引張圧縮疲労試験JISの規格と試験片加工の全知識

引張圧縮疲労試験のJIS規格(Z2273・Z2279)をわかりやすく解説。試験片の形状・加工基準から、S-N曲線の読み方、高サイクル・低サイクルの違いまで網羅。現場の金属加工担当者が知らないと損する規格の落とし穴とは?

引張圧縮疲労試験のJIS規格と現場で使える基礎知識

試験片の表面粗さが1ランク粗いだけで、疲労強度が数十%低下して設計値を大きく下回ることがあります。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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JIS規格は2021年に大きく変わっている

疲労試験の通則を定めていたJIS Z 2273が2021年に廃止。現在は個別規格(Z2274・Z2279など)と国際規格ISOへの整合が進んでいます。古い規格を参照したままでは試験の妥当性に問題が生じます。

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高サイクルと低サイクルで制御方法が異なる

高サイクル疲労試験は「荷重(応力)制御」、低サイクル疲労試験は「ひずみ制御」が原則です。同じ引張圧縮でも目的によって試験方法が全く異なります。

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鉄鋼とアルミでは「疲労限度」の考え方が違う

鉄鋼は10⁶〜10⁷回以降で疲労限度が現れますが、アルミニウム合金には明確な疲労限度がなく、繰り返すほど強度が下がり続けます。材料ごとにS-N線図の解釈が必要です。


引張圧縮疲労試験とは何か:JIS規格が定める基本的な仕組み

引張圧縮疲労試験とは、試験片の軸方向に対して引張と圧縮の繰り返し荷重を与え、材料が破断に至るまでの繰り返し数(疲労寿命)や、無限回繰り返しても破断しない限界応力(疲労限度)を明らかにする試験です。機械設計や構造物の強度評価において、最も基本的かつ標準的なデータ取得手段として位置づけられています。


金属加工の現場では「一度の荷重で壊れる強度(引張強さ)」をもとに設計されることが多いですが、実際の機器が壊れる原因の70〜80%は疲労破壊が関係していると言われています。これは非常に重要な数字です。静的強度だけを見て設計した部品が、繰り返し使用中に突然破断するケースがこれほど多いという事実は、疲労試験の必要性を強く物語っています。


疲労試験の関連JIS規格として代表的なものは以下の通りです。


| 規格番号 | 内容 | 状態 |
|---|---|---|
| JIS Z 2273 | 金属材料の疲れ試験方法通則 | 2021年廃止 |
| JIS Z 2274 | 金属材料の回転曲げ疲れ試験方法 | 現行(改訂進行中) |
| JIS Z 2275 | 金属平板の平面曲げ疲れ試験方法 | 現行 |
| JIS Z 2279 | 金属材料の高温低サイクル疲労試験方法 | 現行 |
| ASTM E466 | 金属の軸力引張圧縮疲労(荷重制御) | 国際的に参照 |


ここで特に注意が必要なのが、JIS Z 2273が2021年に廃止されている点です。これは重要なポイントです。以前は引張圧縮疲労試験の通則として全体の基準となっていたこの規格がなくなったため、現在は個別の目的ごとの規格(JIS Z 2279など)と国際規格(ISO・ASTM)を参照しながら試験設計を行う必要があります。古い試験報告書や社内規定が廃止前の規格に基づいている場合は、見直しが求められます。


試験片に対して力の加え方は、軸方向(引張・圧縮)、曲げ(回転・平面)、せん断ねじりの3つに大別されます。このうち引張圧縮は試験片の全断面に均一な応力が生じる最も標準的な方法であり、材料の純粋な疲労強度データを得るのに適しています。応力勾配が存在しないため、寸法効果の影響も他の試験方法に比べて小さいという特徴があります。


参考リンク(JIS Z 2273の詳細内容と廃止前の通則規格の概要)。
JISZ2273:1978 金属材料の疲れ試験方法通則 – kikakurui.com


引張圧縮疲労試験の高サイクルと低サイクルの違い:JIS Z 2279の要点

「引張圧縮疲労試験」という言葉は一つでも、実は試験目的によって「高サイクル疲労試験」と「低サイクル疲労試験」の2種類に分けられます。この区別を現場で正確に理解しておくことは、試験委託や試験片設計の際に大きな差をもたらします。


高サイクル疲労試験は、降伏応力以下の比較的小さな繰り返し荷重を対象とし、破断繰り返し数が10⁴回以上になる領域を扱います。一般的な部品設計の疲労強度データ取得に使用されます。制御方式は荷重(応力)制御で、正弦波形で負荷をかけるのが基本です。試験周波数は通常20Hz程度で、10⁷回(1千万回)の試験を行うと約6日かかります(高速試験機では100Hzで1.2日まで短縮可能です)。


低サイクル疲労試験は、降伏応力以上の応力が繰り返しかかる状況で、破断繰り返し数が10⁴〜10⁵回以下となる領域を対象とします。タービンブレードや配管、圧力容器など、起動・停止の温度変化が大きい機器に使われる素材の評価が代表例です。制御方式はひずみ制御で、三角波形を用います。変形のエネルギーが大きく発熱が問題となるため、意図的にゆっくりとした繰り返し速度で試験を行います。


つまり、高サイクルは「応力制御・速い試験」、低サイクルは「ひずみ制御・遅い試験」が基本です。


取得するアウトプットも異なります。高サイクル試験では「応力振幅 vs. 破断繰り返し数(S-N線図)」を得るのに対し、低サイクル試験では「ひずみ範囲 vs. 破損繰り返し数(ε-N線図)」を取得します。ε-N線図ではヒステリシスループの観察も重要なデータとなります。


JIS Z 2279(金属材料の高温低サイクル疲労試験方法)は低サイクル試験の代表的な国内規格です。試験片平行部の温度分布は±5℃以内に管理することが求められており、試験環境の温度精度まで規定されています。これは厳しい条件です。特に高温での試験を受託依頼する場合は、この温度管理条件を試験機関が満たせるかを事前に確認しておくと安心です。


参考リンク(JIS Z 2279の全文および試験片精度・試験条件の詳細)。
JISZ2279:1992 金属材料の高温低サイクル疲労試験方法 – kikakurui.com


引張圧縮疲労試験の試験片形状と加工基準:JIS規格の精度要求を見落とすな

金属加工に携わる方にとって特に重要なのが、試験片の形状・寸法と加工精度に関するJIS規格の要求事項です。試験片の形状が不適切だと、試験データそのものが無効になる可能性があります。


標準的な引張圧縮疲労試験片は、中央に平行部を持つ丸棒試験片です。JIS Z 2279の規定では、試験片の中実丸棒型の場合、試験部断面直径は6mm以上とすることが求められています。平行部の仕上げ寸法の偏径差(平行部内の最大直径と最小直径の差)は0.03mm以内、湾曲や偏心は0.02mm以内という厳しい数値が指定されています。0.03mmというのは、人の毛髪の直径(約70μm)の約半分以下です。それほど精密な寸法管理が要求されています。


表面仕上げも非常に重要です。試験片は機械加工後、順次細かい粒度の研磨布紙で研磨し、最後は320番より細かい研磨紙で、試験片の長手方向(応力方向)と平行に仕上げることが規定されています。この「方向」が重要です。応力と直角方向に研磨痕が残ると、その痕が応力集中の起点となり、実際の材料特性より低い疲労強度が測定されてしまう可能性があります。


表面粗さが疲労強度に及ぼす影響について、実測データがあります。旋盤で仕上げた丸棒試験片で表面粗さを3S・20S・100Sと変えた比較試験では、粗さが増すにつれて疲労強度が明確に低下する結果が得られています。表面の微細な凹凸が切欠きとして作用し、疲労き裂の発生起点となるためです。高強度材ほどこの影響が顕著に現れる傾向があります。


試験片取り付け時の精度も同様に厳格です。神戸工業試験場の事例では、試験片の偏芯量0.02mm以内・取り付け時の芯振れ0.05mm以内という基準を設定しています。わずかな偏芯でも曲げ応力が重畳し、純粋な引張圧縮データが得られなくなります。試験機関に加工した試験片を持ち込む場合は、加工精度が試験結果の信頼性に直結することを念頭に置いておきましょう。


また、仕上げ後の試験片はや傷をつけないよう細心の注意を払って保管・搬送する必要があります。これが基本です。保護フィルムや気密容器の使用を検討することを推奨します。


参考リンク(試験片の加工基準・形状・仕上げについての詳細解説)。
疲労試験の試験片の形状(JIS規格)や加工方法について解説 – 昭和製作所


S-N線図の正しい読み方:鉄鋼とアルミで疲労限度が違う理由

引張圧縮疲労試験の結果を整理する際に必ず登場するのがS-N線図(Stress-Number curve、またはヴェーラー曲線)です。縦軸に応力振幅(MPa)、横軸に破断までの繰り返し数(対数目盛)をとり、疲労試験の結果をプロットして得られます。疲労強度設計の基礎データとして最も重要なグラフです。


鉄鋼材料のS-N線図には明確な「疲労限度(耐久限度)」が現れます。通常、繰り返し数が10⁶〜10⁷回のあたりでグラフが水平になり、それ以上繰り返しても破断しない応力振幅の水準が存在します。例えばS45C(中炭素鋼)の回転曲げ疲労試験では、疲労限度は引張強さの約50%程度とされています。設計では通常この疲労限度に安全率(一般的には3程度)を除した値を許容応力として使用します。


一方、アルミニウム合金や銅合金などの非鉄金属では、10⁷回を超えても疲労限度が現れず、S-N線図の傾きが緩やかになりながらも下がり続けます。これは意外な事実です。アルミ製部品を設計する際は「10⁷回で破断しなければ大丈夫」という鉄鋼材料の感覚をそのまま当てはめてはいけません。アルミの場合は、製品の想定使用サイクル数を明確にした上で、その繰り返し数に対応する「時間強度」を用いて設計することが必要です。


さらに、鉄鋼材料であっても腐食環境下や高温環境では疲労限度が消失することも重要な知識です。海水環境や酸溶液中では腐食ピットが疲労き裂の発生起点となり、応力振幅をいくら小さくしてもいずれ破断に至ります。屋外や湿潤環境で使用する部品の設計では、大気中で取得した疲労試験データをそのまま適用することは危険です。


S-N線図のデータにはばらつきが必ず存在します。同一応力振幅でも複数の試験片の破断繰り返し数はかなりの幅を持ちます。通常7〜10本の試験片から得たデータを最小二乗法で整理すると、破壊確率50%のS-N線図が得られます。設計に用いる場合は破壊確率1%のP-S-N線図を参照するか、破壊確率50%のデータに安全率を掛ける処理が標準的です。


参考リンク(S-N線図の読み方・疲労限度の概念・鉄鋼とアルミの違いの詳細解説)。
疲労試験 – 日鉄テクノロジー株式会社


引張圧縮疲労試験の結果に影響する要因:切欠き・平均応力・寸法効果の現場的な意味

試験で得た疲労強度データを実際の部品設計に活用するには、試験片データと実部品の違いを補正する必要があります。疲労強度はさまざまな要因に影響されますが、その主なものは切欠き効果・表面粗さ効果・寸法効果・平均応力の4つです。金属加工の現場でも特に関係が深い内容です。


切欠き効果は、穴・段差・溝など断面形状が急変する部位で応力集中が起き、疲労強度が低下する現象です。この低下の大きさを表すのが切欠係数β(=平滑材疲労限度÷切欠材疲労限度)です。設計時に切欠きの応力集中係数αが分かっていれば、βと組み合わせて切欠き部の疲労強度を推定できます。


平均応力の影響も重要です。引張圧縮疲労試験では特にこの影響が顕著に現れます。両振り(応力比R=−1)と片振り引張(R=0)では、同じ応力振幅でも疲労限度が異なります。片振りの方が平均引張応力が重畳するため、一般的に疲労強度は低くなります。この関係を整理したのが疲労限度線図(修正グッドマン線図)です。設計応力が引張・圧縮の両方にまたがる場合と、常に引張側のみにある場合では、参照すべきデータが異なります。これは実務上の落とし穴になりやすい点です。


寸法効果については、引張圧縮疲労試験では曲げやねじり試験と比べて影響が小さいという特徴があります。これは試験片全断面に均一な応力が生じるため、応力勾配に起因する寸法効果が発生しにくいためです。ただし、素材製造時の欠陥分布や表面硬度など材料固有の因子による寸法効果は存在するため、大型部品への適用では注意が必要です。


表面処理による疲労強度改善も現場で活用できる知識です。ショットピーニング窒化・浸炭・高周波焼入れなどの表面処理は、表面に圧縮残留応力を発生させて疲労強度を向上させます。逆に引張の残留応力が残ると疲労強度が低下するため、機械加工後の残留応力の状態にも注意が必要です。試験片に施した機械加工の種類と条件は、JIS規格で定める試験結果報告書に必ず記録することが求められています。材料の熱処理条件・引張強さ・伸び・試験片の形状・仕上げ条件、これら全てを記録することが基本です。


このような多数の影響因子が重なることもあり、疲労試験機関(コベルコ科研・神戸工業試験場・日鉄テクノロジーなど)では試験前のヒアリングを重視しています。委託時に「どの部材の何を評価したいか」「使用環境はどうか」「荷重形式は何か」を整理しておくと、適切な試験方法の提案を受けやすくなります。


参考リンク(切欠き効果・平均応力・寸法効果など疲労強度影響因子の詳細)。
疲労強度設計のための疲労の基礎(PDF) – コベルコ科研 技術レポート