バイオマスと再生可能エネルギーの基本と産業活用

バイオマスエネルギーは木質燃料やPKSなどの有機性資源から電力や熱エネルギーを生成する再生可能エネルギーです。直接燃焼方式や熱分解ガス化方式など多様な発電方式があり、カーボンニュートラルな特性により産業分野での活用が進んでいます。製造業や金属加工業でも省エネルギーや脱炭素化に向けたエネルギー転換が期待されていますが、燃料の安定調達やコスト面での課題もあります。バイオマス発電は今後の産業エネルギー戦略にどのような影響を与えるのでしょうか?

バイオマス再生可能エネルギーの基本

バイオマス再生可能エネルギーの概要
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バイオマスエネルギーとは

植物や動物由来の有機性資源を活用したカーボンニュートラルな再生可能エネルギー

発電方式の種類

直接燃焼方式、熱分解ガス化方式、生物化学的ガス化方式の3つの主要な発電技術

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産業用途での活用

製造業や金属加工業での省エネルギー化と脱炭素化への貢献

バイオマス発電の直接燃焼方式と特徴

バイオマス発電の直接燃焼方式は、木質チップやペレット、PKS(パーム核殻)などの固形バイオマス燃料を直接ボイラで燃焼させて蒸気を発生させ、蒸気タービンを回して発電する最も基本的な方式です。この方式は乾燥した木質系燃料が適しており、持ち運びしやすく貯蔵性に優れた燃料を効率的に利用できます。
参考)バイオマス発電|再生可能エネルギー図鑑|世界を変える!?再生…

 

木質ペレットは間伐材や製材残材を粉砕・乾燥・圧縮して円柱状に固めた燃料で、100%木材を原料としており接着剤等の添加物を一切使用しない再生可能でクリーンな燃料です。一方、PKS(Palm Kernel Shell)はアブラヤシの実からパームオイルを絞った後のヤシ種殻で、エネルギー量は1kgあたり約3,900~4,000kcalと木質ペレットとほぼ同等の高いカロリーを持ちます。
参考)https://www.rim-intelligence.co.jp/newsscope/01/204pks/

 

製造業における熱利用では、木材産業で約400の工場が木くず焚くボイラーを設置し、工場で発生した端材や樹皮などの残材を燃やして木材乾燥や工場内暖房に利用しています。さらに製鉄所やセメント工場では、間伐材等の木質バイオマスを石炭と混合利用する取り組みも見られ、産業用エネルギーの脱炭素化に貢献しています。
参考)木質バイオマスはどのように使われているのか:林野庁

 

バイオマス発電の熱分解ガス化方式

熱分解ガス化方式は、バイオマス燃料を直接燃焼するのではなく、酸素の少ない高温環境でガス状成分に変換する「ガス化」を行い、生成された可燃性ガスを燃焼することで発電する方式です。この方式では木屑や間伐材といった木質バイオマス燃料、食品工場から出る食品廃棄物などが原料として使用されます。
参考)バイオマスを利用した発電とは? 発電の仕組みや3つの種類を紹…

 

ガス化プロセスでは、一酸化炭素、メタン、水素などの可燃性ガスが生成され、これらは元の燃料よりも燃焼効率が高く、水分の影響を受けにくいという特徴があります。木材を熱分解してガス化する技術は、従来から木炭製造プロセスの一環として世界各地で行われてきた歴史ある技術です。
参考)バイオマス発電とは?仕組みやメリットを簡単に解説 - かんで…

 

金属加工業においても、この熱分解ガス化技術を活用することで、工場の排熱を効率的に回収してバイオマス炭化処理に利用するプロセスが開発されています。製鉄所などの高温プロセスから発生する排ガス顕熱を金属球蓄熱体を介して回収し、木質系バイオマスの炭化処理を行うことで、エネルギー損失を削減しながらカーボンニュートラルな固形燃料を生産できます。
参考)蓄熱体を用いるバイオマス迅速炭化プロセスおよび得られたチャー…

 

バイオマス発電の生物化学的ガス化方式

生物化学的ガス化方式は、バイオマス資源から微生物発酵によって可燃性ガスを取り出し発電に利用する方式で、特に水分の多いバイオマス原料に適しています。微生物の中には有機物を分解して水素やメタン、アルコールを発生するものがあり、家畜の糞尿や食品残渣など水分含有量の高い原料が効果的に利用されます。
この方式の最大の利点は、直接燃焼方式や熱分解ガス化方式では効率が低下する高水分含有物を有効活用できることです。メタン発酵により生成されるバイオガスは燃焼効率が高く、継続的なエネルギー生産が可能です。
参考)https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=2

 

製造業では、工場から発生する有機性廃棄物をこの方式で処理することにより、廃棄物処理とエネルギー生産を同時に実現できます。産業団地においてバイオマスを含む廃棄物焼却熱を産業用に利用することで、資源のより効率的な活用となり、産業用熱の気候変動対策として期待されています。
参考)バイオマス白書2024|トピックス|3 バイオマスの産業用熱…

 

バイオマス燃料のFIT制度と価格動向

バイオマス発電は固定価格買取制度(FIT)の対象となる再生可能エネルギーの一つで、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電と並んで制度の恩恵を受けています。2022年4月にはフィード・イン・プレミアム(FIP)制度も導入され、2022年6月末時点でバイオマス発電所は全国560カ所、計361万kWが稼働しています。
参考)伸び悩むバイオマス発電の現状(Ⅳ)

 

バイオマス発電の買取価格は発電規模によって異なり、10,000kW以上の大規模設備では入札制度により価格が決定されます。中規模設備では買取価格が30円や40円となる場合もあり、他の再生可能エネルギーと比較して高価格での買取が保証されています。買取期間は20年間と長期にわたり、安定した収益を見込むことができます。
参考)固定価格買取(FIT)制度の買取価格とは?再エネ種別に詳しく…

 

しかし、燃料価格の高騰が課題となっており、木質ペレットの輸入価格は2021年の19.7円/kgから2022年には30.5円/kgに、PKSも14.8円/kgから20.1円/kgに大幅上昇しています。現在、使用燃料の48.3%を輸入材が占めており、国産材の安定確保と価格安定化が重要な課題となっています。

バイオマス再生可能エネルギーの金属加工業への応用展望

金属加工業界では、バイオマス再生可能エネルギーの活用による脱炭素化への取り組みが加速しています。特に鉄鋼業界では、石炭コークスの代替燃料として植物由来のバイオコークスが注目されており、20MPa前後の成形圧力と160°C前後の高温高圧で植物由来バイオマスをホットプレス成形することで製造されます。
参考)成形圧力の異なるバイオコークスの物理的・化学的変化に関する研…

 

このバイオコークスは鉄鋼溶解炉(キュポラ炉)やガス化直接溶融炉において石炭コークスの代替燃料として期待されており、炉内で炭化が進行し燃料および還元剤として機能します。さらに、バイオマス添加によるメタラルジカルコークスの製造により、高炉や電気炉での化石燃料由来CO2排出量を削減する技術開発も進んでいます。
参考)高硬度バイオマス固体燃料の炭化href="https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspmee/3/5/3_295/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspmee/3/5/3_295/_article/-char/ja/amp;middot;燃焼特性

 

金属加工業での省エネルギー化事例では、志村プレス工業所がエアー漏れチェック機械や稼働状況の遠隔管理システム導入により年間数百万円の電気料金削減を実現し、ALFA製作所では電子ブレーカー導入により年間51,456円のコスト削減に成功しています。これらの省エネルギー技術とバイオマスエネルギーを組み合わせることで、より効果的な脱炭素化が期待できます。
参考)https://enetoku-navi.com/column/?id=metal-industry-energy-saving