金属加工業界では、製造プロセスや設備の使用により、様々な温室効果ガスが排出されています。気候変動対策が世界的な課題となる中、金属加工業においても排出削減の取り組みが急務となっています。本記事では、主な温室効果ガスの種類とその特徴、金属加工業界における排出源、そして効果的な削減対策について詳しく解説します。
温室効果ガスには複数の種類があり、それぞれ地球温暖化への影響度(地球温暖化係数:GWP)が異なります。金属加工業に関連する主な温室効果ガスは以下の通りです。
1. 二酸化炭素(CO2)
温室効果ガスの中で最も排出量が多く、金属加工においては以下の過程で発生します。
地球温暖化係数(GWP)は1と定義されており、他のガスの基準となっています。
2. メタン(CH4)
主に以下のような過程で発生します。
GWPはCO2の25倍で、大気中での寿命は約12年です。
3. 一酸化二窒素(N2O)
主に以下のような過程で発生します。
GWPはCO2の298倍で、大気中での寿命は約114年と非常に長いのが特徴です。
4. フロンガス類
①ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
金属加工業では主に以下の用途で使用されています。
GWPは種類によって12〜14,800と幅広く、地球温暖化への影響が非常に大きいガスも含まれています。
②パーフルオロカーボン類(PFCs)
主に以下のような用途で使用されています。
GWPは7,390〜17,340と非常に高く、大気中での寿命も数千年と極めて長いのが特徴です。
③六フッ化硫黄(SF6)
主に以下のような用途で使用されています。
GWPは22,800と極めて高く、大気中での寿命も3,200年と非常に長いです。
④三フッ化窒素(NF3)
主に以下のような用途で使用されています。
GWPは17,200と非常に高く、近年排出量が増加しています。
金属加工業界では、様々な製造プロセスや設備の使用により温室効果ガスが排出されています。主な排出源は以下の通りです。
1. 直接排出(Scope 1)
①燃料の燃焼
これらのプロセスでは主にCO2が排出されますが、燃焼条件によってはCH4やN2Oも発生します。
②工業プロセスからの排出
特に注意が必要なのは、マグネシウム合金の鋳造プロセスです。従来はSF6が保護ガスとして広く使用されていましたが、その高いGWPから代替ガスへの転換が進められています。
③金属洗浄プロセス
これらのガスは少量でも地球温暖化への影響が大きいため、回収・再利用システムの導入が重要です。
2. 間接排出(Scope 2)
①電力使用による排出
日本の製造業では、温室効果ガス排出量の約60%がこの電力使用によるものとされています。
②熱供給による排出
3. バリューチェーン排出(Scope 3)
①原材料の調達・輸送
②製品の使用・廃棄
金属加工業界では、特に高電力を消費する設備(射出成形機、プレス機、切削機など)の使用が多いため、間接排出の割合が高い傾向にあります。実際のCO2排出量を把握するためには、これらの排出源をすべて考慮した総合的な分析が必要です。
温室効果ガス削減の第一歩は、現状の排出量を正確に把握することです。近年、金属加工業界向けに特化したCO2排出量可視化ツールが開発され、注目を集めています。
1. CO2排出量可視化ツールの概要
北九州市の株式会社ミラリンクが開発した金属加工工場向けCO2排出量可視化ツールは、工場の電気使用量からCO2排出量を算出し、グラフ化するソフトウェアです。このツールの特徴は以下の通りです。
2. 可視化ツールの導入メリット
3. 導入時のポイント
CO2排出量可視化ツールを導入する際には、以下のポイントに注意が必要です。
4. 活用事例
ある金属加工会社では、CO2排出量可視化ツールの導入により、特定の切削機械が予想以上に電力を消費していることが判明しました。この機械の運転方法を見直すとともに、高効率モーターに交換したところ、年間約15%のCO2排出量削減に成功しました。
このように、可視化ツールは「見える化」によって無駄を発見し、効果的な対策を講じるための強力なツールとなります。
金属加工会社向けの環境対策とCO2可視化ツールの詳細はこちら
金属加工業界で実施できる温室効果ガス削減対策は多岐にわたります。環境省が提案する対策メニューを基に、特に効果の高い対策をご紹介します。
1. エネルギー効率の向上
①高効率設備への更新
②運用改善
2. 燃料転換
3. 代替ガスの使用
4. 排出ガス処理技術
5. 再生可能エネルギーの導入
6. デジタル技術の活用
実際に投資回収可能な対策から段階的に導入することが重要です。多くの場合、運用改善や低コストな対策から始め、設備更新のタイミングに合わせて高効率設備への入れ替えを検討するのが効果的です。
環境省による温室効果ガス排出量の算定方法と対策メニューの詳細はこちら
温室効果ガス削減への取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、企業価値向上にもつながります。金属加工業界においてSDGsと環境対応に取り組むメリットを解説します。
1. ビジネス面でのメリット
①コスト削減
実例:ある金属加工会社では、高効率機器への更新と運用改善の併用により、5年間で総エネルギーコストを22%削減することに成功しました。
②新規顧客の獲得
実例:自動車メーカーのサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル化要請に対応したことで、新規取引が拡大した金属加工メーカーが増えています。
③企業価値・ブランド力の向上
2. 規制対応と将来リスクの回避
①カーボンプライシングへの準備
②サプライチェーンでの要求対応
③技術革新の促進
3. 具体的な取り組み事例
①省エネ診断の活用
公的機関や民間企業が提供する省エネ診断サービスを活用することで、自社の課題を客観的に把握し、効果的な対策を見出すことができます。多くの場合、無料または低コストで利用可能です。
②補助金・税制優遇の活用
高効率設備への更新や再生可能エネルギー導入には、様々な補助金や税制優遇措置が用意されています。これらを活用することで、初期投資の負担を軽減できます。
③環境マネジメントシステムの導入
ISO14001やエコアクション21などの環境マネジメントシステムを導入することで、継続的な改善の仕組みを構築できます。
④カーボンニュートラル行動計画への参加
業界団体が推進するカーボンニュートラル行動計画に参加することで、業界全体での取り組みに貢献するとともに、最新情報や対策事例を共有することができます。
金属加工業界においても、環境対応は「コストがかかるもの」から「競争力を高めるもの」へと認識が変化しています。温室効果ガス削減の取り組みは、持続可能な企業経営のために不可欠な要素となっているのです。
日本国温室効果ガスインベントリ報告書で最新の排出状況を確認する
以上の内容から、金属加工業界においても温室効果ガス削減は避けて通れない課題であり、同時にビジネスチャンスでもあることがわかります。自社の現状把握から始め、コスト削減効果の高い対策から段階的に導入していくことで、環境と経済の両立を図ることが可能です。