「シハチ」という名称は、日本の伝統的な尺貫法における「4尺×8尺」に由来しています。現代の金属加工業界では、この呼称が国際的な単位である「フィート」を用いて4フィート×8フィート(4'×8')と表記されることが一般的です。ただし、この寸法は材質によって微妙に異なる点が特徴的です。
鉄鋼業界におけるシハチ板は、正確に1219mm×2438mmの寸法を指します。これは4フィート×8フィートを正確にミリメートル換算した数値です。一方で、アルミニウムや樹脂などの材料では、1250mm×2500mmというやや大きな寸法が「シハチ板」と呼ばれることが一般的です。この違いから、前者を「小シハチ」、後者を「大シハチ」と区別することもあります。
シハチ板の規格サイズが標準化されている理由は、以下の通りです。
これらの標準サイズは、特に板金加工において非常に重要な役割を果たしています。レーザー加工機やタレットパンチプレスなどの加工設備も、このシハチサイズを効率的に加工できるよう設計されていることが多いです。
金属加工の発注時には、単に「シハチ板」と指定するだけでなく、以下の情報を明確にすることが重要です。
業界や企業間での認識の違いを避けるため、「シハチ」という呼称だけでなく、具体的な寸法数値(例:1219mm×2438mm)で指定することが望ましいでしょう。
シハチ板は、その標準化されたサイズが様々な金属板金加工技術と相性が良く、現代の製造業において重要な役割を果たしています。ここでは、シハチ板を用いた主要な加工技術について詳しく見ていきましょう。
レーザーカット加工
レーザーカット加工は、シハチ板の精密な切断に広く用いられている技術です。高出力のレーザービームを使用して複雑な形状も正確に切り出すことができ、シハチ板の大きな面積を効率的に活用できます。
レーザーカットのポイント。
最新のファイバーレーザー技術により、従来のCO2レーザーと比較して、高速・高精度な切断が可能になっています。特にアルミニウムやステンレスなどの反射率の高い材料においても高い切断品質が得られるようになりました。
タレットパンチプレス加工
タレットパンチプレスは、シハチ板に穴あけや成形加工を施す際に使用される効率的な機械です。回転式のタレット(工具ホルダー)に様々な形状の金型を装着することで、一台の機械で多様な加工が可能になります。
タレットパンチプレスの利点。
近年では、タレットパンチとレーザー加工を組み合わせた複合機も登場し、シハチ板の加工効率がさらに向上しています。
ベンディング(曲げ加工)
シハチ板を立体形状に加工するためのベンディング工程は、プレスブレーキと呼ばれる機械を使用して行われます。シハチ板のサイズは、標準的なプレスブレーキの加工能力に合わせて設計されているため、効率的な曲げ加工が可能です。
ベンディング加工の注意点。
3D CADと連動したベンディングシミュレーションソフトウェアを活用することで、シハチ板から複雑な立体形状への展開設計が容易になっています。
溶接・組立技術
シハチ板から切り出され、曲げ加工された部品は、溶接によって組み立てられることが一般的です。溶接技術の選択は材質や板厚、製品の要求精度によって異なります。
主な溶接方法。
溶接工程では、シハチ板から作られた部品の寸法精度を維持するための治具設計も重要です。適切な溶接順序と拘束方法によって、熱歪みを最小限に抑えることができます。
表面処理技術
金属加工の最終工程として、様々な表面処理がシハチ板製品に施されます。目的に応じて以下のような処理が選択されます。
これらの表面処理を含めた一連の加工工程を効率的に管理することで、シハチ板から高品質な最終製品を生み出すことができます。
近年では、これらの加工工程をデジタル化・自動化する取り組みが進んでおり、IoTやAIを活用した「スマートファクトリー」の実現によって、シハチ板の加工効率と品質がさらに向上しています。
金属加工業界では、シハチ板(4'×8')以外にも、様々な標準サイズの板材が使用されています。それぞれのサイズには特徴や適した用途があり、目的に応じた選択が重要です。ここでは、主要な定尺サイズを比較し、それぞれの特徴を明らかにします。
主要な定尺サイズの比較
呼称 | サイズ(フィート) | 鉄鋼業界のサイズ(mm) | アルミ・樹脂業界のサイズ(mm) | 重量目安(SPCC 1.6mm厚) |
---|---|---|---|---|
サブロク | 3'×6' | 914×1829 | 900×1800程度 | 約21kg |
シハチ | 4'×8' | 1219×2438 | 1250×2500 | 約37kg |
ゴットー | 5'×10' | 1524×3048 | 1500×3000程度 | 約58kg |
メーター板 | - | 1000×2000 | 1000×2000 | 約25kg |
サブロク板(3'×6')の特徴
サブロク板は、サイズが914mm×1829mmと比較的小さいため、取り扱いが容易で、小規模な工場や工房での作業に適しています。「3尺×6尺」という日本の伝統的な寸法に由来する名称で、主に以下のような用途で選ばれます。
サブロク板は、シハチ板と比較して面積が約半分であるため、部品の取り数は少なくなりますが、ハンドリングの容易さや、小ロット生産時の材料ロス軽減というメリットがあります。
シハチ板(4'×8')の特徴
シハチ板は、金属加工業界で最も標準的に使用されているサイズで、1219mm×2438mmの寸法を持ちます。多くの加工機械がこのサイズに最適化されているため、効率的な生産が可能です。
シハチ板は、コストパフォーマンスと汎用性のバランスが取れたサイズであり、最も流通量が多いため入手性も良好です。また、このサイズを基準にした金型や治具が多く存在することも大きな利点です。
ゴットー板(5'×10')の特徴
ゴットー板は最も大きい標準サイズで、1524mm×3048mmの寸法を持ちます。その大きさゆえ、以下のような用途に適しています。
ゴットー板はシハチ板より約56%大きい面積を持つため、部品の取り数を増やせますが、重量が増すため、ハンドリングには注意が必要です。また、対応可能な加工機械が限られる場合もあります。
サイズ選定のポイント
最適な板材サイズを選定する際には、以下の要素を考慮することが重要です。
実際の製造現場では、複数のサイズを使い分けることで、生産効率と材料効率の最適化を図ることが一般的です。特に自動ネスティングソフトウェアを活用することで、各サイズの板材から最適な取り数を計算し、材料歩留まりを最大化することが可能です。
近年では、グローバル化に伴い、メートル規格(1000mm×2000mmなど)の板材も増えていますが、日本の金属加工業界では依然としてシハチ・サブロク・ゴットーの3サイズが主流となっています。
シハチサイズの板材は様々な金属材質で提供されており、それぞれ独自の加工特性と適した用途があります。材質選定は製品の機能性、耐久性、コストなどに大きく影響するため、加工特性を理解することが重要です。
鋼板(SPCC、SPHC)の特性と加工
鋼板は経済性と強度のバランスに優れ、最も広く使用される金属材料です。板厚によって冷間圧延鋼板(SPCC)と熱間圧延鋼板(SPHC)に分けられます。
特性。
加工方法と注意点。
一般的な用途。
ステンレス鋼板(SUS304、SUS430)の特性と加工
ステンレス鋼板は耐食性、耐熱性、美観性に優れる材料で、食品設備や屋外使用製品に適しています。
特性。
加工方法と注意点。
一般的な用途。
アルミニウム板(A1050、A5052)の特性と加工
アルミニウム板は軽量で加工性に優れ、表面処理の自由度も高い材質です。
特性。
加工方法と注意点。
一般的な用途。
銅・真鍮板の特性と加工
銅および銅合金の板材は、優れた電気伝導性・熱伝導性と装飾性を持ち、特殊用途に使用されます。
特性。
加工方法と注意点。