エンジニアリングプラスチックとは 種類と特性、金属代替のメリットを徹底解説

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の基本、種類、特性、金属代替のメリットを解説します。この記事を読めば、エンプラの全てが分かります。あなたの知らないエンプラの力とは一体何なのでしょうか?

エンジニアリングプラスチックとは

エンジニアリングプラスチック徹底解剖
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基本と違い

汎用プラスチックにはない、優れた耐熱性・強度を持つエンプラの基礎知識を解説します。

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種類と特性

5大汎用エンプラからスーパーエンプラまで、多様な種類とその特性、具体的な用途を紹介します。

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金属代替の利点

軽量化やコスト削減だけじゃない!金属からエンプラに置き換えるメリットを深掘りします。

エンジニアリングプラスチックの基本と汎用プラスチックとの違い

 

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは、一般的なプラスチック(汎用プラスチック)と比較して、特に機械的強度や耐熱性、耐薬品性などを大幅に向上させた高機能なプラスチックの総称です 。明確な定義はありませんが、一般的に耐熱性が100℃以上、引張強度が50MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上の性能を持つものがエンプラに分類されます 。
私たちの身の回りにあるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、塩化ビニル樹脂(PVC)といった汎用プラスチックは、安価で加工しやすい反面、熱に弱く、高い強度が求められる用途には不向きです 。一方、エンプラはこうした汎用プラスチックの弱点を克服し、これまで金属材料が使われてきたような自動車部品、機械部品、電気・電子部品といった過酷な環境でも使用できる性能を持っています 。
エンプラと汎用プラスチックの最も大きな違いは、その「性能」と「価格」です。エンプラは特殊な分子構造を持ち、ガラス繊維や炭素繊維などを配合してさらに性能を高めることも可能ですが、その分、汎用プラスチックに比べて価格は高くなります 。しかし、その高い性能により、金属部品の代替として採用することで、製品全体の軽量化やコスト削減、性能向上を実現できるため、多くの産業分野で利用が拡大しています 。

  • 性能: エンプラ耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、耐薬品性などに優れる 。
  • 用途: 汎用プラスチックが日用品に多いのに対し、エンプラは工業製品や精密機器に多く使われる 。
  • 価格: 高機能な分、エンプラは汎用プラスチックよりも高価 。

より詳細なプラスチックの分類や定義については、以下のリンクで専門的な情報がまとめられています。
旭化成 エンプラ総合情報サイト - プラスチックの種類と特徴

エンジニアリングプラスチックの主要な種類とそれぞれの特性・用途

エンジニアリングプラスチックは、その性能や用途によって大きく「汎用エンプラ」と、さらに高性能な「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」に分けられます 。特に市場で広く使用されている5種類の汎用エンプラは「5大汎用エンプラ」と呼ばれ、エンプラ全体の生産量の多くを占めています 。

5大汎用エンプラ

これらはコストと性能のバランスに優れ、非常に幅広い用途で活躍しています 。

  • ポリアミド(PA): 「ナイロン」という商標名で知られ、優れた靭性、耐摩耗性、耐薬品性を持ちます。自動車のエンジンカバーやギア、衣料用の繊維など、その用途は多岐にわたります 。
  • ポリカーボネート(PC): 非常に高い透明性と衝撃耐性を誇り、「弾ガラス」にも使われる素材です。スマートフォンの筐体やヘルメットのシールド、自動車のヘッドライトカバーなどに利用されています 。
  • ポリアセタール(POM): 自己潤滑性に優れ、摩擦・摩耗が少ないのが特徴です。時計の歯車やファスナー、自動車の燃料系部品など、精密な動きが求められる部品に最適です 。
  • 変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE): 寸法安定性、耐熱水性に優れています。自動車のホイールキャップや電気・電子部品の筐体などに使われます 。
  • ポリブチレンテレフタレート(PBT): 電気特性や耐薬品性に優れ、成形性も良好です。自動車のコネクタやスイッチ類、キーボードのキーキャップなどに広く採用されています 。

スーパーエンジニアリングプラスチック

汎用エンプラを超える、さらに過酷な環境に対応できるのがスーパーエンプラです。耐熱性が150℃以上と非常に高く、航空宇宙産業や医療分野など、極限の性能が求められる領域で使用されます。

種類 略称 主な特性 代表的な用途例
ポリフェニレンサルファイド PPS 優れた耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、難燃性 自動車の電装部品、ポンプ部品、半導体製造装置部品
ポリエーテルエーテルケトン PEEK 最高クラスの耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐放射線性 航空宇宙部品、医療用インプラント、半導体製造装置のウエハーキャリア
液晶ポリマー LCP 極めて高い寸法安定性、薄肉流動性、低吸湿性 スマートフォンやPCの超小型コネクタ、精密電子部品
ポリイミド PI 非常に高い耐熱性、優れた電気絶縁性、機械的強度 航空宇宙用の断熱材、フレキシブルプリント基板

各エンプラの詳細な物性データ比較表は、以下の専門サイトで確認できます。
バルカー・エンジニアリングプラスチック加工 - エンプラの材質比較

エンジニアリングプラスチックによる金属代替のメリットとデメリット

近年、自動車産業をはじめとする多くの分野で、金属部品をエンジニアリングプラスチックに置き換える「金属代替」の動きが加速しています 。これは、エンプラが持つ多くのメリットによるものです。

メリット ✅

  • 軽量化: エンプラの比重は鉄の約1/5~1/7程度と非常に軽いため、製品の大幅な軽量化が可能です 。特に自動車分野では、車体の軽量化が燃費向上に直結するため、金属代替が積極的に進められています 。
  • コスト削減: 金属加工で必要な切削や研磨といった後工程が、射出成形などにより不要または簡略化できるため、製造プロセスの短縮と人件費の削減に繋がります 。また、複雑な形状の部品も一体成形で製造できるため、部品点数の削減によるコストダウンも期待できます 。
  • 設計の自由度向上: 金属では加工が難しい複雑な形状や、薄肉製品の設計が容易になります。これにより、デザイン性の高い製品や、従来にない機能を持つ製品の開発が可能になります 。
  • 機能性の付与: エンプラは、金属にはない様々な特性を持っています。例えば、錆びない「防錆性」、電気を通さない「絶縁性」、薬品に侵されにくい「耐薬品性」などです 。これらの特性を活かすことで、めっきや塗装などの追加処理なしで製品に新たな機能を付与できます 。

デメリット ⚠️

  • 初期コスト: 射出成形などを行うための金型製作に、高い初期投資が必要となる場合があります。そのため、小ロット生産では金属加工の方がコスト的に有利になることもあります 。
  • 強度・剛性・耐熱性: スーパーエンプラのような高性能な材料も登場していますが、依然として多くのエンプラは、一般的な金属材料と比較すると強度、剛性、耐熱性の面で劣ります。特に高温環境下での長期的な使用には注意が必要です。
  • 寸法安定性: プラスチックは金属に比べて熱膨張係数が大きく、温度変化による寸法変化が起こりやすいです。また、PAのように吸湿によって寸法が変化する材料もあるため、精密な寸法精度が求められる部品への適用には、材料選定と設計段階での十分な検討が不可欠です 。

エンジニアリングプラスチックの意外な弱点とそれを克服する最新技術

多くのメリットを持つエンジニアリングプラスチックですが、万能というわけではありません。特に「耐候性」と「吸水性」は、設計者や加工技術者が見落としがちな弱点と言えるでしょう。しかし、近年の技術開発により、これらの弱点を克服する様々なアプローチが登場しています。

意外な弱点:紫外線による劣化

屋外で使用されるプラスチック製品が、太陽光を浴びて変色したり、表面がボロボロになったりするのを見たことがあるでしょう。これは主に紫外線による劣化が原因です。エンプラも例外ではなく、特にPOMやPAは耐候性が低く、屋外での長期使用には向いていません 。紫外線によってポリマーの分子鎖が切断され、強度や靭性といった本来の性能が著しく低下してしまうのです。
克服する技術: この弱点を克服するため、耐候性改良剤(紫外線吸収剤や光安定剤)を添加する技術が一般的です。また、製品の表面に耐候性の高いアクリル系塗料やフッ素系塗料をコーティングする手法も有効です。さらに最近では、材料自体をナノレベルで改質し、紫外線による劣化メカニズムそのものを抑制する新しいエンプラの開発も進んでいます。

意外な弱点:水を吸うことによる変化

「プラスチックは水を吸わない」というイメージがあるかもしれませんが、PA(ナイロン)に代表されるいくつかのエンプラは、水分を吸収しやすい性質(吸水性)を持っています 。水分を吸収すると、材料が膨張して寸法が変化したり、強度が低下したりすることがあります。精密な寸法精度が要求される歯車や機構部品において、この吸水による寸法変化は致命的な問題となり得ます。
克服する技術: 従来は、使用環境の湿度を考慮して、あらかじめ寸法変化量を予測した上で設計を行うといった対策が取られてきました。しかし近年では、吸水率そのものを大幅に低減した「低吸水PA」の開発が進んでいます。また、ガラス繊維や炭素繊維を配合して複合材料化することで、吸水による寸法変化を抑制する技術も広く用いられています。これにより、高湿度環境下でも安定した性能を維持することが可能になりました。
これらの技術情報についてより深く知るには、材料メーカーが公開している技術資料を参照することをお勧めします。
ポリプラスチックス株式会社 - 設計支援

エンジニアリングプラスチックの選定・加工時に押さえるべきポイント

エンジニアリングプラスチックの性能を最大限に引き出すためには、用途に応じた適切な材料を選定し、その材料特性に合った加工を行うことが極めて重要です。ここでは、選定と加工の際に押さえるべき基本的なポイントを解説します。

材料選定のポイント 🔍

材料選定で失敗しないためには、製品に求められる要求特性を明確にすることが第一歩です。以下の項目をチェックリストとして活用しましょう。

  • 機械的特性: 必要な強度、剛性、靭性、耐衝撃性はどれくらいか? 長期的な荷重に対する耐クリープ性も考慮する必要があります。
  • 熱的特性: 使用される最高温度・最低温度は? 連続使用温度や、荷重たわみ温度といった指標を確認します 。
  • 化学的特性: 使用環境で接触する可能性のある薬品(油、溶剤、酸、アルカリなど)に対する耐性は必要か?
  • 電気的特性: 高い絶縁性や、逆に導電性が求められるか?
  • 寸法精度: どの程度の寸法精度が求められるか? 吸水性や熱膨張率の低い材料を選ぶ必要があるかを検討します 。
  • コスト: 材料費だけでなく、加工コストも含めたトータルコストで判断することが重要です 。

加工(射出成形)時のポイント 🏭

エンプラの加工で最も一般的な射出成形では、材料の特性を理解した上で成形条件を最適化することが、不良の発生を防ぎ、高品質な製品を生み出す鍵となります。

  1. 予備乾燥: PCやPA、PBTなど多くのエンプラは吸湿しやすく、成形前に十分な乾燥が必要です。材料中の水分は、成形品の表面不良(シルバーストリーク)や物性低下の原因となります。材料メーカーが推奨する乾燥温度と時間を必ず守りましょう。
  2. 成形温度(シリンダー温度・金型温度): 成形温度は、樹脂の流動性や成形品の品質に大きく影響します。温度が低すぎると充填不足やウェルドライン(材料の合流跡)が発生し、高すぎると樹脂の熱分解による強度低下や変色、ガス焼けなどが起こります。特に結晶性樹脂(POM、PAなど)は、金型温度が結晶化度や寸法に大きく影響するため、適切な温度管理が不可欠です。
  3. 射出圧力と速度: 射出圧力と速度は、金型内への樹脂の充填をコントロールする重要なパラメータです。速度が速すぎるとジェットフロー(蛇行)やバリが発生しやすくなり、遅すぎるとショートショット(充填不足)やヒケ(表面の凹み)の原因となります。
  4. 保圧と冷却時間: 保圧は、充填後の樹脂の収縮を補うためにかける圧力です。保圧が不十分だとヒケやソリが発生します。冷却時間は、成形品が金型内で固化し、取り出せる強度を持つまでの時間です。この時間が短いと、変形や寸法不良の原因となります。

これらのポイントに加え、成形不良の原因と対策に関する知識を深めることが、安定した生産に繋がります。以下のサイトでは、具体的な不良現象とその対策が分かりやすく解説されています。
株式会社日本製鋼所 - 射出成形技術サポート・不良対策

 

 


エンジニアリングプラスチック (高分子新素材One Point 1)