プルスタッドボルト規格MASの選び方と注意点

プルスタッドボルトのMAS規格(MAS-Ⅰ型・MAS-Ⅱ型)の違いや寸法、工作機械メーカー別の選び方、交換時期まで詳しく解説。MAS規格を正しく選ばないとどんなトラブルが起きる?

プルスタッドボルト規格MASの完全ガイド:選び方・寸法・交換まで

「BT40ならどれでも使える」と思っていたら、主軸がスピンドルに密着しなくなります。


🔩 この記事の3つのポイント
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MAS-Ⅰ型とMAS-Ⅱ型は「角度」が違う

45°か60°かで機械との適合が変わる。同じBT番でも混用すると取り付き不良の原因になる。

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プルスタッドは消耗品。重切削時は6ヶ月で交換が目安

変形を放置すると引込力が低下し、最悪はスピンドルテーパ面損傷による機械の長期停止につながる。

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工作機械メーカーによってMAS-ⅠかMAS-Ⅱかが異なる

オークマ・東芝機械はMAS-Ⅰ型(45°)、松浦機械・三井精機はMAS-Ⅱ型(60°)など、機種確認が必須。


プルスタッドボルトのMAS規格とは何か:BT規格との関係


プルスタッドボルト(リテンションノブとも呼ばれる)は、マシニングセンタの主軸(スピンドル)にツールホルダを固定するための小さなボルトです。形状はシンプルですが、機械が正常に加工できるかどうかを左右する重要部品です。


BT規格とは、7/24テーパシャンクをもつマシニングセンタ用ツールホルダの規格で、正式名称は「JIS B 6339」および「MAS 403(日本工作機器工業会規格)」です。MAS 403はこの規格の日本産業界における通称であり、BT30・BT40・BT50・BT60といったサイズバリエーションで広く普及しています。


「MAS」とは、Machine Accessories Standard(工作機器標準)の略で、日本工作機器工業会(JMAA)が制定した規格です。この MAS 403 がベースとなっているため、現場ではBT規格のプルスタッドを「MAS規格のプルスタッド」と呼ぶのが一般的です。つまり両者は実質的に同じ規格を指しています。


プルスタッドボルトの役割はシンプルです。ツールホルダ後端のネジ部にねじ込み、主軸のドローバー(引き込み機構)に引っかかることで、ホルダを主軸テーパ面に強力に引き込みます。BT40の場合、この引込力は10〜15kN(約1,000〜1,500kgf相当)にもなります。東京スカイツリーのエレベーター1台の最大荷重に近いイメージです。それだけの力が常にプルスタッドにかかっていることを覚えておいてください。


参考:ミスミ技術情報(ツーリングシャンク規格の解説)


https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_processing/mp01/j0058.html


プルスタッドボルトのMAS規格:Ⅰ型・Ⅱ型の違いと寸法一覧

MAS規格のプルスタッドボルトには、MAS-Ⅰ型(45°)とMAS-Ⅱ型(60°)の2種類があります。この角度の違いは、主軸のドローバー(コレット)がプルスタッドを「掴む部分(引込み溝の角度)」の違いです。


角度が違うと、ドローバーのコレットとプルスタッドのかみ合い形状がまったく異なります。MAS-Ⅰ型を使うべき機械にMAS-Ⅱ型を付けると、正常に引き込まれずホルダが主軸に密着しない、あるいはATCの際に脱落するリスクがあります。これが冒頭でお伝えした「BT40ならどれでも使える、は間違い」の本質です。


以下に、MAS規格プルスタッドボルトの主要寸法をまとめました。


品番(例) テーパー 外径 d1 首下径 d2 ねじ径 全長 L 首下長 l 引込み角度
BT30-MAS-1 BT30 11mm 7mm M12 43mm 18mm 45°
BT30-MAS-2 BT30 11mm 7mm M12 43mm 18mm 60°
BT40-MAS-1 BT40 15mm 10mm M16 60mm 35mm 45°
BT40-MAS-2 BT40 15mm 10mm M16 60mm 35mm 60°
BT50-MAS-1 BT50 23mm 17mm M24 85mm 45mm 45°
BT50-MAS-2 BT50 23mm 17mm M24 85mm 45mm 60°
BT60-MAS-1 BT60 32mm 24mm M30 115mm 65mm 45°
BT60-MAS-2 BT60 32mm 24mm M30 115mm 65mm 60°


Ⅰ型とⅡ型は外径・ねじ径・全長は同じですが、引込み部の角度だけが異なる点が重要です。外見がほぼ同じため、現場での取り違えが起こりやすいのです。


選定は、まず機械付属の取扱説明書に記載された「プルスタッド仕様」を確認するのが原則です。また、ツールホルダメーカーのカタログにある「機械メーカー別プルスタッド選定表」も有用です。これだけ覚えておけばOKです。


参考:田倉工具製作所 プルスタッドボルト(MAS規格)寸法表(PDF)


https://takura-tool.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/32.pdf


プルスタッドボルトのMAS規格:工作機械メーカー別の対応型式

「うちの機械はBT40だからMAS-1でいい」と思っている方は要注意です。実は、工作機械メーカーによって標準採用している型式が異なります。


以下は、MAS規格プルスタッドと主要工作機械メーカーの対応例です。


型式 引込み角度 代表的な機械メーカー(参考例)
MAS-Ⅰ型 45° 東芝機械、オークマ、碌々産業、豊和工業(BT40)、東芝機械・ジェイテクト・池貝・倉敷機械・新潟鐵工所・三菱重工業(BT50)
MAS-Ⅱ型 60° 松浦機械、三井精機(BT40)、オークマ一部機種(BT50)


この表はあくまでも参考情報であり、同じメーカーでも機種・仕様・製造時期によって異なる場合があります。必ず機械の取扱説明書または機械メーカーへの問い合わせで確認してください。


意外と知られていないのが、「同じメーカーの同じ機種でも、発注時の仕様打合せによってMAS-ⅠかMAS-Ⅱかを指定できる場合がある」という点です。これは機械新規導入時のポイントで、複数台の機械を使う現場では、プルスタッド型式を統一しておくとツールの使い回しが格段に楽になります。プルスタッドボルト自体は数百円〜数千円の部品ですが、ホルダーを複数台の機械で共用できれば、年間の工具投資を大きく圧縮できます。


また、BT35には工作機械メーカー専用規格が存在するため、MAS-Ⅰ型・Ⅱ型だけで選定できないケースがあります。BT35を使う現場では特に注意が必要です。


参考:NTツール プルスタッド選定表(機械メーカー別・機種別)


https://www.nttool.com/support/troubleshooting/jp_retension_stud.pdf


プルスタッドボルトのMAS規格:センタースルー対応時の強度への注意点

センタースルー(クーラント貫通)加工に対応したプルスタッドボルトは、ボルト中心に穴が開いています。この構造が、意外なリスクを生みます。


センタースルー仕様のMAS型プルスタッドは、中心穴を通すために首下径(d2)が細くなります。たとえば、日研工作所のカタログ注記には「MAS型センタースルー用プルスタッドはd2が細く(φ10)、強度面で懸念があるためJIS型(d2=φ14)の採用を推奨する」という旨の記述があります。MAS型とJIS型で首下径が4mmも異なる点は見落とされがちです。


これはどういう影響があるでしょうか? プルスタッドの首下部は、引込力と切削振動による曲げモーメントが集中する箇所です。首下径が細いほど断面積が小さくなり、破断リスクが上がります。センタースルーで高圧クーラントを使う重切削ラインでは、特に注意すべきポイントです。


センタースルータイプを選ぶ場合、メーカーの注記にある「JIS型推奨」の意味を正しく理解して、機械メーカーへの適合確認をセットで行うのが原則です。また、センタースルー仕様のプルスタッドは、Oリングの劣化によるクーラント漏れも発生することがあります。Oリングは定期的に確認してください。


センタースルーを使う頻度が高い現場では、プルスタッドの点検サイクルを通常よりも短く設定することも有効な対策です。これが条件です。


参考:ミスミ技術情報 プルスタッド・コレットの交換について


https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_processing/mp01/j0093.html


プルスタッドボルトのMAS規格:交換時期・締め付け管理とトラブル防止

プルスタッドボルトは消耗品です。ところが「折れるまで使い続ける」という現場が、金属加工業界では今も少なくありません。これは大きなリスクです。


ミスミの公式技術情報によると、プルスタッドの推奨交換目安は次の通りです。


  • 🔴 重切削時:6ヶ月を目安に交換
  • 🟡 普通切削時:18ヶ月を目安に交換


BT40の場合、引込力は常時10〜15kNもかかっています。さらにATCのたびに引き込み・解放が繰り返されるため、プルスタッドは繰り返し荷重にさらされ続けます。変形が蓄積すると引込力が低下し、切削振動が増大し、工具寿命が短くなります。最悪の場合、スピンドル回転中にプルスタッドが折損し、スピンドルテーパ面に大きな傷を与えます。この修理には機械の長期停止が必要になり、数十万円以上の損失が生じることもあります。


締め付け管理も重要です。締め付けトルクが不足すると緩みの原因になり、締めすぎるとBT40のような小径シャンクではテーパ部が膨らんで「奥アタリ」が発生し、スピンドルへの正常な装着ができなくなります。現場では「手で締めてからスパナで軽く増し締め」という感覚作業になりがちですが、これは危険です。必ず使用するホルダメーカーが指定する推奨締め付けトルクをトルクレンチで管理してください。


緩み対策としては、ねじ部へのロックタイト(嫌気性接着剤)の塗布が有効です。現場ではロックタイト242(中強度)などが使われることが多く、振動によるゆるみを効果的にぎます。ただし、使用する際はプルスタッドとホルダメーカーの指定に従うのが基本です。


トラブルシューティングの観点から、以下の症状と原因をまとめておきます。


症状 主な原因 対応
ホルダがスピンドルに密着しない 機械指定外のプルスタッドを使用 / 締め付けトルク不足 機械指定品を確認・交換、推奨トルクで再締め付け
プルスタッドが緩む 締め付けトルク不足 / 接着剤未塗布 推奨トルクで締め付け・接着剤塗布
クーラント漏れが発生する センタースルー仕様でない / Oリング劣化 センタースルー仕様品に交換、Oリング交換
ATC繰り返し精度が悪い 引込み部の圧痕が激しい / 機械指定外を使用 プルスタッド交換、機械メーカーへ確認
プルスタッドが破断した 曲げモーメント過大(切削条件・突出し過多)/ 引込力異常 切削条件見直し、突出し短縮、機械メーカーへ問い合わせ


プルスタッドの交換は、専用の着脱工具(例:プル丸などのBT用脱着治具)を使うと安全かつ確実に作業できます。ホルダを素手で抑えてスパナで回す方法は、テーパ部を傷つけたり、力が外れてホルダを落下させるリスクがあります。専用治具の導入を検討する価値があります。


参考:NTツール プルスタッドトラブルシューティング資料(PDF)


https://www.nttool.com/support/troubleshooting/jp_retension_stud.pdf




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