温室効果ガス種類と金属加工における排出削減対策

金属加工業界における温室効果ガスの種類と排出源、そして効果的な削減対策について詳しく解説します。あなたの工場でも今日から始められる対策とは?

温室効果ガス種類と金属加工

温室効果ガスと金属加工の関係
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排出源の多様性

金属加工業では、製造プロセスや設備使用により様々な種類の温室効果ガスが排出されています

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環境負荷の定量化

排出量の把握と可視化が、効果的な削減対策の第一歩となります

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削減対策の重要性

SDGs達成と競争力強化のため、業界全体での取り組みが求められています

金属加工業界では、製造プロセスや設備の使用により、様々な温室効果ガスが排出されています。気候変動対策が世界的な課題となる中、金属加工業においても排出削減の取り組みが急務となっています。本記事では、主な温室効果ガスの種類とその特徴、金属加工業界における排出源、そして効果的な削減対策について詳しく解説します。

 

温室効果ガスの主な種類と特徴

温室効果ガスには複数の種類があり、それぞれ地球温暖化への影響度(地球温暖化係数:GWP)が異なります。金属加工業に関連する主な温室効果ガスは以下の通りです。

 

1. 二酸化炭素(CO2)
温室効果ガスの中で最も排出量が多く、金属加工においては以下の過程で発生します。

  • 燃料の燃焼(加熱処理など)
  • 電力使用(機械設備の稼働)
  • 材料の化学反応(金属の酸化など)

地球温暖化係数(GWP)は1と定義されており、他のガスの基準となっています。

 

2. メタン(CH4)
主に以下のような過程で発生します。

  • 燃料の不完全燃焼
  • 廃棄物処理過程

GWPはCO2の25倍で、大気中での寿命は約12年です。

 

3. 一酸化二窒素(N2O)
主に以下のような過程で発生します。

  • 化学物質の製造プロセス
  • 高温燃焼過程

GWPはCO2の298倍で、大気中での寿命は約114年と非常に長いのが特徴です。

 

4. フロンガス類
①ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
金属加工業では主に以下の用途で使用されています。

  • 冷凍空調機器の冷媒
  • 金属洗浄剤
  • 発泡剤(断熱材など)

GWPは種類によって12〜14,800と幅広く、地球温暖化への影響が非常に大きいガスも含まれています。

 

②パーフルオロカーボン類(PFCs)
主に以下のような用途で使用されています。

  • 半導体製造
  • 金属洗浄の溶剤

GWPは7,390〜17,340と非常に高く、大気中での寿命も数千年と極めて長いのが特徴です。

 

③六フッ化硫黄(SF6)
主に以下のような用途で使用されています。

GWPは22,800と極めて高く、大気中での寿命も3,200年と非常に長いです。

 

④三フッ化窒素(NF3)
主に以下のような用途で使用されています。

  • 半導体や液晶ディスプレイの製造
  • 太陽電池パネルの製造

GWPは17,200と非常に高く、近年排出量が増加しています。

 

温室効果ガスの種類や特性について詳しい情報はこちら

金属加工業界における温室効果ガス排出源

金属加工業界では、様々な製造プロセスや設備の使用により温室効果ガスが排出されています。主な排出源は以下の通りです。

 

1. 直接排出(Scope 1)
①燃料の燃焼

  • ボイラーや工業炉での加熱処理
  • 鋳造プロセスにおける金属の溶解
  • 自家発電設備

これらのプロセスでは主にCO2が排出されますが、燃焼条件によってはCH4やN2Oも発生します。

 

②工業プロセスからの排出

  • 金属の酸化反応によるCO2の発生
  • マグネシウム合金の鋳造におけるSF6やHFCの使用
  • 金属表面処理における各種ガスの使用

特に注意が必要なのは、マグネシウム合金の鋳造プロセスです。従来はSF6が保護ガスとして広く使用されていましたが、その高いGWPから代替ガスへの転換が進められています。

 

③金属洗浄プロセス

  • PFCsなどのフロン系溶剤の使用
  • 洗浄剤の揮発による排出

これらのガスは少量でも地球温暖化への影響が大きいため、回収・再利用システムの導入が重要です。

 

2. 間接排出(Scope 2)
①電力使用による排出

  • 加工機械の稼働
  • 空調・照明設備の使用
  • コンプレッサーなどの補助設備

日本の製造業では、温室効果ガス排出量の約60%がこの電力使用によるものとされています。

 

②熱供給による排出

  • 外部から購入する蒸気や温水の使用

3. バリューチェーン排出(Scope 3)
①原材料の調達・輸送

  • 金属素材の製造過程での排出
  • 輸送時の燃料消費による排出

②製品の使用・廃棄

  • 製品の使用段階でのエネルギー消費
  • 廃棄・リサイクル処理での排出

金属加工業界では、特に高電力を消費する設備(射出成形機、プレス機、切削機など)の使用が多いため、間接排出の割合が高い傾向にあります。実際のCO2排出量を把握するためには、これらの排出源をすべて考慮した総合的な分析が必要です。

 

工業プロセスにおける温室効果ガス排出についての詳細はこちら

金属加工工場のCO2排出量可視化ツール

温室効果ガス削減の第一歩は、現状の排出量を正確に把握することです。近年、金属加工業界向けに特化したCO2排出量可視化ツールが開発され、注目を集めています。

 

1. CO2排出量可視化ツールの概要
北九州市の株式会社ミラリンクが開発した金属加工工場向けCO2排出量可視化ツールは、工場の電気使用量からCO2排出量を算出し、グラフ化するソフトウェアです。このツールの特徴は以下の通りです。

  • 電気使用量の入力だけで簡単にCO2排出量を推定
  • 排出量の増減をグラフで一目で確認可能
  • 長期的な傾向分析が可能
  • 設備ごとの排出量比較も実施可能

2. 可視化ツールの導入メリット

  • 現状把握:どの工程・設備からどれだけのCO2が排出されているかを把握できる
  • 改善効果の確認:対策実施前後の比較が容易
  • 目標設定のサポート:数値に基づいた現実的な削減目標の設定が可能
  • 報告書作成の効率化:環境報告書やSDGs報告書作成時のデータ収集が容易に

3. 導入時のポイント
CO2排出量可視化ツールを導入する際には、以下のポイントに注意が必要です。

  • 計測ポイントの適切な設定:主要設備ごとの電力使用量を計測できるよう、計測ポイントを適切に設定する
  • データ収集の自動化:手動入力ではなく、可能な限りデータ収集を自動化する
  • 排出係数の定期的な更新:電力の排出係数は年々変化するため、最新の値を使用する
  • 間接排出だけでなく直接排出も考慮:燃料使用による直接排出も含めた総合的な分析を行う

4. 活用事例
ある金属加工会社では、CO2排出量可視化ツールの導入により、特定の切削機械が予想以上に電力を消費していることが判明しました。この機械の運転方法を見直すとともに、高効率モーターに交換したところ、年間約15%のCO2排出量削減に成功しました。

 

このように、可視化ツールは「見える化」によって無駄を発見し、効果的な対策を講じるための強力なツールとなります。

 

金属加工会社向けの環境対策とCO2可視化ツールの詳細はこちら

温室効果ガス削減に役立つ設備導入と対策

金属加工業界で実施できる温室効果ガス削減対策は多岐にわたります。環境省が提案する対策メニューを基に、特に効果の高い対策をご紹介します。

 

1. エネルギー効率の向上
①高効率設備への更新

  • 射出成形:電動式への切り替えにより消費電力を30〜50%削減可能
  • コンプレッサー:インバータ制御式の導入で負荷変動に対応し15〜30%の省エネ実現
  • 工業炉・ボイラー:高効率バーナーの導入で燃料消費を10〜20%削減

②運用改善

  • 空気漏れ対策:エア配管の定期点検と修理により5〜10%の省エネ効果
  • 断熱強化:工業炉や配管の断熱材追加で熱損失を5〜15%削減
  • 待機電力削減:使用していない設備の電源オフを徹底

2. 燃料転換

  • 化石燃料から電気への転換誘導加熱など電気を使用した加熱方式への変更
  • 低炭素燃料への切り替え:重油からLNGやバイオマス燃料への転換
  • 水素・アンモニア混焼:将来的には水素やアンモニアを混焼できる設備の導入

3. 代替ガスの使用

  • マグネシウム鋳造:SF6の代わりにHFC-134aや二酸化硫黄、フッ化スルフリルなどの代替ガスを使用
  • 金属洗浄:PFCsの代わりに水系洗浄剤や準水系洗浄剤、アルコール系洗浄剤への切り替え
  • 冷媒:高GWPのHFCsから低GWP冷媒や自然冷媒への転換

4. 排出ガス処理技術

  • 熱回収システム:廃熱を回収して他のプロセスで再利用
  • ガス回収装置:使用したガスを回収・再利用するクローズドシステムの導入
  • 分解装置:PFCsやSF6などを排出前に分解処理する装置の導入

5. 再生可能エネルギーの導入

  • 太陽光発電システム:工場屋根を活用した発電システムの導入
  • オンサイトPPA:初期投資なしで太陽光発電設備を導入できるスキーム
  • グリーン電力証書:再生可能エネルギー由来の電力証書の購入

6. デジタル技術の活用

  • スマートファクトリー:IoTセンサーによるリアルタイムのエネルギー管理
  • AI最適化:生産スケジュールの最適化によるエネルギー使用の効率化
  • 予知保全:設備の異常を早期発見し、効率低下を防止

実際に投資回収可能な対策から段階的に導入することが重要です。多くの場合、運用改善や低コストな対策から始め、設備更新のタイミングに合わせて高効率設備への入れ替えを検討するのが効果的です。

 

環境省による温室効果ガス排出量の算定方法と対策メニューの詳細はこちら

金属加工業界におけるSDGsと環境対応のメリット

温室効果ガス削減への取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、企業価値向上にもつながります。金属加工業界においてSDGsと環境対応に取り組むメリットを解説します。

 

1. ビジネス面でのメリット
①コスト削減

  • エネルギーコスト削減:省エネ対策により、年間電気代・燃料費の10〜30%削減が可能
  • 原材料の有効利用:歩留まり向上や再利用促進による材料コストの削減
  • 廃棄物処理コスト削減:廃棄物の減量化による処理費用の削減

実例:ある金属加工会社では、高効率機器への更新と運用改善の併用により、5年間で総エネルギーコストを22%削減することに成功しました。

 

②新規顧客の獲得

  • 取引条件としての環境対応:大手メーカーでは取引先に対するCO2削減要求が増加
  • 環境配慮製品の需要増:低炭素・カーボンニュートラル製品へのニーズ拡大
  • グリーン調達への対応:環境負荷の少ない製品・部品への需要増加

実例:自動車メーカーのサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル化要請に対応したことで、新規取引が拡大した金属加工メーカーが増えています。

 

③企業価値・ブランド力の向上

  • ESG投資の対象化:環境対応が進んだ企業への投資増加
  • 企業イメージの向上:環境意識の高い企業としての認知度アップ
  • 従業員満足度の向上:環境に配慮した企業で働くことへの誇り

2. 規制対応と将来リスクの回避
①カーボンプライシングへの準備

  • 炭素税や排出量取引制度の導入に先駆けた対応
  • 将来的なコスト増加リスクの低減

②サプライチェーンでの要求対応

③技術革新の促進

  • 環境対応技術の開発による競争優位性の確保
  • 省エネ・低炭素技術のノウハウ蓄積

3. 具体的な取り組み事例
①省エネ診断の活用
公的機関や民間企業が提供する省エネ診断サービスを活用することで、自社の課題を客観的に把握し、効果的な対策を見出すことができます。多くの場合、無料または低コストで利用可能です。

 

②補助金・税制優遇の活用
高効率設備への更新や再生可能エネルギー導入には、様々な補助金や税制優遇措置が用意されています。これらを活用することで、初期投資の負担を軽減できます。

 

③環境マネジメントシステムの導入
ISO14001やエコアクション21などの環境マネジメントシステムを導入することで、継続的な改善の仕組みを構築できます。

 

④カーボンニュートラル行動計画への参加
業界団体が推進するカーボンニュートラル行動計画に参加することで、業界全体での取り組みに貢献するとともに、最新情報や対策事例を共有することができます。

 

金属加工業界においても、環境対応は「コストがかかるもの」から「競争力を高めるもの」へと認識が変化しています。温室効果ガス削減の取り組みは、持続可能な企業経営のために不可欠な要素となっているのです。

 

日本国温室効果ガスインベントリ報告書で最新の排出状況を確認する
以上の内容から、金属加工業界においても温室効果ガス削減は避けて通れない課題であり、同時にビジネスチャンスでもあることがわかります。自社の現状把握から始め、コスト削減効果の高い対策から段階的に導入していくことで、環境と経済の両立を図ることが可能です。