「RaとRzを同じ図面で混用すると、医療機器の承認が取り消されることがあります。」
表面粗さとは、物体の表面にある細かい凹凸の程度を数値で表したものです。単に「見た目のきれいさ」を示すのではなく、摩擦抵抗・気密性・細菌付着のしやすさなど、機能に直結する重要な指標です。
JIS B 0601で規定される代表的なパラメータが、算術平均粗さ「Ra」と最大高さ粗さ「Rz」です。それぞれの計算方法は根本的に異なります。
| パラメータ | 定義 | 特徴 |
|---|---|---|
| Ra(算術平均粗さ) | 基準長さ内の凹凸高さの絶対値の平均 | 全体的な粗さを安定して評価できる。キズや突起の影響を受けにくい。 |
| Rz(最大高さ粗さ) | 基準長さ内の最大山高さと最大谷深さの和 | キズや突起の有無を敏感に捉える。摺動面・シール面の評価に適する。 |
| RzJIS(旧・十点平均粗さ) | 2001年以降に旧来の「Rz」と区別するために設けた名称 | 国際規格ISOには存在しない日本独自のパラメータ。 |
医療機器では用途に応じてパラメータを選び分けることが重要です。Ra は全体の平均的な粗さを管理する場面で、Rz はインプラント表面のような「最大凹凸の高さがリスクに直結する」場面で使われます。
つまり、目的に合わせたパラメータ選択が原則です。
歯科インプラントの承認基準(厚生労働省)では、表面粗さを「Ra(算術平均粗さ)及びRz(最大高さ)」で測定し、Ra は±15%、Rz は±25% の範囲に収まることが要求されています。Raだけを測定して申請を通そうとすると、この基準を満たせない可能性があります。
表面粗さの測定手順(JIS B0633準拠):キーエンス 粗さ入門.com
JIS規格に基づく表面粗さの測定方法には、大きく「接触式(触針式)」と「非接触式」の2種類があります。どちらを選ぶかは、測定対象の素材・形状・要求される規格によって変わります。
接触式は有利です。触針(スタイラス)をダイヤモンド製の先端で表面をなぞり、凹凸の起伏をデータ化する方式です。長い距離の測定に強く、明瞭な形状波形が得られます。JIS B 0601(ISO 4287)に直接準拠した数値が得られるため、医療機器の承認申請に用いるデータとして最も信頼性が高いとされています。
一方、非接触式は3種類の原理に分かれます。
非接触式は柔らかい素材や傷つけたくない表面の測定に向いています。これは使えそうです。しかし、対応する規格が「ISO 25178」(三次元面粗さ)となり、従来の JIS B 0601(線粗さ)とはパラメータ体系が異なります。Sa(算術平均高さ)や Sz(最大高さ)など、接頭辞「S」がつくパラメータを使うことになります。
医療機器の承認申請では、2022年改正の歯科インプラント承認基準において「Ra・Rz(接触式対応)またはSa・Sz(三次元測定対応)」のどちらかを使用することが認められています。測定方法を事前に申請書に明記する必要があります。
厚生労働省 歯科用インプラント承認基準の改正(2022年):表面粗さ測定条件の詳細
触針式で表面粗さを測定するとき、最も見落とされやすい設定が「カットオフ値(λc)」です。これを誤ると、測定値が実態とかけ離れた数値になります。
カットオフ値とは、「粗さ」と「うねり」を分離する際の波長の境界値です。この値を正しく設定しないと、本来評価すべき細かい凹凸ではなく、緩やかな「うねり」を誤って粗さとして計測してしまいます。
JIS B 0633:2001 に基づく標準的なカットオフ値の選び方は次の通りです。
| Raの推定値(µm) | Rzの推定値(µm) | カットオフ値λc(mm) | 評価長さ(mm) |
|---|---|---|---|
| 0.006 < Ra ≦ 0.02 | 0.025 < Rz ≦ 0.1 | 0.08 | 0.4 |
| 0.02 < Ra ≦ 0.1 | 0.1 < Rz ≦ 0.5 | 0.25 | 1.25 |
| 0.1 < Ra ≦ 2 | 0.5 < Rz ≦ 10 | 0.8 | 4 |
| 2 < Ra ≦ 10 | 10 < Rz ≦ 50 | 2.5 | 12.5 |
| 10 < Ra ≦ 80 | 50 < Rz ≦ 200 | 8 | 40 |
測定の流れとしては、まず目視で対象面を観察し、筋目が周期的か非周期的かを判断します。その後、推定パラメータからカットオフ値を仮決定し、実際に測定した値がその範囲に収まっているか確認します。範囲から外れた場合は、カットオフ値を再設定して再測定が必要です。
重要なのは、評価長さが「カットオフ値の5倍」を標準としている点です。例えばλc = 0.8 mm であれば、評価長さは 4 mm となります。この関係を無視して短い距離だけ測定すると、基準長さの数が足りず、正確な合否判定ができません。
評価長さの設定が基本です。
医療機器の表面は研削・研磨仕上げであることが多く、Ra は概ね 0.1〜2 µm 程度の範囲に収まります。この場合、λc = 0.8 mm を標準として設定するのが一般的です。機器メーカーの仕様書や図面にカットオフ値の指示がある場合は、そちらを優先してください。
大阪産業技術研究所 表面粗さの測定:パラメータ一覧とフィルタの基礎
測定値が得られた後、その数値が「合格」かどうかを判定するルールが2種類あります。これを知らずに測定しても、適切な品質管理はできません。
16%ルール(JIS B 0633:2001 / ISO 4288 準拠)
評価長さから切り取ったすべての基準長さで算出したパラメータのうち、図面で指示された要求値を超える数が「16%以下」であれば合格とするルールです。図面に特記がない場合、このルールが自動的に適用されます。
具体的な合格条件は以下の通りです。
最大値ルール
図面に「max」または「U」の記号が付いている場合に適用されます。対象面全域で求めたすべての測定値が、要求値以下でなければ不合格です。1か所でも超えると、その部品は基準を満たしません。
厳しいところですね。医療機器では、インプラント体のネジ部や骨接触面など、細菌付着が患者の生命に関わる部位については最大値ルールが求められることがあります。承認申請時の技術基準を確認し、どちらのルールを使うかを事前に決定しておくことが不可欠です。
なお、16%ルールは「統計的に表面全体を見る」考え方であるのに対し、最大値ルールは「最悪の箇所でも基準を満たすこと」を要求します。どちらが適切かは、その表面が担う機能によって変わります。
ミツトヨ 表面粗さの基礎知識:16%ルール・最大値ルールの詳細説明
医療従事者や医療機器の品質管理担当者が最も注意すべき落とし穴が、JIS規格の改訂履歴です。表面粗さパラメータの記号は、年代によって意味が変化しており、古い図面をそのまま流用すると、意図した品質管理が実現できない場合があります。
特に問題になるのが「Rz」という記号です。
同じ「Rz」という記号が、年代によって「十点平均粗さ」を指したり「最大高さ粗さ」を指したりするわけです。古い図面をそのまま使い続けた場合、製造現場での解釈が分かれ、異なる値が合否判定に使われる危険があります。
意外ですね。しかし、これは医療機器の品質管理で現実に起きているリスクです。
さらに、1994年以前のRaと現行のRaでは、フィルタの特性が異なります。旧規格では「2CRフィルタ(減衰率75%)」、現行規格では「位相補償型フィルタ(減衰率50%)」が使われており、同じ表面を測定しても数値に差が出ます。
このようなリスクを回避するために、医療機器の図面や仕様書には「JIS B 0601:2013」など、規格の年号を明記することが強く推奨されます。PMDAへの承認申請でも、測定条件の明記は要件のひとつとなっています。社内に蓄積された旧規格の図面を使用する際は、必ず担当者が年号を確認する運用ルールを設けましょう。
表面粗さ記号・パラメータの変遷(年代別まとめ):d-monoweb.com