リスクアセスメント実施義務を金属加工業者が正しく知る方法

リスクアセスメント実施の義務は金属加工業者にどう関係するのか?2026年の法改正で対象物質が約2,900に拡大される今、正しく理解しないと安全配慮義務違反になるリスクも。あなたの現場は大丈夫ですか?

リスクアセスメント実施義務を金属加工業者が正しく把握するために

「リスクアセスメントを未実施でも今は明確な罰則がないが、労働災害が起きた瞬間に1,651万円の賠償が命じられた裁判例がある。」


この記事の3つのポイント
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2026年4月に対象物質が約2,900に拡大

これまでリスクアセスメント対象外だった金属加工現場の洗浄剤・切削油なども義務対象になる可能性がある。今すぐSDSを確認する必要がある。

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「努力義務」と「実施義務」は別物

機械設備のリスクアセスメントは努力義務だが、化学物質(切削油・洗浄剤・溶接ヒュームなど)は2016年から実施が「義務」。金属加工現場は両方が絡む。

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未実施でも"今は"罰則なし。ただし災害後は別

リスクアセスメント未実施自体への直接罰則は現時点では薄い。しかし労働災害が発生すれば安全配慮義務違反として高額賠償・書類送検につながる。


リスクアセスメント実施義務の「努力義務」と「法的義務」の違い



リスクアセスメントには「努力義務」と「実施義務(法的義務)」の2種類が存在します。金属加工の現場では、この2つが混在していることが多く、「全部努力義務でしょ」と思い込んでいると対応が大幅に遅れてしまいます。


まず機械設備に関するリスクアセスメントです。こちらは労働安全衛生法第28条の2により、2006年(平成18年)4月1日から努力義務化されています。旋盤・ボール盤・フライス盤・プレス機といった金属加工機械のリスクアセスメントはこのカテゴリに入ります。努力義務ということですね。


一方、化学物質のリスクアセスメントは別の話です。労働安全衛生法第57条の3に基づき、2016年(平成28年)6月1日から義務化されています。切削油・洗浄剤・溶接ヒューム・研削液など、金属加工現場で日常的に使われる化学物質が対象になります。つまり、「うちは化学メーカーじゃないから関係ない」は完全な誤解です。


区分 対象 法的根拠 義務の種類
機械設備のリスクアセスメント 旋盤・プレス機・ボール盤など 安衛法第28条の2 努力義務(2006年〜)
化学物質のリスクアセスメント 切削油・洗浄剤・溶接ヒュームなど 安衛法第57条の3 実施義務(2016年〜)


実施義務が基本です。両方の義務の性質を正確に理解した上で、現場の対応を整えましょう。


厚生労働省が公開している金属加工作業向けの実施マニュアルには、旋盤・ボール盤・フライス盤・研削盤ごとの危険性チェックリストが掲載されており、実務に直結した内容になっています。


厚生労働省「金属加工作業におけるリスクアセスメントのすすめ方」(PDF)


リスクアセスメント実施義務の対象となる化学物質と2026年の拡大

「うちで使っている切削油はたぶん対象外」という判断は危険です。リスクアセスメントの対象となる物質は年々増加しており、今まで対象外だった物質が新たに義務対象になるケースが続いています。


2024年4月時点のリスクアセスメント対象物質は約674物質でした。その後、段階的に拡大が続き、2025年4月1日に約700物質が追加され、合計で約1,600物質となっています。そして2026年4月1日にはさらに約850物質(一部統合整理あり)が追加され、合計約2,900物質へ拡大される予定です。


施行時期 対象物質数(目安) 主なポイント
〜2023年 約674物質 既存の表示・通知対象物
2024年4月 234物質追加(計約896物質) 化学物質管理者の選任義務スタート
2025年4月 約700物質追加(計約1,600物質) 保護具着用管理責任者の選任も義務化
2026年4月 約850物質追加(計約2,900物質) GHS分類で危険有害性ありの物質をほぼ網羅


金属加工の現場では、切削油・研削液・洗浄剤・めっき液・塗料・接着剤など多くの化学物質が使われています。これらの製品のSDS(安全データシート)を確認し、成分のCAS番号を厚生労働省「職場のあんぜんサイト」のリストと照合することが、最初の一歩です。


商品名だけで判断するのは大きなリスクです。「洗浄液A」と呼んでいても、その成分が2026年4月から義務対象物質になる場合があります。必ずSDS第2項と第3項を確認してください。


厚生労働省「職場のあんぜんサイト:ラベル・SDS義務対象物質一覧・検索」


なお、混合物については「裾切値(カットオフ値)」という概念があり、含有量がその値未満であれば対象外となります。たとえば発がん性区分1の物質は0.1%未満なら対象外です。これが条件です。ただし、判断が難しい場合はSDSを発行した製品メーカーに問い合わせるのが確実です。


リスクアセスメント実施義務を怠ったときの法的・金銭的リスク

「罰則がないなら後回しでいい」という考え方は、大きな落とし穴があります。確かに、化学物質のリスクアセスメント未実施そのものへの直接罰則は現時点では薄い部分があります。ただし、それは「何もない」という意味ではありません。


まず、2026年改正によって法的な厳格化が進んでいます。SDS(安全データシート)の未交付については、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という罰則規定が創設されました。また、化学物質管理者の未選任・不適切な管理体制も行政指導・是正勧告の対象となります。


さらに深刻なのは「労働災害が起きた後」のリスクです。これは痛いですね。


金属加工の中小工場で起きた実際の裁判例を見てみましょう。プレス機に安全カバーと自動停止装置が設置されていなかったことが原因で、ベテラン工場長が左手の指を切断した事故では、東京地裁(平成27年4月27日判決)が企業側の安全配慮義務違反を認定し、1,651万円の賠償を命じました。このケースでは、リスクアセスメントを実施していれば「安全装置未設置」というリスクを事前に把握し、対策できた可能性がありました。


リスクアセスメントを実施していた「記録」があるかどうかは、裁判や送検において大きな差になります。「知らなかった」「気づかなかった」では済まされません。


以下の3種類のリスクがある、と整理しておきましょう。


- 民事リスク:安全配慮義務違反による損害賠償(数百万〜数千万円規模)
- 刑事リスク:書類送検・罰金刑(SDS未交付は50万円以下の罰金)
- 行政リスク:労働基準監督署による是正勧告・業務停止命令


リスクアセスメントは、労働者を守るためだけでなく、会社を法的リスクから守る「守り」でもあるということですね。


金属加工現場でのリスクアセスメント実施手順:具体的な5ステップ

「何から手をつければいいかわからない」という声が現場では多いです。実は、リスクアセスメントは5つのステップに整理すると、それほど難しくありません。


ステップ1:対象作業と化学物質の洗い出し


金属加工の現場では、切削加工・溶接・研削・洗浄・塗装・めっきなど複数の作業が行われます。まず作業単位を一覧化し、それぞれで使われる化学物質のSDSを全て集めてください。SDSは製品を購入したメーカーから入手できます。これが出発点です。


ステップ2:危険性・有害性の特定


SDSの第2項「危険有害性の要約」を参照し、GHS分類を確認します。金属加工に多い有害性としては、切削油の「皮膚刺激性・感作性」、溶接ヒュームの「発がん性・呼吸器障害」、洗浄剤の「神経毒性」などがあります。厚生労働省の指針では、特定は「〇〇なので、〇〇して、〇〇になる」という形で書き出すことが推奨されています。


ステップ3:リスクの見積もり(マトリックス法)


特定した有害性・危険性について、「重篤度」×「発生の可能性」でリスクレベルをⅠ〜Ⅲに分類します。たとえば、溶接ヒュームを毎日屋内で吸入する作業(発生可能性:高)×発がん性物質(重篤度:致命的)ならリスクレベルはⅢ、つまり「直ちに措置が必要」になります。


リスクレベル 内容 対応
Ⅲ(高) 重大・致命的なリスクあり 直ちに措置を実施。措置まで作業停止も必要
Ⅱ(中) 速やかな措置が必要 優先的に改善措置を実施
Ⅰ(低) 必要に応じて措置 状況を確認しながら対応


ステップ4:リスク低減措置の検討・実施


対策には優先順位があります。①危険作業の廃止・変更 → ②設備的対策(局所排気装置の設置など)→ ③管理的対策(作業手順書の整備・教育)→ ④個人用保護具(マスク・保護手袋)の順で検討します。保護具はあくまで最後の手段です。


ステップ5:記録の作成と労働者への周知


リスクアセスメントの結果は、次のリスクアセスメントまでの期間(最低3年間)保存が義務です。また、関係する労働者への周知も義務付けられています。記録は紙でもデジタルでも構いませんが、いつ・誰が・何を確認したかが分かる形で保管してください。


記録があることが、有事の際の守り盾になります。


なお、無料で使えるリスクアセスメント支援ツールとして、厚生労働省の「クリエイト・シンプル(CREATE-SIMPLE)」があります。Excelベースで、CAS番号と含有量を入力するだけでリスクレベルを自動算出でき、化学物質のリスクアセスメント初心者でも扱いやすい設計です。


厚生労働省「化学物質のリスクアセスメント実施支援ツール CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)」


金属加工業者が見落としやすいリスクアセスメント実施義務の盲点

リスクアセスメントを実施している事業者でも、細かいルールを見落としていることがあります。現場でよく発生する「落とし穴」を整理しておきましょう。


盲点①:化学物質管理者の未選任(2024年4月〜義務)


2024年4月1日から、リスクアセスメント対象物を扱う全ての事業場で、事業場ごとに「化学物質管理者」の選任が義務化されました。「企業に1人いればいい」は誤解です。工場が複数ある場合、各工場ごとに選任が必要です。製造事業場では専門的講習(2日間・計12時間)の修了が必要になります。


意外ですね。本社で1名選任して終わりではありません。


盲点②:溶接作業でのリスクアセスメントの義務強化


溶接ヒュームは2021年4月から特定化学物質(特化則の規制対象)に指定されています。金属アーク溶接等を屋内で継続して行う場合、2022年4月から個人ばく露測定が義務化されました。保護マスクの選定だけでなく、フィットテスト(1年以内ごとに1回)も義務です。


「マスクさえ渡せばいい」では対応できません。フィットテストが必須です。


盲点③:リスクアセスメントの再実施タイミングを見落とす


リスクアセスメントは「一度やれば終わり」ではありません。以下のタイミングで再実施が義務付けられています。


- 新しい化学物質(切削油や洗浄液の製品変更など)を採用したとき
- 作業方法・手順を変更したとき
- 取引先からSDS(安全データシート)の更新版を受け取り、危険有害性の内容が変わったとき


金属加工現場では、製品の受注内容によって使用する切削油や洗浄剤を変更するケースがあります。そのたびにリスクアセスメントの再実施が義務になる可能性があります。「前回やったから大丈夫」は通用しません。


盲点④:がん原性物質の作業記録は30年保存


リスクアセスメントの通常記録は最低3年保存ですが、がん原性物質(1,3-ブタジエン・塩化ビニルなど)を製造・取り扱う業務を行わせた場合の作業歴の記録は30年間保存が必要です。これは、がんの発症が被ばくから数十年後に判明するケースがあるためです。保存期間のルールを確認しましょう。


厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)」


盲点⑤:実施しただけで「周知」を忘れる


リスクアセスメントの結果は、実施・記録するだけでは義務を果たしたことになりません。関係する労働者への周知も義務付けられています(労働安全衛生規則第34条の2の10)。周知の方法は、作業場への掲示・書面の配布・イントラネット掲載などのいずれでも構いません。周知の記録も合わせて保存しておきましょう。


これだけ覚えておけばOKです。①実施 → ②記録(最低3年保存)→ ③労働者への周知 → ④周知の記録保存、という4点がセットです。






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