾燥不良や性能低下の原因になるため、あくまで薄く塗るのがコツです。塗布後は、メーカーが指定する時間を守り、プライマーを完全に乾燥させます。
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  5. 接着剤・塗料の塗布

    プライマーが乾燥したら、接着剤や塗料(アクリルウレタン塗料などが一般的 )を塗布します。接着剤であれば、圧着して完全に硬化するまで待ちます。塗装の場合は、スプレーガンなどで均一に吹き付け、指定された乾燥時間を厳守することが塗膜の耐久性を保つ上で重要です 。

特にウレタン同士や、ウレタンと金属を接着する場合、汎用の接着剤では十分な強度が得られないことが多く、ウレタン専用の接着剤とプライマーの組み合わせが推奨されます 。適切な下処理を行うことで、ウレタンの持つポテンシャルを最大限に活かした加工が可能になります。

ウレタンの劣化と耐久性:加水分解を防ぎ長寿命化する条件


優れた機械的強度を持つウレタンですが、「加水分解」という特有の劣化現象には注意が必要です 。加水分解とは、素材が空気中の水分(湿気)と反応して、分子レベルで分解されてしまう現象です 。製造から2~3年経過すると表面化し始め、べたつき、ひび割れ、最終的にはボロボロに崩壊する原因となります 。特に、機械的強度に優れるエステル系のウレタンゴムは、この加水分解を起こしやすい性質を持っています 。
加水分解を促進する要因は以下の通りです。

     

  • 💧 高湿度・水分:空気中の湿気や、直接水に触れる環境。
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  • ☀️ 紫外線:直射日光に長時間さらされる場所。
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  • 🌡️ 高温:高温環境は化学反応を促進させます。
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  • 🦠 微生物:カビなどの微生物も劣化を促進させる一因です。

この劣化は避けられない経年変化ではありますが、いくつかの対策を講じることで、その進行を大幅に遅らせ、部品の寿命を延ばすことが可能です 。
最も効果的な対策は、使用環境に合わせて適切な種類のウレタンを選ぶことです。湿度が高い、または水に濡れる可能性がある環境では、加水分解に強い「エーテル系」のウレタンを選定するのが基本です 。また、硬質ウレタンフォームのように、独立した気泡構造を持つものは、内部に水分が侵入しにくいため、加水分解に対して比較的高い耐久性を持ちます 。
保管方法も重要です。予備のウレタン部品を保管する際は、直射日光を避け、湿度の低い冷暗所に置くことが推奨されます。これにより、未使用期間中の劣化進行を最小限に抑えることができます。ウレタンの「加水分解」という弱点を正しく理解し、設計段階での材料選定や使用環境への配慮を行うことが、長期的なコスト削減と信頼性向上に繋がります。

参考リンク:加水分解のメカニズムや対策について、帝人フロンティアのウェブサイトで詳しく解説されています。
https://solotex.net/ecology/polyurethane/

【独自視点】ウレタンと薬品:切削油や潤滑剤が与える意外な影響


金属加工の現場では、切削油、潤滑剤、洗浄剤など、多種多様な化学薬品が日常的に使用されています。ウレタンは一般的に耐油性に優れるとされていますが 、これはあくまで一般的な鉱物油やグリースに対しての話であり、全ての薬品に対して万能というわけではありません。特に、近年の高性能な化学合成油や特殊な添加剤を含む切削油の中には、ウレタンを膨潤(膨らむ現象)させたり、硬化させたりして、物性を著しく低下させるものがあります。
例えば、治具のクッション材としてウレタンを使用している場合を考えてみましょう。加工中に飛散した切削油がウレタンに長時間付着し続けると、ウレタンが切削油の成分を吸収して膨張を始めます。これにより、治具の寸法精度が狂い、加工不良の原因となる可能性があります。また、パッキンやシール材として使用されているウレタンが硬化してしまうと、気密性が失われ、油漏れやエア漏れといった深刻なトラブルに直結します。

意外な盲点として、ウレタンの「色」も薬品耐性に関わることがあります。ウレタンに着色するために添加される顔料が、特定の薬品と反応して変質を早めるケースが報告されています。そのため、重要な部品に色付きのウレタンを使用する場合は、事前に使用する薬品との相性をテストすることが望ましいでしょう。

対策としては、以下の点が挙げられます。

     

  • 詳細な耐薬品性データの確認:材料メーカーが提供する技術資料には、様々な薬品に対する耐性データが記載されています。使用する切削油や潤滑剤の成分を確認し、適合するグレードのウレタンを選定することが重要です。

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  • エーテル系とエステル系の使い分け:一般的に、耐油性ではエステル系が優れているとされますが 、薬品の種類によってはエーテル系の方が高い耐性を示す場合もあります。メーカーに問い合わせるなどして、最適な種類を選択する必要があります。
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  • コーティングによる保護:ウレタン部品の表面に、より耐薬品性の高いフッ素樹脂などでコーティングを施すことも有効な対策です。


金属加工の現場における材料選定では、機械的強度や耐熱性だけでなく、日常的に使用する「化学薬品」との相性という視点を持つことが、予期せぬトラブルを防ぎ、安定した生産を維持するために極めて重要です。

 

 


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