POMの耐候性と紫外線劣化対策、屋外使用グレードの物性比較

POM(ポリアセタール)は優れた機械的特性を持つ一方、耐候性の低さが課題です。この記事では、紫外線による劣化メカニズムから、添加剤による具体的な対策、耐候性グレードの物性、他樹脂との比較までを徹底解説します。屋外使用におけるPOMの限界と可能性、ご存じですか?

POMの耐候性と屋外使用における課題

この記事のポイント
☀️
POMの弱点「耐候性」

POMがなぜ紫外線に弱いのか、その化学的な理由と劣化のサインを解説します。

🔧
耐候性を高める技術

紫外線吸収剤やHALS、カーボンブラックなど、POMの耐候性を向上させる具体的な方法を紹介します。

📊
最適な材料選定

耐候性グレードや他のエンジニアリングプラスチックとの比較を通じて、用途に合った材料選びのヒントを提供します。

POMの耐候性が低い根本原因と紫外線の劣化メカニズム

 

POM(ポリアセタール)が優れた機械的強度、耐摩耗性、寸法安定性を誇る一方で、「耐候性が低い」という弱点を持つことは広く知られています 。この根本的な原因は、POMの分子構造そのものにあります 。POMは酸素原子(-O-)とメチレン基(-CH2-)が交互に連なったポリエーテル構造をしており、この中の酸素原子が紫外線のエネルギーを吸収しやすい性質を持っています 。
太陽光に含まれる紫外線(UV)は高いエネルギーを持っており、POMの分子鎖にこのエネルギーが吸収されると、化学反応が誘発され主鎖が切断されてしまいます 。この現象は「光分解」または「光酸化劣化」と呼ばれ、POMの物性を著しく低下させる主な要因です 。
紫外線による劣化が進行すると、以下のような具体的な現象が観察されます。

     

  • 変色・黄変: 樹脂表面が黄色っぽく変色します。これは劣化の初期段階で見られる最も分かりやすい兆候の一つです 。
  •  

  • チョーキング(白亜化): 表面が粉っぽくなり、手で触ると白い粉が付着する状態です。樹脂表面の分解が進んでいることを示します 。
  •  

  • クラック(ひび割れ): 表面に微細なひび割れが発生し、進行すると亀裂が内部にまで達し、部材の破壊につながります 。
  •  

  • 機械的強度の低下: 分子鎖の切断により、POM本来の強みである引張強度や衝撃強度が大幅に低下し、脆くなります 。

特に屋外や窓際など、直射日光に長時間さらされる環境下では、これらの劣化が急速に進行するため、未対策の標準グレードPOMの使用は絶対に避けなければなりません 。


紫外線による樹脂の劣化メカニズムについて、より専門的な情報が記載されています。

 

光安定剤とは?-株式会社ADEKA

POMの耐候性を向上させる添加剤、紫外線吸収剤とHALSの役割

POMの耐候性の低さを克服するため、様々な添加剤が開発されています 。これらをPOM樹脂に練り込むことで、屋外での長期使用に耐えうる材料へと改質することが可能です。代表的な添加剤が「紫外線吸収剤(UVA)」と「光安定剤(HALS)」であり、これらは異なるメカニズムでPOMを紫外線から保護します 。

紫外線吸収剤(UVA: Ultraviolet Absorber)

紫外線吸収剤は、その名の通り、POM樹脂の代わりに紫外線を吸収し、化学的に無害な熱エネルギーに変換して放出する役割を担います 。これにより、POMの分子鎖が紫外線のエネルギーを受け取るのをぎ、光分解の開始そのものを抑制します。UVAは例えるなら、樹脂用の「日焼け止めクリーム」のような働きをします。

光安定剤(HALS: Hindered Amine Light Stabilizer)

一方、光安定剤(HALS)は、紫外線によって発生してしまった「ラジカル」を捕捉し、無力化する働きをします 。ラジカルは非常に反応性が高く、次々とPOMの分子鎖を切断していく劣化の連鎖反応を引き起こす原因物質です。HALSはこのラジカルを捕まえることで、劣化の連鎖反応を食い止め、被害の拡大を防ぎます 。HALSは、自己再生機能を持つため、ごく少量でも長期間にわたって効果が持続するのが大きな特徴です。

紫外線吸収剤とHALSの併用

UVAが「紫外線の侵入を防ぐ防御役」、HALSが「侵入を許して発生した敵(ラジカル)を仕留める攻撃役」と考えると、その役割の違いが分かりやすいでしょう。この二つは作用メカニズムが異なるため、併用することで相乗効果が生まれ、単独で使用するよりも格段に高い耐候性向上効果を発揮します 。そのため、多くの耐候性グレードPOMには、UVAとHALSの両方が配合されています。

意外と知られていない最強の添加剤:カーボンブラック

実は、POMの耐候性を最も効果的に向上させる添加剤の一つが「カーボンブラック」です 。カーボンブラックは紫外線を吸収・遮蔽する能力が非常に高く、添加することで樹脂内部への紫外線の到達をほぼ完全に防ぐことができます。そのため、屋外で使われる黒色のPOM部品の多くには、着色目的だけでなく耐候性向上の目的でカーボンブラックが添加されています。ただし、製品の色が黒に限定されるという制約があります。

POMの耐候性グレードと標準グレードの物性比較、屋外使用の実際

POMには、一般的な「標準グレード」の他に、前述の添加剤などを配合して特定の性能を強化した様々な特殊グレードが存在します 。その中でも、屋外用途で必須となるのが「耐候性グレード」です 。
耐候性グレードは、標準グレードのPOMに紫外線吸収剤(UVA)や光安定剤(HALS)、あるいはカーボンブラックなどを添加することで、耐候性を大幅に向上させた材料です 。これにより、標準グレードでは数ヶ月で劣化が始まるような過酷な屋外環境でも、長期間にわたって安定した性能を維持することが可能になります。
以下は、標準グレードと耐候性グレード(黒色)の一般的な物性比較表です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特性項目 標準グレード 耐候性グレード(黒色) 解説
色調 乳白色 黒色 耐候グレードはカーボンブラック添加のため黒色が多い 。
耐候性(屋外暴露) 低い(数ヶ月で劣化) 高い(数年〜十数年) 添加剤の効果で紫外線による劣化を大幅に抑制する。
引張強度 60~70 MPa ほぼ同等か、わずかに低下 添加剤の影響は比較的小さいが、ベース樹脂の性能に依存する。
寸法安定性 非常に高い POM本来の低吸水性は維持される。
連続使用温度 約85〜105℃ ほぼ同等 耐熱性は主にベースポリマーの種類(ホモポリマー/コポリマー)で決まる 。

表からわかるように、耐候性グレードは、POM本来の優れた機械的特性や寸法安定性をほとんど損なうことなく、耐候性のみを選択的に向上させているのが特徴です 。
【屋外での実際の使用事例】

この優れた特性を活かし、耐候性グレードのPOMは以下のような屋外部品で活躍しています。

     

  • 🚗 自動車部品: ドアミラーの駆動部品、ワイパー部品、フューエルリッド(給油口の蓋)のロック部品など、高い耐久性と精度が求められる部分。
  •  

  • 🌱 農業機械: 散水ノズルやスプリンクラーの部品、各種機構部品など、風雨や日光にさらされる環境で使用される部分。
  •  

  • 🏠 建材・エクステリア: 窓のサッシ用部品、ドアのローラー、ブラインドの機構部品など。

これらの用途では、POMの持つ自己潤滑性や耐摩耗性といった利点も同時に活かされています 。


各樹脂メーカーが提供する耐候性POMの詳細な物性データシートを確認することが重要です。

 

ジュラコン®︎POM|長瀬産業株式会社

POMの耐候性の弱点を補う他樹脂との比較と意外な使い分け

POMの耐候性は添加剤によって改善できますが、用途によっては他のエンジニアリングプラスチックがより適している場合もあります。特に、透明性や意匠性、より過酷な環境への耐性が求められる場合、代替樹脂の検討は重要です。ここでは、POMの弱点を補う代表的な樹脂との比較と、意外な使い分けの視点を紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹脂名 POMと比較したメリット POMと比較したデメリット 使い分けのポイント
AES樹脂 ◎ 非常に高い耐候性
塗装・接着性が良好
◎ 良好な耐衝撃性
△ 耐摩耗性・摺動性が劣る
△ 耐薬品性が劣る
△ 強度・剛性が低い
塗装が必要な自動車のドアミラーハウジングなど、意匠性と耐候性が最優先される外装部品。
ASA樹脂 ◎ 非常に高い耐候性
◎ 美しい表面光沢
△ 耐摩耗性・摺動性が劣る
△ 耐薬品性が劣る
ガーデンファニチャーや建材のサッシなど、長期間の美観維持が求められる大型の屋外製品。
超高分子量ポリエチレン (UHMW-PE) ◎ 圧倒的に優れた耐衝撃性
◎ 優れた自己潤滑性・耐摩耗性
× 耐熱性が低い(約80℃)
× 寸法安定性が低い(線膨張率大)
× 接着・塗装が困難
スキーの滑走面やガイドレールなど、常温で強い衝撃が加わり、かつ滑りやすさが求められる用途。
フッ素樹脂 (PTFEなど) ◎ 究極の耐候性・耐薬品性
◎ 非常に低い摩擦係数
◎ 広い使用温度範囲
× 非常に高コスト
× 機械的強度が低い
× 成形加工が特殊
屋外プラントのパッキンやシール材など、薬品や熱にさらされる過酷な環境で、コスト度外視で信頼性が求められる場合。

【意外な使い分けの視点:コストと要求性能のバランス】

見落とされがちなのが、「オーバースペック」を避けるという視点です。例えば、AESやASAは優れた耐候性を持ちますが、摺動性が求められる機構部品には不向きです 。その場合、コストを抑えつつ要求性能を満たすために「耐候性グレードのPOM」を選ぶのが最適な判断となるケースが多くあります。逆に、摺動性が不要で、かつ美しい外観を長期間維持したいのであれば、POMではなくASAを選ぶべきです。重要なのは、その部品に本当に必要な性能は何かを見極め、耐候性、機械的強度、耐摩耗性、コスト、意匠性といった複数の要素を総合的に評価することです。

POMの耐候性劣化が引き起こす接着性や塗装への二次的影響

POMの弱点として「接着性が悪い」「塗装・メッキが困難」ということはよく知られています 。これはPOMが結晶性の樹脂であり、表面エネルギーが低く、化学的に安定しているため、接着剤や塗料が濡れ広がらず、密着しにくいためです。しかし、あまり議論されませんが、この問題は「耐候性の劣化」によってさらに深刻化するという二次的な影響があります。
紫外線によってPOMの表面が劣化すると、前述したようにチョーキングや微細なクラックが発生します 。これにより、一見すると表面が荒れて接着や塗装のアンカー効果(物理的な引っかかり)が高まるように思えるかもしれません。しかし、実際には逆効果になることがほとんどです。
理由は以下の通りです。

     

  1. 脆弱な表面層の形成: 劣化した表面層は、分子が分解されて強度が著しく低下した脆い層です。この脆弱層の上に塗装や接着を行っても、塗膜や接着剤が密着しているのはこの弱い層に対してだけです。そのため、わずかな応力で劣化層ごと簡単に剥がれてしまいます。これは、砂壁にセロハンテープを貼るようなもので、テープの粘着力に関わらず砂ごと剥がれてしまうのと同じ原理です。
  2.  

  3. 分解生成物による影響: 紫外線劣化によってPOMが分解されると、ホルムアルデヒドなどのガスが発生することがあります。これらの分解生成物が表面に存在すると、接着剤や塗料の硬化反応を阻害し、密着不良を引き起こす原因となり得ます。

つまり、POMの耐候性劣化は、単に外観や機械的強度を損なうだけでなく、後加工である塗装や接着の品質を根本から破壊するという、加工従事者にとって非常に厄介な二次災害を引き起こすのです。
この問題を回避するためには、

     

  • 屋外で使用するPOM部品に塗装や接着を施す場合は、必ず耐候性グレードを選定し、表面が劣化する前に加工を行うこと。
  •  

  • プラズマ処理やコロナ放電処理、フレーム処理といった物理的な表面改質や、専用のプライマー処理を徹底し、POMの健全な母材に対して直接的に密着力を確保すること。

といった対策が不可欠です。耐候性の問題は、材料選定の段階だけでなく、その後の加工工程全体に影響を及ぼす重要なファクターであることを認識しておく必要があります。

 

 


えひめ飲料 POM ポンジュース みかんオレンジジュース 果汁100% 濃縮還元 スリムパック 200ml 紙パック 12本×2ケース (24本)