ペット樹脂(PET)は、ポリエチレンテレフタレート(Poly Ethylene Terephthalate)という化学名を持つ、熱可塑性プラスチックの一種です 。私たちの生活に最も身近な用途はペットボトルですが、その優れた特性から工業製品に至るまで、非常に幅広い分野で利用されています 。
主な原料は、石油から作られるテレフタル酸とエチレングリコールで、これらを重合させることでペット樹脂が生まれます 。炭素、酸素、水素から構成されており、他のプラスチックと比較して酸素の割合が高いという特徴があります 。
参考)PET樹脂の特性|もっと詳しく知る|PETボトルリサイクル推…
ペット樹脂が持つ代表的な長所は以下の通りです。
そして、特に注目すべきは、その優れた耐熱性と耐寒性です。
ペット樹脂は加工方法によって性能が異なりますが、一般的なものでも-60℃の極低温から150℃程度の高温まで耐えることができます 。さらに、ガラス繊維などを加えて強化した「強化PET」の場合、熱変形温度は240℃にも達します 。
この耐熱性は、「結晶化」という現象と深く関係しています。ペット樹脂は、特定の温度でゆっくり冷却したり、アニール処理(加熱してからゆっくり冷やす処理)を施したりすることで、分子が規則正しく並んだ「結晶構造」を形成します 。この結晶化度を高めることで、剛性や強度が向上し、融点(約255℃)に近い温度まで耐えられるようになります 。この特性を利用し、エンジンルーム内の部品など、高温環境下で使用される工業製品にも採用されています 。
参考)https://www.kunimune.co.jp/gijutu_4.pdf
一般的に「ペット樹脂」と一括りにされがちですが、実はその性質によっていくつかの種類に分類され、それぞれ異なる用途で活躍しています。代表的なのは、非結晶性の「A-PET」と結晶性の「C-PET」です 。
A-PETは、その名の通り結晶構造を持たない、透明なペット樹脂です。衝撃強度が高く、曲げや真空成形などの加工がしやすいという特徴があります 。ペットボトル本体や、卵のパック、ブリスターパックなど、透明性と加工のしやすさが求められる製品に広く使われています。
一方、C-PETは結晶化させることで耐熱性を高めたペット樹脂です。分子が規則正しく並んでいるため密度が高く、強度に優れています 。透明性はA-PETに劣り、通常は白っぽい色をしています。この高い耐熱性を活かして、オーブンや電子レンジで加熱調理する冷凍食品のトレーなどに使用されます。
PET-Gは、製造過程で「グリコール」を加えて変性させたペット樹脂です。A-PETよりもさらに透明度が高く、衝撃にも強くなります。また、複雑な形状への加工がしやすく、厚みのあるプレートやディスプレイ、医療機器の部品などに利用されています。
これらの種類分けにより、ペット樹脂は非常に多岐にわたる製品に使用されています。
▼意外な用途の例
このように、ペット樹脂は容器包装のイメージが強いですが、実際には私たちの見えないところで社会の様々なインフラを支える重要な工業材料でもあるのです 。
ペット樹脂は熱可塑性樹脂であるため、加熱して溶かし、冷やして固めるという方法で様々な形状に加工されます 。金属加工とは異なるアプローチが取られますが、その目的や一部の考え方には共通点も見られます。ここでは、代表的な加工方法と、金属加工従事者にとって興味深い関連性について解説します。
▼代表的なペット樹脂の加工方法
加熱して溶かした樹脂を、金型内に高圧で射出し、冷却して固める方法です。複雑な形状の製品を大量生産するのに向いています。自動車部品、電子部品、キャップなど、精密な寸法が求められる工業製品の多くがこの方法で作られます。金属加工における「鋳造」に似たプロセスと言えるでしょう。
溶かした樹脂を「ダイ」と呼ばれる口金から連続的に押し出して成形する方法です。シート、フィルム、パイプ、繊維など、長尺の製品を作るのに適しています。ポリエステル繊維や、食品包装用のPETシートなどがこの方法で作られます 。
ペットボトルの製造に用いられる代表的な方法です。まず射出成形で「プリフォーム」と呼ばれる試験管のような形のものを作り、それを再度加熱して軟化させ、金型内で高圧の空気を吹き込んで膨らませて成形します。縦横二方向に引き伸ばしながら成形(二軸延伸)することで、分子が規則正しく並び、強度と透明性が格段に向上します 。金属加工における「鍛造」で金属の結晶を整えて強度を高めるプロセスと、考え方が似ていると言えます。
▼金属加工との関連性と独自視点
金属加工に携わる方々にとって、ペット樹脂は「代替材料」としての可能性を秘めた興味深い素材です。
このように、ペット樹脂は単なるプラスチックではなく、金属の特性を補完、あるいは代替しうる高機能材料としての一面を持っています。異種材料である樹脂の特性を深く理解することは、今後のものづくりにおいて新たな発想や技術革新を生み出すきっかけとなるでしょう。
ペット樹脂は「リサイクルの優等生」とよく言われます。日本国内でのペットボトルの回収率は非常に高く、2022年度には94.4%に達し、そのうち86.9%がリサイクルされています 。これは世界的に見ても極めて高い水準です。しかし、その輝かしい実績の裏には、あまり知られていない課題や問題点が存在します。
▼ペットボトルリサイクルの主な手法
リサイクルには、大きく分けて「マテリアルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」の2つの方法があります。
回収したペットボトルを洗浄・粉砕し、物理的な処理を施して再びプラスチック原料として再生利用する方法です。再生されたPETは、卵パックなどのシート材、衣類の繊維、そして再びペットボトル(ボトルtoボトル)などに生まれ変わります。比較的コストが低いのがメリットですが、異物の混入などにより品質が劣化しやすいというデメリットもあります。
回収したペットボトルを化学的に分解し、石油から作るのと同等の品質の原料に戻してから再利用する方法です 。品質の高いPET樹脂を再生できるため、何度でもペットボトルに戻すことが可能です。しかし、分解・再合成のプロセスに大規模な設備が必要で、コストが高くなるという課題があります 。
▼リサイクル現場が抱える深刻な問題点
高いリサイクル率を誇る一方で、現場では以下のような問題が深刻化しています。
参考)https://www.petbottle-rec.gr.jp/ring/vol37/bk_pdf/ring37all.pdf
参考)https://3r-forum.jp/activity/seminar_symposium/2025/20250220_maebashi/files/report_2.pdf
私たちは、ペットボトルをリサイクルボックスに入れるという行為の裏側で、多くの人々がコストと手間をかけて資源循環を支えているという事実を理解し、正しく分別排出することが求められます。
以下のリンクは、日本のペットボトルリサイクルの現状について、データに基づいて詳しく解説している権威性の高い情報源です。
ペット樹脂は透明なプラスチックとして広く使われていますが、同様に透明で、工業製品にも利用される素材として「アクリル樹脂(PMMA)」や「ポリカーボネート(PC)」があります。これらの素材は見た目が似ているため混同されがちですが、それぞれに異なる特性があり、用途に応じて使い分けられています。ここでは、それぞれの違いを比較し、材料選定のポイントを解説します。
▼ 特性の比較表
| 特性 | ペット樹脂 (PET) | アクリル樹脂 (PMMA) | ポリカーボネート (PC) |
|---|---|---|---|
| 透明性 | 非常に高い ✨ | 最も高い (光線透過率93%) 💎 | 高い (ガラスと同等) |
| 耐衝撃性 | 高い | 低い (割れやすい) ⚠️ | 極めて高い (PETの数倍、ガラスの200倍以上) 🛡️ |
| 耐熱性 | 60~150℃ (強化PETは240℃) |
70~90℃ |
120~130℃ |
| 耐薬品性 | 優れる (特に酸・アルカリに強い) | 一部の有機溶剤に弱い | アルカリ性に弱い |
| 加工性 | 曲げ・ブロー成形などが容易 | 切削・接着・曲げ加工が容易 | 切削・曲げ加工が可能 |
| 価格 | 安価 💰 | 中程度 | 高価 💸 |
| 主な用途 | ペットボトル、繊維、フィルム、工業部品 | 看板、水槽、ディスプレイ、照明カバー | ヘルメット、防弾盾、航空機の窓、スマホ筐体 |
▼ 各樹脂の使い分けポイント
「プラスチックの女王」とも呼ばれるほどの最高の透明度と、美しい光沢が最大の特徴です。水族館の巨大な水槽や、店舗のディスプレイ、看板などに使用されます。しかし、衝撃には非常に弱いため、割れやすいのが欠点です。強度よりも見た目の美しさや透明度が最優先される場面で選ばれます。
特筆すべきは、その圧倒的な耐衝撃性です。プラスチックの中では最高クラスの強度を誇り、「防弾プラスチック」の素材としても知られています。ヘルメット、機動隊の盾、スマートフォンのボディなど、人命や精密機器を守るための高い信頼性が求められる用途で活躍します。耐熱性もペット樹脂より高いですが、価格が高いことと、薬品(特にアルカリ)に弱いという弱点があります 。
ペット樹脂は、透明性、強度、耐薬品性、そして価格のバランスに最も優れた素材と言えます 。ポリカーボネートほどの強度や、アクリルほどの最高透明度はありませんが、多くの用途で十分な性能を発揮し、何よりコストパフォーマンスが高いです。また、リサイクルシステムが社会に定着している点も大きなメリットです 。
金属加工の現場においても、これらの樹脂の特性を理解することは、部品の設計や材料選定の際に非常に重要です。例えば、「カバー部品を作りたいが、コストは抑えたい。多少の衝撃がかかる可能性があるが、ポリカーボネートほど高強度でなくても良い」といった場合には、ペット樹脂が最適な選択肢となる可能性があります。それぞれの長所と短所を正しく評価し、目的に合った材料を選ぶことが、高品質なものづくりに繋がります。

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