射出成形で使用される樹脂は、その性質から大きく「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」の2つに分類されます。 金属加工に携わる方々にとっては、材料の特性を理解することが品質を左右する重要な要素であることは言うまでもありませんが、樹脂材料も同様です。
参考)樹脂成形材料の概要と種類
熱可塑性樹脂は、さらにその性能によって「汎用プラスチック」「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」に分けられます。
表:主要な熱可塑性樹脂の分類と特徴
| 分類 | 代表的な樹脂 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 汎用プラスチック | PP (ポリプロピレン) |
軽量、安価、耐薬品性に優れる |
自動車バンパー、食品容器、家電製品 |
| PE (ポリエチレン) | 安価、加工しやすい、柔軟 | ポリ袋、ラップフィルム、シャンプー容器 | |
| ABS (アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン) | 衝撃に強く、塗装やメッキなどの表面加工がしやすい | 玩具、家電製品の筐体、雑貨 | |
| エンジニアリングプラスチック | PC (ポリカーボネート) | 高い透明性、衝撃に非常に強い、耐熱性 | スマートフォン筐体、ヘッドライトのレンズ、ヘルメット |
| PA (ポリアミド/ナイロン) | 摩擦に強く、自己潤滑性がある、強靭 | 歯車、ベアリング、結束バンド、エンジンカバー | |
| PEEK (ポリエーテルエーテルケトン) |
非常に高い耐熱性、耐薬品性、機械的強度を持つ |
航空宇宙部品、医療用インプラント、半導体製造装置 | |
| スーパーエンジニアリングプラスチック | PPS (ポリフェニレンサルファイド) | 高い耐熱性と耐薬品性、寸法安定性に優れる | 自動車の電装部品、ポンプ部品 |
樹脂の選定は、製品に求められる強度、耐熱性、コスト、デザイン性などを総合的に考慮して行う必要があります。
参考)プラスチック射出成形材料の成形性|医療用プラスチック成形.c…
高品質な射出成形品を安定して生産するためには、金型設計が極めて重要です。 金属用の金型と考え方は似ていますが、溶融した樹脂特有の流動性や固化収縮を考慮した設計が求められます。
参考)金型設計の基本的な考え方
参考)技術紹介
金型は高価な投資であり、一度製作すると修正は困難です。そのため、設計段階での綿密な検討がコストと品質を大きく左右します。
以下の参考リンクでは、金型設計の基本的な考え方が図解付きで分かりやすく解説されています。
金型設計の基本的な考え方 | 金型 | 射出成形 | PPS樹脂 トレリナ™ | 東レ プラスチック事業部門
適切な樹脂材料と金型設計を行っても、成形条件が最適でなければ様々な不良が発生します。 ここでは代表的な成形不良とその対策について解説します。
参考)https://manuf.atryz.co.jp/wp-content/uploads/4th_WEBSeminarSpecial-book.pdf
これらの不良は単一の原因で発生するとは限らず、複数の要因が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。 そのため、成形条件(樹脂温度、金型温度、射出圧力、射出速度、保圧など)を一つずつ変更しながら、原因を特定していく地道な作業が求められます。 また、意外と見落とされがちなのが材料の予備乾燥です。特に吸湿性の高い樹脂(PCやPAなど)は、成形前に十分に乾燥させないと、含まれる水分が原因でシルバーストリークなどの不良を引き起こします。
成形不良の原因と対策について、より実践的な情報がまとめられているリンクです。
射出成形とは?不良を減らすために現場で使える5つの改善ポイント | protrude
近年、SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルへの関心の高まりから、環境配慮型の材料として**バイオプラスチック**が大きな注目を集めています。 バイオプラスチックは、従来の石油由来のプラスチックとは異なり、植物などの再生可能な有機資源(バイオマス)を原料として作られています。
バイオプラスチックは大きく2種類に分けられます。
射出成形の世界では、従来のプラスチックと同等の性能を持ち、既存の成形機や金型をそのまま利用できるバイオマスプラスチックの開発が活発に進められています。
参考)Vol. 25 射出成形用バイオマスプラスチックの基本 - …
さらに、日本の製紙技術から生まれた**セルロースナノファイバー(CNF)**を樹脂に混ぜ込むことで、軽量でありながら高強度な複合材料を開発する動きも加速しています。 この技術は、自動車部品の軽量化などに貢献すると期待されており、金属からの材料代替をさらに推し進める可能性を秘めています。
参考)https://www.tohoku.meti.go.jp/s_monozukuri/topics/pdf/250717.pdf
このように、射出成形樹脂の世界は、単なるコスト削減や生産性向上だけでなく、地球環境との共存という大きなテーマに向かって進化し続けているのです。金属加工で培われた精密さや品質へのこだわりは、これからの樹脂成形の世界でも大いに活かされることでしょう。
持続可能な未来に向けたバイオプラスチックの動向について、こちらの記事で詳しく解説されています。
バイオエンプラの射出成形:持続可能な未来を拓く材料技術と業界動向 | 府中プラ株式会社