粘度指数向上剤の「VI値が高いほど良いオイル」とは限らず、SSIが低いメーカー品を選ぶだけで設備寿命が2倍近く延びることがあります。

粘度指数向上剤(Viscosity Index Improver、略してVII)は、潤滑油の温度による粘度変化を抑えるために配合される高分子ポリマー添加剤です。金属加工現場では切削加工や研削加工の際に油温が急激に変動するため、この添加剤が潤滑性能の安定に直結します。
液体は一般的に高温になると粘度が下がり、低温では粘度が上がる性質を持ちます。これが金属加工の現場で問題になります。
たとえば工作機械の油圧システムを想定してください。機械が冷えている始動直後と、数時間稼働した後では作動油の温度が20℃前後から80℃以上へ大きく変動します。このとき粘度指数向上剤が入っていない油だと、低温時は粘度が高すぎて動作が重くなり、高温時は粘度が下がりすぎて油膜が薄くなります。どちらも機械の摩耗につながります。
VIIはこの問題を、油溶性ポリマーの「温度による溶解状態の変化」を利用して解決します。つまり原理は温度制御です。
高温時にはポリマー分子鎖が伸びて広がり、油の粘度を底上げします。低温時には分子鎖が糸まり状に縮まり、粘度を必要以上に上げません。この挙動のおかげで、広い温度範囲でほぼ一定の粘度を保てるわけです。
粘度指数(VI値)はこの性能の指標で、値が高いほど温度による粘度変化が小さいことを意味します。基準として、温度依存性が極めて小さいペンシルバニア系潤滑油をVI=100、非常に大きいガルフ・コースト系鉱油をVI=0として定めています。現代の工業用潤滑油では、粘度指数向上剤を添加することでVI=150以上の高性能品も存在します。
金属加工現場での重要性は数字でも裏付けられます。ISO粘度分類では40℃動粘度をもとに20グレードが定められており(ISO VG 2〜ISO VG 3200)、たとえばよく使われる「ISO VG 46」の油圧作動油は40℃で動粘度が41.4〜50.6 mm²/sの範囲に収まっていなければなりません。これを幅広い温度域で保つためにVIIは欠かせない存在です。
参考情報:粘度指数の計算方法(JIS K2283)や工業用ISO粘度分類一覧が確認できます。
粘度指数とは?計算方法や粘度指数向上剤のメリット・デメリットを解説|JAX JAPAN
粘度指数向上剤は化学組成によって大きく2種類に分類されます。OCP系(オレフィンコポリマー)とPMA系(ポリメタクリレート)です。金属加工現場でメーカーを選ぶ際、この違いを把握していないと用途に合わない製品を選んでしまうリスクがあります。
まずOCP系です。エチレン・プロピレン共重合体を主成分とし、安価で大量生産が容易なため長年主流の地位を占めてきました。添加量が少量でもSAE粘度規格を満たせる増粘能力の高さが特徴です。ただし基油のSP値(溶解度パラメーター、約8.2)とOCP系のSP値がほぼ同じであるため、低温でも分子鎖が伸びたまま収縮しにくく、粘度指数向上性能はPMA系に劣ります。せん断安定性はグレードによって大きく異なります。
次にPMA系です。ポリメタクリル酸エステルを主成分とし、SP値が約9.0〜9.2と基油との差が適度にあるため、低温では収縮し高温では大きく広がるという挙動を取ります。この温度変化に対する応答幅の大きさが、OCP系より高い粘度指数向上性能につながります。金属加工用途での燃費向上や省エネ効果を求めるケースでPMA系が選ばれることが増えています。
これは使えそうです。
以下に代表的なメーカーと製品をまとめます。
| メーカー名 | 製品ブランド | 種類 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 三洋化成工業(日本) | アクルーブ | PMA系(一部OCP系) | エンジン油・ATF・CVTF・ギア油 |
| エボニック(ドイツ) | VISCOPLEX® | PMA系・OCP系 | 工業用油・油圧作動油・エンジン油 |
| ルーブリゾール(米国) | Acryloid / LUCANT | OCP系・PMA系 | エンジン油・ギア油・油圧油 |
| アフトンケミカル(米国) | HiTEC® | OCP系(固体・液体) | エンジン油・駆動系油 |
| インフィニウム(英国) | Parabar® | OCP系・SCP系 | エンジン油・産業用潤滑油 |
| クラレ(日本) | セプトン・クラレ液状ゴム | SEBS系・液状ゴム系 | グリース・工業油・油圧作動油 |
三洋化成工業の「アクルーブ」シリーズは国内トップシェアを持つPMA系VIIの代表格です。最新グレード「アクルーブ V-6000」シリーズは、独自の特殊長鎖アルキル基を持つオリジナルモノマーを共重合した構造で、従来品に比べて100℃高温高せん断(HTHS)粘度を約3〜15%低減できることが検証されています。金属加工に関わる変速機や油圧系統にも展開が進んでいます。
一方、クラレの「セプトン」はスチレン系熱可塑性エラストマーを利用した粘度調整剤で、OCP系と比べて20℃以下の低温環境でも高いVIと低い粘度を両立できる点が特徴です。良好なせん断安定性を持ち、高圧下でも機能することから、精密機械向けの油圧油グリース用途に適しています。
参考情報:国内主要PMA系VIIメーカー・三洋化成のアクルーブシリーズの技術詳細が確認できます。
多くの金属加工従事者が「VI値が高い製品を選べば問題ない」と考えがちですが、それは大きな落とし穴です。
粘度指数向上剤に配合されるポリマーは、機械内部のせん断力によって分子鎖が徐々に切断されます。この現象が「せん断劣化」であり、使用時間とともに粘度が低下していきます。これを数値化したのが「SSI(Shear Stability Index=せん断安定性指数)」です。
SSIの計算式は以下の通りです。
$$SSI = \frac{\text{新油粘度} - \text{使用後油粘度}}{\text{新油粘度} - \text{ベースオイル粘度}} \times 100 \, (\%)$$
数値が高いほどせん断によって粘度が大きく落ちることを意味します。これは痛いですね。
具体的な例で確認してみましょう。
| ケース | SSI | 新油粘度(100℃) | 使用後粘度(100℃) | 粘度グレードの変化 |
|---|---|---|---|---|
| ケース① | 50(高い) | 11 mm²/s | 8.5 mm²/s | 30番相当 → 20番相当に低下 ⚠️ |
| ケース② | 25(低い) | 11 mm²/s | 9.75 mm²/s | 30番相当を維持 ✅ |
ケース①ではSSIが50と高いため、新油時に「30番グレード相当」の粘度であっても、使用後には「20番グレード相当」に落ちてしまいます。これはほぼ別の油を使っているのと同じ状態です。一方ケース②ではSSIが25で粘度低下が抑えられ、30番グレードを維持できています。
つまり高VI値でも低SSIの製品は意味がないということです。
ただし、SSIの値だけで品質を判断するのも危険です。SSIが悪くても、そもそもベースオイルに近い粘度で少量のVIIしか添加していない設計であれば、実際の粘度低下幅は小さくなります。これはケース③(SSI50・添加量少)の例が示す通りで、SSI50でもケース②(SSI25・添加量多)と同程度の使用後粘度になることがあります。
SSI値だけ覚えておけばOKではありません。
メーカーに製品を相談する際は、「SSI値」と「ベースオイルからの増粘量」の両方をセットで確認するのが原則です。製品スペックシートに両方が記載されていない場合は、追加資料の提供をメーカーに求めてください。
重要なのは「せん断は一時的なもの」と「永久的なもの」の2種類があることです。高性能なVIIは一時せん断(高圧瞬時)も永久せん断(分子切断)も少なく、長期間にわたって新油の粘度を保ちます。普及品グレードのVIIを使うと安価にオイルは製造できますが、短時間で粘度が落ちて機器の保護性能が損なわれます。金属加工現場では設備1台あたりの損失コストが大きいため、VII品質のグレードダウンは長期的に見てコスト増になるケースが多いです。
参考情報:SSIの計算方法と具体的な粘度低下ケーススタディが詳しく解説されています。
粘度指数向上剤(VII)の真実 その2 せん断安定性(SSI)について|ミカド商事
金属加工現場ではさまざまな潤滑油が使われます。切削油、研削液、油圧作動油、ギア油などそれぞれの用途に応じてVIIの選定基準が変わります。ここでは実務的な選定フローを整理します。
ステップ1:使用環境の温度範囲を確認する
最初にすべきことは、潤滑油が使用される温度レンジの把握です。工作機械の油圧作動油の場合、油温が常温(20℃前後)から稼働後の高温(70〜90℃)まで変動します。切削加工では発熱により油温が局所的に100℃以上になるケースもあります。
温度幅が広いほど、粘度変化を抑えるためにVI値の高い製品が必要になります。
ステップ2:OCP系かPMA系かを選ぶ
コスト重視・大量使用の汎用油圧作動油には安価なOCP系が向いています。省エネ・省燃費効果を重視する精密機械や省電力型油圧ユニット向けにはPMA系を選ぶほうが長期的なメリットが大きいです。
以下の簡易早見表を参考にしてください。
| 用途 | 推奨タイプ | 主なメーカー製品例 |
|---|---|---|
| 汎用油圧作動油(工作機械) | OCP系 | アフトン HiTEC®、ルーブリゾール Acryloid |
| 省エネ型油圧システム | PMA系 | 三洋化成 アクルーブ V-6000、エボニック VISCOPLEX® |
| 低温環境(−20℃以下) | PMA系・SEBS系 | クラレ セプトン、エボニック VISCOPLEX® |
| 高せん断力のかかるギア・変速機油 | 低分子量OCP系 | アフトン HiTEC®、インフィニウム Parabar® |
| 精密機械・食品機械向け | PMA系(分散型) | 三洋化成 アクルーブ 1460 |
ステップ3:SSI値と添加量の両方を確認する
前節で触れた通り、SSIと添加量のセットで粘度低下リスクを評価します。メーカーの技術資料(TDS:Technical Data Sheet)には通常これらの値が記載されています。資料がない場合は問い合わせを行うのが確実です。
ステップ4:基油との適合性を確認する
OCP系はベースオイルとSP値が近く、幅広い鉱物油に溶解します。一方PMA系は基油のグループ(グループI〜V)によって溶解性に差が出ます。実は多くのオイルメーカーは自社製品に使用しているVIIが「何を溶媒にしているか」を把握していないという実態があります(グループI鉱油〜グループIII高精製鉱油まで様々)。これは業界内で意外と知られていない盲点です。基油グループが変わると添加剤の挙動が変わることがあるため、VII選定と合わせて基油グループも明示した上でメーカーに相談することを推奨します。
必要な情報は「用途・温度範囲・基油グループ・目標VI値・SSI目標」の5点です。これをまとめてメーカーに伝えるだけで、適切な製品候補を絞り込んでもらえます。
参考情報:切削油・潤滑油添加剤の種類と用途選定の全体像が体系的に確認できます。
多くの金属加工工場では、調達コスト削減の文脈で「安いVII(粘度指数向上剤)入り潤滑油」を選択しがちです。しかしこの判断が、設備の早期摩耗や予期しない停止損失につながることがあります。
コストの比較は「油そのものの単価」ではなく「1設備あたりの総コスト」で行う必要があります。
具体的な思考例として、油圧プレス機1台を想定します。
普及品グレードのOCP系VII入り油圧油(安価品)を使った場合、SSIが高く6か月ごとにオイル交換が必要になるとします。高性能PMA系VII入り油圧油(高性能品)であれば12か月の交換サイクルが維持できる場合、以下のコスト構造になります。
| 項目 | 安価品(SSI高) | 高性能品(SSI低) |
|---|---|---|
| 油単価(1回あたり) | 低い | 高い(安価品の1.3〜1.8倍程度) |
| 年間交換回数 | 2回 | 1回 |
| 交換作業工数 | 年2回分 | 年1回分 |
| 設備内部の摩耗リスク | 高(粘度低下による油膜薄化) | 低 |
| 年間トータルコスト傾向 | 高くなりやすい | 低くなりやすい |
これが基本です。
加えて、粘度指数向上剤が熱でカーボン化してスラッジを生成するリスクも忘れてはなりません。高温環境に長期間さらされたVII含有油はスラッジを発生させ、油路や精密バルブを詰まらせる可能性があります。スラッジ起因の設備修理は、部品交換だけでなく油路の洗浄作業まで必要になるため、1件あたりの修理コストが数十万円規模に達することも珍しくありません。
せん断劣化による粘度低下も同様です。油圧システムで作動油の粘度が設計値を下回ると、ポンプとバルブの内部リークが増加し、応答速度の低下や加圧力の不足が発生します。精密加工を行う現場では、これが直接的な製品品質の悪化と不良品発生率の上昇につながります。
安価なVIIでの「コスト削減」はぬか喜びになることがほとんどです。
対策として、油圧作動油の定期的な粘度チェックを実施することを推奨します。オイルサンプリングキットを使えば現場での簡易測定が可能です。粘度が初期値から20%以上低下していれば交換の目安と考えてください。また、使用しているオイルのTDS(技術データシート)と実測値を定期的に比較する「オイル管理台帳」を作ると、劣化傾向を可視化でき計画的なオイル管理が実現できます。
参考情報:粘度指数向上剤のスラッジ発生リスクと油圧作動油選定の詳細について確認できます。
油圧作動油とは?おもな種類や粘度の違いを解説|JAX JAPAN
ここからは、検索上位では扱われていない独自の視点から重要な盲点を解説します。
粘度指数向上剤は「添加剤の原液」の状態で供給されますが、この原液には溶媒としてベースオイルが使われています。そしてこの溶媒に使われているベースオイルのグループ(グループI〜IIIの鉱物油)が、実は製品によって異なります。驚くべきことに、市販のオイルメーカーの多くが自社製品のVIIに「どのグループの溶媒が使われているか」を把握していない、という実態がオイル添加剤業界では広く知られています。
これは何が問題なのでしょうか?
たとえばグループI鉱油を溶媒にしたOCP系VIIをグループIII高精製鉱油やエステル合成油ベースの金属加工油に添加した場合、溶解性や分散性に影響が出ることがあります。その結果、期待通りのVI値が出ない、スラッジが早期に発生するといった問題が現場で「なんとなく調子が悪い」として現れることがあります。
溶媒グループが合わない製品選定が原因です。
この問題を防ぐためには、VIIメーカーに対して「原液溶媒のベースオイルグループを明示してください」と明確に依頼する必要があります。大手メーカーの技術担当者はこの情報を持っていますが、営業窓口経由では出てこないケースがあります。技術文書(TDS)には記載されていない情報なので、直接の技術者間コミュニケーションが重要です。
また、金属加工油に特化した粘度指数向上剤の選定では、PMA系の「分散型」品種が有利な場合があります。三洋化成工業の「アクルーブ 1460」のような分散型PMA系VIIは、増粘作用に加えてスラッジの分散性にも優れており、金属加工由来の微細な汚染物質(切り粉の微粒子・酸化生成物)を油中に分散させる機能を持ちます。これは金属加工油ならではのニーズに応える設計です。
分散型は必須の選択肢です。
さらに見落とされがちな点として、「マルチグレード油の非ニュートン流体特性」があります。VIIを添加した潤滑油は非ニュートン流体となり、せん断速度が上がるほど粘度が下がる特性(擬塑性)を示します。金属加工の切削点では局所的に非常に高いせん断速度が生じるため、カタログスペックの粘度よりも実際の加工点粘度はかなり低くなることを念頭に置く必要があります。この観点から、高せん断下でも粘度を維持できる「高温高せん断粘度(HTHS粘度)」を確認することが重要です。カタログに記載されていない場合はメーカーに測定データを依頼してください。
参考情報:VIIの溶媒問題、オイルブレンドにおける基油とVIIの関係について詳しく解説されています。

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