「計算通りのトルクで締めたのに、ガスケットが漏れた」—それはあなたの計算式に、見落とされた係数が1つあったからです。
ガスケット面圧の計算は、実は「全接触幅」ではなく「有効幅」という概念を出発点にします。これを間違えると、必要締付力が根本から狂います。
フランジをボルトで締め付けると、フランジ自体がわずかに外側へたわむ「フランジローテーション」が発生します。その結果、ガスケットの内径側は面圧が低くなり、外周側でシールが成立する構造になります。つまり、ガスケットの全面積がシールに寄与しているわけではありません。
このシールに実際に寄与している幅が「有効幅 b」、そしてシール境界となる径が「有効径 G」です。これらはまず「基本幅 b₀」を求めることからスタートします。
平面座フランジの場合の基本幅は以下の通りです。
| 条件 | 基本幅 b₀ | 有効幅 b | 有効径 G |
|---|---|---|---|
| b₀ ≦ 6.35 mm | N/2(Nはガスケット接触幅) | b = b₀ | ガスケット接触面の平均径 |
| b₀ > 6.35 mm | N/2 | b = 2.52√b₀ | ガスケット接触面の外径 − 2b |
実際の数値で考えてみます。ガスケット接触幅 N が 12 mm の平面座フランジの場合、b₀ = 12/2 = 6 mm となります。これは 6.35 mm 以下ですので、有効幅 b = 6 mm がそのまま使われます。
一方、N = 16 mm なら b₀ = 8 mm で 6.35 mm を超えます。この場合は b = 2.52 × √8 ≒ 7.13 mm となり、有効径 G は外径側から 2b を引いた径で計算します。
有効幅 b が正確に決まれば次のステップに進めます。これが基本です。
参考:バルクア株式会社によるボルト荷重の算出(JIS B 8265-2003 抜粋)の詳細解説
https://www.seal.valqua.co.jp/seal/gasket_detail_tech/009/
有効幅 b と有効径 G が求まったら、いよいよ締付荷重の計算です。JIS B 8265 では、「使用状態」と「締付初期」の 2 つの状態を独立して計算し、大きい方の値を採用します。
① 使用状態での必要最小ボルト荷重 Wm1
内圧によってフランジが開こうとする力(エンドフォース H)と、シールを維持するためにガスケットに加え続けなければならない力(Hp)の合計です。
ここで P は設計圧力(MPa)、m はガスケット係数です。m 値は無次元の係数で「内圧の何倍の面圧を維持すればシールできるか」を示します。
② 初期締付時の必要最小ボルト荷重 Wm2
ガスケットをフランジ面に密着させるために必要な力です。内圧は考慮しません。
y 値は「最小設計締付圧力」で単位は N/mm² です。「ガスケット材料をフランジ面の凹凸に押し込み、初期シールを形成するための最低面圧」を意味します。
使い分けのポイント
内圧 P が高いほど Wm1 が大きくなりやすく、内圧が低いまたはゼロに近い場合は Wm2 が支配的になります。JIS 規格に準拠する場合は必ず両方を計算し、大きい方を採用してください。
ジョイントシートガスケット(厚さ 1.5 mm)の代表的な数値は m = 2.75、y = 25.5 N/mm² で、同じ材料の厚さ 3.0 mm では m = 2.0、y = 11.0 N/mm² に変わります。厚さが変わるだけでも係数が大きく異なります。これは意外ですね。
| ガスケット種類 | 厚さ(mm) | m値 | y値(N/mm²) | 最大許容締付圧力(N/mm²) |
|---|---|---|---|---|
| ノンアスジョイントシート | 3.0 | 2.0 | 11.0 | 196.0 |
| ノンアスジョイントシート | 1.5 | 2.8 | 25.5 | 196.0 |
| PTFE単体 | 3.0 | 2.0 | 14.7 | 39.0 |
| 膨張黒鉛シート | − | 2.0 | 26.0〜29.4 | 120.0 |
| うず巻形ガスケット | − | 3.0 | 68.9 | 300.0 |
特に PTFE 系は最大許容締付圧力が 39 N/mm² と低めです。締めすぎによる圧壊が起こりやすい材料です。この点に注意が必要です。
参考:バルカー株式会社による各種ガスケットの m・y 値と推奨締付面圧の一覧表
https://www.seal.valqua.co.jp/seal/gasket_detail_tech/008/
JIS B 8265 の計算式(Wm1・Wm2)だけを使っていると、特に内圧が低い条件では締付力が不足するケースがあります。これが現場での漏れ事故につながる、意外な盲点です。
ニチアスをはじめとする主要ガスケットメーカーは、JIS 規定の Wm1・Wm2 に加えて独自の「Wm3」という締付力の基準を設けています。Wm3 はガスケット有効面積ではなく全接触面積 Ag に最小締付面圧 σ₃ を乗じた値です。
最終的な最小締付荷重 Wmin は Wm1・Wm2・Wm3 の中で最も大きい値を採用します。そして締付トルクは以下の式で計算します。
トルク係数 K の扱いには要注意です。
一般的に K = 0.2 として計算しますが、これはボルト・ナットが清潔で、適切な潤滑剤が塗布されている場合の値です。錆びたボルトや無潤滑の状態では K が 0.3〜0.4 近くまで上昇することがあります。
同じ締付トルクをかけても、K が 0.2 のときと 0.4 のときでは、ガスケットに実際に伝わる軸力(締付力)が半分以下になってしまいます。つまり計算どおりのトルクで締めても、潤滑が不適切ならシールは成立しません。
🔧 トルク計算の確認には、JIS 10K フランジ用のトルク値一覧表(ダイコー社)を参考にすると便利です。設計圧力 1.96 MPa、K = 0.2 の条件で各フランジ呼び径ごとの最小・許容締付トルクが一覧化されています。
参考:株式会社ダイコーによる JIS 10K フランジ用ジョイントシート最小締付トルク表
https://www.daiko-jp.com/torque_size/torque_10K_flange/
計算が正確でも、施工段階でのミスがあればすべて水の泡です。現場で実際に発生しやすい締付不良は 3 種類に集約されます。
🔴 ①締付不足(面圧が下限を下回る)
ガスケットに当たり幅が付かず、内圧によってガスケットが「噴き切れ」を起こします。主な原因はトルクレンチを使わない「手ルク」作業と、ボルトの錆や潤滑剤不使用による摩擦損失です。締付力の 30〜50% が摩擦で失われることも珍しくありません。
対策はシンプルです。トルクレンチを必ず使い、ボルトのネジ部と座面に指定の潤滑剤を塗布することが条件です。
🔴 ②過剰締付(面圧が上限を超える)
「漏れが怖いから強く締める」という判断が逆効果になるケースです。ジョイントシートならボロボロに砕け(圧壊)、うず巻形ガスケットなら内側に変形(座屈)して、シール機能を失います。
PTFE 系ガスケットの最大許容締付圧力は 39 N/mm² と低く、うず巻形(内輪なし)は PTFEフィラーのものが特に座屈しやすいです。内輪付きを選定することが原則です。
🔴 ③片締め(面圧が不均一)
隣り合うボルトを順に強く締めていくと、弾性相互作用によってすでに締めたボルトが緩んでしまいます。結果として、ガスケットの一部だけが潰れ、反対側に隙間ができます。
JIS B 2251 の対角(星形)締めと段階的な周回締めが正しい手順です。ボルト本数が 12 本以上の場合は、目標締付トルクの 110% に設定して弾性相互作用による低下分を補償します。8 本以下なら 100% で問題ありません。
締付途中でフランジ面間の距離をノギスで測定し、均等になっているか確認することも有効な手段です。これは使えそうです。
参考:株式会社ダイコーによるガスケット漏洩の 3 大原因「締付不良」と対策事例
https://www.daiko-jp.com/media/useful/a194
面圧の計算と施工が完璧でも、時間の経過とともに締付力は低下します。これを「応力緩和」と呼びます。多くの現場で見落とされる、設計と実運転のギャップです。
応力緩和のメカニズムはシンプルです。ボルトで締め付けられたガスケットは反発力を蓄えていますが、クリープ変形(材料がゆっくりと変形し続ける現象)によって反発力が徐々に失われ、ボルトが緩む方向に進みます。反発力がシールの維持に必要な面圧を下回ると漏えいが発生します。
材料ごとの応力緩和の大きさは次のように異なります。
| ガスケット種類 | 応力緩和の大きさ | ホットボルティング |
|---|---|---|
| ジョイントシートガスケット | 大(昇温後に硬化) | ❌ 厳禁(割れる) |
| PTFE 系ガスケット | 大(高温で軟化) | ❌ 厳禁(圧壊する) |
| うず巻形ガスケット(セミメタル系) | 小 | ⚠ 定量管理が必要 |
| メタル系ガスケット | 小 | ⚠ 定量管理が必要 |
運転中に漏れを発見して「熱いまま増し締め(ホットボルティング)すれば止まる」という判断は、ジョイントシートと PTFE 系では完全に逆効果です。ホットボルティングはこれら材料には厳禁です。
増し締めが必要な場合は、運転を停止してフランジが常温に戻ってから、本締め付けと同じ手順で実施することが原則です。本締め付け終了から 4 時間以上経過した後に 1〜2 周追加締めする方法が標準的な手順として推奨されています。
軟質系のガスケットを使う現場では、ホットボルティングを行わずに済むよう、最初から応力緩和分を見越した初期締付力の設定(Wm3 の活用など)が実務上の最善策です。これが基本です。
参考:ニチアス技術時報 2018 年第 2 号「ガスケットの締付管理について」(JIS B 8265・JIS B 2251・ASME PCC-1 に基づく締付管理の詳細解説)
https://www.nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/report/2018/381_04.pdf
同じ計算式を使っていても、特定の条件下ではその結果が大きなリスクにつながります。小口径フランジとガス系流体は、面圧計算の落とし穴が特に集中するポイントです。
⚡ 小口径フランジの過締めリスク
25A(呼び径 25 mm = 1 インチ)以下の小口径フランジでは、ガスケットの接触面積が非常に小さいため、トルクをほんの少し強く締めるだけでも面圧が急激に上昇します。
例えば 100A のフランジと 25A のフランジに同じトルクをかけた場合、25A のガスケットにかかる面圧は 100A のものと比べてはるかに高くなります。これは面積の違いが直接、面圧の差に反映されるためです。接触面積が 1/4 になれば、面圧は約 4 倍になる計算です。
小口径フランジの作業では「推奨トルクの下限から始め、ガスケットの潰れ具合を確認しながら段階的に締め込む」慎重な手順が求められます。痛いですね。
⚡ ガス系流体でのシール不足リスク
JIS 規格の m 値・y 値は、もともと 1943 年に水・蒸気を試験流体として提案されたものです。ガス系流体(分子量が小さく粘性が低い気体)は、液体と比べて微小な隙間を通り抜けやすい性質があります。
この差は数値にも表れており、バルクア社の推奨締付面圧では水・油系で 26〜35 N/mm²、ガス系で 40〜70 N/mm²(うず巻形)という値が示されています。同じ JIS の m・y 値を使って計算しても、ガス系流体の場合は実際にはより高い面圧が必要になるケースがあります。
ガス系流体を扱う現場では、JIS 規定の Wm1・Wm2 だけでなく、メーカー推奨のガス系流体用面圧(Wm3 等)を必ず確認することが重要です。結論は計算だけでなく、流体特性の確認が必須ということです。
フランジ面の表面粗さ(Ra 値)も見落とせません。液体シールでは 6.3 Ra、ガスシールでは 3.2 Ra 以下が推奨されています。面粗さが荒すぎると、計算上は面圧が足りていても実際のシールが成立しません。面粗さの確認は必須です。
参考:ジャパンマテックス社によるガスケット設計値 m 値・y 値の分かりやすい解説
https://note.com/japanmatex/n/n5e6c382a3ac2