SUM32材質の特徴と快削鋼の正しい選び方

SUM32の材質・成分・被削性を徹底解説。快削鋼の中でも強度と切削性を両立するSUM32は、どんな場面で選ぶべき材料なのか、あなたは本当に理解して使っていますか?

SUM32の材質と快削鋼の基礎知識・正しい選び方

SUM32の「S」は硫黄(Sulfur)、「U」は鉄(Iron)の古い表記、「M」は被削性(Machinability)を意味し、鋼材の記号そのものに「切削しやすくするために作られた」という設計思想が刻まれています。加工現場でSUM材を何年も使っていても、この記号の意味まで知っている方は意外と少ないものです。


SUM32材質の3ポイント早わかり
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鉛なしで強度と被削性を両立

SUM32は鉛(Pb)を含まない硫黄快削鋼。炭素量0.12〜0.20%の中炭素系で、SUM22などの低炭素タイプより高い強度が求められる部品に使われます。

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JIS G 4804で規定された信頼の規格材

JIS G 4804「硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材」に定められた13鋼種のひとつ。1952年のJIS制定当初からSUM2として存在する、歴史的に実績のある材種です。

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溶接・耐食性・めっきには要注意

快削鋼全般に言えることですが、硫黄の多さが溶接割れやめっきムラの原因になります。SUM32を「切れればOK」と思って使い続けると、後工程でトラブルが起きやすくなります。


SUM32の材質・化学成分をJIS規格で正確に把握する

SUM32の化学成分は、JIS G 4804:2008によって厳格に規定されています。具体的な数値を把握しておくことが、材料選定ミスをぐ第一歩です。


主な成分は以下の通りです。


| 元素 | 規定範囲 |
|------|----------|
| C(炭素) | 0.12〜0.20% |
| Mn(マンガン) | 0.60〜1.10% |
| P(リン) | 0.040%以下 |
| S(硫黄) | 0.10〜0.20% |
| Pb(鉛) | 添加なし |


この表で最初に注目すべきは炭素(C)の量です。SUM22やSUM23などの低炭素快削鋼の炭素量が0.13%以下または0.09%以下であるのに対し、SUM32は0.12〜0.20%という中炭素域をカバーしています。つまり、SUM32はSUMファミリーの中でも「ある程度の強度が求められる部品」に向けて設計された鋼種です。


硫黄(S)の含有量は0.10〜0.20%と規定されています。一般的な炭素鋼SS400など)の硫黄含有量は0.05%以下が標準的なため、SUM32はその2〜4倍の硫黄を意図的に含ませています。この硫黄がMnS(硫化マンガン)として鋼中に介在物として分散し、切削時に「切りやすさ」を生む根本的な仕組みです。


リン(P)の上限が0.040%以下と厳しく抑えられているのも特徴です。SUM22やSUM23はリンを0.07〜0.12%程度添加してさらに切削性を高めていますが、SUM32はリンを積極添加しない設計になっています。この点が、SUM32を「強度重視の快削鋼」と位置づける根拠のひとつです。


MnS介在物は鋼中に紡錘状に分散し、切削時にその部分が破断の起点となることで切りくずが細かく分断されます。切りくずが細かいと工具刃先への巻き付きが減り、工具寿命が延び、仕上げ面の粗さも改善されます。これが快削鋼の被削性改善の核心メカニズムです。


SUM32にはSiの規定がないことも重要です。Si量については受渡当事者間の協定で0.10%以下、0.10〜0.20%、0.15〜0.35%などを決められる柔軟な設計になっています。SiはMnSの形態に影響するため、精密な加工面粗さが求められる案件ではSi量を確認したうえで調達することが現場での実践的な対応です。


参考:JIS G 4804:2008「硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材」の化学成分・規格全文(kikakurui.comより)


JIS G 4804:2008 硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材(kikakurui.com)


SUM32の被削性が高い理由——SUM22・SUM31との違いを比較する

SUM32は鉛(Pb)なしで高い被削性を確保できる理由が、MnSの形態と分散状態にあります。ここを理解しておくと、材種選定の判断精度が格段に上がります。


快削鋼(SUM材)全体の被削性は、硫黄などが添加されていないSS400を75〜80とした場合、SUM22が基準値100とされています。快削鋼全体としてSS材比で約1.25〜1.30倍の切削速度で加工できるというデータがあります。これは現場の感覚でいうと、1日8時間稼働の機械が快削鋼を使うことで実質1〜2時間分の生産余力が生まれる計算になります。


SUM32はSUMファミリーの中で、SUM22(低炭素・切削性重視)とSUM41/42/43(高炭素・強度重視)の中間に位置する鋼種です。隣接するSUM31との比較では、炭素量の範囲がほぼ同じ(SUM31は0.14〜0.20%)なのに対し、硫黄量がSUM31の0.08〜0.13%よりSUM32の0.10〜0.20%のほうが若干高く設定されています。つまりSUM32はSUM31より被削性をわずかに優先した設計です。


SUM32はSS400相当の強度を持ちます。SUM31がSS400と同等の強度を持つと言われることからも、SUM32は一般構造用鋼と同水準の強度を持ちながら切削性が上積みされた材料と位置づけられます。自動盤やNC旋盤での大量連続加工において、仕上げ面の安定性と工具寿命のバランスを取りたい場合に選ばれやすい理由がここにあります。


SUM22は切削性を最優先する部品向けです。強度よりとにかく量産スピードを優先するOA機器部品や電子機器の小型部品はSUM22、強度も一定以上必要な軸類や機構部品にはSUM32、さらに高い引張強さが求められる歯車素材にはSUM41/42/43という選び分けが実務上の目安になります。


参考:秋山精鋼が公開している快削鋼とSS材の被削性比較データ


快削鋼/SUM材とSS材の被削性・切削性の違い(秋山精鋼株式会社)


SUM32材質の用途と向いていない使い方——溶接・耐食性・めっきの落とし穴

SUM32を「削りやすいから汎用に使えるだろう」と思って溶接・防用途に流用すると、現場で思わぬトラブルを招きます。これが現場で最も多い判断ミスのひとつです。


**溶接への不適性**は快削鋼全般の最大の弱点です。SUM32の硫黄含有量(0.10〜0.20%)は、一般的な溶接用鋼材に比べて約10倍の硫黄を含んでいます。硫黄は溶接の凝固時に結晶粒界偏析し、粒界の強度を著しく低下させます。実際に快削鋼の溶接継手が同形状の一般鋼の継手と比べて強度が半分以下になる例が報告されており、溶接の信頼性が求められる構造部品にはSUM32を使うべきではありません。


**耐食性の低さ**にも注意が必要です。MnS介在物は鋼の腐食を促進する起点になりやすく、湿潤環境や酸性雰囲気では一般炭素鋼よりも早期に錆が発生します。屋外環境や水回りに使用する部品には適していません。


**めっき時のトラブル**も見落とされがちなポイントです。硫黄快削鋼に無電解ニッケルめっきを施すと、MnS介在物がめっきの前処理反応を不均一にし、めっきムラや密着不良が発生しやすくなります。これは材料の問題です。めっきが前工程の場合は事前にめっき業者へ材質を明示し、前処理液の選定や液濃度・温度の最適化を依頼することが欠かせません。素材を黙って持ち込むだけだと不良ロスが出て、再加工コストがかさみます。


逆にSUM32が真価を発揮するのは、「一定以上の強度が必要な小〜中型の機械加工部品で、溶接や後工程のめっきが不要な用途」です。具体的には、軸類、ピン類、ボルト・ナット素材、カム類、精密小型機構部品などがあてはまります。焼ならしして使うことで強度をさらに安定させられる点も、強度要件のある部品での採用理由のひとつです。


SUM32と鉛規制——RoHS・ELV指令と鉛フリー材の選び方

「SUM32には鉛が入っていないから規制の心配はない」と思っている方は多いですが、実際はSUM材の選定において規制リスクを幅広く確認する必要があります。


SUM32自体は鉛(Pb)を含まない鋼種です。これはJIS G 4804のSUM32規格表に「Pb:−(添加なし)」と明記されており、EU RoHS指令やELV指令の対象となる鉛含有鋼(例:SUM22L、SUM23L、SUM24L、SUM31L)とは区別されます。この点はSUM32を選定する上での大きなメリットのひとつです。


ただし注意が必要です。SUM32と組み合わせて使われることのある「SUM32L」という表現は、「SUM32に鉛を添加した鉛快削鋼」を指すことがあります。図面や発注書に「SUM32L」と記載された材料がRoHS対象であることを知らずに調達・使用し、完成品が輸出規制に抵触するリスクがあります。材料の「L」付きと「L」なしは名前が1文字違いでも、鉛含有量が0.10〜0.35%という大きな差があります。発注書の記号確認は必ず行いましょう。


現在、国内の主要自動車メーカーや電機メーカーを中心に、RoHS指令の適用除外扱いであっても「自社基準として鉛快削鋼の使用を禁止する」流れが広まっています。新日鐵住金(現日本製鉄)が開発した非鉛快削鋼「スミグリーンS/T鋼」や「EZ鋼」のような代替材が2010年代以降に実用化されており、クランクシャフトなど自動車部品にも採用実績があります。サプライチェーン上流にいる加工業者であっても、取引先の調達規定に「鉛快削鋼禁止」が含まれていないか確認することが、将来的なリスク管理として重要です。


鉛フリーで高い被削性が必要な場合の現実的な選択肢は、SUM32(本来鉛なし)をそのまま使うか、MnS形態制御型の非鉛快削鋼を選ぶかのいずれかになります。SUM32はもともと鉛なしで被削性を確保している鋼種なので、環境対応の観点から見ても合理的な選択肢です。


参考:日本製鉄(旧新日鐵住金)による非鉛快削鋼の開発と被削性メカニズム解説論文


非鉛快削鋼の開発と切削技術(日本製鉄技術報告 第406号)


SUM32を使った自動盤・NC旋盤加工での実践的なコスト削減の視点

SUM32をはじめとする快削鋼の「本当のコストメリット」は、材料費だけでなく加工工程全体の効率に現れます。ここを知っているかどうかで、同じ部品の製造コストに大きな差が生まれます。


快削鋼の被削性指数(SUM22を100とした場合)をもとにすると、SS400は75〜80程度です。これは言い換えると、SS400で切削速度100m/minで加工している条件に対し、快削鋼なら125〜130m/minで加工できる計算になります。加工時間は速度に反比例するため、切削速度を25%上げれば同じ刃物寿命内に加工できる本数が約25%増えます。たとえば1シフト8時間で100個加工している工程が、快削鋼に切り替えるだけで125個加工できる計算です。


工具寿命の延長も大きなメリットです。切りくずが細かく分断されることで工具刃先への切りくず噛み込みが減り、刃具交換頻度が下がります。24時間の無人運転を組んでいる工場では、1回の工具交換タイミングがずれるだけでロスや不良につながります。SUM32のような快削鋼は「無人加工の安定性」を支える材料でもあります。


SUM32の仕上げ面粗さについても確認しておきたい点があります。硫黄量が0.10〜0.20%と中程度のSUM32は、硫黄量が0.26〜0.35%あるSUM23/24Lに比べると仕上げ面粗さの改善効果はやや控えめです。高精度な外径仕上げや鏡面に近い加工面が求められる場合、SUM32より高硫黄・鉛添加型のSUM23L/24Lの方が加工面粗さが安定しやすいことがあります。一方で、SUM32の硫黄量はSUM31(0.08〜0.13%)より高いため、切りくず処理性と強度のバランスが必要な機構部品にはSUM32が適しています。これが条件です。


材料選定の段階でSUM32の特性を正確に理解し、用途に合った切削条件(回転速度・送り・切り込み量・切削液の種類)を設定することが、工具コストと加工不良率の両方を抑える実践的な方法です。工具メーカーのカタログには快削鋼向けの推奨切削条件が掲載されているため、初めてSUM32を加工する場合はそちらを参照し、条件を試しながら詰めていくのが現場での正しいアプローチです。


参考:鉄系材料の特徴と加工ポイント(快削鋼SUM材の無人加工適性について)


鉄系材料の切削加工|SS400・S45C・快削鋼などの特徴と加工ポイント(株式会社小野工機)


十分な情報が集まりました。記事を作成します。