板厚指定より厚い素材を無理に押すと、金型が破損して手元に飛んでくる危険があります。
エキセンプレスは、「エキセン(eccentricity=偏心)」という言葉が示す通り、ハンドルを回すことで偏心軸(エキセン軸)を介して回転運動を上下の直線往復運動に変換し、取り付けた金型で材料を加工する手廻しプレス機です。見た目はレトロで単純に見えますが、仕組みをきちんと理解しないと加工精度がぶれたり、金型を痛めたりします。
動力プレスが電力でスライドを高速駆動するのに対して、エキセンプレスは作業者がハンドルを手で廻す人力式です。このため「加えられるプレス力は機種ごとに決まった最大値(kg)の範囲内に収める」ことが大前提になります。蒸気機関車のピストン運動を思い浮かべると分かりやすく、主軸から少しずれた位置(偏心部)にコネクティングロッドが繋がり、主軸が回転するたびにスライドが上死点と下死点の間を往復します。
エキセンプレスの代表的なメーカーとしては岡本工機やシキシマなどが知られており、工業用途では板厚0.3〜0.4mm程度の薄鋼板の隅切り(コーナーカット)や穴あけ、折り曲げ加工に多く使われています。はがきの厚みがおよそ0.2〜0.3mmですので、板厚0.3mmの薄鋼板はほぼそれと同じイメージです。そのくらいの薄さが基本的な対象材料になります。
エキセンプレスを動力源に接続して使う改造は、メーカーが明確に禁止しています。これが重要な点です。手動専用として設計された機体を動力化すると、スライドが作業者の意図より速く下降し、指や手が危険限界に入った状態で加圧されるリスクが跳ね上がります。つまり「手動のまま使う」が原則です。
エキセンプレスの原理・種類・関東型と関西型の違いについて詳しく解説しているページ(Metoree)
実際の作業フローを正しく把握することが、加工品質と安全の両方を守る第一歩です。ここでは薄鋼板(板厚0.3〜0.4mm)のコーナーカット作業を例に、手順を詳しく見ていきます。
まず最初にやるべきことは金型の確認です。使用するエキセンプレスのストロークの長さと、スライド下部のコミ穴(工具差し込み穴)の寸法を確認し、それに合った上型を用意します。コミ穴の径が合っていない金型は、たとえ無理やり押し込んでも途中でガタが出て、加工寸法のバラつきや金型の損傷につながります。
次にセッティングです。上型のシャフトをコミ穴に差し込み、固定機構(通常はセットスクリュー)でしっかりと締め付けます。下型はテーブル上のスタッドボルト穴などを使って、テーブルに対してガタなく固定します。下型の固定が甘いと、繰り返しプレスするうちに徐々にズレが生じ、カット形状が崩れてしまいます。下型固定は必須です。
セッティングが完了したら試し打ちです。スクラップ材(廃材)を使って1〜2回空打ちし、上型と下型の合わせ目(クリアランス)を目視で確認します。クリアランスが大きすぎると切断面にバリが出やすくなり、小さすぎると金型の寿命が縮まります。一般的なせん断加工では、板厚の5〜10%程度のクリアランスが適正とされています。
試し打ちで問題がなければ本加工に移ります。ワーク(被加工材)をテーブル上の正確な位置に当て、ハンドルをゆっくり廻してスライドを下降させます。切断・穴あけ・折り曲げの別によって、力の入れ加減やストロークの止め方が変わります。これは次のセクションで詳しく解説します。
ミスミによるエキセンプレスの使い方図解(上型・下型のセット方法が画像付きで確認できる)
エキセンプレスを扱う際に多くの作業者が見落としがちなのが、板厚と加工圧力の事前確認です。「切れそうだから試してみよう」という感覚での作業は、金型破損や機械故障の原因になります。
板厚の確認は最初に行います。エキセンプレスが対応できる素材の板厚は機種によって異なりますが、手廻し式の場合は一般的に金属板で1.0mm以下が目安とされています。板厚0.3〜0.4mmの薄鋼板が標準的な使用範囲です。例えば名刺の厚みが約0.3mm、1円硬貨が1.5mmですので、コインよりも薄い金属が基本対象素材です。それより厚い素材を加工しようとすると、ハンドルが重くなるだけでなく、偏心軸に過大な力がかかり機械本体が損傷します。
加工圧力(kgf)の確認も欠かせません。カタログに記載されている最大加工圧力を超えた使い方をすると、短期間で機械が劣化します。切断・穴あけ・折り曲げのそれぞれで必要な圧力が異なるため、加工内容ごとに確認する習慣が大切です。曲げ加工は比較的低圧力で対応できますが、せん断(打ち抜き)は素材の剪断強度に依存するため、計算が必要な場面もあります。
加工内容ごとの確認ポイントをまとめると以下の通りです。
| 加工の種類 | 確認するポイント | 注意点 |
|---|---|---|
| 切断(コーナーカット) | 板厚・素材の剪断強度・クリアランス | 板厚超過で金型欠け・機械損傷のリスクあり |
| 穴あけ(打ち抜き) | 穴径と板厚のバランス・パンチ径 | 穴径が板厚より小さいとパンチが折れやすい |
| 折り曲げ | 曲げ半径・素材の展延性 | 曲げ半径が小さすぎると割れが発生する |
板厚と加工圧力を確認さえすれば、後の作業はスムーズです。確認を省くと機械が壊れるだけでなく、金型交換費用や加工のやり直しで余計な時間とコストがかかります。特に穴あけ作業でパンチが折れた場合、パンチ径によっては1本数千円以上のコストになることもあります。これは痛いですね。事前確認を徹底することが結果的に最もコストを抑える選択です。
エキセンプレスを選ぶ際、もう一つ重要な判断基準があります。それが「関東型(ストッパー付)」と「関西型(標準型)」の違いです。名前が地域名なので最初は戸惑う人も多いのですが、実はどこで使うかではなく、機能の違いによる分類です。意外ですね。
関東型(ストッパー付)の特徴はストッパーボルトを内蔵している点にあります。このストッパーボルトがあることで、スライドのストロークを途中で止めることができます。つまり「ここまで下降したら止まる」という位置を事前にセットしておけるのです。折り曲げ角度を一定に保ちたい場合や、素材を完全に切断せずに半分だけ折り込む「ハーフカット」的な加工には関東型が向いています。ただし調整ボルトが片側だけなので、微妙な精度調整においては関西型に一歩劣ります。
関西型(標準型)の特徴は両側に調整ボルトを持つ点です。左右2箇所で独立して高さを調整できるため、スライドの平行度を細かく整えることができます。切断・穴あけなど、スライドが完全に下死点まで達する加工では関西型の方が安定した仕上がりになります。調整の自由度が高いのが関西型の強みです。
現場での選び方としては、以下のように考えると整理しやすいです。
中古品で購入する場合には、ストッパーボルトが付いているかどうかを確認するだけで、どちらの型かを判断できます。中古市場では関東型・関西型が混在して流通しているため、購入前に必ず機能を確認することが大切です。
モノタロウによる関東型・関西型の違いと各型の構造図解(エキセンプレスの特長と使い方より)
エキセンプレスは手動式ということもあって、「動力プレスほど怖くない」と思われがちです。しかしこれは危険な思い込みです。厚生労働省の労働災害データには「エキセンプレスの間に体の一部を挟み負傷した」という事例が実際に記録されています。手動であってもスライドの降下中に手や指が危険限界に入れば、十分に挟まれ事故が起こります。
岡本工機が公表している「エキセンプレス使用上のご注意」では、以下の行為を明確に禁止しています。
「作業台への固定」については、見落とされるケースが少なくありません。重量のある機体でも、スライドを勢いよく下ろした際の反動で機体が動くことがあります。固定なしで使い続けると、繰り返しの振動が積み重なり、予期しない転倒のリスクも出てきます。ボルトで作業台に固定することは必須です。
また、プレス機械は労働安全衛生法や労働安全衛生規則によって、一定の安全対策が義務付けられています。手廻し式のエキセンプレスは動力プレスと同一の規制対象外になる場合もありますが、安全配慮義務の観点からは、挟まれ防止の安全囲いや安全距離を確保する運用が推奨されています。
日常的なメンテナンスとして実施しておきたい項目を整理すると以下の通りです。
安全に注意すれば問題ありません。ただし、プレス加工全般における事故統計では「指の切断」など後遺障害を伴う事例が多いことも事実です。日々の点検と正しい操作手順の徹底が、長期的な安全作業の基盤となります。
厚生労働省によるプレス機械の安全規則改正に関するパンフレット(挟まれ事故防止と安全装置の義務化について解説)
厚生労働省 北海道労働局によるプレス機械の安全管理に関する資料(手動・動力プレスを問わず安全対策の基本が記載)