低圧側にだけ1個入れれば十分だと思っていると、機器が壊れても保証が下りない場合があります。
バックアップリングとは、OリングなどのシールパッキンをサポートするためにOリングの低圧側(はみ出し側)に装着する補助部品です。高圧がかかったときにOリングが溝の隙間に食い込んで損傷する「はみ出し現象(押し出し現象)」を防止するのが主な役割で、それ自体にシール機能はありません。
この点は意外に見落とされがちです。つまりシールするのはOリングの仕事、はみ出しを止めるのがバックアップリングの仕事というように、役割が完全に分離されています。
公的規格としては「JIS B2401-4(Oリング−第4部:バックアップリング)」が基準です。2012年に改正された現行規格であり、2019年の法改正によって「日本工業規格」から「日本産業規格」へ名称が変更されています。旧規格であるJIS B2407は廃止されており、この点も現場での混同が起きやすいポイントです。
また、JIS B2401-4はISO 3601-4(2008年発行)を基に作成された規格ですが、国内で使用されてきたバックアップリングへの適用も可能にするため、技術的内容が一部変更されています。ISO規格とJIS規格は「完全一致」ではなく「修正(MOD)」の関係にある点も押さえておきましょう。
一般に、流体圧力がおよそ4MPa(キロパスカルに換算すると4,000kPa)を超える場合、バックアップリングの使用を検討する必要があります。4MPaは一般的な油圧機器の低圧側としてよく出てくる数値です。これを超える高圧環境では、Oリングの硬度だけではシールを維持できなくなるケースが増えるため、バックアップリングとの組み合わせが必要になります。
なお、空気圧用機器については、JIS B2401-4においてバックアップリングは原則不要と明示されています。油圧と空気圧でバックアップリングの要否が変わるというのは、現場でしばしば混同されるポイントです。
参考:JIS B2401-4のバックアップリング規格詳細(パッキンランド)
https://www.packing.co.jp/ORING/bur-oringindex1.htm
JIS B2401-4では、バックアップリングの種類を材料・色・形状によって区分しています。代表的な規格品は以下の6種類です。
| 種類 | 材料 | 色 | 形状 |
|---|---|---|---|
| T1 | 四フッ化エチレン樹脂(PTFE) | 乳白色 | スパイラル |
| T2 | 四フッ化エチレン樹脂(PTFE) | 乳白色 | バイアスカット |
| T3 | 四フッ化エチレン樹脂(PTFE) | 乳白色 | エンドレス |
| F1 | 充填材入りPTFE | 茶褐色 | スパイラル |
| F2 | 充填材入りPTFE | 茶褐色 | バイアスカット |
| F3 | 充填材入りPTFE | 茶褐色 | エンドレス |
各形状の特性は、JIS B2401-4の条文に圧力・温度の使用条件として明確に規定されています。
これが基本の選定基準です。
現場でありがちな思い込みとして「装着しやすいから常にT2でよい」という判断があります。しかし、25MPaを超えるような高圧条件でT2を選んでしまうと、バックアップリング自体がはみ出す可能性があります。規格が求める圧力条件に合わせた選定が原則です。
充填材入り(F1〜F3)については、ISO 3601-4ではガラス(15質量%)・カーボン(10〜15質量%)・ブロンズ(40質量%)入りのPTFEが紹介されています。ただしJIS B2401-4では物性値・種類記号がまだ確定していないため、充填材入りの詳細規定はJISからは除かれています。実際の使用においてはメーカーへの確認が必要です。
なお、旧JIS B2407には「L(皮・エンドレス)」という種類が存在していましたが、1967年の改正時点ですでに削除されており、現在の規格にはありません。皮製バックアップリングは完全に過去のものです。
参考:バックアップリングの役割と使い方(tec-note)
https://tec-note.com/2233
バックアップリングの寸法は、Oリングの種類(P規格・G規格・ISO-F・ISO-S)に対応して決定されます。バックアップリングの幅(半径方向)は、バックアップリングを使用する際のハウジング溝の深さに合わせて設計します。
重要なのは、バックアップリングを使用する場合、Oリング単体の溝寸法とは異なる「専用の溝寸法」が必要だという点です。バックアップリングなしの状態とありの状態では、溝の幅寸法(b1・b2・b3)がまったく異なります。Oリング用の溝にそのままバックアップリングを追加しようとしても入らない、または入っても正しく機能しないケースが生じます。ここが設計段階での最も多いミスのひとつです。
厚さについては、たとえばOリングの太さが3.53mmの場合、バイアスカット・エンドレスの厚さは1.4±0.1mm、スパイラルは0.7±0.05mmと定められています。スパイラルの厚さが約半分になっているのは、スパイラルが2重に重なる構造のためです。許容差は非常に厳しく、0.05〜0.1mm以内に収める必要があります。
製品の識別コードも規格で定義されています。たとえばP規格・G規格用の場合、「BR JIS B2401-4-T1-P20」と記載します。これは「バックアップリング(BR)・JIS B2401-4規格・スパイラル(T1)・呼び番号P20」を意味します。
ISO規格(F・S規格)用はさらに詳細で、Oリングの太さ・用途記号(PD/PS/RD/RS)・ロッド径・ハウジング溝径まで含めた長い文字列になります。たとえば「BR JIS B2401-4-T1-699-RD-020000-021180」はOリング太さ6.99mm・ロッド運動用・ロッド径200.00mm・ハウジング溝径211.8mmを示します。
識別コードを正確に読むことで、発注ミスや部品の取り違えを防ぐことができます。識別コードの確認が条件です。
参考:JIS B2401-4規格の全文(kikakurui.com)
https://kikakurui.com/b2/B2401-4-2012-01.html
装着の基本ルールはシンプルです。バックアップリングはOリングの「低圧側(はみ出す側)」に配置します。圧力が加わると、Oリングは高圧側から低圧側に向かって押し出されようとするため、低圧側にバックアップリングを置くことで物理的にそれを防ぎます。
両側から交互に圧力がかかる場合(複動式シリンダーなど)は、Oリングの両側にバックアップリングを1個ずつ配置します。規格では、片方向からの圧力しかかからない場合でも、取り付けミス防止のため2個使用することが「望ましい」とされています。これは重要な視点です。現場でコストを理由に1個で済ませているケースがあっても、規格上は2個が推奨なのです。
T1(スパイラル)やT2(バイアスカット)を装着する際は、切れ目の向きにも注意が必要です。スパイラルはハウジングの奥の方へ巻き付いていくよう適切な方向に回して装着します。バイアスカットも圧力側から見て切れ目の方向を確認してから組み込む必要があります。端末が浮き上がった状態で挿入すると、組み立て時に噛み込んで損傷するリスクがあります。
損傷が見えない位置で起きた場合、そのまま組み付けてしまうという「見えないトラブル」が最も厄介です。設計段階で、バックアップリングの装着状況が目視確認できる構造にしておくことが重要です。目視できない設計は避けることが基本です。
OリングとバックアップリングをうっかりOリングを低圧側・バックアップリングを高圧側と逆に入れてしまうミスも発生します。逆に入ると、バックアップリングが圧力を受けてはみ出し、かえってシールの破損につながります。装着後の検査工程を設け、工程管理で防止する体制が求められます。
参考:バックアップリング装着位置の詳細(パッキンランド)
https://www.packing.co.jp/ORING/bur-oringindex1.htm
ここでは、規格を知っていても現場で見落とされやすいポイントを整理します。
まず、エンドレス(T3)の変形装着についてです。一体型の溝に装着する際、T3は大きく変形させる必要があります。「変形しすぎておかしいのでは」と思ってT2に変えてしまうケースがありますが、変形しても圧力がかかれば正しく馴染んで機能します。装着困難を理由に安易に形状を変えないことが重要です。
次に、充填材入りPTFE(F1〜F3)の使用場面についてです。茶褐色の充填材入りは白色の純PTFEよりも硬く、耐圧性が高い材料です。しかしJIS B2401-4では充填材の物性値が正式に規定されていないため、F1〜F3はメーカーのスペックを個別確認する必要があります。たとえばブロンズ(銅合金)入りPTFEは40質量%という高濃度の充填を行うことで機械的強度が大きく向上しますが、作動流体との化学的適合性を必ず事前に確認しなければなりません。使用前の確認は必須です。
また、JIS規格とISO規格の違いも確認が必要です。ISO 3601-4ではコンケーブ形状(凹面型)の2種類が規定されていますが、JIS B2401-4はこれを除外しています。理由は装着時に方向性があり、誤装着による漏れトラブルを引き起こすリスクがあるためです。JIS規格で調達しているつもりがISO規格品が混在するケースは、国際調達が増えている現在では特に注意が必要です。
さらに見落とされがちなのが、バックアップリングの材料検査規定です。JIS B2401-4では、PTFEの引張強さ14.7MPa以上・伸び100%以上・タイプD硬さ50以上・寸法安定性±0.5%以下という厳格な材料特性が規定されています。安価な代替品を使用した際にこれらの基準を満たさない場合、耐圧性能が大きく低下するリスクがあります。材料品質の確認が条件です。
最後に、温度と圧力の複合条件を見落とすケースが増えています。たとえばT1(スパイラル)は使用温度100℃超の場合、圧力が10MPa未満でなければなりません。しかし現場では「スパイラルは10〜20MPaで使える」という情報だけが独り歩きし、高温条件の制限が見落とされることがあります。機器の温度変化が激しい環境では、選定時に温度条件の確認を忘れないようにしましょう。
参考:バックアップリングのサイズ選定(桜シール株式会社)
https://www.sakura-seal.co.jp/category/1928190.html