パーメンジュールプロテリアルYEP-2Vは、株式会社プロテリアルが製造するFe-Co-V合金で、鉄(Fe)49%、コバルト(Co)49%、バナジウム(V)2%の組成を持つ軟磁性材料です。この合金は約2.3テスラという実用合金中で最も高い飽和磁束密度を実現し、高い透磁率と低い保磁力を併せ持つことで知られています。
参考)パーメンジュール(高磁束密度軟磁性材料)YEPhref="https://www.proterial.com/products/industrial_machinery/permendur.html" target="_blank">https://www.proterial.com/products/industrial_machinery/permendur.htmlamp;reg;-2…
バナジウム添加の最大の意義は、純粋なFe-Co合金の加工性を改善することにあり、延性と作業性を大幅に向上させています。このバナジウム添加により、従来の50%Fe-50%Co合金では困難だった冷間加工や機械加工が可能となり、実用的な軟磁性材料として確立されました。
参考)パーメンジュールの機械加工
コバルトを50%近く含有するパーメンジュールは、高いキュリー温度を持つため、他の軟磁性材料が磁気特性を失う高温環境でも安定した磁気性能を発揮します。これは金属加工現場での高温プロセスにおいても重要な特性となっています。
参考)パーメンジュール (パーメンダー, Permendur 49…
パーメンジュールは硬く脆い特性を持つため、一般的な構造用鋼と比較して切削加工が極めて困難な難削材に分類されます。コバルト含有量が約50%と高いことから材料硬度が高く、工具摩耗が激しくなる傾向があります。
参考)パーメンジュール加工は大鉄精工にお任せください
切削加工では、適切な工具選定と加工条件の設定が成功の鍵となります。エンドミルによる輪郭加工においては、工具の軌跡(ツールパス)を慎重に検討し、チッピング発生を防ぐ加工条件の設定が不可欠です。また、低切込み量での加工により材料への歪みを最小化することで、軟磁性材料特有の磁気特性への悪影響を防ぐことができます。
加工時の注意点として、パーメンジュールは衝撃や振動といった外部の力により歪みが加わると磁気特性に影響を及ぼす可能性があるため、振動の少ない安定した加工環境の確保が重要です。特に精密部品や基幹部品用途では、この点への配慮が品質確保の決定要因となります。
パーメンジュールが本来の優れた磁気特性を発現するためには、適切な磁性焼鈍処理が必須となります。この熱処理により、磁性材料として最適な金属組織が形成され、外部磁場に対して磁化しやすく、磁場除去時には元の状態に戻りやすいという軟磁性材料の特性が引き出されます。
参考)パーメンジュールの熱処理(磁気焼鈍)について徹底解説!
水素雰囲気中での磁性焼鈍が一般的に採用されており、加熱温度、保持時間、雰囲気、冷却速度を精密にコントロールすることでパーメンジュールを適正な組織に整えます。この処理により表面に黒く輝く酸化被膜が形成され、材料保護の効果も得られます。
しかし、磁性焼鈍後のパーメンジュールは脆化しやすくなるため、熱処理後の機械加工は非常に困難になります。また、熱処理による寸法変化も生じやすいため、複雑な形状や高精度が要求される部品では、加工工程と熱処理工程の順序を慎重に計画する必要があります。
パーメンジュールプロテリアルは、その高い飽和磁束密度特性を活かして、次世代モーターコア材料として注目されています。特にeVTOL(電動垂直離着陸機)などの高性能モーター用途において、従来の電磁鋼板と比較して大幅な小型軽量化と高エネルギー効率化が実現できることが実証されています。
参考)電動垂直離着陸機eVTOLをターゲットとしたモーターコア用パ…
モーターコア製造では、積層構造の採用が一般的ですが、パーメンジュールの場合は表面絶縁処理が重要な技術課題となります。株式会社プロテリアルでは、MgO膜付きパーメンジュールの開発を進めており、電気的絶縁性、磁性焼鈍時の耐固着性、および優れた軟磁気特性の維持を同時に実現する技術を確立しています。
参考)https://www.proterial.com/rad/pdf/2024/vol39_r03.pdf
積層モーターコア製造においては、打ち抜き加工技術も重要な要素となります。パーメンジュールの硬さと脆性を考慮した金型設計と、チッピングを防ぐ適切な打ち抜き条件の設定により、高品質なモーターコア部品の製造が可能となっています。
参考)Fe基アモルファス合金・パーメンジュール製積層モーターコア
パーメンジュールの実用化において、表面処理技術は極めて重要な位置を占めています。コバルトを多量に含むパーメンジュールは、一般的なステンレス鋼とは異なる表面特性を示すため、専用の表面処理アプローチが必要です。
参考)不動態化処理|事業内容|各種表面処理|株式会社三和鍍金
磁気特性の測定と評価技術も、パーメンジュール製品の品質保証において不可欠な技術です。JFEテクノリサーチなどの専門機関では、30mm×100mm×厚さ0.25mmの単板試験片を用いた100mmSST試験による直流磁気特性と交流磁気特性の評価が実施されています。
参考)https://www.jfe-tec.co.jp/download/pdf/3E8J-089-00.pdf
これらの評価では、初磁化曲線、比透磁率、ヒステリシス曲線、鉄損曲線といった詳細な磁気特性データが取得され、モーター設計や用途適用の基礎データとして活用されています。また、局所磁気特性の可視化技術により、モーターコアティース部やかしめ周辺部などの局所的な磁束密度・磁界強度の分布も詳細に把握できるようになっています。
参考)モータ適用 軟磁性材料評価 - 磁性材料評価センター
特に金属加工現場では、加工による残留応力が磁気特性に与える影響を正確に評価し、最適な加工条件を見出すことが重要となります。残留応力測定と金属組織観察により、熱処理による磁気特性改善メカニズムの解明も進んでいます。
参考)https://www.hits.or.jp/wp-content/uploads/2023/05/r3-nakamurakougyousho.pdf