ホーンが摩耗したまま使い続けると、接合強度にばらつきが出て不良率が静かに上昇します。
超音波接合は、金属を「溶かさずに接合する」技術です。これが最大の特徴であり、従来のアーク溶接や抵抗溶接との根本的な違いでもあります。
通常の溶接では、金属を融点以上に加熱して溶かし、冷えて固まらせることで接合します。一方、超音波接合は20kHz以上の高周波振動を金属に加えながら加圧し、固体のまま(固相状態のまま)接合を完了させます。これを「固相接合」と呼びます。
では、なぜ溶かさずに接合できるのでしょうか?
金属の表面は、空気中の酸素と結合した酸化皮膜に常に覆われています。この酸化皮膜があると、金属原子同士が十分に近づくことができず、安定した結合が生まれません。超音波振動による摩擦がこの酸化皮膜を機械的に破壊・分散させ、清浄な金属面を露出させます。そこに加圧力による塑性変形が加わることで、金属原子同士が原子間引力の届く距離まで接近し、秩序ある配列を形成して接合が完成します。つまり原子間力が接合の根拠です。
振動の周波数は一般的に20kHz〜40kHz程度が使われます。20kHzというのは人間の可聴域(およそ20Hz〜20kHz)の上限にあたり、それを超えた不可聴音域の振動です。この振動が1秒間に2万回以上、接合面で微細な摩擦を繰り返すことで、酸化皮膜の除去と塑性流動が短時間で促進されます。接合時間はワークの材質や形状によって異なりますが、多くの場合は数十ミリ秒から数百ミリ秒という極めて短い時間で完了します。これは使えそうです。
参考:超音波金属接合の原理(固相接合の仕組みと接合プロセスについて詳しく掲載)
超音波金属接合の原理 - 精電舎電子工業株式会社
超音波金属接合機は、シンプルに見えて各部品の役割が精密に組み合わさった装置です。主な構成要素は、発振器・振動部ユニット・プレス装置・工具ホーンの4つです。
発振器は、商用電源から供給された電気エネルギーを高周波電力に変換し、振動子(圧電素子)に供給します。接合中は加圧力の変化によって共振周波数がわずかにずれるため、自動で追尾・補正する「周波数追尾回路」が搭載されています。また、ホーン先端の振幅を常に一定に保つ「定振幅回路」を備えた機種では、加圧条件が変化しても安定した振動が維持されます。これが接合安定性の条件です。
振動部ユニットは、振動子と固定ホーン(ブースター)で構成されます。振動子で発生した振動を固定ホーンで増幅し、さらに工具ホーンへと伝達します。
工具ホーン(超音波ホーン)は、最終的にワークに直接接触して振動を伝える部品です。ここが接合品質を左右する最重要パーツです。ホーン先端には「ナール」と呼ばれる細かい溝が刻まれており、このナールパターンによってワークをグリップし、効率的に振動エネルギーを伝達します。
ナールの設計は製品ごとの専用設計が原則です。薄い金属に対してナールが高すぎるとワークにダメージを与え、厚い金属に対してナールが低すぎると十分な摩擦力が得られず接合強度が不足します。工具ホーンに「標準的な形状」は存在しません。ワークの材質・形状・求める接合強度に合わせて、一つひとつを専用設計する必要があります。
注意が必要なのは、ホーンへの追加工です。現場の判断でホーンに加工を施してしまうと、共振周波数のズレや振動モードの悪化につながり、接合不良やホーン破断のリスクが高まります。ホーンの形状変更はメーカーへ相談するのが原則です。
参考:工具ホーンの役割と設計ポイント(ナール形状・摩耗管理の詳細情報を掲載)
超音波金属接合機の構成と接合のポイント - 精電舎電子工業株式会社
金属加工の現場で「超音波接合と溶接の違いがよくわからない」という声をよく耳にします。原理の違いを押さえておくと、どの工法を選ぶべきかの判断が格段に明確になります。
最も大きな違いは熱の使い方にあります。アーク溶接や抵抗溶接では、母材を融点以上に加熱して溶融させるため、接合部周辺に「熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)」が生まれます。熱影響部では金属組織が変化し、硬度や引張強度が低下することがあります。また、熱による歪みや残留応力が部品全体に影響を与えることも珍しくありません。
超音波接合では、局所的な摩擦熱は発生しますが、母材の融点以下で接合が完了します。このため、熱影響部が非常に狭く、母材本来の金属特性を維持したまま接合できます。熱に弱い素材との組み合わせでも有効なのはこのためです。
もう一つの違いは異種金属接合の容易さです。アルミニウム(融点660℃)と銅(融点1084℃)のように融点が大きく異なる金属を溶融接合しようとすると、先に低融点側が溶け過ぎて脆い金属間化合物が生成されるという問題が起きやすくなります。超音波接合は固相のまま接合するため、こうした融点差の問題が発生しにくいです。
さらに、接合界面の電気抵抗値の低さも見逃せない特徴です。酸化皮膜が除去されて清浄な金属面が直接結合するため、接合部での電気抵抗値が低く抑えられます。電気を流す用途、たとえばワイヤーハーネスや端子接合では、接合部の電気抵抗が低いほど発熱ロスが少なく、接続品質が高いと評価されます。これは配線接合で重要な数字です。
| 比較項目 | 超音波接合(固相接合) | アーク溶接・抵抗溶接(溶融接合) |
|---|---|---|
| 接合温度 | 母材の融点以下 | 母材の融点以上 |
| 熱影響部(HAZ) | 極めて狭い | 広範囲に及ぶ |
| 異種金属接合 | ✅ 対応しやすい(Al+Cu等) | ⚠️ 困難な組み合わせが多い |
| 接合部の電気抵抗 | 低い | 比較的高い |
| 副資材 | 不要(フラックス・ハンダ不要) | 用途によって必要 |
| 接合時間 | 数十〜数百ミリ秒 | 数秒〜数十秒(工法による) |
参考:超音波金属接合の原理と溶接との違いについて(産業技術総合研究所の関連情報)
音響データのみで異種金属の超音波接合良否を判定できる技術を開発 - 産業技術総合研究所(AIST)
超音波接合の技術が今最も注目されている分野のひとつが、電気自動車(EV)とリチウムイオン電池の製造ラインです。
EVバッテリーでは、銅とアルミという異種金属を組み合わせた接合が多数存在します。正極タブ(アルミ箔積層)、負極タブ(銅箔積層)、バスバーとハーネスの接続など、電流経路の要所に異種金属接合が不可欠です。しかもリチウムイオン電池は熱に非常に弱く、接合工程での過剰な熱入力は電解質の劣化や発火リスクにつながります。固相接合が不可欠です。
超音波接合は、バッテリーの電極タブを積層したまま一括接合することができます。例えば、0.1mm厚のアルミ箔を20枚重ねた状態で、超音波振動によって全層を均一に接合するといった用途です。はがきの厚さ(約0.1mm)の薄さの金属箔が20枚、それをまとめて1秒以下で接合する——現場で見ると驚くような加工です。
また、ワイヤーハーネス(電線束)の端末処理にも超音波接合が活用されています。複数本の銅線をまとめてアルミや銅の端子と接合する工程では、フラックスやハンダを使わず清浄な金属接合が実現します。ランニングコストは主に電気料金のみで、電気抵抗溶接と比較してコスト削減が期待できると精電舎電子工業の事例でも報告されています。
超音波接合が普及するほど、接合部の品質検査の重要性も増します。産業技術総合研究所(AIST)は2025年5月、音響データだけで異種金属の超音波接合良否を判定できる技術を開発したと発表しました。従来は引張試験による破壊検査や断面観察が必要でしたが、この技術が実用化されれば非破壊で全数検査が可能になる可能性があります。EV量産ラインへの貢献が期待されます。
超音波接合の品質は、正しい原理の理解に加えて、日常的なホーン管理と運用ノウハウに大きく依存します。現場で実際に問題になりやすいポイントを具体的に整理します。
まず押さえておきたいのは、ホーンは消耗品であるという認識です。使い続けるうちにナール(先端の溝)が摩耗し、形状が変化します。摩耗が進むとワークへのグリップ力が低下し、超音波エネルギーの伝達が不均一になります。その結果、接合強度にばらつきが生じ、特定の部位にストレスが集中してクラックや内部破壊を招くことがあります。見た目がきれいでも接合が不十分という状態は、超音波接合の難しさのひとつです。厳しいところですね。
ホーン摩耗の見逃しによる不良は、外観検査では発見できないことが多いため、定期的な摩耗検査と予防的な交換スケジュールの管理が重要です。また、ホーン交換後は再セッティングの手順を標準化しておくことで、交換に起因する品質変動を防ぐことができます。
接合品質を確認するための現場管理ポイントは以下の通りです。
条件設定(周波数・加圧力・振幅)のバランスを取ることも大切です。接合に必要なパワーは、接合する金属の面積や体積に比例して増加する傾向があります。面積が2倍になれば、必要なエネルギーも比例して増加するためです。薄い金属箔から太いハーネスまで、形状が変わるたびに条件出しのテストが必要になります。条件設定は都度確認が基本です。
自社ライン導入を検討する場合、精電舎電子工業やLINK-US、日本アビオニクスなどのメーカーでは接合テスト(サンプルテスト)を受け付けています。まず試作段階でのテスト接合から始めることが、ライン導入の失敗を防ぐ最も確実な方法です。
参考:超音波接合の品質管理と運用ノウハウ(ホーン磨耗対策・トレーサビリティの実践情報)
超音波接合技術の基礎と溶着機活用による固相接合の製品応用ノウハウ - newji