ティルティングパッド軸受の構造と種類・選定のポイント

ティルティングパッド軸受の構造・ピボット方式・予圧係数・油膜形成の仕組みを詳しく解説。金属加工現場で使われるターボ機械や圧縮機に欠かせないこの軸受、正しく理解できていますか?

ティルティングパッド軸受の構造と種類・選定のポイント

パッドが「揺動する」だけでは軸受は長持ちせず、予圧係数を外すと早期焼付きで数百万円の修理費が発生します。


🔩 この記事の3ポイント要約
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パッドが自動で傾いて油膜を形成

ティルティングパッド軸受は複数のパッドがピボットを支点に微小傾斜し、くさび状の油膜圧力でラジアル荷重・スラスト荷重を完全に支える構造。固定軸受にはない自動調心機能が振動安定性の要です。

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予圧係数 m=0.6 が設計の標準値

大同メタル工業の規格では、特に指示がない場合の標準予圧係数はm=0.6。この値がズレると油膜厚さの均一性が崩れ、軸受温度の急上昇や早期摩耗につながる場合があります。

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ホワイトメタルの許容温度は120℃が上限

軸受パッドに使われるすず系ホワイトメタル(JIS WJ2相当)の実用的な最高許容温度は約120℃。高速回転下では油膜のせん断発熱で容易にこの温度に近づくため、温度管理が稼働継続の鍵です。


ティルティングパッド軸受の基本構造とパッドの動作原理



ティルティングパッド軸受(Tilting Pad Bearing)は、軸受面全体を複数の独立したパッドに分割し、各パッドの背面をピボット(支点)で点支持または線支持した構造を持つすべり軸受です。日本機械学会の用語定義によれば、「パッド軸受」とも呼ばれ、ジャーナル軸受とスラスト軸受の2種類があります。


最大の特徴はパッドが「自動的に傾く」点です。各パッドに作用する油膜圧力を積分した合力ベクトルが常にピボット点の上に乗るよう、パッドが自動で傾斜角を変化させます。この結果、パッドと軸の間には「くさび状の油膜」が形成され、その流体圧力によってラジアル荷重を完全に支えます。原理はハガキ(約100×148mm)を2枚重ねてわずかに傾けると、指を入れた瞬間に水膜が形成されてスルリと動くイメージに近く、この「収束すき間への油の引き込み」が流体潤滑の根幹です。


大同メタル工業が公開する標準カタログによると、ジャーナル用ティルティングパッド軸受では通常5枚のパッドをリング状に並べてラジアル荷重を受けます。一方、スラスト用では6枚以上のパッドをリング状に配置して軸方向荷重(スラスト荷重)を受けます。各パッドはキャリアリングの中に収まっており、パッドストップ(回り止め)によって周方向への過度な移動を制限しながらも、ピボット支点まわりに自由に傾けるようになっています。


つまり「揺動するパッド+くさび油膜」が基本です。


固定シュー型の軸受(円筒軸受・多円弧軸受など)と異なり、ティルティングパッド軸受は本質的にオイルホイップ(油膜振動による不安定振動)を発生しにくい構造として知られています。これは日本機械学会の辞典でも明記されており、ターボ圧縮機・蒸気タービン・ガスタービンなど高速回転機械の主軸受として採用される主な理由のひとつです。


パッドの材質にはすず系ホワイトメタル(JIS WJ2相当品)が標準的に使われています。軟質合金であるため耐焼付き性に優れますが、高温になると機械強度が大きく低下するという特性があります。IHIの技術報告書によれば、すず系ホワイトメタルの実用的な最高許容温度は約120℃とされており、この温度を超えると塑性流動が起きる恐れがあります。発熱の少ない環境ならば問題ありません。


参考リンク:大同メタル工業によるティルティングパッドジャーナル軸受の構造・材質・選定基準の詳細資料
大同メタル工業 標準ティルティングパッドジャーナル軸受カタログ(PDF)


ティルティングパッド軸受の予圧係数(プリセット率)と油膜特性

ティルティングパッド軸受の設計で最も重要な数値のひとつが「予圧係数(プリセット率)m」です。これは金属加工の現場でも、軸受を機械に組み込む際に必ず確認すべきパラメータで、見落とすと油膜の安定性を著しく損なう可能性があります。


予圧係数mは以下の式で定義されます。


$$m = 1 - \frac{C_b}{C_p}$$


ここで $C_b$ はピボット点の半径すきま、$C_p$ はパッド内径と軸外径の差(加工半径すきま)です。


大同メタルの設計基準では「特に指示がない場合 m=0.6 が標準」とされています。m=0.6 という数値は、0〜1の範囲で言えば「0が予圧なし、1が最大予圧」に相当します。この値が0に近すぎるとパッドが安定して傾斜せず油膜が薄くなりやすく、逆に1に近すぎると摩擦損失と発熱が増大します。0.6という標準値は、両者のバランスを取るための実績から導き出された数値です。


意外ですね。m値は「機械メーカーに任せれば大丈夫」と思われがちですが、設置後の使用条件が変わった場合(軸の回転数変更・負荷変動など)、m値の見直しが必要になるケースもあります。


軸受すきま比(スキマ比)Crも重要で、大同メタルの基準表では軸周速50m/s以下では「0.0015×軸径d」、75m/s以下で「0.0020d」、75m/s超では「0.0025d」が目安とされています。たとえば軸径100mmの場合、周速75m/s超では半径すきま0.25mm が基準値の目安です。


油膜の厚さは油膜厚さだけが条件ではありません。IHI技術レポートによると、軸受面圧の常用目安は「1〜2MPa以下」です。回転数が上がると油膜の形成には有利になり荷重容量も増加しますが、同時に油膜のせん断発熱が増大するため、軸受温度が上昇して焼付きリスクが高まります。このトレードオフを数値で管理するのが設計の本質です。


参考リンク:IHI技術報告書による予圧係数・隙間比・軸受温度の実測データ(高速領域94m/sまでの解析精度検証)
IHI 高速ティルティングパッドジャーナル軸受の熱流体潤滑特性(PDF)


ジャーナル軸受とスラスト軸受の構造上の違いと使い分け

ティルティングパッド軸受には「ジャーナル形(ラジアル形)」と「スラスト形(アキシャル形)」の2種類があり、受ける荷重の方向が根本的に異なります。金属加工機械やターボ機械を選定・保守する立場では、どちらの軸受がどの位置に使われているかを把握しておくことが重要です。


ジャーナル形ティルティングパッド軸受は、回転軸の「径方向(ラジアル方向)」の荷重を支える軸受です。5枚のパッドがリング状に軸を囲み、各パッドがピボット支点を中心に微小傾斜してくさび状油膜を形成します。ガスタービン・蒸気タービン・ターボ圧縮機・増減速機などに幅広く使われており、とくに「高速回転での振動安定性(オイルホイップの抑制)」が最大の採用理由です。


スラスト形ティルティングパッド軸受は、軸の「軸方向(アキシャル方向)」の荷重を支える軸受です。6枚以上のパッドをリング状に並べ、軸端のスラストカラーに面で接触して荷重を受けます。パッドが軸方向からの力に対してそれぞれ傾斜することで均一な油膜を形成し、高い負荷容量を実現します。大同メタルのカタログでは「高い負荷容量で知られている」と明記されています。


高速領域での使い分けはこうなります。一般的にターボ圧縮機などでは、ロータを軸方向・径方向の両方で支持するため、ジャーナル形とスラスト形の2種類を組み合わせて使います。ジャーナル軸受では荷重方向がパッドの中央に来る「Load on Pad(LOP)」と、荷重がパッドとパッドの間(Between Pad位置)に来る「Load Between Pad(LBP)」の2つの配置方式があり、LOP方式はLBPよりも負荷パッドの温度が高くなりやすい傾向があることがIHIの実験でも確認されています。


🔵 ジャーナル形(ラジアル形)の主な使用機器一覧:


| 機器 | 使用理由 |
|---|---|
| ターボ圧縮機 | 高速・振動安定性が必要 |
| ガスタービン | 高温・高速での信頼性確保 |
| 蒸気タービン | 長時間連続運転の安定性 |
| 増減速機 | 変動荷重への追従 |
| 大型ポンプ | 径方向荷重が大きい |


これが基本の使い分けです。


センターピボット方式(パッド中央にピボット)を採用することで、正逆両回転に同等の負荷容量を発揮できます。これは一方向回転しか想定しない軸受では実現できない特長で、双方向運転が必要な設備(リバーシブルコンプレッサーなど)での採用理由のひとつになっています。


ティルティングパッド軸受の潤滑方式と油膜温度管理

ティルティングパッド軸受の寿命を左右する最大の要因のひとつが「潤滑管理」です。油膜は単なる潤滑剤ではなく、荷重を支えながら同時に熱を排出するという2つの役割を同時に担っています。この点を見落とすと、現場での予期せぬ軸受温度上昇・焼付きトラブルにつながります。


潤滑方式は大きく2種類に分かれます。油浴潤滑(FL:Flood Lubrication)は、軸受全体を油の中に浸す方式で、給油圧力0.1〜0.15MPa程度で供給します。構造がシンプルで広く使われていますが、軸の高速回転による油の攪拌損失(stirring loss)が発生し、機械損失と軸受温度の上昇につながる欠点があります。


一方、指向潤滑(DL:Directed Lubrication)は、パッドとパッドの間に設けた給油ノズルから直接、冷たい潤滑油を軸受面近傍に供給する方式です。FL方式のような攪拌損失がほとんどなく、軸受温度を大幅に低減できます。IHIの研究では、FL軸受とDL軸受を比較したところ、DL方式のほうが高速域(軸周速94m/s)での温度管理に有利であることが実測で確認されています。とくに周速60m/s以上の高速領域では「DL方式が非常に有効」とされています。


これは使えそうです。


IHIの試験データでは、軸径100mmの5パッド軸受を回転数18,000rpm(軸周速94m/s)で運転した場合、荷重を受けるパッドでは給油温度(約60℃)から50〜60℃の温度上昇が測定されました。最高軸受温度は110〜120℃に達しており、すず系ホワイトメタルの許容温度(約120℃)に非常に近い水準です。高速機械においていかに温度管理が重要かが数値で示されています。


🌡️ 軸受温度管理の実務ポイント:


- 給油温度の目安: 一般的に40〜60℃(粘度グレードVG32〜46が多い)
- 軸受出口温度の目安: 給油温度+20〜40℃以内に収めるのが望ましい
- ホワイトメタルの上限: 約120℃(これを超えると塑性変形リスク)
- 油溝内流速: ≦2m/s が推奨(大同メタル設計基準)


軸受温度が上昇傾向を示したら要注意です。振動モニタリングと温度モニタリングを組み合わせた状態監視(コンディションモニタリング)を導入することで、突発的な焼付きトラブルを未然にぐことができます。近年は各パッドに熱電対(K型)を直接埋め込んで連続計測するシステムも実用化されており、設備の稼働継続性を高める観点から導入を検討する価値があります。


参考リンク:日本機械学会によるティルティングパッド軸受の定義・オイルホイップとの関係など学術的解説
日本機械学会 機械工学辞典「ティルティングパッド軸受」


金属加工現場から見たティルティングパッド軸受の選定と保守の独自視点

金属加工の現場では、ティルティングパッド軸受はターボ圧縮機や圧延機の主軸受として使われることが多く、「壊れたら交換すればいい」という受動的なメンテナンスから「状態を見て先手を打つ」予防保全への移行が、近年の損失削減テーマになっています。


実際、ターボ圧縮機や大型増減速機の軸受焼付きは、設備全体の緊急停止につながります。設備停止1時間あたりの機会損失は生産ラインの規模によって異なりますが、大型の連続プロセスラインでは数十万円単位に上るケースがあります。軸受の初期異常を早期発見することは、修理コストの削減だけでなく、生産計画への影響を最小化するという点で経済的に大きな意味を持ちます。


現場で見落とされがちな観点が「軸表面粗度」です。大同メタルの組付け基準では軸面粗度の推奨値は「Rmax 0.8S」と明記されています。これは約0.8マイクロメートル(人間の髪の毛の太さ約70〜100マイクロメートルの1/100以下)という非常に滑らかな仕上げです。軸交換後や修理後に粗度が基準を超えていると、油膜形成が不安定になって初期摩耗が進みやすく、軸受寿命を大幅に縮める要因になります。


軸面粗度は数字だけ確認すれば問題ありません、というわけではなく、計測方向(軸方向・周方向)や計測位置(荷重負荷側)も合わせて確認することが保全の実務では重要です。


🔧 現場保全での確認チェックリスト(組付け時):


- ✅ ハウジングとキャリアリングのはめ合い:ハウジングH6、キャリアリングh6
- ✅ 軸面粗度:Rmax 0.8S以内
- ✅ 予圧係数m:設計値(標準m=0.6)との一致確認
- ✅ スキマ比Cr:軸周速に合った値(周速75m/s超なら0.0025d)
- ✅ 給油圧力:0.1〜0.15MPa(油浴方式)
- ✅ 油溝内流速:≦2m/s


もうひとつ意外な落とし穴がピボットの摩耗です。ティルティングパッドのパッドは「ピボットを支点に揺動する」ことで機能しますが、このピボット接触部は小さな面積で大きな荷重を繰り返し受けるため、長期使用によって点接触部分に「フレッティング(微振動摩耗)」が発生する場合があります。パッドのホワイトメタル面だけを確認して「まだ使える」と判断しても、ピボット背面の摩耗が進んでいると軸受として正しく機能しなくなります。定期点検ではパッド背面とキャリアリングの当たり面の両方を確認するのが原則です。


ウォーカーシャ・ベアリングズ(Waukesha Bearings)が提供する軸受選択ガイドでは、ティルティングパッド式ジャーナル軸受はAPI規格(米国石油学会規格)への準拠が重視されており、石油・化学・発電用途などの重要設備では規格適合品を選ぶことが信頼性確保の第一歩とされています。


参考リンク:Waukesha Bearingsによる軸受選択ガイド(API規格・直接潤滑・ピボット種類別の選定基準を日本語で解説)
Waukesha Bearings 軸受選択ガイド(日本語PDF)






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