風力発電のメリットとデメリット

風力発電は再生可能エネルギーの中でも特に注目される発電方式ですが、環境負荷の少なさや経済的なメリットがある一方で、発電量の不安定さや設置場所の制約などの課題も抱えています。特に金属加工業界においても関わりが深い風力発電の全貌を把握することで、今後の動向を正しく理解できるでしょう。風力発電は今後どのような方向に向かうのでしょうか?

風力発電のメリットとデメリット

風力発電のメリットとデメリット
🌱
環境負荷の少ない発電方式

CO2排出がほとんどなく、地球温暖化対策に大きく貢献

発電量の不安定さが課題

風の強さや方向に依存し、安定した電力供給が困難

🏭
金属加工業界との深い関係

タワーや基礎構造には大量の高品質鋼材が使用される

風力発電の環境面でのメリット

風力発電の最大の特徴は、発電時にCO2をほとんど排出しない点にあります。風の力のみで発電するため環境負荷が低く、燃料を燃やす必要がないことから、発電時にはCO2はもちろん、排気ガスや燃えカスなども発生しません。この環境負荷の少なさにより、地球温暖化対策の観点から大きなメリットとして評価されています。
参考)風力発電のメリット・デメリットを解説!日本の現状と普及に向け…

 

風力発電で使用される資源である風は枯渇することがなく、持続的に利用可能な自国のエネルギー資源として活用できます。化石燃料に依存しない発電方法として、エネルギー安全保障の面でも重要な役割を果たします。また、風力発電設備は一度設置すると運用コストが比較的低く、燃料の購入が不要であることがコスト削減に大きく寄与しています。
参考)https://u-power.jp/sdgs/future/000445.html

 

風力発電の経済的なメリット

風力発電は他の再生可能エネルギーと比較して、発電効率の高さで優れています。エネルギー変換効率は約25%で、適切な立地条件下では高い発電効率を実現し、経済的にも競争力のあるエネルギー源となっています。風力発電のエネルギー変換効率は水力発電との比較では大きく劣りますが、他の再生可能エネルギーとの比較では十分に優れた効率性を有しています。
参考)風力発電とは?仕組みや特徴、メリット・デメリットまでわかりや…

 

一定の強さの風が担保できる条件下では、太陽光発電と異なり昼夜を問わず連続して発電が可能です。時間帯によらず電力の安定供給に貢献できる点は、電力系統の安定化にとって重要なメリットです。設備利用率で見ると、風力発電は20-30%程度を維持できる場合が多く、太陽光発電よりも効率的に設備を利用できる傾向があります。
参考)風力発電の仕組みとは?メリット・デメリットも簡単に解説

 

地域社会においても風力発電は雇用の創出や地域経済の活性化につながります。風車の設置や保守・管理には現地での労働力が必要となるため、地域振興にも貢献する側面があります。

風力発電の発電量に関するデメリット

風力発電の最大のデメリットは、発電量が安定しづらい点です。風の状況(風況)に大きな影響を受ける発電方法であり、風況によっては発電量が少なくなる、または発電できないなどの問題が起きることもあります。発電には一定の風量が必要ですが、自然の力のため調整ができず不安定さは避けられません。
風力発電の稼働率の変動性は電力系統の安定性を維持する上での大きな課題となります。風速が一定の範囲内にある時に最も効率的に発電できるため、風速が低すぎても高すぎても発電効率は下がってしまいます。風が弱いとブレードが回転せず、逆に強風時には故障するリスクがあるため、ブレードの回転を止める必要があります。
風力発電の出力変動を補うために、他の電源や蓄電システムとの連携が必要になります。火力発電や水力発電などの調整力を持つ電源と組み合わせることで安定した電力供給を実現することが可能ですが、それには追加のコストがかかります。

風力発電の設置・運用上のデメリット

風力発電には設置場所に複数の条件が必要で、適切な立地選定が重要な課題です。風が強すぎても発電できず、風向きにも影響されるため、安定した風況の場所でなければ効果的な発電は期待できません。陸上風力発電では山の頂上付近など風況の良い場所が選ばれますが、アクセスが困難で建設・保守コストが高くなる場合があります。
風力発電設備は常に雨風にさらされているため、経年劣化しやすく、その分定期的なメンテナンスが必須となります。さらに落雷や台風などの自然災害で破損する可能性もあり、特に日本では地震、台風、津波などの自然災害に対して安定性を確保することも必要です。
参考)https://www.nipponsteel.com/common/secure/tech/report/pdf/422-14.pdf

 

ブレードが回転する際には低周波音が発生するため、騒音など周辺環境への影響が生じます。居住地域への騒音問題に配慮する必要があり、設置場所の選定において重要な要素となっています。また、鳥が風車に接触する事故(バードストライク)の発生など、特定の動物が生きる環境に影響を与えることがあります。

風力発電と金属加工業界の関係

風力発電設備は金属系材料の多消費型の発電設備であり、発電効率の向上のための大型化に対応して大量の鋼材が必要となります。特に洋上風力発電では、風車を支えるタワーや海面下のモノパイルなどが基礎部位として用いられ、これらは極厚板で大径の鋼製単管を溶接して製作されます。
参考)https://www.tokushuko.or.jp/publication/magazine/pdf/2014/magazine1407.pdf

 

現代の15MW級風車のローター直径は約250mに達し、東京都庁第一本庁舎に匹敵する高さになります。将来、このような巨大な風車が年間数10基建設される計画であり、タワーや支持構造物の製造には大量の鋼材が必要となります。風力発電機の多くの大型部品は鉄鋼、鋳造品であり、ナセル台板、タワー、アンカー、主軸などが鉄鋼の成型加工品として挙げられます。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/we-com/bn/vol_54/sec_1/1-2.pdf

 

洋上風力発電設備には高品質な鋼材が要求され、過酷な気象、海象条件の下で20年以上の長期間に渡り安定して稼働することが求められます。そのため、構造を構成するタワーおよび基礎には高品質な厚鋼板が使用され、TMCP(制御圧延制御冷却)技術などの先進的な金属加工技術が適用されています。
増速機やピッチ制御、ヨー駆動等の部位では特殊鋼部品が多用されており、金属加工業界にとって風力発電は重要な市場となっています。機械加工を行う企業では、自動車や建機部品の製造ノウハウを生かし、洋上風力発電設備のコア部品生産に乗り出すケースも見られます。
参考)洋上風力発電のコア部品生産開始