カチオン塗装で発生する塗膜剥がれの最も一般的な原因は、塗装前の前処理工程における脱脂不良です。被塗物の表面に残された油分、機械加工時の切削油、チェーンオイル、グリスなどの油質汚染が、塗膜と基材の密着を妨げます。これらの油分が存在すると、電気化学的な反応が正常に進行しないため、塗膜の析出性が低下し、結果として密着性に乏しい塗膜が形成されるのです。
脱脂の強化には、アルカリ洗浄液の濃度管理、処理温度の最適化(通常50~60℃)、浸漬時間の延長が有効です。特にダイカスト製品やショットブラスト処理後の製品は、生地起因の油汚染が顕著なため、二段階脱脂(予備脱脂と本脱脂の組み合わせ)を実施することが重要です。また、水面上に浮く浮き油は目視で発見しやすく、定期的な除去が防止策として機能します。
化成処理(リン酸亜鉛処理が代表的)は、塗装の密着性を大幅に向上させる重要な工程です。この工程で形成されるリン酸亜鉛皮膜が均一でなければ、部分的に塗膜が剥がれやすくなるリスクが高まります。化成皮膜の厚さは通常5~15μmですが、この厚みが不均一だと、電着塗装時の塗膜形成にばらつきが生じます。
塗膜厚みそのものも重要で、一般的には15~30μmの範囲が推奨されます。薄すぎる塗膜は基材の凹凸に十分に塗装が行き渡らず、密着力が低下します。反対に、厚すぎる塗膜は乾燥・焼付時に内部応力が生じ、特にエッジ部分や複雑な形状の凹凸箇所で剥がれが発生しやすくなるのです。近年、自動車の足回り部品では「厚カチ(厚膜電着塗装)」と呼ばれる30μm以上の厚膜が採用され、防錆能力を強化する傾向にありますが、この場合でも焼付条件の最適化が必須です。
膜厚測定には、デジタル膜厚計を定期的に使用し、製品の各部位で測定値を記録することが品質管理の基本となります。
焼付工程は、カチオン電着塗膜の硬化と最終的な密着性を決定づける極めて重要なステップです。焼付温度が低すぎると(160℃以下)、塗膜が十分に硬化せず、表面は乾いているように見えても内部は未硬化状態となり、使用中の機械的ストレスで剥がれが発生します。一方、焼付温度が高すぎる(210℃以上)と、塗膜が過度に硬化して脆くなり、特にエッジ部分で剥がれやすくなります。
焼付条件の最適管理には、炉内温度分布の測定が不可欠です。大型製品や複雑な形状の製品では、炉内に温度測定用のテストピースを配置し、入口、中央部、出口での温度差が10℃以下になるよう調整することが推奨されます。焼付時間も重要で、通常20~30分の焼付が標準ですが、製品の厚さや材質によって調整が必要です。
また、焼付前のエアブローで製品に付着した水分を除去することも重要です。水分が残っていると、焼付炉内で蒸発して「ウォータースポット」と呼ばれる塗膜の侵食が発生し、そこから剥がれが起こる可能性があります。
カチオン塗装は多様な金属素材に対応可能ですが、素材ごとに剥がれやすいポイントが異なるため、素材特性に応じた対策が必要です。アルミニウム素材は表面に酸化皮膜が自然発生的に形成され、この酸化皮膜が塗膜の密着性を低下させます。対策として、フッ酸処理による酸化皮膜の除去、またはアルミ用化成処理剤の使用が有効です。
ステンレス鋼は化学的に極めて安定した素材であるため、塗料の密着が難しく、何も処理を施さなければ塗膜の剥がれが発生しやすくなります。この場合、ブラスト処理で表面を粗面化するか、プライマー処理を施すことで、密着性を大幅に改善できます。
亜鉛メッキ鋼板は、メッキ層の品質や厚みにより塗膜の密着性が変動します。特に古いメッキや白錆が発生している場合は、リン酸亜鉛化成処理を慎重に行い、均一な皮膜形成を確保することが重要です。
素材別の剥がれリスクと具体的な対策方法について、詳細な事例が記載されています。
カチオン電着塗装の塗膜品質は、電圧、処理時間、槽内攪拌のバランスによって大きく左右されます。電圧が低すぎると塗膜が薄く形成され、高すぎると過剰な塗膜が付着してムラが生じやすくなります。一般的に100~300Vの範囲で設定されますが、製品の材質や形状に応じた微調整が必須です。
異物混入は塗膜剥がれの大きな誘因であり、特に鉄粉やゴミが塗膜内に混入すると、その箇所を起点として塗膜が剥がれるリスクが高まります。異物混入を防ぐには、塗装前のエアブローと水洗を徹底し、付着物を完全に除去することが基本です。塗料槽のフィルターも定期的に清掃し、不純物を排除する必要があります。さらに、塗装工程内の環境清潔性を保つことで、粉塵やゴミの落下を最小化できます。
電着槽内の攪拌も重要な要素です。攪拌が不十分だと、塗料成分が均一に分散されず、部分的に塗膜の品質にばらつきが生じます。攪拌強度や頻度を適切に調整し、常に塗料が均一な状態に保たれるよう管理することが、安定した塗膜形成につながります。
塗料の濃度管理も見過ごせない要素で、塗料濃度(通常、ノンブラー値で管理)が適正でないと、塗膜の厚みに大きなばらつきが生じます。定期的に塗料濃度測定を行い、規定範囲内に維持することが重要です。また、pHの管理(通常5.5~6.5)も塗料の安定性と電着効率に影響し、導電率の管理も塗膜の付着量に直結するため、これらのパラメータを日々監視し調整することが、剥がれのない高品質な塗膜形成の鍵となるのです。

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