エレクトロスラグ溶接とは何か仕組みと特徴を解説

エレクトロスラグ溶接(ESW)の基本原理から、アーク溶接との違い、ボックス柱への適用方法、熱影響部の注意点まで詳しく解説。あなたの現場で本当に使いこなせていますか?

エレクトロスラグ溶接とは:仕組み・特徴・現場での活かし方

大入熱溶接なのに、入熱量を管理しないと溶接部が脆性破壊するリスクがあります。


📋 この記事の3ポイント要約
熱源はアークではなくスラグの抵抗発熱

エレクトロスラグ溶接(ESW)はアーク熱を使わず、溶融スラグのジュール発熱を熱源とする。スパッタがほぼゼロで、シールドガスも不要という特殊な溶接法です。

🏗️
主な用途は鉄骨ボックス柱の内ダイアフラム溶接

板厚19〜100mmに対応し、1パスで立向き上進溶接を完結できるため、高層ビル用ボックス柱製作の現場で広く使われています。

⚠️
大入熱によるHAZ(熱影響部)の管理が最重要

入熱量が過大になると熱影響部の結晶粒が粗大化し、じん性が低下する。スキンプレートとダイアフラムの板厚比(S/D)によっては品質低下リスクが高まります。


エレクトロスラグ溶接の基本原理:アーク溶接とは根本的に異なる熱源の仕組み

エレクトロスラグ溶接(ESW:Electroslag Welding)は、1951年にソ連(現ロシア)のパトン研究所で開発された自動立向溶接法です。日本には1960年代に導入され、現在は主に建築鉄骨のボックス柱製作で広く使われています。


この溶接の最大の特徴は、熱源にあります。アーク溶接がアーク放電の熱を使って母材を溶かすのに対し、エレクトロスラグ溶接は「溶融スラグの電気抵抗発熱(ジュール発熱)」を熱源とする点で根本的に異なります。つまり、電気をスラグに通し、スラグ自体の抵抗で発生する熱でワイヤと母材を溶かすのです。


仕組みを整理すると、こうなります。


  • ① 開先にフラックスを投入し、最初だけアーク放電でフラックスを溶融させてスラグ浴を形成する
  • ② スラグ浴が形成されると、アーク放電は消えてスラグへの通電に切り替わる(ここが普通の溶接と違う点)
  • ③ 通電されたスラグが抵抗発熱して高温状態を保ち、連続供給されるワイヤと母材を溶かし続ける
  • ④ 溶融金属はスラグ浴の下部に溜まり、水冷銅当金(かねあて)に囲まれながら上方向に固まっていく


溶接は必ず「立向き・上進方向」で行われます。これが条件です。


スラグ浴が溶融池を空気から遮断するため、シールドガスが不要という利点があります。開先内は外から見えない密閉環境で進行するため、「観えない溶接」とも呼ばれています。大阪大学大学院の研究でも、溶融部の直接観察によるプロセスの「見える化」が近年ようやく進んできた段階だと報告されているほどです。


参考:エレクトロスラグ溶接の原理と「見える化」研究について(溶接情報センター・大阪大学)
エレクトロスラグ溶接の観える化 – 溶接情報センター(日本溶接協会)


エレクトロスラグ溶接の種類:消耗ノズル式・非消耗ノズル式(SESNET)の違い

エレクトロスラグ溶接は大きく2種類に分かれます。現場での選択基準になるので、違いを正確に理解しておくことが重要です。


まず「消耗ノズル式」は、開先内にノズルを固定し、そのノズルごと溶融消耗させながら溶接を進める方法です。ノズル自体が溶接材料の一部になるため、上昇機構は不要ですが、溶接できる長さがノズルの長さに制限されます。約1.5m程度が上限の目安です。


一方「非消耗ノズル(上昇式)」は、水冷されたノズルを使い回す方式で、溶接の進行とともにノズルが自動的に上昇します。日本鉄鋼グループが開発した「SESNET法(Simplified Electroslag Welding Process with Non-Consumable Elevating Tip)」はこのタイプの代表格で、現在の建築鉄骨業界で最も普及している方式です。これは使えそうです。


SESNET法の主な仕様は以下のとおりです。


項目 内容
適用板厚(1電極) 19〜65mm
適用板厚(2電極) 60〜100mm
電極方式 非消耗水冷式ノズル(繰り返し使用可)
溶着効率 ほぼ100%(スパッタほぼゼロ)
シールドガス 不要
無監視溶接 可能(複数台同時稼働も可)


特に「無監視溶接が可能」という点は実際の生産現場で大きなメリットになります。溶接機を複数台セットして同時に稼働させることで、ボックス柱の4面を効率的に仕上げられます。これが基本です。


また、開先形状はI形(ストレート)またはレ形の簡易なものでよく、ガス切断のままでも溶接が可能なため開先準備にかかる時間とコストも削減できます。アーク溶接で厚板を多パス溶接する場合と比べると、準備工程の負荷は大幅に減ります。


参考:SESNET溶接の原理・特長・施工注意点について(日鐵住金溶接工業)
エレクトロスラグ溶接法(SESNET溶接法)について – 日本製鉄 溶接Q&A


エレクトロスラグ溶接が鉄骨ボックス柱のダイアフラム溶接に使われる理由

なぜエレクトロスラグ溶接は鉄骨ボックス柱のダイアフラム溶接にこれほど多用されるのでしょうか? 理由は構造上の制約と溶接効率のバランスにあります。


四面ボックス柱(スキンプレート4枚を箱型に組んだ柱)には、梁フランジと接合するために内ダイアフラム(仕切り板)を溶接します。このダイアフラムはボックス柱の内側にあるため、外から多パスのアーク溶接をすることが物理的に難しい箇所です。そこに「立向き1パスで完結できる」エレクトロスラグ溶接の出番があります。


具体的な施工のポイントをまとめると次のとおりです。


  • スキンプレートとダイアフラムの端面で囲まれたI形開先内にノズルをセットする
  • ダイアフラムの両側(表裏)に水冷銅当金を配置して溶融金属の流出を
  • 1電極で板厚65mmまで、2電極で板厚100mmまで対応できる
  • 溶接電流は板厚に応じて設定し、ノズルの自動上昇機構で安定した立向き上進溶接を実現する


高層ビルの柱ほど板厚は大きくなります。近年では板厚100mmに迫る極厚スキンプレートを使用するボックス柱も登場しており、2電極SESNET法や新工法SESLAへの需要が高まっています。板厚100mmはおよそ10cmで、大人の手のひらの幅に相当するほどの厚さです。それをスラグの熱だけで1パス溶接してしまうのは、改めて考えると驚異的な技術です。


また、多パス溶接で避けられない「角変形(そり)」が大幅に少ない点も採用理由の一つです。1パスで仕上げることで、継ぎ手部の拘束が均等になり、変形量を最小限に抑えられます。


エレクトロスラグ溶接の最大の弱点:大入熱による熱影響部(HAZ)のじん性劣化

エレクトロスラグ溶接を扱う上で、最も深く理解しておかなければならない問題があります。それが「大入熱によるHAZ(熱影響部)のじん性劣化」です。


エレクトロスラグ溶接は1パスで厚板を溶かすため、必然的に投入される入熱量が非常に大きくなります。溶接入熱量が100kJ/cm前後を超えるケースも珍しくなく、場合によっては370kJ/cmに達する施工条件も研究で報告されています(土木学会・鋼部材溶接熱影響部靭性研究)。入熱量が大きくなると、熱影響部(HAZ)の金属組織の結晶粒が著しく粗大化し、靭性(じん性)が低下してしまいます。


靭性が低下するとどうなるか。シャルピー試験での吸収エネルギーが下がり、地震時などの衝撃荷重に対して脆性破壊が起きやすくなります。阪神淡路大震災以降、この問題が建築鉄骨の世界で深刻に受け止められるようになり、多くの実験や研究が積み重ねられてきました。破断耐力を確保するためには、継ぎ手部のシャルピー吸収エネルギーが40J以上必要とされる場合もあります。これは厳しいところですね。


特に注意が必要なのが、スキンプレートとダイアフラムの板厚比(S/D)が1.0未満のケースです。スキンが薄くダイアが厚い組み合わせでは、溶け込みがスキン側の中央偏析に近い範囲まで広がりやすく、蓄熱も大きくなるため性能低下が顕著になります。


対策としては、以下の方向性が業界で取られています。


  • 大入熱対応の高HAZ靭性鋼(HTUFF鋼など)の採用:溶接入熱に対して粒成長を抑制する特殊鋼材を使用する
  • 高性能溶接材料の使用:SESNET法専用のフラックスやワイヤを組み合わせることで溶接金属のじん性を向上させる
  • 入熱量の管理・低入熱化工法の採用:ノズル回転法ESWなど、従来の約40%ダウンの入熱条件を実現する新工法を活用する


鉄骨製作工場では溶接部の入熱管理を厳格に行い、第三者による超音波探傷試験(UT)での抜き取り検査も実施します。入熱に注意すれば大丈夫です。


参考:ESW部の性能改善と新工法(ノズル回転法)の提案について(川田工業技報)
エレクトロスラグ溶接部の性能改善を目的とした新工法の提案 – 川田工業技報 Vol.29


エレクトロスラグ溶接の独自視点:アーク溶接よりスパッタゼロで「作業環境が劇的に改善」される現実

エレクトロスラグ溶接の効率や強度の話はよく語られますが、あまり注目されないのが「作業環境への貢献」という側面です。これは金属加工の現場で働く人にとって、見過ごせないメリットです。


アーク溶接では、溶接中にスパッタ(金属の飛び散り)が大量発生します。また、シールドガスや燃焼ガスが混ざったヒュームも多く発生し、長時間の作業では呼吸器への負担が蓄積します。建設・溶接関連のじん肺リスクは、健康管理における長年の課題です。


一方、エレクトロスラグ溶接はスラグ浴が密閉した環境で溶接が進行するため、スパッタの発生がほぼゼロ、ヒュームの発生量も極めて少ないとされています。日本製鉄の資料では「溶着効率ほぼ100%」と明記されており、スパッタによる材料ロスもありません。新たに開発されたSESLA™では、赤外線サーモグラフィで熱影響部が明らかに狭いことも確認されており、母材へのダメージ軽減にも貢献します。


さらに、シールドガスが不要なため耐風性にも優れています。屋外や風が吹き込む環境でも、ガスシールドが崩れるリスクなしに溶接を継続できるのは実務上の大きな利点です。現場の条件がそのまま施工品質に直結します。


加えて、無監視溶接が可能という点も重要です。ひとりの作業者が複数台の溶接装置を同時に管理できるため、人員配置の効率化と作業者の身体的負担軽減を同時に実現できます。少子高齢化で溶接工の確保が難しくなっている今の状況に、この特性はフィットします。


現場で「溶接ヒュームへのばく露防止措置」の法的義務(労働安全衛生規則)が強化されていることを踏まえると、ヒュームの少ないエレクトロスラグ溶接はコンプライアンスの観点からも評価できる工法といえるでしょう。これは条件次第で大きなメリットにつながります。


参考:新エレクトロスラグ溶接法SESLA™の作業環境改善効果について(日鐵溶接工業・ぼうだより技術がいど)
新エレクトロスラグ溶接法SESLA™の解説 – ぼうだより技術がいど(日本製鉄)


エレクトロスラグ溶接の品質管理:施工条件・検査・よくある失敗ポイント

エレクトロスラグ溶接の品質は、施工条件の設定と管理の精度に直接左右されます。アーク溶接に慣れた現場が初めてESWに取り組むときに、つまずきやすいポイントがいくつかあります。


まず、施工条件として管理すべき主なパラメータは以下のとおりです。


管理項目 主な内容・注意点
設定電圧 ダイアフラム板厚に応じて変わる。板厚が増すほど電圧を上げる必要がある
フラックス添加量 適量を外れるとスラグ浴が不安定になる。板厚ごとの適正量管理が必須
ノズル揺動方法 左右揺動の軌跡と幅がスキン側への溶け込み形状を決める
ルートギャップ 広すぎると溶接量が増え入熱過多になる。10〜23mm程度が一般的な範囲
水冷銅当金の設置 当金の密着が不十分だと溶融金属が漏れる。確実な設置が必要


品質確認のための検査方法で最重要なのは超音波探傷試験(UT)です。エレクトロスラグ溶接では溶接部が開先内の密閉空間で行われるため、目視での確認が不可能で、溶接中の内部状態も通常は見えません。溶接後のUT検査が事実上の品質確認の唯一の手段です。


日本建設業連合会などの基準では、エレクトロスラグ溶接部を含む鉄骨溶接部に対して「工場の自主検査100%+第三者による抜き取り検査」のダブルチェック体制を求めています。品質確認の体制が整っていることが条件です。


また、消耗ノズル式の場合はノズルの長さが溶接長の上限になるため、施工前に「溶接部の全長とノズル長さが合っているか」の確認は必須です。準備段階でのミスは施工中に止める手段がありません。


溶接開始時のスラグ浴形成が不安定だと、スラグ巻き込みや溶け込み不足などの内部欠陥につながります。立ち上がりの管理だけは特に集中して行うことが重要です。


参考:建築技術者のための鉄骨溶接品質検査の着眼点(日本建設業連合会)
建築技術者のための鉄骨製品検査の着眼点(PDF) – 日本建設業連合会