板金レーz加工の原理と種類、メリット・デメリットを比較

板金レーザー加工の基本原理から、CO2とファイバーレーザーの違い、コストや速度といったメリット・デメリットまでを網羅的に解説します。あなたの工場でも、加工品質と生産性を向上させるヒントが見つかるかもしれません。

板金レーザー加工の全知識

板金レーザー加工 3つのポイント
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原理とアシストガス

レーザーで金属を溶かし、適切なガスで吹き飛ばすことで高精度な切断を実現します。ガスの選択が品質を左右します。

🚀
ファイバー vs CO2

主流の2種類のレーザーを徹底比較。銅やアルミなどの高反射材の加工可否や、ランニングコストに大きな違いがあります。

💡
コストと速度の改善

加工の仕方や設定を工夫することで、永遠の課題であるコストとスピードは改善できます。具体的な手法を紹介します。

板金レーザー加工の原理と意外と知られていない「アシストガス」の役割

 

板金レーザー加工は、レーザー光という非常に高いエネルギーをレンズで集光させ、その熱で金属材料を局部的に溶融または蒸発させる加工技術です 。まるで虫眼鏡で太陽光を集めて紙を焦がす原理を、強力なレーザー光で金属に対して行うイメージです 。レーザー発振器で作られたレーザー光が、伝送路(光ファイバーやミラー)を通り、加工ヘッドのレンズで直径0.1mm程度にまで絞られて材料に照射されます 。
しかし、ただ金属を溶かすだけでは、きれいな切断面は得られません。ここで極めて重要な役割を果たすのが「アシストガス」です 。レーザー光の照射と同時に、ノズルから高圧のガスを吹き付けることで、溶融した金属(ドロス)を吹き飛ばし、初めて切断が完了します 。このアシストガスの存在と、その種類の選択が、加工品質や速度、コストを大きく左右する、意外と奥が深いポイントなのです。

 

参考)板金加工:レーザ切断について - 金属塑性加工.com

アシストガスには主に以下の種類があり、加工する材質や求める品質によって使い分けられます。

 

  • 💨 酸素 (O2)

    軟鋼(鉄)の加工で一般的に使用されます。酸素と高温の鉄が化学反応(酸化反応)を起こすことで、レーザーの熱に加えてさらに燃焼熱が発生します。これにより、レーザー出力だけでは不可能な厚板の高速切断が可能になります。ただし、切断面には酸化被膜が形成されるため、後工程で溶接や塗装を行う場合は、この被膜を除去する一手間が必要になることがあります。
  • 💨 窒素 (N2)

    ステンレスアルミニウムの加工で主流となるガスです。窒素は不活性ガスであり、材料と化学反応を起こしません。高圧の窒素ガスで純粋に溶融金属を吹き飛ばすため、切断面に酸化被膜ができない「無酸化切断」が可能です。光沢のある美しい切断面が得られ、後処理なしで溶接や塗装に移れるのが最大のメリットです。一方で、酸素に比べて高価であり、厚板の加工ではより高いガス圧が必要になるため、ランニングコストは増加する傾向にあります。
  • 💨 アルゴン (Ar)

    チタンやニッケル合金といった、特殊な金属の加工に用いられることがあります。窒素よりもさらに不活性度が高いため、非常に高品質な切断面が要求される場合に選択されますが、非常に高価なため、用途は限定的です。
  • 💨 エアー (圧縮空気)

    工場内のコンプレッサーで作った圧縮空気を利用します。主成分は窒素と酸素ですが、専用のガスを購入する必要がないため、コストを劇的に抑えることができます。薄板の切断や、切断面の品質をそれほど問わない場合に有効な選択肢です。ただし、水分や油分を含んでいると加工品質に悪影響を与えるため、ドライヤーやフィルターによる徹底したクリーン化が不可欠です。

このように、アシストガスは単にドロスを吹き飛ばすだけでなく、加工速度の向上や、切断面品質の決定に直接関わっています。求める品質とコストのバランスを考え、最適なガスを選択することが、レーザー加工のパフォーマンスを最大限に引き出す鍵となります。

 

板金レーザー加工の主要2種類!ファイバーレーザーとCO2レーザーの徹底比較

現在、板金加工の現場で活躍するレーザー加工機は、主に「ファイバーレーザー」と「CO2(炭酸ガス)レーザー」の2種類に大別されます 。この2つはレーザー光を発生させる仕組み(媒質)が異なり、それによって得意なこと、不得意なことが大きく変わってきます。それぞれの特徴を理解し、自社の加工内容に合った機械を選ぶことが重要です。
以下に、両者の特徴を比較した表を示します。

 

比較項目 ファイバーレーザー CO2レーザー
レーザー媒質

光ファイバー (固体)
参考)【板金加工業向け】レーザー加工のポイント

CO2ガス (気体) ​
波長 約1μm (短い) 約10μm (長い)
高反射材の加工 ◎ 得意 (銅、真鍮、アルミなど) ​

△ 苦手 (レーザー光が反射してしまう)
参考)レーザー加工機とは?板材加工で活躍する板金機械について解説-…

薄板の加工速度 🚀 非常に速い 〇 速い
厚板の切断面品質 〇 良好 ◎ 非常に綺麗
エネルギー変換効率 ◎ 高い (約30-40%) △ 低い (約10-15%)
ランニングコスト

💰 安い (電気代、メンテナンス頻度)
参考)レーザー加工 – 加工原理とCO2・YAG・ファイバーレーザ…

💸 高い (ガス交換、ミラー清掃)
参考)レーザー加工とは?レーザー板金のメリットとデメリットも解説

メンテナンス 〇 容易 (消耗品が少ない) △複雑 (光学部品の清掃・交換が定常的に必要)


🚀 ファイバーレーザーの特徴
ファイバーレーザーは、近年急速に普及している新しいタイプのレーザーです 。光ファイバーを媒質としており、CO2レーザーに比べて波長が約1/10と短いのが最大の特徴です。この短い波長により、これまでレーザー加工が苦手としてきた銅や真鍮、アルミニウムといった高反射材にもエネルギーが吸収されやすく、安定した加工が可能になりました 。

また、エネルギー変換効率が非常に高く、CO2レーザーの2〜3倍と言われています。これにより、消費電力を大幅に削減でき、ランニングコストの低減に大きく貢献します 。さらに、レーザー光は光ファイバーケーブルで伝送されるため、ミラーなどの光学部品が不要で、メンテナンスの手間が少ない点も大きなメリットです。特に薄板の切断速度は圧倒的で、生産性向上に直結します。

🛠️ CO2レーザーの特徴
CO2レーザーは、長年にわたって板金加工の主流であった信頼性の高いレーザーです 。CO2ガスを媒質とし、波長が長いため、特に厚板(軟鋼など)を切断した際の切断面が非常に滑らかで美しいという定評があります。ファイバーレーザーも技術向上により遜色なくなってきてはいますが、依然として厚板の品質を最優先する現場では根強い人気があります。

一方で、銅やアルミなどの高反射材はレーザー光を反射してしまい、うまく加工できない、あるいは加工機本体を損傷させるリスクがあるというデメリットがあります 。また、レーザー光をミラーで反射させて伝送する構造上、定期的なミラーの清掃や交換といったメンテナンスが不可欠で、ランニングコストもファイバーレーザーに比べて高くなる傾向があります 。

どちらの機械が優れているということではなく、加工する材料の種類、板厚、求める品質、生産量、そして予算といった様々な要因を総合的に判断して、最適な一台を選ぶことが肝心です。

 

板金レーザー加工のメリットと、実は見過ごされがちなデメリット

レーザー加工は、その高精度で自由度の高い加工能力から、現代の板金加工に不可欠な技術となっています。しかし、多くのメリットの影には、導入や運用において考慮すべきデメリットも存在します。双方を正しく理解することで、レーザー加工機をより効果的に活用することができます。

 

✨ レーザー加工の主なメリット

  • 高精度・高品質な仕上がり

    レーザー光は非常に細く絞れるため、複雑で微細な形状でも、0.1mm単位の高い精度で加工できます。また、非接触加工なので材料に物理的な圧力がかからず、歪みや変形が少ないのが特徴です 。切断面は滑らかで、バリやカエリの発生が少ないため、後処理の工数を大幅に削減できます 。
  • 金型不要で多品種少量生産に強い

    プレス加工のように製品ごとに金型を作る必要がありません。CADデータさえあればすぐに加工を開始できるため、試作品や一点ものの製作、多品種少量生産に絶大な威力を発揮します。設計変更にも柔軟かつ迅速に対応でき、開発リードタイムの短縮に貢献します。
  • 多様な材料の加工が可能

    鉄、ステンレス、アルミニウムといった一般的な金属はもちろん、機種によってはアクリルや木材、紙といった非金属材料の加工も可能です。1台で幅広いニーズに対応できる汎用性の高さも魅力の一つです。
  • 自動化との親和性

    NC(数値制御)によって自動運転が可能なため、省人化や夜間の無人稼働も実現しやすい加工方法です。材料の自動供給・搬出装置と組み合わせることで、24時間体制での生産も可能になります。

🤔 見過ごされがちなデメリット

  • 高額な初期投資とランニングコスト

    レーザー加工機は非常に高価な設備であり、導入には多額の初期投資が必要です。加えて、加工中は大量の電力を消費し、アシストガスの費用もかかります 。レンズやミラーといった消耗品の交換費用も考慮する必要があり、ランニングコストが決して安くない点は認識しておくべきです 。
  • 厚板や高反射材には不向きな場合がある

    レーザーの焦点深度には限界があり、一般的に30mmを超えるような極端な厚板の加工は困難です 。また、特に古いタイプのCO2レーザーでは、アルミや銅、真鍮などの光を反射しやすい材料は、熱が伝わらず加工が難しい、あるいは不可能でした 。最新のファイバーレーザーでは改善されていますが、それでも材料や板厚によっては制約が残ります。
  • 加工速度が他の工法より遅い場合がある

    複雑な形状を切り抜くのは得意ですが、単純な形状の大量生産においては、金型を使ったプレス加工(特に順送プレス)の方が圧倒的に加工スピードが速い場合があります 。特に、穴の数が多い製品などでは、タレットパンチプレスの方が効率的なケースもあります 。レーザー加工が常に最速というわけではないのです。
  • 熱による影響(変色・歪み)

    レーザーは熱加工であるため、材料に熱影響(Heat Affected Zone, HAZ)が及ぶことは避けられません。特にステンレスなどの薄板を加工する際には、入熱による変色や、微細な歪みが発生することがあります 。これを嫌う製品の場合は、加工条件の最適化や後処理が必要になります。

レーザー加工を導入・運用する際は、これらのメリット・デメリットを天秤にかけ、他の加工方法(タレパン、シャーリング、プレスなど)との使い分けを戦略的に行うことが、生産性向上の鍵となります。

 

こちらの参考リンクでは、レーザー切断の原理について図解付きで分かりやすく解説されています。

 

株式会社アマダ - 板金加工の基礎講座 第8回 レーザ加工 (Part1)

【独自視点】板金レーザー加工のコストと速度は改善できる?明日からできる対策

「レーザー加工は高品質だけど、コストが高いし時間もかかる…」これは多くの現場が抱える共通の悩みではないでしょうか。しかし、機械の性能任せにするのではなく、日々の運用を少し工夫するだけで、コストと速度は改善の余地が十分にあります。ここでは、高価な設備投資をせずとも明日から試せる具体的な対策を、独自視点も交えてご紹介します。

 

💰 コスト削減のための3つのアプローチ

  1. ネスティング(板取)の最適化を徹底する

    これは最も基本的かつ効果的なコスト削減策です。一枚の定尺材からいかに多くの部品を切り出すか、つまり材料の歩留まりをいかに向上させるかが鍵となります。


    • 共線カット(共有切断)の活用: 部品同士の直線部分を隣接させ、一本の切断線で同時に切り抜く手法です。切断距離が短くなるため、加工時間とアシストガスの消費量を直接的に削減できます。
    • ネスティングソフトの活用: 最新のネスティングソフトは、AIを活用して自動で最適な配置を計算してくれます。手動での配置には限界があるため、ソフトウェアの力を借りることで、歩留まりを数パーセント改善できるケースも少なくありません。
    • 端材の管理と有効活用: 加工後に残った 비교적 큰 端材は捨てずにデータベース化し、小物部品の加工に活用する仕組みを構築しましょう。材料費の節約に直結します。
  2. アシストガスの「常識」を疑う

    高品質な切断には窒素ガスが必須、と思い込んでいないでしょうか。


    • エアーカットへの挑戦: 薄板の軟鋼や、切断面の品質要求がそれほど厳しくないステンレス部品などでは、圧縮空気(エアー)での切断が有効な場合があります。窒ryoガスに比べてガス代を90%以上削減できる可能性もあり、インパクトは絶大です。まずはテストカットから試してみる価値はあります。
    • ガス圧の最適化: 必要以上のガス圧は、品質向上に寄与しないばかりか、ガスの無駄遣いになります。材料と板厚ごとに最適なガス圧を検証し、標準化することで、日々のコストを着実に削減できます。
  3. ピアシング(穴あけ)工程を見直す

    切断を開始する際の最初の穴あけ工程(ピアシング)は、意外と時間と材料への熱負荷を要します。


    • 高速ピアシング機能の活用: 最近の加工機には、出力を細かく制御して短時間で穴をあける機能が搭載されています。設定が面倒だからと使っていないのであれば、ぜひ活用しましょう。特に穴数の多い製品で効果を発揮します。
    • エッジスタートの活用: 可能な限り、材料の端(エッジ)から加工をスタートさせるようにプログラムを組みます。これにより、ピアシング工程そのものを省略でき、時間短縮と熱影響の低減につながります。

🚀 加工速度向上のための秘訣
加工速度は、基本的にレーザー出力と機械の性能に依存しますが、それだけではありません。

 

  • 加工パラメータの追い込み: メーカー推奨の標準条件で満足していませんか?同じ材料・板厚でも、求める品質に応じて、切断速度、レーザー出力、周波数、デューティ比といったパラメータを追い込むことで、速度を向上させる余地があります。特に、直線部分では速度を上げ、コーナー部分では品質を保つために速度を落とすなど、メリハリのある設定が有効です。
  • メンテナンスの徹底: 保護ガラスやノズルの汚れ、劣化は、加工品質の低下だけでなく、加工速度の低下にも直結します。汚れた保護ガラス越しのレーザーではパワーがロスし、最適な速度が出せません。日々の始業前点検と定期的な消耗品交換が、結果的に生産性を維持・向上させます。
  • 夜間自動運転の最大活用: レーザー加工機が最も利益を生むのは、稼働している時間です。夜間や休日に自動運転を行うことで、償却コストを早期に回収し、全体の生産性を飛躍的に高めることができます。そのためには、加工エラーで停止しない信頼性の高いプログラムと段取りが不可欠です。

これらの改善策は、一つ一つは小さなことかもしれません。しかし、日々の積み重ねが大きな差となり、工場の収益性を確実に向上させます。機械のポテンシャルを最大限に引き出すのは、現場の知恵と工夫に他なりません。

 

 


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