機械安全規格とは何か・種類・対応手順を解説

機械安全規格とは何か、ISO・JISの体系からリスクアセスメント・3ステップメソッドの実践手順まで金属加工現場向けに解説。規格を知らないと送検リスクも?

機械安全規格とは何か・種類・対応手順を解説

安全装置なしのプレス機を使い続けると、書類送検される可能性があります。


この記事のポイント3つ
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機械安全規格とは?

ISO・JISをベースとした国際的なルールで、機械による労働災害の約8割は規格に基づく安全対策で防止できたとされています。

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規格の体系(A・B・C規格)

機械安全規格はA・B・C規格の3層構造。プレス機や旋盤など特定の機械にはC規格が直接適用され、現場担当者が押さえるべき規格が明確です。

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3ステップメソッドが対応の基本

本質的安全設計→安全防護→使用上の情報の順に対策する「3ステップメソッド」が、リスク低減の国際標準手順です。


機械安全規格とは何か・なぜ金属加工現場で重要なのか


機械安全規格とは、「機械が壊れても、人が操作を誤っても、技術の力で安全を確立する」という考え方を具体的なルールとして定めたものです。ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)が国際規格を策定し、日本ではJIS(日本産業規格)として国内化されています。


金属加工現場でこの規格が特に重要なのには、明確な数字があります。機械による労働災害は、休業4日以上の死傷者数では全産業の約4分の1を占め、死亡災害では全体の約3分の1に達します(厚生労働省ガイドブック)。さらに重要なのが、機械災害の約8割は「構造規格やJIS規格に基づくガードや保護装置を講じていれば発生しなかった」とされていることです。


つまり、知っていればげた事故がほとんどです。


プレス機・旋盤・フライス盤などを扱う金属加工の現場では、回転部や打抜き部など高エネルギーを持つ危険源が至るところに存在します。これらに規格が適用されることは、単なる努力目標ではありません。構造規格に適合しない機械については労働安全衛生法により譲渡や使用が禁じられており、労働基準監督署から回収命令や送検の対象になることもあります。また、JIS規格に適合しない機械はPL法(製造物責任法)などによる賠償責任を問われるリスクがあります。


機械安全の出発点となる基本原則は3つです。「人間はミスをする」「機械は故障する」「絶対安全は存在しない」、この前提に立ち、人の注意力に頼らず、機械そのものに安全を組み込む設計思想が規格全体の根底にあります。


厚生労働省「機械安全規格を活用して災害防止を進めるためのガイドブック」(中央労働災害防止協会)— 機械災害の実態データや規格の使い方を網羅した公式ガイド


機械安全規格の体系・A規格・B規格・C規格の違い

機械安全規格がわかりにくいと感じる人が多い理由のひとつは、規格の数が多くどれを見ればよいかわからないことです。実はISO・IEC規格は、3つの層に整理されており、使う側が迷わないよう設計されています。


まず最上位のA規格は、すべての機械に共通する基本概念と設計手順を定めます。代表的なものがISO 12100(日本ではJIS B9700)です。「リスクアセスメントとはこういうものだ」「3ステップメソッドでリスクを低減する」という方針が書かれており、機械安全の"教科書"と呼ばれています。


次のB規格は、安全装置の種類など特定のタイプの機械や部品に関するルールをまとめたグループ規格です。たとえばISO 13849-1(制御システムの安全関連部・JIS B9705-1)はここに含まれ、安全制御回路の性能を「パフォーマンスレベル(PL)」という指標でa〜eの5段階に分類します。


最下位のC規格は、特定の機械ごとに具体的な安全要求を定めた製品規格です。プレス機や旋盤など、自社で使う機械に直接対応するC規格があれば、まずそちらを確認するのが基本です。


C規格が基本です。


ただし、C規格が存在しない機械もあります。その場合はA規格とB規格を参照しながら設計者・管理者が自己責任でリスク評価を行います。「うちの機械は特殊だから規格は関係ない」と思い込みがちですが、C規格がない場合でもA・B規格の適用は求められます。これは意外なポイントです。


また、JIS規格とISO規格の内容は整合化(ハーモナイゼーション)が進んでいるため、基本的に同等の内容です。例えばISO 12100:2010はJIS B9700:2013として国内に取り込まれています。日本語で読めるJIS規格を手元に置いておくのが実務では便利です。


キーエンス「安全知識.com」安全規格の体系図 — ISO・IEC・JISの関係をわかりやすく図解しているリファレンスサイト


機械安全規格のリスクアセスメントの進め方・金属加工現場での実践手順

機械安全規格の中核にあるのが「リスクアセスメント」です。これはISO 12100(JIS B9700)に定められたプロセスで、日本では労働安全衛生法の「危険性又は有害性等の調査」として、事業者への実施が求められています。


リスクアセスメントは大きく3段階で進みます。


まず「危険源の同定」です。機械の稼働中だけでなく、段取り替え・清掃・メンテナンスなど、あらゆる使用場面を想定して危険源を洗い出します。金属加工では、回転する砥石・刃物、プレス動作の挟み込み、熱・粉塵・騒音なども対象です。


次が「リスクの見積もり」です。国際規格(ISO/TR 14121-2など)では危害の程度・暴露頻度・回避可能性の3パラメータで評価します。危害の程度は「S1:軽傷(応急処置で対応)」「S2:深刻・致命傷(骨折・切断など)」に区分されます。骨折や指の切断は「S2」に相当し、リスクが高いと判定されます。


最後が「リスク評価」です。見積もったリスクが許容できるレベルかを判断し、許容できなければ次の低減方策へ進みます。


リスク評価が条件です。


ここで重要なのは、リスクが許容できるかどうかの判断基準は会社や担当者ごとに任意設定できる点です。ISO/TR 14121-2に参考例はありますが、強制基準ではありません。これは「厳しく設定しすぎると対策が膨大になる」「甘くすると災害リスクが残る」という難しさを生みます。日本機械工業連合会発行の「機械工業会リスクアセスメントガイドライン(2010年版)」には、金属加工にも適用できるパラメータ例が示されており、参考になります。


一度リスクアセスメントを実施したら終わりではありません。機械の改造・工程変更・新たな作業者の配置など、状況が変わるたびに見直しが必要です。文書化して保管することも求められます。


オムロン「ISO12100リスクアセスメントの手順」— リスクアセスメントの5ステップをフロー図で解説しているわかりやすいページ


機械安全規格の3ステップメソッドと保護方策の選び方

リスクアセスメントでリスクが許容できないと判定されたら、次は低減方策の実施です。ISO 12100では「3ステップメソッド」という優先順位付きの手順が定められており、この順番を守ることが規格上の要件になっています。


ステップ1:本質的安全設計方策は、危険源そのものを設計によって取り除く、あるいは人に危害を与えないレベルまで下げることです。たとえばプレス機であれば、危険な動作速度を落とす・挟み込みが発生しない形状に変更するなどが該当します。この対策が最も効果が高く、コストも長期的に見て低くなります。


ステップ1で対処しきれないリスクに対して、ステップ2:安全防護及び付加保護方策を講じます。固定式ガード(カバー)の設置、インターロック付き可動ガード(開けると機械が停止する仕組み)、光線式安全装置(ライトカーテン)などが代表例です。金属加工でよく使われる非常停止スイッチもここに含まれます。


ステップ2まで実施してもなお残る「残留リスク」については、ステップ3:使用上の情報として警告ラベルの貼付や作業手順書・取扱説明書への記載、保護具(手袋・安全靴など)の着用指示が求められます。


ステップ3は最後の手段です。


実際の現場では「まず手袋をさせて、あとは気をつけさせる」という対策が多く見られますが、これはステップ3に頼り切った対応です。ISO 12100の観点では、ステップ1・2で対処可能なリスクをステップ3だけで済ませることは不十分とみなされます。送検事例の中にも「過去に行政指導を受けていたにもかかわらず、安全装置を設けずに業務を続けた」ケースが複数あります(千葉・船橋労働基準監督署 2025年送検事例)。


一方で、3ステップメソッドを正しく実施すれば、機械災害のリスクを大幅に下げられます。国立労働安全衛生研究所の分析によれば、国際基準の設備保護方策(ガード・保護装置・制御システム安全関連部)を講じていれば防げたと考えられる災害は全体の79%にのぼります。これは使えそうです。


日本品質保証機構(JQA)「3ステップメソッドとは 具体例を用いて分かりやすく解説」— 製造現場向けに図解と事例でわかりやすくまとめたページ


機械安全規格のパフォーマンスレベル(PL)とは・金属加工現場での注意点

3ステップメソッドのステップ2で安全防護を講じる際、「その安全回路はどれだけ信頼できるか」を評価する指標が必要です。それがパフォーマンスレベル(PL)で、ISO 13849-1(JIS B9705-1)に定められています。


PLはa〜eの5段階で、eが最も高い信頼性を要求されます。イメージとしては、PLaが「低リスクな補助的な安全機能」、PLdやPLeが「プレス機など高リスク機械の主要安全機能」に求められる水準です。


実際の手順はこうです。まずリスクアセスメントの結果をもとに、その危険源に対して求める安全性能の目標値「要求パフォーマンスレベル(PLr)」を決定します。次に、実際に設計した安全回路の構造(単一構造・二重化構造など)や故障率などを評価してPLを算出し、PLがPLr以上であれば要件を満たしていると判断します。


PLrの確認が条件です。


金属加工現場でよく問題になるのは、既設機械の安全回路がPLrを満たしているかどうかが確認されていないケースです。見た目上ガードが付いていても、インターロックの回路が単一構造でPLbしか満たさない場合、高リスクの動力プレスに求められるPLdには届きません。「ガードが付いているから大丈夫」は大丈夫ではない場合があります。


安全回路の評価には専門知識が必要です。自社内での評価が難しい場合には、安全機器メーカー(キーエンス・オムロン・ピルツなど)が提供するPL評価ツールや、JQA(日本品質保証機構)などの認証機関を活用するのが現実的な選択肢です。これらのツールでは、使用する安全機器のカテゴリと診断適用範囲(DC値)を入力するだけでPLを算出できるものもあり、設備担当者でも取り組みやすくなっています。


また、PLと並行して知っておきたいのがIEC 60204-1(JIS B9960-1)です。これは機械の電気装置全般の安全基準を定めており、制御盤の設計・配線・表示灯の色など、電気系の安全対応に直結します。金属加工機械は制御盤を持つものが多いため、この規格も実務に関係します。


キーエンス「PL(パフォーマンスレベル)| 安全知識.com」— PLとPLrの意味・求め方を図解でわかりやすく解説


機械安全規格への対応で現場が陥りやすい3つの落とし穴

実際の金属加工現場では、機械安全規格への対応において特有の落とし穴があります。現場経験をもとに整理した「やりがちなミス」を確認しておきましょう。


落とし穴①:「古い機械だから規格は適用外」という思い込み


規格が改訂される前に製造された機械でも、使用を継続している限りは現在の規格・法令が適用されます。特に動力プレス機は構造規格(昭和42年労働省告示)が定められており、構造規格違反の機械は使用禁止の対象になります。「購入したときは問題なかった」では済まない場合があります。厳しいところですね。


落とし穴②:安全装置の「無効化」


現場でよく起きるのが、ガードを開けたまま作業したり、インターロックを意図的に固定して無効化するケースです。「作業がしやすいように」という現場の工夫が重大な法令違反につながります。送検事例では「安全装置の切替えキーをプレス機械作業主任者以外が使用できる状態にしていた」という事案もあります。安全装置の無効化は絶対に禁止です。


落とし穴③:リスクアセスメントを「書類仕事」と捉える


リスクアセスメントの書類を整えること自体を目的にしてしまい、実態の改善につながっていないケースがあります。規格の趣旨は「文書を作ること」ではなく「実際のリスクを低減すること」です。書類が整っていても機械の危険源が残っていれば、災害発生時に安全配慮義務違反として損害賠償を問われる可能性があります。実際にプレス機による労災では、安全対策の不備を理由に約3,951万円の損害が認定された事例もあります(東京地裁判決例)。


リスクアセスメントの書類と実態の一致が原則です。


以上の3点は「知らなかった」では済まないリスクを含んでいます。現場の安全担当者はもちろん、経営者・管理職も規格の基本を理解しておくことが、法的リスクと人的リスクの両方を下げるための近道です。機械安全規格は難解に見えますが、厚生労働省の公式ガイドブックや各安全機器メーカーの無料資料を活用すれば、基礎知識は体系的に学べます。まずは自社で使用している機械にC規格が存在するかどうかを確認するところから始めてみてください。


労働新聞社「安全装置設けず送検 プレス機で過去に指導も 船橋労基署」(2025年)— 行政指導後も安全装置未設置で送検された実例報道




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