材料PC、すなわちポリカーボネートは、「エンジニアリングプラスチック」に分類される高機能な樹脂素材です 。最大の特徴は、なんといってもその驚異的な耐衝撃性にあります 。同じ厚みのガラスの約200倍、アクリルの約30倍もの衝撃強度を誇り、ハンマーで叩いても簡単には割れません 。この特性から「防弾素材」としても利用されるほどです 。
また、光線透過率は85〜91%とガラスに匹敵するほどの高い透明性も兼ね備えています 。この透明性と耐衝撃性の両立が、ポリカーボネートを唯一無二の存在にしています 。さらに、耐熱性にも優れており、使用可能温度は-40℃から120℃と非常に広範囲です 。これにより、高温環境下での使用や、寒冷地での利用にも耐えることができます。
一方で、よく比較される素材にアクリル(PMMA)があります。アクリルはポリカーボネートよりもさらに透明度が高く、表面の硬度も高いため傷がつきにくいというメリットがあります。しかし、耐衝撃性ではポリカーボネートに大きく劣ります。以下に両者の違いをまとめました。
| 項目 | ポリカーボネート(PC) | アクリル(PMMA) |
|---|---|---|
|
| 非常に高い(アクリルの約30倍)💪 | 比較的低い |
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透明性
| 高い(光線透過率85-91%) | 非常に高い(光線透過率93%)✨ |
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| 高い(約120℃) | やや低い(約80℃) |
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表面硬度
| 傷がつきやすい | 傷がつきにくい |
|
価格
| アクリルより高価 | 比較的安価 💰 |
このように、ポリカーボネートは耐衝撃性を最優先する用途に、アクリルは透明性や意匠性を重視する用途に適していると言えるでしょう。それぞれの特性を理解し、用途に応じて最適な材料を選ぶことが重要です。
ポリカーボネートは加工性にも優れた素材で、様々な方法で望みの形状にすることができます 。代表的な加工方法としては、切削加工、曲げ加工、接着加工などが挙げられます 。
切削加工 ⚙️
マシニングセンタやNCルーター、旋盤などを用いて、板材から部品を削り出す加工法です 。ポリカーボネートは比較的粘り気のある素材のため、切削時には以下の点に注意が必要です。
参考リンク:ポリカーボネートの切削加工について、より詳細な情報や加工事例が掲載されています。
ポリカーボネートの加工と特徴 - 株式会社プラポート
曲げ加工 🔥
ポリカーボネートの曲げ加工には、主にヒーターによる線曲げと、プレスブレーキによるコールドベンド(冷間曲げ)があります。しかし、ポリカーボネートは吸湿性が高く、加熱すると内部の水分が気化して発泡(シルバーストリーク)を起こしやすいという弱点があります。そのため、加熱を伴う曲げ加工は推奨されていません 。
やむを得ず加熱曲げを行う場合は、加工前に予備乾燥(アニーリング)を徹底することが不可欠です。120℃程度の環境で数時間乾燥させることで、材料内部の水分を除去し、発泡を防ぎます。一方、コールドベンドは常温で曲げるため発泡の心配はありませんが、曲げR(半径)を板厚の100倍以上(屋内使用時)確保しないと、クラック(ひび割れ)の原因となるため注意が必要です 。
接着加工 接着剤を使ってポリカーボネート同士や他の素材と接合します。ポリカーボネート専用の接着剤(二塩化メチレンや溶剤系接着剤)を使用します。接着面をきれいに清掃し、接着剤を均一に塗布することが重要です。強度が必要な場合は、ボルトやリベットによる機械的接合も併用されます。
ポリカーボネートの優れた特性は、私たちの身の回りの様々な製品に活かされています 。CDやDVDのディスク基板、スマートフォンの筐体、自動車のヘッドランプレンズ、ヘルメット、そして高速道路の防音壁などがその代表例です 。
しかし、その用途はそれだけにとどまりません。意外なところでは、以下のような分野でも活躍しています。
さらに、環境問題への関心の高まりから、サステナブルなポリカーボネートの開発も進んでいます。植物由来の原料を用いたバイオポリカーボネートや、使用済みの製品から再生されたリサイクルポリカーボネートなどが実用化されつつあります 。これらの新しいポリカーボネートは、従来の石油由来の製品と同等の性能を維持しながら、二酸化炭素排出量の削減や、循環型社会の実現に貢献するものとして、大きな期待が寄せられています。
参考リンク:リサイクル可能な新しいプリント基板の材料として、ポリカーボネート系の材料が研究されています。
Recyclable vitrimer-based printed circuit board for circular electronics - arXiv
非常に優れた特性を持つポリカーボネートですが、弱点も存在します。その特性を正しく理解し、適切に取り扱うことが、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。
薬品耐性(ストレスクラッキング) ⚠️
ポリカーボネートの最大の弱点の一つが、特定の有機溶剤やアルカリ性の薬品に弱いことです。これらの薬品に接触すると、「環境応力亀裂(エンバイロメンタル・ストレス・クラッキング、ESC)」と呼ばれる微細なひび割れが生じ、強度が著しく低下します 。特に、アセトン、シンナー、トルエンなどの溶剤や、アルカリ性の洗浄剤、一部のオイルやグリスには注意が必要です。切削油の選定や、洗浄時の薬品には十分配慮してください。
傷つきやすさ 🩹
表面硬度が比較的低いため、アクリルなどと比べると傷がつきやすい素材です。清掃の際は、柔らかい布を使用し、乾拭きは避けて水で濡らして固く絞った布で拭くようにしましょう。研磨剤入りのクリーナーは絶対に使用しないでください。傷を防ぐために、表面にハードコート処理を施したポリカーボネート板も市販されています。
吸湿性 💧
前述の通り、ポリカーボネートは吸湿性が高い素材です。保管する際は、湿気の少ない場所に置き、ビニール袋などで密閉することをお勧めします。特に、射出成形や真空成形などの高温で加工を行う前には、必ず予備乾燥(アニーリング)を行ってください。乾燥が不十分だと、成形品に「シルバーストリーク」と呼ばれる銀色の筋状の模様が発生したり、気泡が入ったりする原因となります 。
紫外線による劣化 ☀️
ポリカーボネートは耐候性に優れていますが、長期間屋外で紫外線にさらされると、徐々に黄変したり、表面が劣化して強度が低下したりすることがあります。屋外で使用する場合は、耐候性を高めるためにUVカット処理が施されたグレードの製品を選ぶことが重要です。カーポートの屋根などに使用されているのは、この耐候性グレードのポリカーボネート板です 。
これらの注意点を理解し、適切な管理と加工を行うことで、ポリカーボネートの優れた性能を最大限に引き出すことができます。万が一、加工中にトラブルが発生した場合は、これらの原因を一つずつチェックしてみてください。

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