グリスをたっぷり入れるほど、ベアリングは早く壊れます。
テーパーローラーベアリングは、ラジアル荷重(軸に垂直な方向の荷重)とアキシャル荷重(軸方向の荷重)の両方を同時に受けられる構造を持っています。旋盤主軸、圧延機、コンベアの駆動軸など、金属加工現場で大きな荷重がかかる箇所に広く採用されているのがこの軸受です。
荷重が大きいということは、転動体と軌道輪の接触面にかかる圧力も高く、潤滑が不十分になれば摩耗・発熱・焼付きが急速に進みます。グリスはこの接触面に油膜を形成し、摩擦と摩耗を防ぐ役割を担っています。つまり、グリスの管理がそのままベアリングの寿命管理につながります。
グリス潤滑が選ばれる理由は、密封構造の簡素さにあります。油潤滑と比べてシール構造が単純で済むため、粉塵や切削液が飛散する金属加工環境でも扱いやすいという利点があります。ただし、油潤滑と比べると冷却効果は劣るため、高速・高温域での使用には別の検討が必要です。
グリスはただ塗ればよいというものではありません。種類・量・補給タイミングのすべてが正しくて初めて、ベアリングの性能が発揮されます。
| 項目 | グリース潤滑 | 油潤滑 |
|---|---|---|
| 密封装置 | 簡易 | やや複雑 |
| 潤滑性能 | 良い | 非常に良い |
| 回転速度対応 | 低・中速向き | 高速まで対応 |
| 冷却効果 | ほぼなし | 良い(循環必要) |
| 異物ろ過 | 困難 | 容易 |
出典:JTEKT(光洋)ベアリングの基礎知識「潤滑の目的と方法」を参考に編集
参考:グリース潤滑と油潤滑の特性比較について詳しく解説されています。
潤滑の目的と方法 | ベアリングの基礎知識 – JTEKT(光洋)
グリスは「基油 + 増ちょう剤 + 添加剤」の3成分で構成されています。このうち、ベアリングへの適性を最も左右するのが増ちょう剤の種類です。増ちょう剤は基油を半固体状に保持する役割を担っており、これが異なるグリスを混合してはいけない最大の理由でもあります。
産業機械・金属加工設備で最も広く使われているのはリチウム石けん系グリスです。汎用性が高く、耐水性・せん断安定性ともに優れており、常用温度範囲はおよそ−30℃〜120℃。コストパフォーマンスも高いため、汎用機械から精密機械まで幅広く採用されています。
使用温度が120℃を超える高温環境では、ウレア(尿素化合物)系グリスが適しています。ウレア系は化学的に安定しており、一般品で最大180℃、高性能品では200℃以上に耐える製品も存在します。切削熱や摩擦熱が発生しやすいプレス機の主軸など、熱的に厳しい箇所への採用例が多いです。
ちょう度(グリスの硬さの指標)については、転がり軸受には一般にNLGI 2号が標準として使われます。NLGIとはグリスの硬さを0〜6の数字で表す国際規格で、2号はピーナッツバター程度の硬さです。低速・重荷重の条件では3号(より硬め)、高速・軽荷重では1号(やや柔らかめ)が選ばれることもあります。
使用環境別の目安を整理すると、下記の通りです。
グリスの選定に迷う場合は、NTN・NSK・JTEKT(光洋)などベアリングメーカーの技術資料に使用条件ごとの推奨グリス一覧が掲載されているので、まず使用機器のメーカー指定品を確認することをお勧めします。
参考:増ちょう剤の種類・特性・適用温度について分かりやすく解説されています。
ベアリングコラム 初心者講座5「ベアリング用グリース」– JTEKT(光洋)
「グリスは多いほど安心」という考えは、現場でよく見られる誤解のひとつです。実は逆で、封入量が多すぎるとベアリングが急速に傷む原因になります。
NTNやJTEKTなど主要ベアリングメーカーの技術資料では、グリスの適正封入量は軸受空間容積の30〜40%程度とされています。ハウジング全体を含む場合でも、空間容積の60%以下に抑えるのが目安です。
グリスを入れすぎると何が起きるのかを具体的に見てみましょう。グリスが多すぎると、ベアリングが回転するたびにグリスが激しく撹拌されます。この撹拌による内部摩擦で熱が発生し、ベアリング内部の温度が急上昇します。100℃を超えるとグリスの酸化劣化が急速に進み始め、基油が蒸発・変質して潤滑性能が失われます。さらに高温が続くとシールへの圧力も上昇し、シール破損から外部への漏れ、そして異物の混入と悪循環が始まります。これが最終的に、「なぜか早くベアリングが焼付いた」という現場トラブルの正体です。
逆に封入量が少なすぎると、油膜が切れて金属同士の直接接触が起き、摩耗が加速します。つまり多すぎても少なすぎてもダメ、ということです。
封入量のイメージを掴みたい場合は、ローラーとレースの間のすき間がグリスで薄く覆われ、かつ余剰グリスがローラーの外側にわずかに確認できる程度が目安になります。ローラー全体がグリスで埋もれているような状態は入れすぎのサインです。
また、グリスを補給する際は「古いグリスが新しいグリスによって確実に押し出されているか」を確認することが重要です。古いグリスが内部に残ったまま新しいグリスが重なると、酸化した成分が潤滑を妨げます。
参考:グリース封入量の根拠数値と過剰封入のリスクを解説している公式資料です。
グリスを補給・交換するとき、「前と違うメーカーのグリスを足してしまった」という経験はないでしょうか。種類が異なるグリスを混合することは、現場レベルでは軽視されがちですが、実は重大なトラブルの原因になり得ます。
異種グリスを混合した場合、増ちょう剤同士が化学的に反応することがあります。その結果、均一な潤滑性能が失われるだけでなく、不溶解物や固形物が生成され、流動性が低下して硬い塊ができることがあります。この塊がベアリング内部の狭いすき間に詰まると、グリスが正常に潤滑できなくなります。
増ちょう剤の組み合わせによる混合の可否は下表の通りです。
| 増ちょう剤 | リチウム石けん | ウレア | カルシウム石けん | アルミニウム石けん |
|---|---|---|---|---|
| リチウム石けん | ○ | △ | ✕ | |
| ウレア | ○ | △ | ||
| カルシウム石けん | △ | ○ | △ | |
| アルミニウム石けん | ✕ | △ | ○ |
○:一般に両方の性質に応じた変化をする △:かけ離れた変化をすることがある ✕:著しくかけ離れた変化をする
特に注意すべきはリチウム石けん系とアルミニウム石けん系の組み合わせで、これは混合禁止(✕)です。アルミニウム石けん系グリスは食品機械や特定用途向けに使われることがあるため、設備のメンテナンス履歴を確認せずに汎用グリスを補給すると問題が起きる可能性があります。
「前に使ったグリスと同じかどうかわからない」という場合は、古いグリスを可能な限り除去してから新しいグリスを封入するのが最も安全な対応です。同一銘柄のグリスを使い続けることが原則です。
参考:異種グリスの混合リスクと増ちょう剤ごとの相性表が掲載されています。
増ちょう剤の異なるグリースの混合について – 日本ユニバイト株式会社
「異音が出てから交換する」という対応では遅すぎます。テーパーローラーベアリングの場合、異音が発生した時点で内部の損傷はかなり進んでいることが多く、最悪の場合は軸受の焼付き・設備停止に直結します。適切な補給・交換サイクルを把握し、予防保全として実施することが重要です。
グリスの補給間隔は、回転速度と軸受サイズによって変化します。一般的な目安として、JTEKT(光洋)のベアリング技術資料では補給間隔の目安グラフが提示されており、低速・小型の軸受では数千時間程度、高速・大型の軸受では数百時間程度となるケースもあります。
グリス劣化の判断は目視でも可能です。次の4点を確認してください。
グリスの補給・交換作業で意外と見落とされるのが「ニップルからの給脂が実際に内部に届いているか」の確認です。長期間グリスガンを使っていない設備では、ニップルが詰まっていて外見上は給脂できているように見えて、実際にはグリスが届いていないケースがあります。給脂後に排出側(ドレン側)から古いグリスが押し出されているか目視で確認するひと手間が、トラブルを防ぐ習慣になります。
作業前の確認として、現場で使用しているグリスの銘柄と増ちょう剤の種類を設備管理台帳に記録しておくことをお勧めします。これにより、担当者が変わっても異種グリス混合のリスクを防ぐことができます。
参考:グリース交換時期の見極め指標と現場での確認方法について詳しく解説されています。