極圧添加剤入りのギヤ油に変えたのに、スカッフィングではなくピッチングが悪化して設備が止まることがあります。
歯車の損傷には「ピッチング」「摩耗」「折損」など様々な種類がありますが、スカッフィングはその中でも進行が急速で、取り返しがつかない段階まで一気に悪化する点で特に警戒が必要です。日本機械学会(JSME)の定義によれば、スカッフィングとは「かみあっている歯面間の潤滑油膜が破断し、双方が互いに融着し、引きはがされてできる歯面の劣化現象」のことを指します。
つまり、金属同士が溶着してちぎれるという現象です。
歯面には摺動(しゅうどう)方向に深い条痕が走り、激しいむしれ跡が残ります。見た目は引っかき傷が密集したような状態で、歯先と歯元(ピッチ線から外れた部分)に特に集中して現れます。これは、ピッチ線付近では転がり摩擦が主体なのに対し、歯先と歯元ではすべり摩擦が支配的になるためです。すべり速度が大きくなるほど、摩擦熱が激増して油膜が切れやすくなります。
スカッフィングは「スコーリング」とも呼ばれ、ISOの規格では同義語として扱われています。日本では従来「スコーリング」の用語が広く使われてきましたが、現在はISO規格に合わせて「スカッフィング」が主流になりつつあります。
スカッフィングが怖いのは、歯形が破壊されるほど進行すると振動・騒音が急増し、最終的に歯の折損に至ることがある点です。製造ラインが突然停止するリスクにつながります。
日本機械学会 機械工学辞典「スカッフィング」定義(権威ある学術的定義を確認できます)
スカッフィングは、大きく分けて2つの状況で発生しやすいとされています。①高速運転で歯面温度が極めて高くなるケース、②低速でも重荷重がかかり続けるケース、この2パターンです。どちらも共通しているのは「油膜が維持できなくなるほどの熱・荷重が発生する」という点にあります。
発生を招く具体的な条件としては、以下が挙げられます。
現場でスカッフィングを疑う際のチェックポイントは明確です。摩耗量の多い歯先・歯元部分に「すべり方向に走る深い引っかき傷(条痕)」や「むしれ・剥離跡」が見られたら、スカッフィングの可能性が高いです。ピッチングは点状の穴(ピット)が特徴なので、条痕かどうかで区別できます。
また、運転中に「振動や騒音の突然の増大」「ギヤボックスの異常発熱」が見られた場合も、スカッフィング発生の初期サインとして捉えるべきです。これは必須の確認事項です。
進行が速い点も特徴的です。初期段階での発見が、歯形破壊や折損という最悪の結末を防ぐ唯一の手段になります。
小原歯車工業「歯車の損傷状態及びその用語」JGMA 7001-01準拠の損傷分類一覧(スカッフィングとピッチングなど各損傷の違いが確認できます)
スカッフィングの発生を理論的に理解するうえで重要なのが「フラッシュ温度(せん光温度)」という概念です。歯車のかみ合いが進むとき、歯先と歯元では金属表面の凸部同士が高速で接触します。このとき、接触点で瞬間的に発生する局所温度上昇が「フラッシュ温度」と呼ばれるものです。
この瞬間的な温度は、場合によっては数百℃に達すると言われており、通常の潤滑油の油膜を蒸発・破断させるに十分な熱量となります。フラッシュ温度は歯車の設計パラメータ(すべり速度・面圧・歯面粗さなど)と潤滑油の性状によって決まります。
ここで重要なのが「歯面のバルク温度(全体的な温度)」との関係です。たとえ運転温度が管理されていても、歯先・歯元でのすべり速度が大きければ、フラッシュ温度の上乗せ分だけ局所的な限界を超えてしまいます。つまり、ギヤボックスの外部温度が正常でも、内部の歯面局所では限界を超えていることがあります。
これが見落としがちなポイントです。
スカッフィング防止のための潤滑油評価には、国際的な試験規格「FZG試験(ISO 14635-1準拠)」が広く使われています。FZG試験機はドイツのミュンヘン工科大学で1950年代に開発され、歯車のスカッフィング再現を目的として設計されました。試験は「荷重ステージ」を段階的に上げながら(ステップ1〜12)歯面損傷が発生するステージを記録します。ステージ12をクリアできた潤滑油が「耐スカッフィング性高」と評価されます。
ヘルツ接触応力は試験条件によって荷重ステージ1〜12で約150〜1800 N/mm²に相当し、実際の工業用ギヤが受ける荷重環境を実機に近い形で再現できます。
ジュンツウネット21「FZG歯車試験機とその概要」(FZG試験の試験方法、荷重ステージ、評価基準の詳細が確認できます)
スカッフィングの対策として「極圧(EP)添加剤入りのギヤ油に変える」という判断は正しい方向性です。しかし、ここに現場でよく見落とされる重大なトレードオフが存在します。極圧添加剤の使用により耐スカッフィング性を向上させることはできますが、一方で歯面のピッチングやベアリングのフレーキングなど疲労損傷を招くケースがある、ということです。
なぜそうなるのでしょうか?
極圧添加剤は、金属接触が起きた際に発生する摩擦熱によって化学変化し、金属面に保護膜(反応皮膜)を形成して焼付きを防ぐ仕組みです。ところが、この保護膜が形成される際に歯面が微細に侵食されるという側面もあります。また、極圧添加剤の活性が高すぎると、常温や通常運転時でも金属面に作用してしまい、疲労耐久性を低下させることがあります。これを「腐食摩耗型の疲労促進」と呼ぶこともあります。
実際のFZG試験データを見ると、SP系(硫黄・リン系)ギヤ油はスカッフィング試験でステージ12以上をクリアするものの、ピッチング試験の寿命(耐久時間)はSP-Mo系(有機モリブデン配合)や一部の耐熱SP系(II)と比べると明確に短い傾向があります(SP系の耐ピッチング時間は88〜92時間程度に対し、SP-Mo系は200時間超が多数)。
つまり、スカッフィングとピッチングの両方を同時に防ごうとすると、油剤選定がかなりの精密さを要します。
現在の使用油がどのグレードか・どの損傷モードに強い配合かを確認することを先に行うのが、最も費用対効果の高いアプローチです。潤滑油メーカーのカタログには「FZGダメージステージ(耐スカッフィング)」と「FZGピッチング耐久時間」が記載されているケースがあるので、この数値を比較して選定することをお勧めします。
ジュンツウネット21「歯車に使用される潤滑油の添加剤」(FZG試験による油種別の耐スカッフィング性・耐ピッチング性の比較データが詳しく掲載されています)
現場でスカッフィングを防ぐための実践的な対策は、大きく「設計・加工段階の対策」「運転初期の対策」「日常の潤滑管理」の3方向に整理できます。
① 歯面修正(クラウニング・プロファイルリリーフ)
歯先・歯元でのすべり速度と面圧を同時に緩和する方法として、「プロファイルリリーフ(歯形修整)」が有効です。これは、歯先と歯元の微小な領域を意図的に削り落として面圧の集中を分散させる加工です。歯幅方向には「クラウニング」という凸形状の加工を施すことで、軸のたわみや取付け誤差による片当たりを防ぎます。片当たりがあると、歯幅端部だけに荷重が集中し、そこからスカッフィングが始まることがあるため、クラウニングはスカッフィング予防として有効な手段です。
これは設計者だけでなく、加工担当者も意識しておくべき知識です。
② なじみ運転(ランニングイン)
新品または修理後の歯車を立ち上げる際に「なじみ運転」を正しく実施することは、スカッフィング防止の観点から非常に重要です。最初から定格負荷で運転を始めると、歯面の微細な凸凹が油膜なしで直接接触するため、初期段階でスカッフィングが発生しやすくなります。
なじみ運転の目安は「定格荷重の30〜50%程度から始め、数時間かけて段階的に荷重を上げる」というプロセスが一般的です。この間に歯面の微細凸凹がなじんで接触面積が広がり、油膜が維持されやすい状態になります。なじみ効果の高い油(ZnDTP系など)は、この初期段階で特に有効なことが試験データでも示されています。
③ 粘度管理と定期的な油分析
運転中のギヤオイルは時間の経過とともに劣化し、粘度低下・異物混入・水分混入が起きます。これらはいずれも油膜形成能力を下げ、スカッフィングリスクを高めます。年1〜2回程度の定期的なオイル分析(粘度・汚染度・摩耗金属粉の測定)で現状を把握し、交換時期を逃さないことが重要です。分析サービスは潤滑油メーカー各社(シェル、出光など)が提供しており、サンプル送付から48時間以内に報告が返ってくるサービスも存在します。問題が起きてから対応するのではなく、早期発見を習慣にすることが予防の基本です。
シェル潤滑油「ギヤ歯面の損傷例とオイルでできる改善」(スカッフィングを含む歯車損傷の写真・原因・油剤対策が分かりやすくまとめられています)

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