SCS13材質 鋳物の耐食性と耐熱性

SCS13はSUS304相当のオーステナイト系ステンレス鋳鋼品で、バルブやポンプ、化学設備などの複雑形状部品に最適な材質です。高温環境での強度維持と優れた耐食性で、金属加工従事者が知るべき基礎特性とは?

SCS13 鋳物の特性と材質

SCS13の基本特性と成分構成
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オーステナイト系ステンレス鋳鋼の代表材質

SCS13はSUS304相当のステンレス鋳鋼品で、最も一般的な18-8ステンレスの鋳造製品です。オーステナイト系構造を持ち、複雑な形状を持つ部品の製造に最適な材質として、金属加工業界で広く採用されています。

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化学成分の詳細と比重

SCS13の成分構成では、炭素は0.08以下、シリコンは2.00以下、マンガンは2.00以下に制限されます。ニッケルは8.00~11.00%、クロムは18.00~21.00%含まれており、これらの元素配合により流動性と耐食性のバランスが実現されています。比重はオーステナイト系ステンレスとして7.98前後が標準値です。

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SCS13と鋳造プロセスの関係性

SUS304と異なり、SCS13は溶かして鋳型に流し込む鋳造工程を経ます。この工程では材料の流動性が重視されるため、成分調整が行われています。特にシリコン含有量がSUS304(1.00以下)よりも高く設定されるのは、鋳造時の流動性向上が目的です。

SCS13 材質の化学成分と物理特性

 

SCS13の成分構成は、鋳造適性を考慮して調整されており、SUS304との明確な違いが存在します。シリコン含有量を高めることで、溶融した状態での流動性を向上させ、複雑な形状を持つ鋳型への充填性を改善しています。クロムは18~21%、ニッケルは8~11%の範囲で管理され、耐食性と非磁性特性のバランスを実現しています。

 

金属加工従事者は、このような成分調整が単なる材料の性質の違いではなく、鋳造工程そのものの要件から生じたものであることを理解する必要があります。SCS13を加工する際には、この流動性重視の成分配合が、後の加工時に硬度や加工応力に影響することを念頭に置くべきです。比重が7.98前後であることは、設計段階での重量計算や応力分析において重要な指標となります。

 

SCS13 材質の耐食性と使用環境

SCS13の耐食性は、その化学成分から導き出される重要な特性です。硝酸、リン酸、有機酸に対しては優れた耐食性を示し、これが食品設備や化学プラント設備での採用理由となっています。一方で、硫酸に対する抵抗性は相対的に低い点に注意が必要です。そのため、硫酸を使用する環境ではSCS14などのより耐硫酸性に優れた鋳鋼品への変更を検討すべきです。

 

金属加工従事者が見落としやすい点として、加工硬化による磁性変化が挙げられます。SCS13はオーステナイト系のため基本的に非磁性ですが、冷間加工や曲げ、打撃といった塑性変形を受けると、加工硬化により若干の磁性を帯びることがあります。これは製品検査や磁性が制限される用途では重要な品質管理ポイントとなります。環境中の塩分や化学薬品の影響を受けにくい特性により、海洋産業や過酷な腐食環境での部品としても広く採用されています。

 

SCS13 材質の機械的強度と熱処理

SCS13の機械的性質は、適切な熱処理によって大きく左右されます。固溶化熱処理は1030~1150℃での加熱と急冷により実施され、耐力は185 N/mm²以上、引張強さは440 N/mm²以上、伸びは30%以上が保証されます。これらの値はSUS304とほぼ同等ですが、鋳造品特有の内部組織により、応力集中や疲労特性では若干の違いが見られることがあります。

 

金属加工従事者にとって実務的に重要な情報として、SCS13の加工硬度が挙げられます。引張強度440 N/mm²以上という仕様は、一般的なステンレス加工の難度を示す指標となります。特に削り出し加工やタップ加工を行う際には、工具の選定や加工条件の最適化が製品品質に直結します。熱処理温度の管理は製品の最終的な機械特性を決定するため、熱処理業者との緊密な連携が不可欠です。シャルピー吸収エネルギーが測定されないのは、鋳造品が主に静荷重環境での使用を想定されているためです。

 

SCS13 材質の加工適性と産業用途

SCS13は圧延や鍛造では作製しにくい複雑な形状の部材に適した鋳造材です。バルブ、ポンプ、インペラーなどの複雑な幾何学的形状を持つ部品は、鋳造によってのみ経済的に製造可能です。鋳造プロセスにおいて初期投資は大きいものの、一度鋳型を完成させれば、形状による加工工数の増加が最小限に抑えられるメリットがあります。

 

金属加工従事者の実務では、鋳造品の表面品質がその後の加工工数に大きく影響することを認識すべきです。鋳造面に存在する砂粒噛みこみや気泡といった欠陥は、加工中のツールブレイクや加工面の仕上げ不良の原因となります。食品設備や化学製造設備での使用が多いため、バフ仕上げが施される場面が多く、その後の精密加工には特別な注意が必要です。一般産業機械の部品から原子力用部品まで広範な用途で採用されており、各用途における信頼性要件の違いを理解して加工精度を設定することが重要です。

 

SCS13 材質の独自視点と加工現場での実践知識

多くの技術資料では、SCS13とSUS304の成分差がもたらす耐食性や加工性の違いに焦点が当たります。しかし、金属加工現場でしばしば経験される課題として、鋳造ロット毎の微妙な硬度変動があります。これは鋳造冷却速度の違いに起因するもので、同じSCS13規格でも加工負荷が変わることがあります。鋳造業者からの納入品について、加工前の簡易硬度測定(ロックウェル硬度試験)を実施する習慣は、トラブル防止に有効です。

 

また、SCS13を加工する際の意外な実践知識として、切削油の選定が通常のステンレス加工用とは異なる場合があります。鋳造品特有の微細気孔が存在するため、切削油の粘度が高すぎると微細気孔に油が残留し、後の熱処理時に酸化や変色の原因となることがあります。切削油は流動性と洗浄性を重視した製品を選択し、加工後の脱脂プロセスを確実に実施することが、最終製品の品質確保につながります。SCS13製造業者によって、成分の微調整が行われていることも念頭に置き、特に海外メーカー製のSCS13では成分範囲内でも機械特性に差異が見られることがあるため、重要な加工案件では事前の加工試験を推奨します。

 

参考リンク:SCS13の比重・成分・機械的強度の詳細なJIS規格データと熱処理温度範囲
参考リンク:SUS304とSCS13の比較ガイド - 両材質の特性差と用途別選択方法

 

 


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