PVCとは、英語の「Polyvinyl chloride」の略称で、日本語では「ポリ塩化ビニル」と表記されるプラスチックの一種です 。一般的には「塩ビ」や「ビニール」という名前で広く知られています 。PVCは、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などと並ぶ「五大汎用樹脂」の一つで、その歴史は古く、1838年にフランスで発見され、日本では1941年から生産されています 。
PVCの大きな特徴は、その原料にあります 。一般的なプラスチックが石油をほぼ100%原料とするのに対し、PVCの原料は約6割が食塩を電気分解して得られる塩素、残りの約4割が石油から作られるエチレンです 。このため、石油資源への依存度が低く、資源の節約に貢献できるというメリットがあります。無味無臭で透明性の高い非結晶性の高分子化合物であり、そのままだと硬い素材ですが、後述する「可塑剤」を添加することで、ゴムのように柔らかくすることも可能です 。
また、PVCは多くの優れた特性を持っています。主な特徴を以下にまとめました。
これらの特徴から、PVCは安価でありながら非常に多機能な素材として、私たちの生活のあらゆる場面で活躍しているのです 。
PVCは、添加する「可塑剤(かそざい)」の量の違いによって、大きく「硬質PVC」と「軟質PVC」の2種類に分けられます 。可塑剤とは、素材に柔軟性や弾性を与えるために添加される物質のことです 。この2つのタイプは物性や用途が大きく異なるため、それぞれの特徴を理解することが重要です。
硬質PVCは、可塑剤を添加しない、あるいは少量しか含まないタイプのPVCです 。非常に硬く、強度や剛性に優れているのが特徴です。その反面、無理に曲げようとすると割れてしまう脆さも持っています 。
軟質PVCは、可塑剤を大量に添加することで、ゴムのように柔らかくしなやかにしたタイプのPVCです 。いわゆる「ビニール製品」として知られているものの多くが、この軟質PVCで作られています。可塑剤の量を調整することで、消しゴムのような柔らかさから、ある程度の硬さを持つものまで、自由に硬度を変えることができます 。
以下に、硬質PVCと軟質PVC、そして他の代表的なプラスチックとの比較をまとめました。
| 項目 | 硬質PVC | 軟質PVC | ポリエチレン(PE) | ポリプロピレン(PP) |
|---|---|---|---|---|
| 柔軟性 | 低い | 高い | 中程度 | 低い |
| 強度 | 高い | 低い | 中程度 | 高い |
| 耐熱性(目安) | 60~80℃ | 80~110℃ | 100~140℃ | |
| 耐薬品性 | 非常に高い | 高い | 非常に高い | |
| 難燃性 | 自己消火性 | 可燃性 | ||
| 価格 | 安価 |
このように、同じPVCでも硬質と軟質では全く異なる特性を持ち、用途に応じて使い分けられています 。
金属加工に従事されている方にとって、樹脂素材の加工性は気になるところでしょう。PVCは、熱可塑性プラスチックの中でも特に加工性に優れた素材として知られています 。
多くのメリットがある一方、PVCの加工にはいくつかの注意点も存在します。
これらのメリット・デメリットを正しく理解し、適切な条件下で加工を行うことが、PVCを安全かつ有効に活用するための鍵となります。
より高い耐熱性が必要な場合は、PVCをさらに塩素化して耐熱性を高めた「CPVC(耐熱性硬質ポリ塩化ビニル)」という素材もあります 。これは主に給湯用配管や化学工場の特殊な配管などに使用されます 。
PVCはその汎用性の高さから、建築資材や日用品といった一般的な用途以外にも、専門的な分野で重要な役割を担っています。特に、金属加工の現場とも関わりの深い、意外な用途が存在します。
金属のプロフェッショナルである皆さんには意外に思われるかもしれませんが、PVCは最先端の半導体や液晶パネルの製造現場で不可欠な素材です 。これらの製造プロセスでは、非常に強力な酸やアルカリ性の薬液を使った洗浄工程があります。金属製の部品ではすぐに腐食してしまうような厳しい環境でも、優れた耐薬品性を持つPVCは問題なく使用できます 。
このように、金属が使えない特殊な環境で、PVCがその代替として重要な役割を果たしているのです。
PVCは単体で使われるだけでなく、金属と組み合わせる「ハイブリッド加工」によって、それぞれの素材の長所を活かした高機能な製品も生み出されています。
| ハイブリッド製品 | 説明 | メリット |
|---|---|---|
| 塩ビ被覆鋼板 (VCM) | 薄い鋼板の表面にPVCフィルムをラミネート(貼り合わせ)したもの。 | 金属の強度と、PVCの耐食性、耐薬品性、デザイン性、電気絶縁性を両立できる。加工性も良い。 |
| 電線・ケーブル | 導体である銅線の周りを、絶縁体であるPVCで覆ったもの。 | 電気を安全に通しながら、外部の衝撃や水分から導体を保護する。柔軟で配線しやすい 。 |
| PVCライニング | 金属製のタンクや配管の内側に、PVCシートを貼り付けたり、溶射したりしてコーティングを施す技術。 | 母材である金属の強度を活かしつつ、内容物(薬液など)からの腐食を防ぐことができる。 |
これらの例のように、金属の「強さ」とPVCの「耐性・柔軟性」を組み合わせることで、単一の素材では実現できない高いパフォーマンスを発揮させることができます。金属加工の知識を持つ皆さんだからこそ、こうした異素材との組み合わせによって、新たな製品開発のアイデアが生まれるかもしれません。
PVCは耐久性が高く長寿命な素材ですが、その一方で、廃棄やリサイクルに関する環境問題も指摘されてきました 。特に、焼却時にダイオキシンが発生する可能性があるという懸念が過去にはありましたが、現在では技術の進歩により、適正な焼却処理を行えばダイオキシン類の発生は抑制できることがわかっています 。
現在、塩ビ業界では「リサイクル」を重要な課題と捉え、様々な取り組みを進めています 。PVCのリサイクル方法は、主に以下の3つに分類されます。
日本では、塩ビ工業・環境協会(VEC)や塩化ビニル環境対策協議会(JPEC)といった業界団体が中心となり、リサイクルの推進活動を行っています 。彼らが策定した「リサイクルビジョン」に基づき、製品分野ごとにリサイクルシステムが構築されています 。
しかし、課題も残されています。軟質PVCに含まれる可塑剤の種類によってはリサイクルが難しい場合があることや、消費者や解体業者など、排出者側の分別協力が不可欠であることなどです 。PVCは正しく分別・回収されれば、何度もリサイクルが可能なサステナブルな素材です 。金属加工の現場においても、PVCを含む製品や端材が出る場合には、適切な分別を心がけることが環境負荷の低減に繋がります。
以下のリンクは、PVCのリサイクルに関する業界の取り組みをまとめた公式サイトです。より詳しい情報やリサイクルの手引きが掲載されています。
塩ビ工業・環境協会のリサイクルに関する取り組みについて、詳細な情報が掲載されています。
https://www.vec.gr.jp/recycle/index.html

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