アルミのMIG溶接で「鉄と同じ設定で溶接したら、ビード内部に気孔が無数にできて全部やり直しになった」という現場の話は珍しくありません。
鉄のMAG溶接でCO2混合ガスを使い慣れている現場では、「同じガスでいいのでは」と思いがちです。しかしCO2は酸化性ガスであり、アルミに使用すると溶接部が激しく酸化してしまいます。アルミは空気中でも数ナノメートル単位の酸化膜を形成するほど酸化しやすい金属なので、シールドガスの選択を誤ると取り返しのつかない品質不良につながります。 kinzoku.co(https://www.kinzoku.co.jp/media/techinfo/mig-welding)
純アルゴンに加えて、ヘリウムを混合する場合もあります。ヘリウムは熱伝導度が高く、アルゴン単独より大きな入熱が可能になるため、溶け込みが深くなる特性があります。 板厚が10mm以上の厚板アルミを溶接するときや、深い溶け込みを求める構造部材の溶接では、Ar+He混合ガスが有効です。 shinto.co(https://www.shinto.co.jp/industry/pdf/welding-gas.pdf)
ガス流量の目安はノズル径にもよりますが、一般的には15~20L/minが推奨されています。流量が少なすぎると大気中の水分や窒素が溶接プールに混入してポロシティ(気孔)の原因になります。これが基本です。
一方、流量が多すぎても乱流が発生してシールド効果が下がることがあります。「多ければ多いほど安全」という考え方は通じません。意外ですね。
参考:アルミMIG溶接におけるシールドガス選定の詳細(日本溶接協会 技術情報)
アーク溶接とシールドガス(産業ガス技術資料)
アルミのMIG溶接で最も多いトラブルのひとつが、ワイヤーの送給不良です。アルミワイヤーは鉄系ワイヤーと比べて非常に柔らかく、送給ローラーで過度に締め付けると変形して詰まります。 ja.boyiprototyping(https://ja.boyiprototyping.com/blogs/mig-welding-aluminum/)
ワイヤーの材質は母材に合わせて選ぶのが原則です。A5000系(Al-Mg系)のアルミを溶接する場合はA5183やA5356のワイヤーが一般的です。ただし注意点があります。Al-Mg系ワイヤー(A5183、A5356)を使うと、溶接ビード近傍に「スマット」と呼ばれる黒い付着物が発生しやすくなります。 これはMg成分が原因であり、純アルミやAl-Si系ワイヤーではほとんど発生しません。 www-it.jwes.or(https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0050020860)
スマットは外観品質を著しく損なうため、仕上がりを重視する製品では後処理の研磨工程が増えてコストに直結します。痛いですね。
送給安定性を高めるためには、プッシュプル式トーチの導入が有効です。プッシュプルトーチとは、溶接機本体側のフィーダーとトーチ先端側の両方でワイヤーを送る機構を持つトーチのことで、長いケーブルを使う現場でも安定した送給が可能です。 トーチケーブルの長さが3m以上になる場合は、プッシュプルトーチの使用を強く推奨します。 metalworklab(https://metalworklab.com/ja/%E3%83%9F%E3%82%B0%E6%BA%B6%E6%8E%A5%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%81%AF%E3%83%97%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E5%BC%8F%E3%81%8B%E3%83%97%E3%83%AB%E5%BC%8F%E3%81%8B%EF%BC%9F/)
また、ライナーの素材もポイントです。鉄用のスチール製ライナーをそのままアルミワイヤーに使うと、摩擦抵抗が大きすぎて送給不良が頻発します。テフロン製または合成樹脂製のソフトライナーに交換することで、送給安定性が大幅に改善されます。これは使えそうです。
アルミの表面には、常温でも約3~5nmの酸化膜(Al₂O₃)が形成されています。この酸化膜の融点は約2050℃で、アルミ母材の融点(約660℃)の約3倍以上もあります。 つまり、アルミが溶けても酸化膜は溶けずに残るため、溶接欠陥の大きな原因となります。 large-scale-plating(https://www.large-scale-plating.com/knowledge/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%9F%E6%BA%B6%E6%8E%A5%E3%81%AE%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/)
下処理の基本手順は以下のとおりです。
特に注意したいのが、「鉄用に使ったブラシをアルミにも使い回す」ことです。これは厳禁です。鉄の粉末がアルミ表面に付着し、溶接時に欠陥の原因となります。アルミ専用ブラシは工具店や溶接材料店で1本500~1,500円程度で購入でき、品質トラブル防止の観点からコストパフォーマンスは非常に高いと言えます。
また、溶加材(ワイヤー)にも酸化膜が形成されています。開封後に長期間保管したワイヤーは使用前に表面の状態を確認し、変色や白錆びが見られる場合は交換を検討してください。つまり保管管理が品質に直結します。
参考:アルミ溶接における酸化膜の影響と下処理の重要性
鉄のMAG溶接では「引き(プル)」で溶接することも多いですが、アルミのMIG溶接では「押し(プッシュ)」が基本です。 これを知らずに鉄と同じ感覚で引き溶接をすると、ビードの外観が乱れ、シールドガスのカバー効率も落ちてしまいます。 wholesale.yeswelder(https://wholesale.yeswelder.com/ja/blog/push-or-pull-mig-welding/)
プッシュ法(前進法)では、トーチを進行方向に10~15度傾けて溶接プールを前方に押し出すように進みます。この方法は以下のメリットがあります。
一方、プル法は溶け込みが深くなる反面、アルミでは酸化欠陥やポロシティのリスクが上がりやすいため、特別な理由がない限り避けることが原則です。 wholesale.yeswelder(https://wholesale.yeswelder.com/ja/blog/push-or-pull-mig-welding/)
アーク長も重要な要素で、アルミMIG溶接における適正アーク長は約3~6mm程度が目安です。短すぎると短絡が多発し、長すぎると溶接プールが大気にさらされやすくなります。アーク長の管理が条件です。
パルスMIG溶接は、アルミのMIG溶接における現代的な標準技術と言っても過言ではありません。 通常のスプレーミグ溶接法では薄板のアルミを溶接する際に溶け落ちリスクが高く、電流制御が難しいという問題がありました。 keyence.co(https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure/welding/arc/mig.jsp)
パルスMIG溶接は、ピーク電流とベース電流を高速で繰り返すことで、スプレー移行のメリットを保ちながら入熱を精密にコントロールできる溶接方法です。具体的には1秒間に数十~数百回のパルスを発生させ、1パルスに対して1粒の溶滴を移行させる「1パルス1溶滴移行」が理想とされています。 keyence.co(https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure/welding/arc/mig.jsp)
パルスMIG溶接の主なメリットは以下のとおりです。
| 項目 | 通常スプレーMIG | パルスMIG |
|---|---|---|
| 薄板への適性 | 低い(溶け落ちリスク大) | 高い(入熱制御が可能) |
| スパッタ | 多め | 少ない |
| 溶接速度 | 速い | やや遅い |
| 仕上がり品質 | 粗め | 良好 |
| 設定の難易度 | 低い | やや高い |
特に板厚1.5mm~6mm程度のアルミ薄板構造物の溶接では、パルスMIG溶接は非常に有効です。 自動車部品・建材・船舶部材など、アルミ薄板を多く扱う現場では積極的に導入を検討する価値があります。 wholesale.yeswelder(https://wholesale.yeswelder.com/ja/blog/mig-welding-aluminum/)
最近ではインバーター制御の普及により、パルスMIG対応の溶接機の価格も以前より下がっています。エントリークラスのパルス対応機であれば20万円台から入手できるモデルもあります。機種選定の際は「パルスMIG対応」と「アルミ専用プログラム搭載」の2点を確認するだけで大丈夫です。
参考:パルスMIG溶接の詳細とアルミへの適用事例
ミグ(MIG)溶接の種類と特徴(キーエンス 溶接革命)
参考:アルミMIG溶接の実際の施工Q&A(軽金属溶接協会)
アルミニウムの溶接Q&A 50|一般社団法人 軽金属溶接協会
あなたがいつもの感覚で水素炉を使うと、1回の熱処理ミスだけで100万円単位のクレームになることがあります。