連結器は鉄道車両同士を結合し、牽引力や推進力を伝達する重要な装置です。現在の日本では主に3つの基本的な種類が使用されており、それぞれ金属加工技術により製造されています。
参考)連結器 - Wikipedia
まず自動連結器(並型自動連結器)は、車両同士を接触させるだけで自動的に連結が完了する仕組みです。ナックル(肘)と呼ばれる鉤状の部品が特徴的で、アメリカのイーライ・ジャニーが開発したジャニー式自動連結器を基にしています。この種類は機関車や貨車で主に使用され、20kg程度の重量がありながら10~15tの引張力に耐える構造となっています。
参考)イーライ・ジャニー - Wikipedia
次に密着式自動連結器は、並型自動連結器を改良して連結時の隙間(遊間)を小さくしたものです。凸部と凹部を持つ構造で、連結時には両者が噛み合う仕組みになっています。この種類は高速貨物列車の機関車や貨車で使用され、振動を抑制する効果があります。
参考)日本の鉄道で使われる「3種類の連結器」を解説 新幹線の連結器…
三つ目の密着連結器は、電車や気動車で広く採用される平面型の連結器です。片側に棒状の突起、もう片側に穴を持つ「デコボコ型」で、連結時には内部でロック機構が作動します。この種類は連結器同士の遊びが全くないため、列車の前後の揺れをほぼ完全に排除できます。
参考)鉄道トリビア(66) 鉄道車両の連結器は「グー型」と「デコボ…
自動連結器の製造には高度な金属加工技術が必要です。主要部品であるナックル(肘部分)は、通常鋳鋼により製造され、その後精密な機械加工が施されます。
参考)https://www.jsw.co.jp/ja/product/business/industrial_machinery/im_0800/
ナックルの製造工程では、まず鋳型に溶融した鋼を流し込んで基本形状を作ります。冷却後、旋盤やフライス盤を使用して表面を精密に仕上げ加工し、規定の寸法精度に仕上げます。特に連結面は摩耗に対する耐性が重要なため、表面硬化処理やクロムめっきなどの表面処理が施される場合があります。
参考)球頭連結器へのクロムめっき
ナックルピン(回転軸)の加工では、高精度な円筒研削加工により表面粗度と寸法精度を確保します。この部品は連結器の動作に直接関わるため、材質選定から熱処理、最終仕上げまで厳格な品質管理が必要です。錠(ロック機構)部分も複雑な形状を持つため、NC工作機械による精密加工が不可欠となっています。
日本製鋼所では昭和28年から自動連結器の製造を手がけており、優れた設計・材料・製作技術と厳正な品質管理により、数多くの納入実績を積み重ねています。現在では高速化対応と操作性・保守性の向上に向けて、継続的な品質・性能向上が図られています。
密着連結器は自動連結器よりも複雑な内部構造を持つため、より高精度な金属加工技術が必要となります。特に柴田式密着連結器では、連結器頭の角(つの)部分が相手の懐内に精密に収まる構造のため、ミクロン単位の加工精度が求められます。
参考)https://dic.pixiv.net/a/%E5%AF%86%E7%9D%80%E9%80%A3%E7%B5%90%E5%99%A8
連結器頭の加工工程では、まず鋳造により基本形状を作成した後、5軸制御のマシニングセンターで複雑な3次元形状を削り出します。特に案内面は相手連結器との摺動部分となるため、表面粗度Ra0.8μm以下の鏡面仕上げが必要です。
参考)柴田式密着連結器の廻り子: TransPacific Rai…
内部のロック機構部品は、特に高い精度が要求される箇所です。錠の回転機構では、回転中心の軸受部分を円筒研削盤で仕上げ、回転トルクのばらつきを最小限に抑える必要があります。また、ばね機構には疲労強度が重要なため、ばね鋼の熱処理条件を最適化し、ショットピーニングによる表面改質処理を施します。
トムリンソン式やバンドン式といった他の密着連結器でも、それぞれ固有の加工技術が必要です。トムリンソン式では四隅の位置決めポスト加工において、±0.05mm以内の位置精度が要求され、ワイヤー放電加工機による精密加工が採用されています。バンドン式では薄型構造のため、板金加工技術と精密溶接技術の組み合わせが重要な製造技術となります。
新幹線用連結器は高速運転に対応するため、在来線とは異なる特殊な金属加工技術で製造されています。福島精工では新幹線連結器の国内シェアほぼ100%を占めており、独自の製造技術を持っています。
参考)鉄道車両用鋳造品
軽量化技術では、アルミニウム合金や高張力鋼を使用し、従来の鋳鋼製品より30~40%の重量削減を実現しています。アルミニウム合金の機械加工では、切削速度と送り速度の最適化により、加工硬化を防ぎながら高精度な表面仕上げを実現する特殊な加工技術が用いられます。
参考)連結器
電気連結器付き自動密着連結器では、連結器内部に信号線や電力線を収納する必要があります。これらの配線収納部品は、精密な板金加工技術により製造され、電磁シールド効果を持つ特殊メッキ処理が施されます。また、300km/h以上の高速運転では空力特性が重要なため、連結器外形の表面処理にも特別な配慮が必要です。
参考)東北新幹線の連結器について|TechBits
騒音低減技術として、日本製鉄ではWアクション型連結器を開発し、従来比で10~15dBの騒音レベル低下を実現しています。この技術では、連結器内部の摺動部品に特殊な潤滑材を使用し、金属接触による振動・騒音を抑制する仕組みが採用されています。
連結器製造に携わる金属加工従事者には、幅広い技能と知識が要求されます。特に安全性に直結する部品のため、JIS規格やAAR規格(アメリカ鉄道協会規格)に準拠した品質管理技能が不可欠です。
材料技術の面では、炭素鋼・合金鋼・ステンレス鋼の特性を理解し、用途に応じた最適な材質選定能力が必要です。特に連結器は10年以上の長期使用が前提のため、疲労強度や耐食性を考慮した材料選定技能が重要となります。熱処理技術では、焼入れ・焼戻し・浸炭・窒化などの処理条件を適切に設定する技能が求められます。
加工技術では、旋盤・フライス盤・ボール盤の基本操作から、NC工作機械・マシニングセンター・研削盤の高度な操作技能まで幅広い対応が必要です。特に連結面の仕上げ加工では、表面粗度測定器や三次元測定機を使用した精密測定技能が不可欠となります。
品質管理技能として、非破壊検査(磁粉探傷・浸透探傷・超音波探傷)の実施能力も重要です。連結器の内部欠陥は重大事故につながる可能性があるため、検査技能認定資格の取得が推奨されます。また、連結器の組立・調整作業では、規定トルクでの締付けや可動部のクリアランス調整など、精密な組立技能が必要となります。
日本製鉄の連結器製品情報 - 最新の連結器技術と製造技術の詳細
日本製鋼所の鉄道車両用連結器 - 密着式自動連結器の技術資料