射出成形樹脂の種類と特性と金型設計のポイント

射出成形樹脂の種類や特性、金型設計の要点から成形不良対策、最新のバイオプラスチックまで網羅的に解説します。金属加工の知見を活かしつつ、樹脂ならではの奥深い世界を覗いてみませんか?

射出成形樹脂を徹底解説!金属加工者が知るべき基礎から応用まで

この記事でわかること
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樹脂の基本

射出成形に使われる樹脂の分類と、それぞれの特性や代表的な用途が分かります。

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金型設計の要点

品質と生産性を左右する金型設計の重要なポイントを学べます。

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未来の技術

環境問題に対応するバイオプラスチックなど、射出成形の最新トレンドを把握できます。

射出成形樹脂の種類と特性の選び方

 

射出成形で使用される樹脂は、その性質から大きく「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」の2つに分類されます。 金属加工に携わる方々にとっては、材料の特性を理解することが品質を左右する重要な要素であることは言うまでもありませんが、樹脂材料も同様です。

  • 熱可塑性樹脂: 加熱すると溶けて柔らかくなり、冷やすと固まる性質を持っています。 この性質を利用して、チョコレートを型で冷やし固めるように、様々な形状に成形できます。再度熱を加えればまた溶けるため、リサイクルが比較的容易な点が特徴です。 射出成形では主にこちらの熱可塑性樹脂が用いられます。

    参考)プラスチック射出成形の方法と適した素材・用途

  • 熱硬化性樹脂: 一度熱を加えて硬化させると、再度加熱しても溶けることのない樹脂です。 パンケーキのように、一度焼いたら元の生地には戻らないイメージです。耐熱性や機械的強度に優れるため、電子部品や自動車のエンジン周辺部品などに使われます。

    参考)樹脂成形材料の概要と種類

熱可塑性樹脂は、さらにその性能によって「汎用プラスチック」「エンジニアリングプラスチックエンプラ)」「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」に分けられます。

 

表:主要な熱可塑性樹脂の分類と特徴

分類 代表的な樹脂 特徴 主な用途
汎用プラスチック PP (ポリプロピレン)

軽量、安価、耐薬品性に優れる
参考)射出成形の樹脂(材料)について

自動車バンパー、食品容器、家電製品
PE (ポリエチレン) 安価、加工しやすい、柔軟 ​ ポリ袋、ラップフィルム、シャンプー容器
ABS (アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン) 衝撃に強く、塗装メッキなどの表面加工がしやすい ​ 玩具、家電製品の筐体、雑貨
エンジニアリングプラスチック PC (ポリカーボネート) 高い透明性、衝撃に非常に強い、耐熱性 ​ スマートフォン筐体、ヘッドライトのレンズ、ヘルメット
PA (ポリアミド/ナイロン) 摩擦に強く、自己潤滑性がある、強靭 歯車、ベアリング、結束バンド、エンジンカバー
PEEK (ポリエーテルエーテルケトン)

非常に高い耐熱性、耐薬品性、機械的強度を持つ
参考)https://www.mdpi.com/2073-4360/13/14/2268/pdf

航空宇宙部品、医療用インプラント、半導体製造装置
スーパーエンジニアリングプラスチック PPS (ポリフェニレンサルファイド) 高い耐熱性と耐薬品性、寸法安定性に優れる 自動車の電装部品、ポンプ部品


樹脂の選定は、製品に求められる強度、耐熱性、コスト、デザイン性などを総合的に考慮して行う必要があります。

 

参考)プラスチック射出成形材料の成形性|医療用プラスチック成形.c…

射出成形樹脂の金型設計で押さえるべき勘所

高品質な射出成形品を安定して生産するためには、金型設計が極めて重要です。 金属用の金型と考え方は似ていますが、溶融した樹脂特有の流動性や固化収縮を考慮した設計が求められます。

  • ゲート方式の選定: ゲートは、溶けた樹脂が金型内部の製品形状部分(キャビティ)に流れ込む入り口です。ゲートの位置や種類は、製品の外観や強度、内部応力に大きく影響します。

    参考)第16回 射出成形金型設計とは - 株式会社OGN

    • サイドゲート: 最も一般的で、金型の側面に設置されます。

      参考)金型設計の基本的な考え方

    • サブマリンゲート(トンネルゲート): 製品とランナー(樹脂の通り道)を自動で切り離せるため、後工程の工数を削減できます。​
    • フィルムゲート: 薄く広いゲートで、反りや変形をぎたい板状の製品に適しています。​
  • 冷却回路の最適化: 溶融した樹脂を効率的に冷却し、固化させるための冷却回路の設計は、成形サイクル(生産スピード)と製品の寸法精度を決定づける重要な要素です。 冷却ムラがあると、製品に「ヒケ」や「ソリ」といった不良が発生する原因となります。

    参考)射出成形とは?不良を減らすために現場で使える5つの改善ポイン…

  • 抜き勾配の設計: 成形品を金型からスムーズに取り出すために、製品の側面にわずかな傾斜(抜き勾配)を設ける必要があります。 抜き勾配が不十分だと、製品が金型に引っかかり、突き出し時に変形や白化が生じる「離型不良」の原因になります。

    参考)射出成形の不良原因と対策|設計・金型・成形条件の最適化

  • ガスベント(ガス逃げ)の設置: 金型内に樹脂を充填する際、元々キャビティ内にあった空気や樹脂から発生するガスを外部に逃がすための溝(ガスベント)が必要です。ガスが適切に排出されないと、樹脂が完全に充填されない「ショートショット」や、ガスが製品表面に現れる「シルバーストリーク」といった不良につながります。

    参考)技術紹介

  • CAE解析の活用: 近年では、コンピュータ上で樹脂の流れや固化過程をシミュレーションするCAE(Computer Aided Engineering)解析が広く活用されています。 CAEを用いることで、実際に金型を製作する前に、ウェルドラインの位置やヒケの発生箇所などを予測し、設計段階で対策を講じることが可能になります。​

金型は高価な投資であり、一度製作すると修正は困難です。そのため、設計段階での綿密な検討がコストと品質を大きく左右します。

 

以下の参考リンクでは、金型設計の基本的な考え方が図解付きで分かりやすく解説されています。

 

金型設計の基本的な考え方 | 金型 | 射出成形 | PPS樹脂 トレリナ™ | 東レ プラスチック事業部門

射出成形樹脂で起こる成形不良と対策の具体例

適切な樹脂材料と金型設計を行っても、成形条件が最適でなければ様々な不良が発生します。 ここでは代表的な成形不良とその対策について解説します。

  • ヒケ: 製品の表面が凹んでしまう現象です。肉厚が厚い部分で、樹脂が冷えて収縮する際に体積が不足することで発生します。
  • ソリ・変形: 製品が意図しない形に反ってしまう現象です。製品の肉厚が不均一であったり、金型の冷却が不均一であったりすることが主な原因です。
    • 対策: 製品の肉厚を均一にする設計変更。金型温度を調整し、均一に冷却できるようにする。射出圧力を下げる。​
  • バリ: 金型の合わせ面(パーティングライン)などから樹脂がはみ出してしまう現象です。
  • ウェルドライン: 複数の方向から流れてきた樹脂が合流する部分にできる、細い線の様な模様です。外観上の問題だけでなく、強度の低下も引き起こします。
    • 対策: 樹脂温度や金型温度を上げて樹脂の流動性を高める。射出速度を上げる。ウェルドラインの発生位置が変わるようにゲート位置を変更する。​
  • ショートショット: 金型内に樹脂が完全に充填されず、製品の一部が欠けてしまう現象です。

    これらの不良は単一の原因で発生するとは限らず、複数の要因が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。 そのため、成形条件(樹脂温度、金型温度、射出圧力、射出速度、保圧など)を一つずつ変更しながら、原因を特定していく地道な作業が求められます。 また、意外と見落とされがちなのが材料の予備乾燥です。特に吸湿性の高い樹脂(PCやPAなど)は、成形前に十分に乾燥させないと、含まれる水分が原因でシルバーストリークなどの不良を引き起こします。

    成形不良の原因と対策について、より実践的な情報がまとめられているリンクです。

     

    射出成形とは?不良を減らすために現場で使える5つの改善ポイント | protrude

    射出成形樹脂の未来を担うバイオプラスチックと最新動向

    近年、SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルへの関心の高まりから、環境配慮型の材料として**バイオプラスチック**が大きな注目を集めています。 バイオプラスチックは、従来の石油由来のプラスチックとは異なり、植物などの再生可能な有機資源(バイオマス)を原料として作られています。
    バイオプラスチックは大きく2種類に分けられます。

     

    • 生分解性プラスチック: 使用後に微生物によって水と二酸化炭素に分解される性質を持つプラスチック。必ずしもバイオマス由来ではありません。
    • バイオマスプラスチック: 植物などのバイオマスを原料とするプラスチック。 こちらは必ずしも生分解性を持つわけではありません。

      参考)バイオエンプラの射出成形:持続可能な未来を拓く材料技術と設計…

    射出成形の世界では、従来のプラスチックと同等の性能を持ち、既存の成形機や金型をそのまま利用できるバイオマスプラスチックの開発が活発に進められています。

     

    参考)Vol. 25 射出成形用バイオマスプラスチックの基本 - …

    • バイオポリカーボネート(バイオPC): 植物由来の原料を用いることで、石油由来のPCと同等の透明性、耐衝撃性を保ちつつ、二酸化炭素排出量を削減できます。光学特性に優れたグレードも開発されています。​
    • バイオPBT: 植物由来の原料を使いながら、従来のPBTと同様の優れた電気特性や耐薬品性を持ち、コネクタなどの電子部品に使われています。​
    • バイオPET: 主原料の一部をバイオマス由来にしたもので、ボトルだけでなく、工業部品への応用も期待されています。​

    さらに、日本の製紙技術から生まれた**セルロースナノファイバー(CNF)**を樹脂に混ぜ込むことで、軽量でありながら高強度な複合材料を開発する動きも加速しています。 この技術は、自動車部品の軽量化などに貢献すると期待されており、金属からの材料代替をさらに推し進める可能性を秘めています。

     

    参考)https://www.tohoku.meti.go.jp/s_monozukuri/topics/pdf/250717.pdf

    このように、射出成形樹脂の世界は、単なるコスト削減や生産性向上だけでなく、地球環境との共存という大きなテーマに向かって進化し続けているのです。金属加工で培われた精密さや品質へのこだわりは、これからの樹脂成形の世界でも大いに活かされることでしょう。

     

    持続可能な未来に向けたバイオプラスチックの動向について、こちらの記事で詳しく解説されています。

     

    バイオエンプラの射出成形:持続可能な未来を拓く材料技術と業界動向 | 府中プラ株式会社

     

     


    マンガやさしいプラスチック成形材料 (マンガシリーズ)