PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、スーパーエンジニアリングプラスチックの中でも特に高い耐熱性を誇る材料です 。その性能を示す重要な指標が「連続使用温度」と「荷重たわみ温度」です 。
連続使用温度とは、材料が長時間その特性を維持できる上限温度のことです 。PEEKの連続使用温度は、グレードによって多少異なりますが、一般的に**約250℃から260℃**とされています 。これは、汎用プラスチックが100℃未満で変形し始めるのと比較すると、驚異的な数値です 。短時間であれば300℃以上の高温にも耐えることができます 。このため、高温環境下で使用される部品や、オートクレーブ滅菌(高温高圧蒸気による滅菌)が必要な医療機器などに採用されています 。
参考)PEEKとは?ポリエーテルエーテルケトン樹脂の特徴 - 株式…
もう一つの重要な指標が「荷重たわみ温度(HDT)」です。これは、一定の荷重をかけた状態で材料が変形し始める温度を示します 。PEEKの荷重たわみ温度は、未充填グレードで約152℃~160℃です 。ガラス繊維や炭素繊維で強化されたグレードでは、この温度はさらに向上し、300℃近くに達するものもあります 。
参考)PEEKの耐熱性能を徹底検証: 連続使用温度・荷重たわみ温度…
これらの優れた耐熱性により、PEEKは以下のような過酷な環境で活躍しています。
PEEKの耐熱性についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの資料も参考になります。
三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社のPEEK技術資料
PEEKの耐熱性を理解する上で、「融点(Tm)」と「ガラス転移点(Tg)」は欠かせない要素です 。これらはPEEKがどのような温度で物理的な状態を変化させるかを示す指標であり、設計や加工において非常に重要です。
融点とは、固体が液体に変化する温度のことです。PEEKの融点は**約334℃~343℃**と非常に高く、熱可塑性樹脂の中で最高クラスに位置します 。この高い融点があるからこそ、260℃という高い連続使用温度が実現できるのです 。ただし、融点を超えると結晶構造が崩壊し、機械的特性は完全に失われてしまうため、使用温度は融点よりも十分に低く設定する必要があります 。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/uncategorized/35718/
一方、ガラス転移点とは、材料が硬い「ガラス状態」から柔らかい「ゴム状態」へと変化する温度を指します 。PEEKのガラス転移点は**約143℃~150℃**です 。この温度を超えると、PEEKはすぐに溶けてしまうわけではありませんが、分子の動きが活発になり、剛性や強度が徐々に低下し始めます 。そのため、高い寸法精度や剛性が求められる用途では、ガラス転移点以下の温度で使用することが推奨されます 。
参考)プラスチック(樹脂)のガラス転移点
まとめると、PEEKの熱的特性は以下のようになります。
これらの温度特性を正しく理解し、用途に応じた適切なグレード選定と設計を行うことが、PEEKの性能を最大限に引き出す鍵となります。特に、荷重がかかる環境では、荷重たわみ温度が重要な判断基準となります 。
PEEKはその優れた耐熱性ゆえに、切削加工時にいくつかの注意が必要です 。特に重要なのが「熱管理」です。PEEKは熱伝導率が低く、加工中に発生した熱が逃げにくいため、工具や材料に熱がこもりやすい性質があります 。
加工熱が過剰になると、以下のような問題が発生する可能性があります。
これらの問題を避けるためには、適切な切削条件の設定と冷却が不可欠です 。具体的には、切削速度や送り速度、切り込み量を調整し、加工熱の発生を抑制することが重要です。また、クーラント(切削油)を効果的に使用して、工具と材料を適切に冷却することも求められます 。
さらに、精度の高い加工を行うためには、アニール処理(熱処理)が有効な場合があります 。アニール処理とは、加工前に材料をガラス転移点以上の温度で一定時間加熱し、その後ゆっくりと冷却することで、材料内部の残留応力を取り除く処理です 。これにより、加工後の寸法安定性が向上し、反りやねじれの少ない高品質な製品を得ることができます。特に、薄肉品や複雑形状の部品を加工する際には、アニール処理の有無が品質を大きく左右します 。
参考)PEEKの切削加工
PEEKの切削加工に関するより詳細な技術情報については、以下の専門サイトが参考になります。
UMG ABS,LTD.の樹脂加工における熱対策に関する技術情報
PEEKはスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)の代表格ですが、他にも優れた耐熱性を持つ材料は存在します 。ここでは、代表的なスーパーエンプラとPEEKの耐熱性を比較してみましょう 。
| 樹脂名 | 連続使用温度(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| PEEK |
約250℃ |
耐熱性、機械的強度、耐薬品性、耐摩耗性のバランスに優れる 。 |
| PPS | 約220℃ | PEEKより耐熱性は劣るが、コストパフォーマンスに優れる 。 |
| PTFE | 約260℃ | PEEKと同等の耐熱性。優れた非粘着性と低摩擦係数が特徴 。 |
| PAI | 約250℃~280℃ | PEEKを上回る耐熱性と機械的強度を持つ場合があるが、高価 。 |
| PI | 約250℃~300℃以上 | 最も高いレベルの耐熱性を誇るが、非常に高価で加工も難しい 。 |
この表からわかるように、PEEKは耐熱性だけでなく、機械的強度や耐薬品性など、総合的な性能のバランスが非常に良い材料です 。PTFE(テフロン)はPEEKと同等の連続使用温度を持ちますが、機械的強度はPEEKに劣ります 。一方、PAIやPIはPEEKを上回る耐熱性を持つことがありますが、コストが非常に高く、用途が限定される傾向にあります 。
PPSは、PEEKには及ばないものの220℃という高い連続使用温度を持ち、比較的安価であるため、コストを重視する場合の選択肢となります 。
結論として、PEEKは260℃までの高温環境で、高い機械的強度や耐薬品性も同時に求められるような、最も過酷な条件下での使用に適した材料と言えるでしょう 。それぞれの材料の特性を理解し、要求される性能やコストに応じて最適な材料を選定することが重要です。
PEEKは優れた耐薬品性を持ち、多くの酸、アルカリ、有機溶剤に対して高い耐性を示します 。この特性により、化学プラントの部品や医療機器など、腐食性の高い環境でも安心して使用されています 。しかし、「無敵」というわけではなく、特定の条件下や特定の薬品に対しては注意が必要です 。
PEEKの耐薬品性における最大の弱点は、濃硫酸です 。高濃度の硫酸に接触すると、PEEKの分子構造が攻撃され、劣化を引き起こす可能性があります 。これは、濃硫酸が持つ強力な酸化作用によるものです。そのため、濃硫酸に常時接触するような環境での使用は避けるべきです。
参考)「PEEKの化学適合性:化学耐性と安全性に関するガイド」 -…
また、濃硫酸ほどではありませんが、以下のような薬品にも注意が必要です。
PEEKは非常に優れた材料ですが、その性能を過信せず、使用環境に存在する化学物質との相性を事前に確認することが極めて重要です。特に、高温、高圧、高濃度といった複合的な厳しい条件下では、予期せぬ劣化が進行する可能性も否定できません。
設計段階で、使用する薬品の種類や濃度、温度、接触時間などの条件を詳細に検討し、必要であれば実際にサンプルを用いた暴露試験を行うことが、トラブルを未然に防ぐための最も確実な方法です。PEEKの耐薬品性に関するデータは多くのメーカーから提供されていますので、それらの資料を参考にすることも有効です。
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