IT公差等級とははめあい設計で使う精度の国際基準

IT公差等級(IT基本公差)とは何か、20段階の等級の意味・使い分け・加工方法との関係を金属加工従事者向けに解説。等級を1段階間違えると加工コストが最大2倍になるリスクも詳しく紹介します。

IT公差等級とははめあい設計に直結する精度の国際基準

IT等級を1段階厳しくするだけで、加工コストが最大2倍になります。


📐 この記事でわかること
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IT公差等級とは?

ISO(国際標準化機構)が定める公差の等級体系。IT01〜IT18の20段階で、数字が小さいほど厳しい精度を意味します。

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等級と加工コストの関係

IT等級が1段階上がるごとに加工コストは1.5〜2倍に跳ね上がります。正しい等級選定がコスト削減の鍵です。

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実務での使い分け

ベアリング取付部はIT6〜IT7、一般はめあいはIT7〜IT8が標準。用途ごとの選定基準を具体例とともに解説します。


IT公差等級の意味と「IT」という名前の由来

IT公差等級の「IT」とは、International Tolerance(国際公差)の略語です。これはISOが規定した世界共通の公差等級体系であり、JIS B0401-1(ISO 286-1)として日本でも採用されています。つまり、日本国内の図面だけでなく、海外の製造業者とやり取りする際にも同じ記号・数値で精度を伝えられる、共通言語のような存在です。


IT公差等級は全部で20段階に分かれており、IT01・IT0・IT1〜IT18の順に並んでいます。数字が小さいほど許容される誤差の幅(公差)が小さく、より厳しい精度を要求します。一方、数字が大きくなるほど公差の幅が広く、加工のしやすさが増します。これが基本です。


「精度が高い=数字が小さい」という感覚さえ身につけば、あとの理解は早くなります。


一般的に実務で使われる等級の範囲は以下のとおりです。


| 等級の範囲 | 主な用途 |
|---|---|
| IT01〜IT4 | ゲージ・測定工具類(超精密領域) |
| IT5〜IT10 | 通常のはめあい部品(軸・穴・ベアリング取付部など) |
| IT11〜IT18 | はめ合わせを必要としない部位、鋳造品・プレス品など |


20段階のうち、現場で日常的に使うのはIT5〜IT10の範囲です。それ以外は特殊用途といえます。


なぜ寸法(大きさ)によって同じ等級でも公差値が変わるのかというと、大きな部品を小さな部品と同じ絶対誤差で加工することは技術的に難しいからです。たとえばφ10mmとφ100mmで同じ±0.01mmを要求するのは、後者にとっては相当高い精度要求になります。IT公差等級は「寸法に応じた合理的な精度水準」を一つの体系として定めています。


参考リンク(IT公差等級の基礎・JIS規格の考え方について詳しく解説しています)。
公差等級(IT)の基礎解説 – EFP Planning


IT公差等級の数値と加工方法の対応関係

IT公差等級を理解するうえで、「どの等級がどの加工方法で達成できるか」を知っておくことは非常に重要です。これを知らないまま設計すると、現場で「この公差は加工できない」「こんな精度は不要だった」というトラブルが起きます。


加工方法と達成可能な等級の目安は以下のとおりです。


| 加工方法 | 達成可能なIT等級の目安 |
|---|---|
| 粗旋削・粗フライス | IT13〜IT11 |
| 仕上げ旋削・仕上げフライス | IT8〜IT7 |
| リーマ加工 | IT7〜IT6 |
| 精密ボーリング | IT7〜IT6 |
| 研削加工(円筒研削平面研削) | IT6〜IT5 |
| ラッピング・ホーニング | IT5〜IT4以下 |


旋盤での仕上げ加工ではIT8〜IT7が標準です。それより高精度のIT6以下を狙う場合は研削加工が必要になり、工程数が増えて加工コストが跳ね上がります。


IT等級が1段階上がるごとにコストは約1.5〜2倍になると言われています。これは使えそうな知識ですね。IT7からIT6に変更しただけで、コストが2倍近くになるケースもあるわけです。特に量産部品の場合、全体のコストへの影響は相当大きくなります。


設計者が「念のため精度を高く」と安易にIT等級を上げると、製造現場では研削工程の追加が必要になり、工期・コスト両面で現場に負担をかけてしまいます。必要十分な等級を見極めることが、設計者にとっての重要なスキルです。


精度と加工コストのバランスについては、ミスミのはめあい技術情報でも詳しく解説されています。


参考リンク(加工方法ごとの精度等級と実務での選定ポイントが解説されています)。
旋削・研削などの加工方法と達成可能な精度等級 – Allescncmachine


IT公差等級の選び方:はめあい設計での実務基準

実際の設計現場でIT等級をどう選べばよいか、迷うことは少なくありません。ここでは代表的な用途ごとに標準的な選定基準を整理します。


まず基本的な考え方として、「機能上必要な最小限の精度等級を選ぶ」ことが原則です。それ以上の精度は加工コストを上げるだけで、品質の向上にはつながりません。


実務でよく使われる代表的な組み合わせを以下に示します。


| 用途 | 穴側の等級 | 軸側の等級 | はめあいタイプ |
|---|---|---|---|
| ベアリング取付部(軸) | H7 | k6(IT6) | 中間ばめ |
| ベアリング取付部(ハウジング) | H7(IT7) | — | 穴基準 |
| 滑り軸受(回転・摺動) | H8 | f7 | すきまばめ |
| 位置決めピン | H7 | h6 | 中間ばめ |
| 単純な組立・非はめあい部位 | H11 | h11 | すきまばめ(粗め) |


一般的な産業機械のベアリング取付部では、軸にIT6・ハウジング穴にIT7を使うのが標準です。工作機械の主軸など特に高精度が要求される部位ではIT5が採用されることもあります。


「穴基準方式(H基準)」が現場でよく使われる理由も押さえておきましょう。穴加工は旋盤や研削盤で精度を出すのが比較的難しいのに対し、軸は旋削や研削で寸法調整しやすいからです。穴側を固定(H)して軸側の公差域クラスを変えることで、様々なはめあいを実現する穴基準方式は、実務的にも効率的な方法です。


穴基準方式が原則です。例外なく使うわけではないですが、理由なく軸基準方式を選ぶと加工コストが増える場合があります。


参考リンク(ベアリング取付部のはめあい公差選定について実務的な基準が詳しく載っています)。
ベアリング取付部のはめあい公差設計完全解説 – mechanical-engineer48


IT公差等級と公差域クラス(アルファベット)の関係

IT公差等級だけでは「公差の幅」しかわかりません。実際の図面で使われる公差記号(例:H7、k6)を正しく読み解くには、アルファベットの意味も理解する必要があります。


公差域クラスの記号は「アルファベット+数字」で構成されます。


- アルファベット:基準寸法(ノミナル寸法)に対する公差域の「位置」を示す
- 数字(IT等級番号):公差域の「幅」を示す


アルファベットは大文字が穴(内径)、小文字が軸(外径)に対応します。大文字H・小文字hは基準寸法に対して公差域が片側に寄ったゼロ線上の基準となり、最もよく使われる記号です。


位置(アルファベット)と幅(IT等級)の組み合わせが公差域クラスということですね。


たとえば「φ50H7」の場合、「H」は基準寸法ゼロ線上に公差が存在することを示し、「7」はIT7の公差幅を適用することを意味します。φ50mm・H7の場合の許容差は上偏差+0.025mm・下偏差0mmとなり、実際の穴径は50.000〜50.025mmの範囲に収まれば合格です。


これに対して軸側「φ50h6」は上偏差0mm・下偏差−0.016mmとなり、軸径は49.984〜50.000mmの範囲になります。この組み合わせ(H7/h6)が中間ばめの代表的な組み合わせです。


アルファベットがHやhから離れるほど公差域の位置がずれ、すきまばめやしまりばめになります。例えばf・e・dはすきまが大きくなる方向に公差域が移動し、k・m・p・sはしめしろが大きくなる方向に移動します。


この公差域クラスの読み方は、JIS B0401-1の規格に基づいており、国際的にも共通の読み方です。


参考リンク(公差域クラスの記号の読み方と図面記入テクニックが実例つきで解説されています)。
公差域クラスの記号の意味と記入テクニック – 大塚商会


【現場目線】IT公差等級の「落とし穴」と正しい活用のコツ

IT公差等級についての知識は基本として身につけた後、実務でよく起きるミスや、現場だからこそわかる注意点を押さえておく必要があります。


よくあるミス①:「念のため厳しい等級」を設定してしまう


設計者がリスク回避のために必要以上に厳しい等級を設定することがあります。IT7で十分な箇所にIT5を指定してしまうと、加工現場では研削工程の追加が必要になり、コストは2倍以上になることも珍しくありません。コスト的には痛いですね。「どうせ精度を上げるほど良いだろう」という考えは実務では通用しません。


よくあるミス②:等級は合っているが「基準寸法の区分」を確認していない


IT公差等級の数値(公差の幅)は、基準寸法の区分によって変わります。同じIT7でも、φ10mmのときは公差15µm、φ50mmのときは25µm、φ100mmのときは35µmと、寸法が大きくなるほど許容される誤差の幅も大きくなります。「IT7と書いたから大丈夫」と思っていても、実際の許容差を確認しないまま進めるとトラブルにつながります。必ずIT公差等級表で基準寸法に対応した数値を確認することが条件です。


よくあるミス③:穴と軸で等級番号がバラバラ


穴をH7にしたのに軸をh8にするなど、等級番号が1〜2段階ずれた組み合わせを指定してしまうケースがあります。原則として、穴と軸の等級差は1段階以内(例:H7/h6、H8/h7)が標準で、大きくずれるとはめあいの設計意図が成立しなくなります。


意外と知られていない独自の視点:「同じIT7でも加工方法が違えば品質は変わる」


公差の幅がIT7の範囲内であれば合格であることは確かです。ただし、同じIT7の部品でも旋削仕上げで作られたものと研削仕上げで作られたものでは、表面粗さや真円度に差が出ます。はめあい精度は公差だけで決まるものではなく、表面粗さや幾何公差(真円度・円筒度など)とセットで管理することが、実際の機能品質を保証することになります。IT等級だけ見ていては不十分なケースがある、ということです。


特に高速回転するベアリング取付部では、IT等級だけでなく真円度・円筒度の幾何公差も同時に指定することが推奨されます。例えばJTEKTの技術資料では、5級・4級のベアリングに対し軸やハウジングの真円度をIT2〜IT3レベルで管理するよう推奨しています。


参考リンク(ベアリング周辺部品の幾何公差(真円度・円筒度)とIT等級の対応について詳しく解説されています)。
ベアリングの選び方(軸・ハウジングのはめあい面) – JTEKT KOYO