電気メッキは、最も汎用的な金属メッキの手法です。メッキ液に含まれた金属イオンを電気分解により、メッキ対象物の表面に析出させる成膜技術になります。直流電流を流して、プラス電極側の素材に金属が付着し、膜を形成する仕組みです。
電気メッキの大きなメリットは、流す電流と時間によってメッキの厚さを精密に管理できる点にあります。部品ごとに目的に応じた膜厚を設定でき、多種多様な用途に対応できるため、業界で最も広く採用されている手法です。一方、デメリットとしては、メッキ可能な対象が導電性を持つ材料に限定される点が挙げられます。プラスチックなどの非導電性素材への直接メッキは困難です。
電気メッキの適用例
電気メッキでは出っ張った部分に膜が厚く付着し、凹んだ部分に薄くなる傾向があるため、治具や補助極の配置にノウハウが必要になります。複雑な形状を均一にメッキするには、経験豊かな技術者による工夫が必要です。
無電解メッキは、電気を使わずに化学反応のみで金属膜を形成させる方法です。メッキ対象物をメッキ液に浸すと、液中で還元反応が自動的に発生し、表面に金属が析出します。電気メッキとは異なり、導電性がない素材にもメッキを施すことが可能です。
無電解ニッケルメッキは特に知られており、複雑な形状の部品でも表面に均一にメッキ皮膜を得られるという利点があります。電気メッキでは電流の流れに左右されるため、均一な膜を得るのに工夫が必要ですが、無電解メッキはその制約がありません。
しかし、無電解メッキにも課題があります。化学反応の速度が遅いため、膜厚に限度があり、一般的に数十ミクロンが上限です。また、メッキ浴を高温で維持する必要があり、化学的に不安定になりやすく、調整に投入する薬液コストが高くなります。その結果、無電解メッキの処理費用は電気メッキよりも高額になる傾向にあります。
無電解メッキの用途
溶融メッキは、融点が低い金属を溶かした状態の処理槽に製品を浸漬させ、冷却後に金属皮膜を形成させる方法です。俗に「どぶ漬け」と呼ばれることもあります。特に溶融亜鉛メッキは、鉄鋼製品の防錆処理として広く利用されており、ワイヤ、構造物、管、板、形材など様々な形状に対応できます。
溶融メッキの利点は、導電性の有無を問わず幅広い素材に処理できることです。ただし、メッキ温度が非常に高温のため、熱の影響を受けやすい素材は溶けたり変形したりするリスクがあります。また、厚めの膜が形成されるため、寸法精度が必要な部品には向きません。
一方、乾式メッキはPVD(物理蒸着)とCVD(化学蒸着)に分類され、真空状態またはガス環境下で金属膜を析出させます。半導体製造など精密加工に多く用いられ、金属のみならず化合物薄膜の被覆も可能です。しかし、高温処理が必要でコストも高いため、一般的な機械部品には採用されにくい手法です。
亜鉛メッキは、最も防食性を目的とした金属メッキです。鉄鋼材料に施すと、亜鉛が先に腐食する「犠牲防食作用」により、内部の鉄鋼を錆から守ります。予算的にも安価であり、鉄製品の防錆処理として最も広く使用されています。一般的な「メッキパイプ」と呼ばれる配管製品に施されているのは、この亜鉛メッキです。見た目を美しくする効果も兼ね備えています。
ニッケルメッキは、光沢のある銀白色の外観と錆びにくさが特徴です。融点が高いため、耐久性が求められる部品に用いられます。装飾用途として使用される他、表面が滑らかになる性質を活かして、クロムメッキや金メッキの下地として重用されています。ニッケル層があることで、上層のメッキとの密着性が向上し、全体的な耐久性が高まります。
クロムメッキは、非常に硬く耐摩耗性に優れた特徴を持つ金属メッキです。耐腐食性も高く、光沢があって変色しにくいため、装飾用途として活躍します。自動車や航空機、船舶の部品のほか、身近な水道の蛇口や蝶番にも使用されており、工業製品と生活用品の両方で重要な役割を果たしています。硬質クロムメッキは特に耐摩耗性が高く、シャフトや摺動部品など厳しい条件下での使用に耐えます。
各種金属メッキの比較
| メッキ種類 | 主な目的 | 特徴 | 主要用途 |
|---|---|---|---|
| 亜鉛メッキ | 防食・耐錆性 | 安価、犠牲防食作用 | 鋼管、ボルト、構造物 |
| ニッケルメッキ | 装飾・耐食・下地 | 滑らかな表面、融点高 | 下地処理、装飾品 |
| クロムメッキ | 装飾・耐摩耗 | 硬度高、光沢良好 | 自動車部品、蛇口 |
| 金メッキ | 装飾・導電性 | 最高の美観、耐食性優秀 | 電子部品、高級装飾品 |
| 銀メッキ | 導電・装飾 | 電気伝導性最高、変色しやすい | コネクター、食器 |
| 銅メッキ | 導電・下地 | 安価、熱伝導性良 | 基板、下地処理 |
金属メッキの処理工程は、素材の種類とメッキ方法によって異なります。一般的な電気メッキでは、前処理として脱脂と酸洗いを行い、素材表面の汚れと酸化膜を除去します。その後、メッキ液に浸漬して通電し、所定の膜厚に達するまで処理を続けます。処理後は水洗いと乾燥を行い、防変色処理が施される場合もあります。
重要な点として、メッキ処理後の塗装や溶接には特別な注意が必要です。亜鉛メッキ表面への塗装は、密着性が低下しやすいため、専用のプライマーを使用する必要があります。特にクロメート処理が施された亜鉛メッキの場合、表面が非常に滑らかであるため、塗膜の付着が不十分になりやすいです。
溶接作業においても、メッキ層が加熱で蒸発するため、溶接部分の強度低下や有毒なガス発生のリスクがあります。メッキ済み鋼材の溶接には、ガス切断前にメッキを除去するか、十分な換気環境での作業が求められます。このため、設計段階でメッキと溶接の順序を慎重に判断することが、品質と安全性を確保する上で重要です。
メッキ処理が終わった製品に対する後工程では、メッキ膜の性質を損なわないよう、研磨や加工を極力避ける必要があります。やむを得ず加工する場合は、メッキ膜の剥離を最小限に抑える工具選択と加工方法の検討が必須です。
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