サーマルリサイクル マテリアルリサイクル違い比較

金属加工の現場では、廃棄物の処理方法によって環境負荷とコスト効率が大きく変わります。サーマルリサイクルとマテリアルリサイクルはどのような違いがあり、どの場面で使い分けるべきでしょうか?

サーマルリサイクル マテリアルリサイクル違い

リサイクル方法の3つの選択肢
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マテリアルリサイクルとは

廃棄物を原材料として再利用する物理的なリサイクル手法

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サーマルリサイクルとは

廃棄物を焼却して得られる熱エネルギーを有効活用する手法

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ケミカルリサイクルとは

廃棄物を化学的に分解して原料レベルに戻すリサイクル手法

マテリアルリサイクルの基本定義と対象素材

 

マテリアルリサイクルは、廃棄物を新たな製品の原材料として物理的に再利用する方法です。金属加工業界における最も一般的なリサイクル手法で、アルミ缶、スチール製品、銅線、ステンレス素材など単一素材の回収と再加工に適しています。日本国内では、プラスチックごみの約23パーセントがマテリアルリサイクルで処理されており、特に工場から出される単一素材の廃棄物に対して高い効果を発揮します。

 

マテリアルリサイクルの具体的なプロセスは、回収した金属クズを選別・分類し、洗浄後に溶解炉で加熱して新しい製品の原材料として再成形するという流れです。例えば、使用済みアルミ缶は、表面の塗料やフィルムを除去した後、約700~850℃の温度で溶かし、新しいアルミ缶や自動車部品の原材料として活用されます。金属加工現場では、機械加工時に発生する金属屑やスプリングス、バリなどを分別して専門のリサイクル業者に引き渡すことで、その素材を再利用する仕組みが確立しています。

 

この方法のメリットは、石油などの天然資源の輸入依存度を低減できること、そして新規製造よりも使用エネルギーを削減できる点にあります。ただし、異なる素材が混在してしまうと品質が劣化するため、事前の丁寧な分別作業が重要です。

 

サーマルリサイクルの役割と適用範囲

サーマルリサイクルは、廃棄物を焼却する際に発生する熱エネルギーを回収し、発電、暖房、給湯、あるいは工業用熱源として有効活用するリサイクル方法です。マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルが困難な素材、あるいは分別・仕分けに膨大な労力とコストがかかる廃棄物に対して採用されます。経済産業省のデータによると、国内の廃プラスチックの約58パーセントをサーマルリサイクルで処理しており、これは広く普及している処理方法です。

 

金属加工業においては、焼却工場から出る余熱を利用した温水プール、セメント製造設備の燃料、火力発電による電気事業者への売電など、実際の活用例が多く存在します。特に油汚れが付着した廃材、複数の素材が混ざった廃棄物、あるいは分別コストが高い場合にサーマルリサイクルが選択される傾向にあります。

 

しかし、欧米ではサーマルリサイクルに伴う有毒ガスの排出リスクや二酸化炭素の排出が環境上の課題として認識されており、リサイクル手法として正式に認められていない国も存在します。日本でも環境負荷低減の観点から、可能な限りマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルへの転換を求める動きが強まっています。

 

サーマルリサイクル マテリアルリサイクル選定基準

リサイクル方法の選択は、材料の状態、コスト、技術的実現可能性によって決まります。きれいに分別された同じ種類の素材は、マテリアルリサイクルが最適な選択肢です。例えば、工場から出される単一素材のプラスチックくず、金属屑、ガラス片などがこれに該当します。一方、汚れが激しい場合、複数の材料が混ざっている場合、あるいは分別に膨大な時間と人員を要する場合はケミカルリサイクルが適しています。

 

マテリアルリサイクルとサーマルリサイクルのどちらも技術的に困難な場合、あるいは経済的にコストが合わない場合にのみサーマルリサイクルが選択されます。この判断プロセスは、単純な焼却や埋め立てではなく、何らかの形で有効活用することを目的としています。環境負荷と経済性のバランスを考慮しながら、最適な方法を選ぶことが求められています。

 

金属加工企業の場合、発生する廃棄物の種類により判断基準が異なります。アルミ、銅、鋼などの金属屑は一般的にマテリアルリサイクルに適しており、高い価値を保持しています。これに対して、潤滑油や冷却液に含浸した廃材、複合素材製品の廃棄物などはサーマルリサイクルの対象になることが多いです。

 

マテリアルリサイクル実施時の課題と対策

マテリアルリサイクルを実施する際には、いくつかの実務的な課題が発生します。第一に、リサイクル設備の不足があります。日本のマテリアルリサイクル割合は約21パーセントにとどまっており、ヨーロッパ諸国と比較すると分別・再利用施設が不足しているのが現状です。金属加工企業では、自社内で選別・洗浄設備を導入するか、外部の専門リサイクル業者と提携する必要があります。

 

第二に、原材料の品質劣化という課題があります。リサイクルプロセスの過程で、熱処理により物質の分子構造が変化したり、別の材料が混入したりすることで品質が低下してしまいます。特に複数回のリサイクルサイクルを経ると、機械的特性が減少する傾向にあります。このため「ダウンマテリアルリサイクル」という、品質レベルを一段階下げた製品原材料として再利用する手法も採用されています。

 

第三に、高いコスト構造です。廃棄物の収集、分別、再生処理、製品化、輸送など、各プロセスで人件費と設備費がかさむため、単純な焼却処分よりもコストが高くなることがあります。特に小規模事業者にとっては経済的負担が大きく、スケールメリットを活かせるリサイクル業者への委託が一般的です。

 

金属加工業向けの実践的リサイクル戦略

金属加工業において効果的なリサイクル戦略を構築するには、廃棄物の種類ごとに最適な処理方法を選別することが不可欠です。発生する廃棄物を「単一金属屑」「複合素材」「油汚れ廃材」の3カテゴリーに分類し、各々に応じた処理経路を確立することをお勧めします。

 

アルミニウム、銅、鋼などの単一金属屑はマテリアルリサイクルの対象とし、契約した金属リサイクル業者に定期的に引き渡します。複合素材製品や油含浸廃材については、技術的にマテリアルリサイクルが困難であるため、初期段階ではケミカルリサイクルの導入可能性を検討し、実現不可能な場合にのみサーマルリサイクルを適用します。

 

また、リサイクル効率を高めるには、社内での分別・保管システムの整備が重要です。異なる金属屑を混ぜないための専用コンテナ配置、油分の付着低減のための初期洗浄、および適切な保管環境の維持により、リサイクル業者への引き渡し時の品質を保つことができます。

 

参考として、経済産業省資源エネルギー庁が公開している資料「カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して」では、各リサイクル方法の詳細と環境影響が記載されています。

 

経済産業省資源エネルギー庁『カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して』
また、一般社団法人プラスチック循環利用協会が発表するプラスチックリサイクル統計データでは、各リサイクル方法の最新の処理量と有効利用率が確認できます。

 

一般社団法人プラスチック循環利用協会

 

 


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