粘度の高い油を選んでおけば、軸受は絶対に長持ちすると思っているなら、それが設備を壊す原因になっています。

弾性流体潤滑(EHL:Elastohydrodynamic Lubrication)とは、接触面に高い圧力がかかる環境において、接触する部品表面が微小に弾性変形することと、潤滑油が高圧下で粘度を急激に増加させることが組み合わさって、通常では薄すぎて役に立たないはずの油膜が十分な厚さを保つ、という潤滑現象のことです。金属加工の現場では転がり軸受や歯車といった部品の摩耗を防ぐ「縁の下の力持ち」として機能しています。
潤滑の状態を整理するには、ストライベック曲線を参照するとわかりやすくなります。横軸に「粘度×速度÷荷重」をとった曲線上に、境界潤滑・混合潤滑・弾性流体潤滑・流体潤滑という各領域が並んでいます。摩擦係数が最も小さいのは流体潤滑ですが、転がり軸受や歯車のような高圧集中接触では、いわゆる「完全な流体潤滑」を実現するほど厚い油膜を保つことは通常困難です。そこに登場するのがEHLという状態です。弾性変形と粘度増加が同時に作用することで、境界潤滑に近い過酷な接触条件でも、流体潤滑に近い保護効果が得られるわけです。
EHL状態での油膜厚さは、大体 数十〜数百ナノメートル(nm)のオーダーです。1ナノメートルは0.000001ミリメートルですから、目では絶対に確認できない薄さです。それでも面圧が1GPa(鋼1平方ミリあたり約100kgfに相当)に達するような環境下でも、油膜が保たれることがEHLの驚くべき特性です。
つまりEHLが原則です。
| 潤滑モード | 油膜厚さの目安 | 代表的な部品 |
|---|---|---|
| 境界潤滑 | 1〜10 nm(分子レベル) | 摺動ガイド・ブレーキ面 |
| 弾性流体潤滑(EHL) | 数十〜数百 nm | 転がり軸受・歯車・カム |
| 流体潤滑 | 1〜100 µm | すべり軸受・ジャーナル軸受 |
EHLを正しく理解するためには、まず「なぜ油膜ができるのか」という2つの現象を押さえることが必要です。1つ目は、接触部に侵入した油が高圧(GPaオーダー)にさらされることで粘度が数百〜数万倍にまで増加し、半固体のような状態になること。2つ目は、接触する金属表面自体がわずかに弾性変形することで接触面積が広がり、圧力が分散されて油膜が維持されやすくなること。これが組み合わさった状態がEHLです。
参考として、転がり軸受のEHL理論について詳しく解説されたJALOS(日本潤滑学会)のQ&Aページです。
EHLを数値で扱うには、2つの重要な式を理解しておく必要があります。金属加工の現場でそのまま計算を行う機会は多くないかもしれませんが、「なぜこの粘度の油を使うのか」「なぜ回転速度が下がると危険なのか」を根拠を持って判断するために役立ちます。
まず1つ目は、潤滑油の粘度が圧力によってどれだけ増加するかを示す「Barusの式」です。
η(p) = η₀ × exp(α × p)
ここで η(p) は圧力 p における粘度、η₀ は大気圧下での粘度、α は粘度圧力係数です。例えば一般的な鉱物油の場合、α は約 0.02〜0.03 mm²/kgf 程度の値をとります。圧力が 1 GPa(= 約 10,200 kgf/mm²)にもなると、粘度は大気圧時の数百倍以上に達することがわかります。これは片栗粉水(ダイラタント流体)が力を受けると一瞬固まる現象とイメージが近いです。これは使えそうです。
2つ目は油膜最小厚さを計算するための「Dowson-Higginsonの式」です。線接触(円筒ころ軸受など)に適用されます。
h_min / R = 2.65 × G^0.54 × U^0.70 × W^(-0.13)
ここで G は材料パラメータ(圧力粘度係数 × 等価弾性係数)、U は速度パラメータ、W は荷重パラメータです。各パラメータはそれぞれ以下のように定義されます。
この式から非常に重要なことが読み取れます。油膜厚さは速度パラメータ U の 0.70 乗に比例する一方で、荷重 W の影響は -0.13 乗と非常に小さいのです。つまり、「重い荷重がかかっているから油膜が薄くなる」という変化は思ったほど大きくなく、むしろ「回転速度が落ちた」や「粘度が下がった」といった変化のほうが油膜厚さに大きく影響します。これが「速度が落ちるほど危険が増す」という理由です。
参考として、不二越が公開しているEHL理論の基礎講座PDFです(転がり軸受での具体的な計算例も含まれます)。
知りたいトライボロジー講座(4) 弾性流体潤滑理論(EHL理論)|不二越
実際に 15 cSt の粘度の油を使用し、ころ径 7 mm・ピッチ円径 38 mm の転がり軸受が 4,000 rpm で回転し、面圧が 100 kgf/mm² 程度の条件で計算すると、油膜厚さはおよそ 0.001 mm(= 1 µm)前後のオーダーになります。この数字を頭に入れておくと、「表面粗さをどこまで仕上げるべきか」という判断に直結します。
EHL理論を現場で活かす上で最も実用的な指標が「膜厚比(Λ比、ラムダ比)」です。これは計算で求めた油膜最小厚さ h_min を、接触する2面の表面粗さの合成値(Rq₁ と Rq₂ の二乗平均)で割った数値です。
Λ = h_min ÷ √(Rq₁² + Rq₂²)
Λ比は軸受の潤滑状態を評価する基準として広く使われています。
| Λ比の値 | 潤滑状態 | 軸受への影響 |
|---|---|---|
| Λ ≧ 3 | 完全流体潤滑に近い状態 | 長寿命が期待できる |
| 1 ≦ Λ < 3 | 混合潤滑(部分的に金属接触) | 疲労損傷リスクが高まる |
| Λ < 1 | 境界潤滑支配 | 急速な摩耗・表面損傷が起こりやすい |
九州大学の研究報告によれば、Λ比が3を下回ると寿命は急激に短くなり始め、Λ比が1を下回ると計算上の基本定格寿命に対してわずか数分の1に落ち込む場合があります。結論はΛ比3以上が条件です。
現場でよくある「設備が計算上の寿命より早く壊れる」という現象は、この Λ比の低下が原因であることが少なくありません。たとえば、次のような状況でΛ比は低下しやすくなります。
厳しいところですね。逆に言えば、Λ比を改善する手段は「油膜を厚くする(粘度を上げる、速度を保つ)」か「表面を滑らかにする(仕上げ精度を高める)」の2方向しかありません。どちらも一定のコストがかかりますが、軸受の早期交換コストや設備停止ロスと天秤にかければ、優先投資の価値があります。
EHLは理論だけでなく、現場の機械要素の中で実際に働いています。金属加工設備の中でEHLが関係している主な部位を確認しておくことは、トラブルを未然に防ぐ視点として重要です。
まず転がり軸受です。玉軸受やころ軸受の転動体(ボールやころ)と軌道輪の接触部は、典型的なEHL接触が発生する場所です。転動体は点または線で接触するため、接触面積は非常に小さく(直径0.5 mmのシャープペンシルの芯ほどの幅に大荷重が集中します)、面圧は容易に1 GPaを超えます。このような環境下でも油膜が保たれるのは、EHLが機能しているからです。
次に歯車です。歯車の歯面同士が噛み合う瞬間には、点または線接触が生じ、歯面に非常に高い接触応力が発生します。EHLが適切に機能していれば歯面の摩耗を抑制できますが、潤滑油粘度が不適切であったり油温が高すぎると油膜が薄くなり、「ピッチング」と呼ばれる疲労損傷(歯面に点状の穴が開く現象)が発生します。これが軸受寿命の早期終了や騒音・振動の原因になります。
カム機構も重要です。エンジンや各種自動機械のカム・フォロワー接触部では、往復運動の折り返し点付近で一瞬速度がゼロになります。この瞬間にEHL油膜の形成が最も困難になり、境界潤滑に近い状態になります。この部位での摩耗やかじりを防ぐには、EP(極圧)添加剤入りの潤滑油を使用することが有効です。
参考として、歯車のピッチング防止とEHL油膜厚さの関係を詳しく解説したページです。
歯車のピッチングの防止|ジュンツウネット21
現場での観察ポイントとしては、以下の状態変化が「EHLが崩れかけているサイン」として見えることがあります。
いいことですね、早期発見は損失の最小化につながります。
ここで、EHLに関して現場ではあまり知られていない重要な事実を取り上げます。「グリース潤滑は潤滑油よりも油膜が薄い」と考えている方が多いですが、実は低速域ではその逆の現象が起きることがあります。
グリースは基油(潤滑油)と増ちょう剤(石けん類など)で構成されていますが、転がり接触においてグリースで潤滑すると、低速域では基油だけで潤滑した場合よりもはるかに厚い油膜が形成されるという現象が複数の研究で確認されています。これを「グリースの低速・厚膜EHL効果」と呼びます。
九州大学などの研究によれば、グリース潤滑のEHL膜はある条件下で基油単体の場合の数倍に達することが確認されています。増ちょう剤が接触部付近に堆積・供給され、余分な油膜を押し込む機能を果たすためと考えられています。意外ですね。
ただし、この厚膜効果には時間依存性があります。起動初期は厚い油膜が形成されますが、時間の経過とともに薄くなり、最終的には基油の70〜80%程度に収束します。増ちょう剤がせん断によって変化し、基油を送り出す量が減るためです。
また、ウレア系グリースはリチウム系グリースよりも厚い油膜を形成する傾向があるとされており、精密軸受の起動時保護という観点から選定理由の一つになります。
低速でEHL膜が薄くなりやすい純粋な潤滑油を使用している設備で、起動・停止を頻繁に繰り返す場合は、グリース潤滑への変更や、EHL膜形成を補助するポリマー添加剤配合油への切り替えが、軸受寿命を延ばす対策として有効です。確認すべき情報として、設備メーカーのメンテナンスマニュアルには推奨潤滑剤が記載されているので、そこから最適なグリースのグレードを調べるだけで次のアクションが取れます。
参考として、グリースの低速厚膜EHL効果に関する研究論文(J-Global)です。
低速・厚膜-グリースの特異なEHL効果の検討|J-Global(JST)
EHL理論を現場で活かすには、潤滑油やグリースの選定を「なんとなく前のと同じもの」から「EHL条件を満たすもの」に変えることが重要です。以下のポイントを確認するだけで、軸受や歯車の寿命が大きく変わる可能性があります。
まず粘度の選定です。EHL油膜厚さはDowson-Higginsonの式から、速度と粘度の積の約0.7乗に比例します。運転速度が低い設備では、より高粘度の油を選ぶことで油膜を補います。逆に高速回転の設備で粘度が高すぎると、油の内部摩擦(粘性抵抗)が増えて発熱・エネルギー損失の原因になります。速度に応じた適切な粘度グレードを選ぶことが基本です。
粘度指数(VI)も重要な指標です。粘度指数が高い油は、温度が上がっても粘度の低下が少ないため、設備が温まってからも油膜を維持しやすいです。合成潤滑油(PAO基油やエステル基油)は一般に粘度指数が高く、温度変化の大きい環境での使用に向いています。
EP(極圧)添加剤は、EHL膜が薄くなる境界潤滑に近い状態で金属表面に保護膜を形成し、摩耗を補完します。EHL状態が良好に維持されていればEP剤の恩恵は小さいですが、低速・高荷重・衝撃荷重がかかる部位ではEP添加剤入りの油を選ぶことが得策です。
なお、潤滑油メーカー各社のカタログや粘度選定ツールを活用すれば、運転条件(回転数・荷重・温度)を入力するだけで推奨グレードを確認できます。設備のメンテナンスサイクル短縮や早期損傷に悩んでいる場合は、現在使用している潤滑油の動粘度と使用温度でのΛ比を計算してみることを一度試してみてください。Λ比3以上を確保できているか確認すれば大丈夫です。
参考として、モノ作り・ひとづくりサイトによるEHL理論の詳細解説(応用例・数値解析まで網羅)です。
8.6 弾性流体潤滑(EHL)理論|monozukuri-hitozukuri

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