位置ループゲインと速度ループゲインの正しい調整手順と加工精度への影響

位置ループゲインと速度ループゲインの調整は、金属加工の精度を左右する重要な工程です。正しい順序と比率を知らずに調整を進めると、加工不良や設備損傷につながることも。あなたの現場では正しく設定できていますか?

位置ループゲインと速度ループゲインの関係と正しい調整方法

位置ループゲインだけ上げても、加工精度はむしろ下がることがあります。


この記事の3つのポイント
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ゲイン調整には正しい順序がある

速度ループゲインを先に整えず、位置ループゲインだけを上げると発振・ハンチングの原因になります。内側のループから鍛えるのが鉄則です。

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多軸補間ではゲイン不一致が輪郭誤差を生む

X軸とY軸の位置ループゲインが一致していないと、円弧加工で真円が楕円になるなど、目に見える加工不良として現れます。

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オートチューニングには適用限界がある

オートチューニングが正常動作するのは慣性比100倍以下・回転速度150rpm以上などの条件を満たす場合のみ。条件外ではマニュアル調整が必要です。


位置ループゲインと速度ループゲインの基本的な役割とは

サーボモータの制御には、外側から「位置ループ」「速度ループ」「電流(トルク)ループ」という3重の制御ループが存在します。この入れ子構造を理解することが、ゲイン調整の出発点です。


位置ループゲインは、指令位置と現在位置のズレ(位置偏差)をどれだけ強く補正するかを決めるパラメータです。この値が大きいほど位置への追従性が高まり、整定時間が短くなります。逆に低すぎると、位置決めに時間がかかったり、目標位置への到達が遅れてサイクルタイムのロスにつながります。


速度ループゲインは、モータの実速度を指令速度に追従させる力の強さを決めるパラメータです。値を大きくするほど外乱(切削負荷の変動など)に対してすばやく反応し、モータ剛性が上がります。つまり速度ループゲインが高いほど、現場の外力に対して「ビクともしない」モータになります。


これを現場にたとえると、位置ループは「最終的にここまで動け」という指令を出す役割、速度ループは「その速度でちゃんと動け」を管理する役割です。この2つのループが連携してはじめて、精密な位置決めが実現します。


帯域幅(応答速度)の観点から言うと、内側のループほど応答が速くなければなりません。具体的には「電流ループ帯域幅 > 速度ループ帯域幅 > 位置ループ帯域幅」という序列が絶対条件です。


この順列が崩れると、制御システム全体が不安定になり、発振を引き起こします。これが基本です。



サーボモータのゲイン調整の基本については、オムロンの技術解説(サーボドライバの制御ループ構造・各パラメータの役割)が参考になります。


オムロン株式会社「サーボモータ/サーボドライバ 技術解説」(PDF)


速度ループゲインを先に調整すべき理由と具体的な手順

現場でよくある失敗が「タクトタイムを短縮したいから位置ループゲインを上げよう」という発想です。しかしこれは、速度ループ(内側のループ)が整っていない状態で位置ループ(外側のループ)だけを強化する行為であり、発振やハンチングの直接的な原因になります。


正しい調整手順は以下の通りです。まず速度ループゲイン(比例ゲイン)を少しずつ上げていき、振動や異音が出たら少し下げて安定点を探します。次に速度積分補償(積分時定数)を下げていき、やはり振動が出る手前で止めます。速度ループが安定してから、はじめて位置制御ゲインを上げていきます。最後にモデル制御ゲインを上げ、オーバーシュートが出ないように調整します。


この順序が重要な理由は、速度ループの応答速度が低いままでは、位置ループゲインを上げても「急げ」という指令に対してモータがついていけず、行き過ぎと戻り過ぎを繰り返すからです。内側が優秀なら、外側の命令が多少厳しくても問題なく追従できます。


SMC株式会社のゲイン調整マニュアルには、位置制御ゲインの上限値の目安として次の式が示されています。






















パラメータ 目安の上限値 備考
位置制御ゲイン(PG2) 速度制御ゲイン ÷(1+慣性比)× 1/4 〜 1/8 速度ゲインが十分整ってから設定
モデル制御ゲイン(PG1) 速度制御ゲイン ÷(1+慣性比)× 1/4 〜 1/8 整定時のオーバーシュートに注意
速度積分補償(VIC) 速度制御ゲイン ÷(1+慣性比)÷(2000〜3000)以上 単位はms。大慣性時は大きめに


これらの値は機械の慣性比(負荷イナーシャ÷モータイナーシャ)によって変化するため、慣性比の把握が前提となります。まず慣性比を把握するということですね。



三菱電機のサーボアンプを使用している場合のゲイン調整の考え方は、以下のFAQが参考になります。


三菱電機FA「サーボゲインについて」よくある質問


位置ループゲインの軸間不一致が引き起こす輪郭誤差の問題

マシニングセンタなどのCNC工作機械で円弧補間加工(たとえばφ100mmの穴加工や丸物の外周加工)を行う際、X軸とY軸の位置ループゲインが一致していないと、真円のはずの軌跡が楕円に歪む輪郭誤差が発生します。これは金属加工の現場では「サーボの不一致」と呼ばれる典型的なトラブルです。


どの程度ずれるのかというと、ゲイン差と送り速度に比例した運動誤差が輪郭形状に転写されます。たとえば送り速度3,000mm/minの加工を行う場合、X軸の位置ループゲインが40 rad/sでY軸が30 rad/sというように10 rad/sのズレがあると、その差が円弧の形状誤差として工作物表面に刻まれてしまいます。


SMC製ドライバのマニュアルでは、2軸以上の補間動作を行う場合は「補間モード」を使って各軸の位置制御ゲイン(PG1:モデル制御ゲイン)を同一値に合わせることが明示されています。補間モードでは速度ループゲインと積分補償はオートで最適化され、ユーザーはモデル制御ゲインだけを全軸で統一すればよい仕組みになっています。


単軸の位置決め精度だけを見てゲインを調整してしまうのは危険です。円弧加工など多軸補間を行う工程では、軸間のゲインバランスが加工品質を直接左右します。これが条件です。


精密部品の加工を請け負う現場では、サークルテスト(G02コマンドで小径の真円を描かせる検証)を定期的に実施し、真円度を計測することで軸間ゲインのズレを数値で把握しておくことが推奨されます。



CNC工作機械での位置ループゲインと輪郭誤差の関係については、以下が参考になります。


「適切なサーボパラメータを選択するにはどうすればよいですか?」


オートチューニングが使えない条件と、失敗しないマニュアル調整のポイント

「オートチューニングを使えば何とかなる」という認識は現場に広く存在します。しかし実際には、オートチューニング(AT)が正常動作するためには複数の条件を同時に満たす必要があります。


SMCのマニュアルによれば、オートチューニングモード1が正常動作するための条件は次のとおりです。



  • 2,000 r/min に達するまでの加減速時定数が5秒以下であること

  • 回転速度が150 r/min 以上であること

  • モータに対する負荷慣性モーメント比が100倍以下であること

  • 加減速トルクが定格トルクの10%以上であること


たとえば、大型ロータリーテーブルや重いワーク固定治具を取り付けた状態では、慣性比が100倍を超えるケースも珍しくありません。大慣性負荷はオートチューニングの盲点です。このような場合、ATを信頼して放置すると、実際には適切なゲインが設定されておらず、加工精度が確保できていない状態が続くことになります。


マニュアルモードに切り替えた場合は、まず慣性モーメント比を正確に求めることが出発点となります。慣性比の概算は「負荷の質量×回転半径²÷モータのロータイナーシャ」で計算できます。メーカー提供のMR Configurator2(三菱電機)やSigmaWin+(安川電機)などのセットアップソフトウェアを使うと、マシンアナライザ機能で機械の共振周波数を可視化しながら最適ゲインを探索できるため、マニュアル調整の精度と効率が大きく向上します。


これは使えそうです。共振周波数が100Hz以上の機械系では、まずノッチフィルタや適応フィルタで共振を抑制してからゲインを上げていくというアプローチが有効です。



安川電機SigmaWin+のオートチューニング・ゲイン調整機能の概要は以下で確認できます。


安川電機「SigmaWin+ Operation Manual」ゲイン調整関連ページ


速度ループゲインが低すぎると加工面に筋が入る──見落とされがちな品質問題

速度ループゲインは「上げすぎると発振する」という知識はよく知られています。一方で、「低すぎる場合の弊害」は見落とされがちです。これが意外な落とし穴になります。


東京大学の研究論文(リポジトリ公開)では、サーボモータとマシニングセンタの送り軸の関係について次のことが明らかにされています。速度ループゲインが高すぎる場合は、コーナー部(工具経路が曲がる箇所)で速度ループが発振気味になり、加工面に振動が転写されます。逆に速度ループゲインが低すぎる場合には、外乱抑圧性が不十分となり、加工面に一定間隔の「筋目」が発生します。


この筋目は、切削中の断続的な負荷変動(たとえばボールネジやリニアガイドの摩擦変動、工具の振れ)に対してモータが応答しきれず、速度がわずかに変動するために生じます。周期的な負荷変動があれば等間隔の筋、不規則な変動なら不規則な筋として現れます。


加工面の筋目は仕上げ面品質に直結するため、金属加工の現場では顧客クレームや追加工・再加工のコスト発生につながります。「仕上げ面が安定しない」「表面粗さが規格を外れる」という問題が繰り返し発生している場合は、速度ループゲインが低すぎる可能性を疑う価値があります。


対処としては、まず現状の速度ループゲイン設定値を確認し、試運転ログや波形モニタで速度の追従状況を観察します。振動を起こさない範囲で速度ループゲインを10〜20%ずつ段階的に上げ、加工面の変化を比較することで最適値を探れます。数値を変えたら加工面を確認するということですね。



速度ループゲインと加工面品位の関係については、以下の学術論文が詳しい考察を提供しています。


東京大学学術機関リポジトリ「サーボモータとマシニングセンタの送り軸の慣性モーメント比と加工特性」(PDF)


【現場目線】ゲイン調整でサイクルタイムを短縮する独自アプローチ

ゲイン調整は「不具合を直すもの」というイメージが強いですが、適切に行えばサイクルタイムの短縮にもつながります。これは現場でまだ十分に活用されていない視点です。


位置決め整定時間(モータが目標位置に到達してから許容偏差内に収まるまでの時間)は、ゲイン設定によって大きく変わります。整定時間を0.1秒削減できれば、1000回の動作で合計100秒の短縮になります。1日200ショット打つラインなら、年間で数十時間の生産効率向上に相当します。


具体的なアプローチとして有効なのは、三菱電機のMR Configurator2に搭載されている「ゲインサーチ」機能です。往復位置決め指令を自動で繰り返しながらゲインを段階的に変化させ、整定時間が最短になる組み合わせを自動探索します。人が感覚でゲインを変えながら何度も試運転するよりも、再現性が高く時間も大幅に短縮できます。


また、フィードフォワード機能を有効にすることで、指令値に対する追従遅れをさらに低減できます。フィードフォワードは、偏差が生じる前に先読みして補正する仕組みで、フィードバック制御だけでは限界のある高速・高精度な位置決めを実現します。これと速度ループゲインの最適化を組み合わせると、単独では達成できなかった整定性能が得られるケースがあります。


調整後は必ず、加工精度(寸法精度・表面粗さ)のデータを採取して効果を定量評価することが大切です。「なんとなく良くなった」ではなく、数値で管理することが品質の安定と顧客信頼につながります。数字で見て初めて改善です。



三菱電機のサーボシステムにおけるゲインサーチ・マシンアナライザ機能の詳細は、SMCの技術マニュアルも参考になります。


SMC株式会社「一般的なゲイン調整」技術マニュアル(PDF)