「平ら」の記号が図面にあっても、グラインダー仕上げしないと手直し費用が数万円になることがあります。

スポット溶接を図面で指示するとき、記号は「矢」「基線」「基本記号」の3要素で成り立っています。基本記号は現行JIS Z3021:2016では丸(○)で表され、基線の下側に書かれた場合は矢が指す側(矢の側)から溶接する指示、上側に書かれた場合は反対側から溶接する指示になります。ここを間違えると、溶接面が全く逆になってしまいます。
基本記号だけでは溶接の「種類と位置」しか伝わりません。
溶接径・点数・ピッチなど、スポット溶接特有の寸法情報はそれぞれ決まった位置に書き入れます。所要のスポット径は基本記号(○)の左側、点数と中心間距離(ピッチ)は右側に記入するのがJISのルールです。たとえば「d=6 ×3 – P75」と書かれていれば、「溶接径6mm・3点・ピッチ75mm」という意味になります。葉書の横幅が約148mmですから、ピッチ75mmは葉書の横半分の間隔をイメージすると理解しやすいです。
| 記入箇所 | 内容 |
|---|---|
| 基本記号の左側 | 溶接径(d=○mm) |
| 基本記号の右側 | 点数(×n)とピッチ(Pmm) |
| 基線の下側 | 矢側(手前側)の溶接指示 |
| 基線の上側 | 反対側(向こう側)の溶接指示 |
また、2016年の改定でスポット溶接の基本記号は旧来の「*(アスタリスク)」から「○(丸)」に変わりました。この変更を知らないと、古い図面を読む際に「記号が違う」と混乱することがあります。プロとして意外に見落としやすいポイントです。
JIS Z3021:2016に基づく溶接記号の詳細仕様については、公式に参照できる資料として日本規格協会のサイトがあります。
JISZ3021:2016 溶接記号 —kikakurui.com(スポット溶接記号の寸法記入方法や補助記号の規定を確認できます)
「平ら」の補助記号(基線に平行な一本線:—)は、溶接部の表面形状が「平らになるよう仕上げること」を指示するものです。一見シンプルに思えますが、実はこの記号には重要な二重の意味があります。
JIS Z3021:2016の規定には、こう書かれています。「溶接後仕上げ加工を行わないときは、平ら又は凹みの記号で指示する」。つまり、「平ら」記号そのものは「結果として平らな形状であること」を示しているのであり、必ずしも機械的なグラインダー加工や切削加工を要求しているわけではありません。これが誤解のもとになりやすい部分です。
具体的な加工指示が必要な場合は、G・C・M・Pの仕上げ方法記号と組み合わせて使います。
| 表面形状の補助記号 | 仕上げ方法の補助記号 | 読み方 |
|---|---|---|
| 平ら(—) | G | グラインダーで削って平らにする |
| 平ら(—) | C | チッピングハンマーで整えて平らにする |
| 平ら(—) | M | 切削加工(機械仕上げ)で平らにする |
| 平ら(—) | P | 研磨で平らにする |
| 平ら(—) | (記載なし) | 仕上げ方法は指定しない(溶接のままで平らになっていればよい) |
仕上げ方法の記号なしで「平ら」だけが書かれている場合、現場は「どうやって平らにするかは自由、もしくは仕上げ加工不要」と判断します。これが分かっていないと「平ら記号があるから必ずグラインダーをかけなければ」と無駄な工程を追加してしまい、コストと時間を浪費することになります。知って得する情報ですね。
平ら補助記号の配置位置にも注意が必要です。基線の下側の基本記号に付いていれば矢の側の表面、基線の上側に付いていれば反対側の表面の仕上げを指示しています。上下を逆に読むと、仕上げる面が正反対になってしまいます。
溶接記号の見方・書き方・種類|meviy(ミスミ)—補助記号と仕上げ指示の使用例を図解で解説しています)
「平ら」の形状を実現するための仕上げ方法として、JIS Z3021では4種類のアルファベット記号が定められています。それぞれの違いを正確に把握しておくことは、現場でのコスト管理や品質確保に直結します。
✅ G(グラインダー仕上げ) :溶接後のビード(盛り上がり部)をグラインダーで削り、表面を滑らかにする方法です。板金加工現場で最も多く指示される仕上げ方法です。外観が求められる面に使われることが多く、グラインダーで削ることで塗装のノリも改善されます。
✅ C(チッピング) :チッピングハンマーやニードルスケーラーなどでスラグやビード表面を叩いて整える方法です。アーク溶接後のスラグ除去が主な目的で、スポット溶接との組み合わせはやや少ないケースですが、指示があれば必ず対応が必要です。
✅ M(切削・機械加工) :フライス盤や旋盤などの機械加工で表面を切削する仕上げです。精度要求が高い部位に用いられます。Gよりも高精度ですが、コストと時間が大幅にかかります。
✅ P(研磨) :研磨工具(サンドペーパーや研磨砥石など)を使い、表面を滑らかに整える方法です。G仕上げよりもさらに滑らかな表面が必要な場合に指定されます。
この4種の中で最もコスト・工数に差が出るのはGとMの比較です。グラインダー仕上げ(G)に比べ、切削仕上げ(M)は加工機へのセットアップが必要なため、工数・単価ともに大きく跳ね上がります。図面を読んで「GなのかMなのか」を正確に識別することが大切です。
なお、仕上げ方法の記号は「表面形状の補助記号(平ら・凸形・凹形)」の近くに記入されます。仕上げ方法の記号単独では、どのような形状に仕上げるかが不明確になりますので、必ず表面形状の補助記号と合わせて確認する習慣を持ってください。これが条件です。
現場でスポット溶接の「平ら」指示を読み間違えるケースは、経験者でも起こりやすいパターンがあります。代表的な誤読と、その対策を整理します。
🔴 誤読①:「平ら」記号=必ずグラインダー仕上げが必要だと思い込む
先述の通り、平ら記号は「仕上げ形状の指定」であり「仕上げ方法の指定」ではありません。仕上げ方法の記号(G・C・M・P)がなければ、グラインダーをかける必要はありません。グラインダー仕上げは1箇所あたりの工数を確実に増やします。不要な加工を増やせばコストアップにつながります。
🔴 誤読②:旧JIS記号(*)を新記号(○)と混同する
2016年のJIS Z3021改定でスポット溶接の基本記号が変わりました。古い図面(改定前)には「*」が使われており、現行図面では「○」が使われています。会社内で古い図面と新しい図面が混在している場合、読み間違いが起きやすくなります。図面に「適用規格:JIS Z3021:○年版」が明記されているか確認するのがベストです。
🔴 誤読③:矢側と反対側を読み間違える
補助記号が基線の下側か上側かで、仕上げを行う面が変わります。スポット溶接は重ね継手が多いため、どちら面を平らにするかは外観品質に直結します。見落としが発生しやすい箇所です。
🔴 誤読④:スポット溶接径・個数・ピッチの読み違い
たとえば「6 ×4 – 75」と書かれていれば、「溶接径6mm・4点・ピッチ75mm」ですが、慌てて読むと点数とピッチを逆に解釈しがちです。読み慣れていない担当者が図面を受け取るときは、必ず声に出して「○mm径、○点、ピッチ○mm」と確認する習慣を持つことが有効です。
これらのミスを予防するには、図面受け取り時のチェックリスト化が効果的です。「①基本記号の種類(○か*か)→②表面形状補助記号の有無→③仕上げ方法記号の有無→④寸法の確認」という順番で確認すれば、読み違いを大幅に減らせます。
板金加工の基礎講座Ⅲ 図面の読み方・書き方|アマダ(スポット溶接記号の記入方法と補助記号の一覧を実例で確認できます)
スポット溶接図面を書く立場でも、「平ら」の補助記号の使い方には気をつけるべきポイントがあります。設計ミスが一度入り込むと、製造現場での手直しや再製作という形で跳ね返ってきます。
まず、「仕上げ形状」と「仕上げ方法」は別の記号であることを徹底して意識してください。平ら仕上げを求めるだけなら「平ら(—)」の補助記号のみで指示できますが、「どういう手段で平らにするか」まで指定したいなら、必ずG・C・M・Pの記号を追記する必要があります。この2つが混同されたまま図面が発行されると、受け取った側が「グラインダーで仕上げるのか、それとも仕上げなくていいのか」を判断できなくなります。
次に、スポット溶接の寸法記入位置のルールを守ることも重要です。ナゲット径は記号左側、点数とピッチは記号右側という配置ルールは、JIS Z3021で明確に定められています。独自の書き方をしてしまうと、現場での読み違いを引き起こす原因になります。
また、補助記号を基線の正しい側に書くことも必須です。
- 矢の側(手前面)を平ら仕上げにしたい場合:基線の下側に平ら記号を付ける
- 反対側(向こう面)を平ら仕上げにしたい場合:基線の上側に平ら記号を付ける
これを逆に書いてしまうと、全く違う面の仕上げ指示になってしまいます。
設計ミスを防ぐ現実的な対策として、JIS Z3021:2016の補助記号一覧表を手元のデスクに貼っておくことをお勧めします。PDFで印刷できるものは各規格サイトや技術資料サイトで公開されています。また、CADソフト(AutoCAD MechanicalやSolid Works)の溶接記号ツールを使えば、記号の配置ミスや記入漏れを自動でチェックしやすくなります。これは使えそうです。
溶接記号 —機械製図(平ら仕上げを含む補助記号の一覧表と記入位置の解説があります)