ナマシ と 金属加工 の 基本技術 と 応用方法

金属加工において重要なナマシ処理について基礎から応用まで解説します。加工硬化した金属を柔らかくする熱処理の仕組みやコツを理解し、効果的な金属加工を実現できます。あなたの金属加工技術はこの知識でどう変わりますか?

ナマシ と 金属加工

ナマシ処理の基本ポイント
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加工硬化の解消

金属加工により硬くなった材料の内部ひずみを取り除き、柔軟性を回復させます。

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適切な温度管理

各金属に最適な温度で加熱し、徐冷することで理想的な組織構造を実現します。

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金属特性の向上

展延性と加工性を改善し、その後の加工工程を容易にします。

ナマシ 金属加工 の 基礎知識 と 熱処理 メカニズム

ナマシ(焼なまし・焼鈍)は、金属加工において非常に重要な熱処理工程です。この処理は英語では「annealing」と呼ばれ、加工によって硬くなった金属材料を再び柔らかくする目的で行われます。金属が加工される過程で発生する「加工硬化」という現象は、金属内部の結晶構造にひずみが生じることで起こります。このひずみにより金属は硬くなりますが、同時に脆くなり、さらなる加工が困難になってしまいます。

 

ナマシ処理のメカニズムは、適切な温度まで金属を加熱することで内部の原子に移動するためのエネルギーを与え、ひずんだ結晶構造を再配列させることにあります。これにより、金属内部の応力が解放され、柔軟性が回復します。温度と時間の管理が極めて重要であり、金属の種類によって最適な条件は大きく異なります。

 

完全な焼なましでは、鉄鋼材料の場合、鉄-炭素系平衡状態図のA3線(亜共析鋼)またはA1線(過共析鋼)より20〜50℃高い温度で保持した後、徐冷(通常100℃/h以下)を行います。この過程でオーステナイト組織から層状パーライト組織へと変化し、金属は理想的な柔らかさと展延性を獲得します。

 

熱処理の方法としては、炉内で加熱後にそのまま炉内で冷却する「炉冷」が一般的ですが、金属によっては灰中での冷却など、異なる方法が用いられることもあります。ナマシ処理は単純な操作に見えますが、金属の内部で起こる複雑な物理現象に基づいた、金属加工における基本かつ重要な技術なのです。

 

ナマシ 処理 による 金属 の 加工硬化 対策

金属加工の過程では、叩く、曲げる、伸ばすなどの加工によって「加工硬化」が発生します。これは金属が本来持つ特性ですが、加工を続けるとこの硬化が進行し、最終的には割れや亀裂の原因となります。特に銅、真鍮、シルバー、ゴールドなどの非鉄金属は顕著な加工硬化を示します。例えばK18(18金)は加工硬化の傾向が極めて強く、頻繁なナマシ処理が必要になります。

 

ナマシ処理は、この加工硬化を解消するための最も効果的な方法です。例えば、シルバー925の場合、ローラーで延ばしたり成形したりする過程で数回のナマシ処理を挟むことで、割れを防ぎながら加工を続けることができます。通常、シルバーやゴールドなどの貴金属の場合、赤くなるまで加熱した後、自然冷却または水冷を行います。

 

注目すべきは「時効硬化」という現象です。シルバー925やK18などの合金は、ナマシ処理後、常温で放置するだけでも硬くなります。特にシルバー925は250℃前後で加熱すると著しく硬化するため、ピアスやフリーサイズの指輪など、硬さが必要な製品製作に活用できます。この特性を理解することで、最終製品の硬さをコントロールすることが可能になります。

 

加工硬化と時効硬化の両方の性質を理解し、加工途中で適切なタイミングでナマシ処理を行うことが、高品質な金属製品を製作するための鍵となります。何度も加工と熱処理を繰り返すことで、理想的な形状と硬さを実現できるのです。

 

ナマシ 技術 で 使われる 雰囲気ガス と 温度管理

ナマシ処理において品質を左右する重要な要素が「雰囲気ガス」と「温度管理」です。一般的に金属を大気中で加熱すると、酸素と反応して表面に酸化膜(スケール)が形成されます。また、鋼材では表面の炭素が減少する「脱炭」現象も発生します。これらを防止するため、特定のガスで満たされた環境でナマシ処理を行うことが一般的です。

 

雰囲気ガスには大きく分けて不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウムなど)、還元性ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素ガスなど)、酸化性ガス、脱炭性ガス、浸炭性ガス、窒化性ガスなどがあります。特に「光輝焼なまし」では、金属表面の酸化を完全に防止し、処理後も金属本来の輝きを保持することができます。

 

例えば、銅や真鍮の光輝焼なましには、変成エキゾガスと呼ばれる、プロパンやブタンガスと空気の混合ガスを燃焼・脱水処理したガスが使用されます。また、ステンレス鋼を含むほとんどの鋼材には、アンモニアを高温分解したRXガス(H2 75%、N2 25%)が適しています。

 

温度管理も非常に重要で、金属ごとに最適な温度範囲があります。例えば、銅は270℃〜650℃、真鍮は250℃〜350℃で応力除去焼なましを行い、それ以上の温度では光輝焼なましとなります。アルミニウムは他の金属より低温(融点が約660℃)で処理が必要です。

 

注意すべき点として、銅や真鍮、アルミなどは一度熱処理後に硬度が落ちた場合、再処理で元の硬度に戻すことはできません。専門の熱処理会社では、マイクロビッカース硬度計などを用いて処理前後の硬度測定を行い、適切なナマシ処理条件を確立しています。

 

ナマシ 処理 が 必要な 金属材料 と その 特性

ナマシ処理は様々な金属材料に適用されますが、それぞれ異なる特性と最適な処理条件があります。代表的な金属材料とその特徴を見ていきましょう。

 

まず、貴金属では「シルバー925」と「K18(18金)」が代表的です。シルバーは加工しやすい反面、加工硬化しやすく、特に精密なジュエリー制作では頻繁なナマシが必要です。シルバーは赤熱状態(約650℃)まで加熱することで適切にナマシできます。また、250℃前後で加熱することで時効硬化を促進することも可能です。K18は加工硬化の傾向が極めて強く、複雑な形状を作る際には何度もナマシ処理を挟むことが一般的です。

 

非鉄金属では「銅」と「真鍮(黄銅)」が広く利用されています。銅は軟らかく電気伝導性に優れており、無酸素銅(C1020)やタフピッチ銅(C1100)などの種類があります。銅は加工硬化しやすいため、電子部品や配管部品の製造ではナマシ処理が必須です。真鍮は銅と亜鉛の合金で、六四黄銅(C2801)や快削黄銅(C3604)などがあります。加工性が良く酸化しにくい特徴を持ちますが、経年劣化による割れを防ぐためにナマシ処理が行われます。

 

アルミニウムも加工硬化する金属であり、熱処理によって軟化させることができます。ただし、融点が約660℃と低いため、温度管理に特に注意が必要です。適切なナマシ条件はA5056などの合金ごとに異なります。

 

鉄鋼材料では、炭素含有量により異なる熱処理が行われます。亜共析鋼(炭素含有量0.77%未満)はA3線より20〜30℃高い温度、過共析鋼(炭素含有量0.77%以上)はA1線より20〜50℃高い温度で加熱後、徐冷することで完全焼なましが実現します。

 

注目すべきは、ベリリウム銅(C1700、C1720)などの特殊合金です。これらは時効硬化性を持ち、適切な熱処理によって強度を大幅に向上させることができます。ばね材料やコネクタなど、強度と導電性が同時に求められる部品に使用されています。

 

ナマシ 加工 の 現場 での トラブル対策 と コツ

ナマシ処理は理論上は単純ですが、実際の現場では様々なトラブルが発生します。ここでは実務者が直面しやすい問題とその解決策をご紹介します。

 

最も頻発するトラブルは「溶着」です。特に薄い銅板や軟質金属を処理する際、部品同士を密着させて炉に入れると、高温で部品が互いに溶け合ってしまいます。これを防ぐには、部品間に適切な隙間を設け、専用の治具を使用することが効果的です。特に銅や真鍮は軟化温度が低いため、他の金属より溶着が起きやすい点に注意が必要です。

 

次に「変形」の問題があります。ナマシ処理中、金属は軟化し自重で変形しやすくなります。特に薄板や複雑な形状の部品は、支えとなる治具の設計が重要です。従来は経験則で治具を設計していましたが、近年はシミュレーションソフトを活用し、変形を最小限に抑える治具配置を事前に検討する手法が普及しています。

 

酸化による「変色」も大きな課題です。特に銅や真鍮は、適切な雰囲気ガスがないと表面が著しく変色します。従来はガスバーナーでの直火加熱も行われていましたが、これでは温度管理が難しく、部品全体が真っ黒に変色してしまいます。専用の雰囲気炉を使用し、還元性や不活性のガス雰囲気で処理することで、光沢を保ったまま熱処理が可能となります。

 

「硬度のばらつき」も見逃せない問題です。ナマシ処理の温度分布が不均一だと、同一ロットでも部品ごとに硬度が異なる結果となります。これを防ぐには、炉内の温度分布を定期的に測定し、熱電対の位置や数を適切に設定することが重要です。また、部品の配置にも工夫が必要で、特に大型部品と小型部品を混載する場合は注意が必要です。

 

意外と見落とされがちなのが「梱包材による二次的な変色」です。ナマシ処理後に紙や一部の樹脂材料で梱包すると、残留熱により金属表面が酸化することがあります。耐熱性のある専用梱包材を使用し、部品が完全に冷却されてから梱包することが推奨されます。

 

これらのトラブル対策に加え、処理の前後で硬度測定を行い、目標値が達成されているか確認することで、品質の安定化が図れます。経験豊富な熱処理専門会社では、こうしたノウハウが蓄積されており、難しい条件の処理も可能にしています。