PET(ポリエチレンテレフタレート)は、私たちの生活に欠かせないプラスチック素材の一つです 。その最も際立った特徴は、ガラスに匹敵するほどの高い透明性です 。この透明性は、PETが非晶性(アモルファス)の状態を保つことで実現されます 。製造過程で溶融したPETを急速に冷却することで、分子が規則正しく並ぶ「結晶化」を防ぎ、光が透過しやすい構造を作り出しているのです 。
しかし、PETは単に透明なだけではありません。以下のような多くの優れた特徴を併せ持っています。
このように多岐にわたる優れた特性から、PETは食品容器や飲料ボトルはもちろん、工業用フィルム、繊維、電気部品など、非常に幅広い分野で活躍しています 。
下記に、PET樹脂の結晶化に関する学術的なレビューが記載されています。
Crystallization of Poly(ethylene terephthalate): A Review
PET樹脂は、単体ではエンジニアリングプラスチックとして見た場合、必ずしも強度が高い素材とは言えません 。特に衝撃に対しては脆いという弱点があります 。しかし、この弱点は「ガラス繊維強化」という手法によって劇的に改善されます。
ガラス繊維をPET樹脂に混ぜ込むことで、複合材料(FRP: Fiber Reinforced Plastics)となり、以下のように機械的特性が飛躍的に向上します。
| 特性 | 非強化PET | ガラス繊維強化PET | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| 強度・剛性 | 比較的低い | 大幅に向上 | 金属部品の代替として使用可能になる |
| 耐熱性 | 連続耐熱温度 約150℃ 。ペットボトルは50℃程度で変形 。 | 熱変形温度 240℃以上 | 高温環境下での使用が可能になり、電子レンジ対応容器などにも利用される |
| 寸法安定性 | やや低い | 向上 | 温度変化による変形が少なくなり、精密部品への適用が可能になる |
このように、ガラス繊維強化PETは、単なるPETとは全く異なる高性能エンジニアリングプラスチックとして、自動車のエンジンルーム内パーツ、電気・電子部品のコネクタやハウジング、精密機械のギアなど、従来金属が使われていた領域にも進出しています 。
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一方で、意外な事実として、PETは-60℃という極低温環境下でもその特性を維持できる優れた耐寒性も持っています 。この幅広い温度対応力も、PETの用途を広げる一因となっています。
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PETは熱可塑性樹脂であり、加熱すると軟化し、冷却すると固まる性質を利用して、様々な形状に加工することが可能です 。金属加工とは異なる、樹脂特有の加工方法を理解することは、材料のポテンシャルを最大限に引き出す上で非常に重要です。
主な加工方法とその特徴は以下の通りです。
特に金属加工に従事されている方にとって、切削加工は馴染み深い方法ですが、樹脂の場合は熱伝導率が低く、切りくずの排出性も異なるため、金属と同じ感覚で加工すると失敗することがあります。工具の選定や回転数、送り速度など、樹脂加工特有のノウハウが必要です。
PET樹脂は、その化学構造の安定性から、幅広い薬品に対して優れた耐性を持つことが知られています 。特に、油類や多くの有機溶剤に対して強いことが大きなメリットです 。
✅ 耐性のある主な薬品
この特性から、PETは機械部品のカバーや、薬品を扱う装置の部品、食品用の包装材など、様々な環境で安心して使用することができます 。
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しかし、金属加工の現場でPETを使用する際には、いくつか注意すべき点があります。
⚠️ 注意が必要な薬品・環境
独自視点として、金属加工現場で日常的に使用される「切削油」との相性について考えてみましょう。多くの切削油(特に鉱物油ベースのもの)に対してPETは良好な耐性を示しますが、アルカリ性の強い水溶性切削油や、特殊な添加剤を含むものを使用している場合は注意が必要です。事前に材料のサンプルでテストを行い、変色、ひび割れ、強度の低下などが起こらないか確認することが、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。
PETは、リサイクル性に非常に優れたプラスチックとしても知られています 。日本におけるPETボトルのリサイクル率は非常に高く、2023年度には85.0%に達しています 。これは世界でもトップクラスの水準です。
回収された使用済みPETボトルは、選別・洗浄された後、フレーク状やペレット状の再生原料となり、様々な製品に生まれ変わります。近年注目されているのが、使用済みPETボトルから新たなPETボトルを作る「ボトルtoボトル」と呼ばれる水平リサイクルです 。これにより、新たな石油資源の使用を抑制し、持続可能な社会の実現に貢献しています。
参考)https://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2024/2024_p06_11.pdf
しかし、PETのリサイクル用途はボトルだけにとどまりません。以下のような多岐にわたる製品にリサイクルされています。
そして、ここからはあまり知られていない意外なリサイクル事例を紹介します。最近の研究では、粉砕したPETをセメントモルタルに混ぜ込むことで、軽量で断熱性の高い建材を作る試みが進められています 。これは、プラスチックごみの新たな活用法として期待されており、従来の埋め立てや焼却に代わる、より付加価値の高いリサイクル手法となる可能性があります。さらに、PETを分解する能力を持つ微生物や酵素の研究も進んでおり、将来的には化学的な手法でPETを原料レベルまで分解し、完全に再生する「ケミカルリサイクル」の技術が確立されることも期待されています 。
リサイクル技術の進展は、PETの価値をさらに高め、環境負荷の少ないサステナブルな素材としての地位を確固たるものにしていくでしょう。
下記は、日本のPETボトルリサイクルの現状に関する公式な年次報告書です。