ABS樹脂とプラスチックの違いと特徴、加工方法のコツ

ABS樹脂は多くの製品で使われる身近なプラスチックですが、他のプラスチックと何が違うのでしょうか?その特徴や優れた加工性、そして意外と知られていない弱点やリサイクルの現状まで、金属加工のプロも納得する詳細な情報をお届けします。あなたの知らないABS樹脂の世界を覗いてみませんか?

ABS樹脂とプラスチックの特性と加工の全貌

ABS樹脂とプラスチック:知っておきたい基本
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3つの成分の融合

アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの特性を併せ持つバランスの取れたプラスチックです。

💪
優れた加工性と強度

射出成形や切削加工が容易で、衝撃にも強いことから幅広い製品に利用されています。

🌍
環境への配慮

リサイクル技術も進化しており、持続可能な社会への貢献が期待される素材です。

ABS樹脂の基本的な特徴と他のプラスチックとの違い

 

ABS樹脂は、私たちの身の回りの多くの製品に使用されている、非常に一般的なプラスチックの一種です。 正式名称を「アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン」といい、その名の通り、A(アクリロニトリル)、B(ブタジエン)、S(スチレン)という3つの成分を組み合わせて作られています。 この3つの成分が、それぞれ異なる優れた特性を持っているため、ABS樹脂は「バランスの取れたプラスチック」と評価されています。
それぞれの成分が持つ主な特徴は以下の通りです。

 

  • A (アクリロニトリル): 耐熱性、機械的強度、耐油性に優れています。
  • B (ブタジエン): ゴムのような性質を持ち、高い耐衝撃性を与えます。
  • S (スチレン): 光沢のある美しい表面、優れた加工性、そして安定性をもたらします。

これらの特性を併せ持つABS樹脂は、一般的なプラスチックと比較して、特に衝撃に対する強度が2〜5倍高いという大きなメリットがあります。 そのため、おもちゃや家電製品の外装など、衝撃を受けやすい製品に広く採用されています。
一方で、ポリカーボネート(PC)のようなエンジニアリングプラスチックと比較すると、耐衝撃性や耐熱性では一歩譲ります。 例えば、ABS樹脂の耐熱温度が70〜100℃程度であるのに対し、ポリカーボネートは120〜130℃と、より高温の環境でも使用できます。 また、ポリカーボネートが非常に高い透明性を持つのに対し、ABS樹脂は基本的に不透明であるという違いもあります。

このように、ABS樹脂は他のプラスチック材料と比較して、特定の性能が突出しているわけではありませんが、強度、美観、加工性のバランスが非常に良く、コストも比較的安価であるため、幅広い用途で活躍する非常に汎用性の高い素材と言えるでしょう。

 

参考)樹脂とプラスチックはどう違う? 種類ごとの特徴を知って使い分…

より詳細な樹脂・プラスチックの種類や特徴については、以下のサイトで網羅的に解説されています。

 

【最新版】樹脂/プラスチック 特徴・種類・材質・用途まとめ

ABS樹脂の多様な用途と驚きの採用事例

ABS樹脂の優れたバランスと加工性の良さは、私たちの生活の隅々にまで浸透しています。 具体的には、以下のような幅広い分野でその姿を見ることができます。
家電製品:
テレビやPCの筐体、掃除機、洗濯機、冷蔵庫の部品など、多くの家電製品の外装や内部パーツに採用されています。 美しい光沢と着色性の良さが、デザイン性の高い製品づくりに貢献しています。

 

参考)ABS樹脂 ナチュラル色 特徴/用途 – 樹脂、…

自動車部品:
内装部品であるダッシュボードやコンソールボックス、ドアトリムなどに加え、外装部品のラジエーターグリルなどにも使用されています。 衝撃に強く、かつ軽量であるため、自動車の安全性と燃費向上に貢献する素材として重宝されています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2227-9717/9/4/637/pdf

雑貨・文房具:
スーツケース、おもちゃ、ヘルメット、ボールペンやシャープペンシルの軸など、日常的に手にする多くの製品に使われています。 複雑な形状のデザインも実現しやすく、私たちの生活を彩る製品づくりに欠かせません。

 

参考)ABS樹脂(じゅし)は丈夫(じょうぶ)なプラスチック!どんな…

3Dプリンターの材料:
近年では、3Dプリンター用のフィラメントとしても人気が高まっています。 個人から企業まで、試作品やオリジナルパーツの製作にABS樹脂が活用されており、ものづくりの可能性を広げています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2073-4360/15/21/4197/pdf?version=1698120529

意外な採用事例:金属の代替品としての可能性

ABS樹脂は、その特性から金属の代替としても注目されています。 特に、めっき処理を施すことで金属光沢を持たせることが可能であり、自動車のエンブレムやドアハンドル、水回りの蛇口の部品など、従来は金属が使われていた部分にも採用が広がっています。 これにより、製品の軽量化やコストダウン、錆びないといったメリットが生まれています。さらに、特定のフィラー(充填材)を混ぜ込むことで、電磁波シールド性能を持たせる研究も進んでおり、電子機器の分野での新たな応用も期待されています。
ABS樹脂のさらに詳しい用途や製品例については、こちらのサイトも参考になります。

 

ABS樹脂の特性と用途 加工と代表的プラスチック製品

ABS樹脂の加工における注意点と成功の秘訣

ABS樹脂は、射出成形、押出成形、切削加工など、様々な方法で加工できる非常に扱いやすい素材です。 しかし、その特性を理解せずに加工を行うと、思わぬ失敗につながる可能性があります。ここでは、特に金属加工に従事する方が知っておくべき、ABS樹脂の加工における注意点と成功の秘訣を解説します。

🌡️温度管理の徹底

ABS樹脂を加工する上で最も重要なのが温度管理です。

  • 予備乾燥: ABS樹脂は吸湿性があるため、成形前に80℃で3時間程度の予備乾燥が必要です。 これを怠ると、成形品に「シルバーストリーク」と呼ばれる銀色の筋状の不良が発生する原因となります。
  • 加熱温度: 射出成形の場合、加熱筒の温度は220℃前後が一般的です。 温度が高すぎると樹脂が分解してしまい、低すぎると流動性が悪くなり、ショートショット(充填不足)やウェルドライン(樹脂の合流痕)といった不良につながります。
  • 金型温度: 金型温度は40〜80℃に設定します。 金型温度は製品の表面品質に大きく影響し、温度が低いと美しい光沢が得られなかったり、「湯じわ」と呼ばれる波模様が発生したりします。

🔪切削加工のポイント

切削加工性も良好ですが、いくつかのコツがあります。

  • 切削速度: 高速で切削すると摩擦熱で樹脂が溶けてしまい、切りくずが工具に溶着したり、加工精度が低下したりする原因になります。 適切な切削速度を保ち、エアブローなどで切りくずを効率的に除去しながら加工を進めることが重要です。
  • 工具の選定: 切れ味の良い、すくい角の大きな工具を選ぶと、きれいな仕上げ面を得やすくなります。
  • 曲げ加工は不向き: ABS樹脂は剛性が高く硬い素材のため、板材を加熱して曲げるような「曲げ加工」には向きません。 無理に曲げようとすると、白化したり、割れてしまったりする可能性があります。

⚠️安全対策

加工時には、発生するガスや粉塵にも注意が必要です。 加熱時には特有の臭いを持つガスが、切削時には細かい粉塵が発生します。作業環境の換気を十分に行い、必要に応じて保護マスクや保護メガネを着用するなど、安全対策を怠らないようにしましょう。
ABS樹脂の加工に関するより専門的な情報は、こちらのメーカーのサイトが参考になります。

 

ABS樹脂の特性は?安全性や加工方法をわかりやすく解説

ABS樹脂の意外な弱点と環境への影響

非常に優れた汎用性を持つABS樹脂ですが、万能というわけではなく、いくつかの弱点も存在します。 また、プラスチック製品として、環境への影響も無視できない重要な課題です。

☀️最大の弱点は「紫外線」

ABS樹脂が持つ最大の弱点は、太陽光に含まれる**紫外線に対する耐性の低さ**です。 長期間屋外で紫外線にさらされると、樹脂を構成するブタジエン成分が化学変化を起こし、分子構造が破壊されてしまいます。 その結果、

  • 表面の光沢が失われる
  • 黄色っぽく変色する
  • 強度が低下し、衝撃に対して脆くなる

といった「劣化」が進行します。このため、屋外での使用が想定される製品には、AES樹脂やASA樹脂といった、ブタジエンの代わりに耐候性に優れた成分を用いた改良版の樹脂が使われることがあります。

♻️リサイクルの現状と課題

ABS樹脂は、家電製品や自動車部品など、様々な製品に使われているため、そのリサイクルは資源循環の観点から非常に重要です。 ABS樹脂のリサイクルには、主に3つの方法があります。

  1. マテリアルリサイクル: 使用済みの製品を粉砕し、洗浄・選別したのち、再び溶かして新しい製品の原料として再利用する方法です。 最も一般的なリサイクル手法ですが、異なる種類や色のプラスチック、不純物が混入すると品質が低下してしまうという課題があります。
  2. ケミカルリサイクル: 科学的な処理によって樹脂を元の原料(モノマー)に戻し、それを精製して再び新しいプラスチックを製造する方法です。品質の高い再生樹脂を作ることができますが、コストが高いという課題があります。
  3. サーマルリサイクル: 廃棄物を燃焼させる際に発生する熱エネルギーを回収し、発電や温水供給などに利用する方法です。 埋め立てるよりも環境負荷は低いものの、CO2を排出するという課題があり、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルが困難な場合の最終手段と位置付けられています。

近年では、リサイクル技術の向上や、リサイクル材を積極的に使用した製品の開発など、環境負荷を低減するための様々な取り組みが進められています。 消費者としても、製品を正しく分別・排出することが、持続可能な社会の実現につながります。

 

参考)再生ABSとは?企業イメージUPに貢献するサステナブルなノベ…

プラスチックごみのリサイクルに関する詳しい情報は、こちらの専門機関のサイトで確認できます。

 

2022年 プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況

ABS樹脂の未来:進化するリサイクル技術とサステナビリティ

ABS樹脂は、その優れた特性とコストパフォーマンスから、今後も様々な分野で必要とされる素材であり続けるでしょう。 しかし同時に、地球環境問題への関心の高まりを受け、よりサステナブルな素材へと進化していくことが求められています。その鍵を握るのが、リサイクル技術の革新と、社会全体の意識変革です。

🔬進化するリサイクル技術

従来のABS樹脂のリサイクルでは、回収されたプラスチックに付着した塗料や、異なる種類のプラスチックの混入による品質劣化が大きな課題でした。 しかし、近年では以下のような先進的な技術開発が進められています。

  • 高度な選別技術: 近赤外線センサーなどを用いて、材質や色の違いを瞬時に識別し、高精度で選別する技術が実用化されています。これにより、リサイクル原料の純度を高め、高品質な再生ABS樹脂の生産が可能になります。
  • 溶剤洗浄法: 特殊な溶剤を使って、ABS樹脂を溶かし、不純物や塗料だけを分離・除去する技術です。これにより、従来はリサイクルが難しかった塗装済みのプラスチックからも、新品に近い品質の樹脂を再生することができます。
  • アップサイクルの探求: 単に同じ製品に戻すだけでなく、PC(ポリカーボネート)など他の樹脂と混合(ポリマーアロイ化)することで、元のABS樹脂よりも高い強度や耐熱性を持つ、新たな高機能材料を生み出す「アップサイクル」の研究も活発に行われています。

🤝社会連携とバイオプラスチックへの期待

技術開発だけでなく、メーカー、自治体、そして私たち消費者が連携し、社会全体でリサイクルシステムを構築していくことが不可欠です。 具体的には、リサイクルしやすい製品設計(リサイクル・バイ・デザイン)の推進や、消費者への分別回収の啓発活動などが挙げられます。
さらに、長期的には、植物などの再生可能な資源から作られるバイオマスプラスチックを原料としたABS樹脂の開発も期待されています。これが実現すれば、化石資源への依存を減らし、カーボンニュートラルな社会の実現に大きく貢献することができます。

 

ABS樹脂のリサイクルと持続可能な社会に向けた取り組みは、まだ始まったばかりです。 技術の進歩と社会の協力によって、ABS樹脂はこれからも私たちの生活を支え、より良い未来を創造する重要な素材であり続けるでしょう。

 

参考)ABS樹脂のリサイクル技術と環境負荷削減の取り組み

リサイクル技術の動向に関する専門的な情報は、こちらの業界団体のレポートなどが参考になります。

 

ABS樹脂のリサイクルの現状と今後の展開

 

 


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