プラスチックは本来電気を通さない材料です。しかしめっき加工を施すことで、この欠点を克服できます。プラスチックめっきプロセスでは、最初に無電解ニッケルめっきを行うことで樹脂表面に金属皮膜を形成し、導電性を付与します。この前処理により、その後の電気めっき処理が可能となり、銅、ニッケル、クロムなど複数の金属層を重ねることができるようになります。
プラスチックめっきの最大のメリットは、金属光沢による高級感が得られることです。腕時計部品や自動車の外装部品、家電製品など、視認性の高い場所に採用されることで、製品全体の価値を高めます。同時に導電性を付与することで、電子基板やシールド機能が必要な部品としても機能します。一般的なプラスチック製品がチープに見える課題を、めっき加工一つで解決できる点は、多くの製造業に支持されている理由です。
自動車産業をはじめとする製造業では、製品の軽量化が重大な課題です。プラスチックめっきは、金属部品をプラスチック製に置き換えることで、これを効果的に実現します。金属とプラスチックの比較では、プラスチックは圧倒的に軽量で、同じ形状の部品であれば30～50%の重量削減が期待できます。自動車においては、車両全体の軽量化により燃費改善と環境負荷低減に直結します。
コスト面でのメリットも顕著です。プラスチックは金属に比べ、大量生産に適した成形方法（射出成形など）で製造でき、複数個の製品を同時に成形できます。特にEV車の普及が進む現在、軽量化と低コスト化の両立が競争力を左右する要因となっており、プラスチックめっき技術への投資が加速しています。デザインの自由度も向上し、従来の金属加工では実現困難だった複雑な形状も容易に実現でき、製品企画段階での創意工夫が活かしやすくなります。
プラスチックめっきの最大のデメリットは、樹脂が加熱により変形してしまう可能性があることです。めっき処理では、強酸性・強アルカリ性の薬品を使用し、高温（約60℃）のめっき液に浸漬します。この熱圧環境で、樹脂の種類によっては樹脂が軟化し、寸法精度が失われることがあります。
対応可能な樹脂素材には制限があり、現在主流はABS樹脂ですが、それ以外のプラスチック材料では選択肢が大きく限定されます。ポリアセタール（POM）やPEEK（ポリエーテルエーテルケトン）などの高性能プラスチックへのめっきは技術的に困難とされています。めっき前の設計段階で、素材の熱耐性を充分に検証し、必要に応じて材質選定や処理方法の見直しを行う必要があります。材質に適した処理方法の提案は、めっき業者の技術力が試される重要な場面です。
プラスチック上のめっき被膜は相対的に薄く、金属への通常のめっきと比べ、母材となるプラスチック自体の硬さに依存します。プラスチックは金属より柔軟性がある素材のため、外部からの機械的な力（落下、擦傷など）によってめっき皮膜が変形したり傷がつきやすいという課題があります。金属からプラスチック製に置き換えた場合、耐衝撃性について十分な検討が必要です。
ただし、耐食性の面ではプラスチックが優位です。金属製品にめっきを施した場合、めっき被膜が傷つくと下地の金属が露出して錆びる可能性があります。一方、プラスチックめっきでは、めっき被膜が傷ついても下地が錆びることはなく、紫外線によるプラスチック劣化もめっきで保護されます。長期使用環境での耐久性を考慮すると、この特性は大きなメリットとなります。特に屋外で使用される自動車外装部品やガーデンファニチャーなど、紫外線と雨水への暴露が想定される用途では、プラスチックめっきの耐候性の優位性が顕著に発揮されます。
プラスチックめっきは、すでに多くの産業で実用化されており、今後の拡大が期待されています。自動車産業では、ドアハンドル、エンブレム、内装部品に採用され、軽量化に貢献しています。航空機部品でも耐腐食性が必要な部品や機内用品に使用され、重量低減と耐久性の両立が図られています。
電気・電子製品では、携帯電話やノートパソコンの筐体、家電製品の見える部分に多用されています。これらの製品では、デザイン性と導電性（シールド機能）を同時に実現する必要があり、プラスチックめっきはこの要求に最適に応える技術です。腕時計部品やアクセサリー類、水洗金具といった日用品まで、その応用範囲は極めて広範です。
業界ではABS樹脂を中心に材料開発が進み、より耐熱性の高い樹脂への対応も進められています。無電解ニッケルめっきから始まるプロセスの精密化により、より複雑な形状や厳しい精度要求に対応する動きも活発化しており、プラスチックめっき技術の進化は今後も続くと予想されます。
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「めっき」って何だろう？～種類と仕組み編⑧プラスチックめっき
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