炭化水素系洗浄剤 成分や種類と活用法

金属加工現場で使用される炭化水素系洗浄剤の成分構成や分類、メリット・デメリットを解説。塩素系溶剤からの転換が進む理由と、パラフィン系・ナフテン系の違い、安全な取扱方法まで知っておきたい知識とは?

炭化水素系洗浄剤 成分や種類

炭化水素系洗浄剤の基礎知識
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成分構成と基本特性

炭化水素系洗浄剤は炭素と水素で構成される有機溶剤で、石油を高度に精製処理または化学的に合成して製造されます

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金属加工油脱脂での主用途

切削油やプレス加工油などの金属加工油を落とす用途で最も活躍し、金属を腐食させない特性が評価されています

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環境規制対応での需要増加

塩素系溶剤の規制強化に伴い、オゾン破壊係数ゼロの炭化水素系洗浄剤への転換が業界全体で進展しています

炭化水素系洗浄剤 成分の分子構造分類

 

炭化水素系洗浄剤の成分は、分子構造の違いにより主に4つのタイプに分類されます。分子構造が異なると、洗浄力、粘度、揮発性、再生効率など、実務的な性能が大きく変わるため、用途に応じた適切な選択が重要です。

 

パラフィン系成分:直鎖状の炭化水素分子を含み、低粘度であることが特徴です。精密部品や複雑な形状の部品に対して、洗浄剤が隅々まで浸透しやすく、高い洗浄効果を発揮します。さらに、ノルマルパラフィン系とイソパラフィン系に細分化され、コスト面と再生効率のバランスで選択されます。

 

ナフテン系成分:環状構造を持つ炭化水素で構成され、洗浄性に優れる一方で、独特の臭気が強いという課題があります。熱処理向けの洗浄機では多く使用されていますが、作業環境の問題から現在では使用頻度が低下傾向にあります。

 

芳香族系成分:ベンゼン環を含む化合物で、比較的強い洗浄力を持ちますが、毒性や規制の観点から、現在の市場では使用が限定的です。

 

ハイブリッド型成分:炭化水素にアルコールやグリコールエーテル溶剤を混合したタイプで、加工油とフラックス汚れの両方に対応できる柔軟性があります。半導体加工やはんだ関連の用途では特に有効性が高いです。

 

炭化水素系洗浄剤 成分における再生・リサイクル効率の違い

洗浄剤としての寿命管理は、運用コストに直結する重要要素です。成分の種類によって、蒸留再生時の効率が異なり、廃液発生量やランニングコストに大きな差が生まれます。

 

ノルマルパラフィン系成分を含む洗浄剤は、単一物質に近い構成であるため、加熱蒸留時に沸点がシャープに定まります。その結果、蒸留塔内での成分分離が効率よく進行し、高い再生率(80~90%程度)を実現できます。しかし成分がシンプルなぶん製造コストが高く、導入時の本体価格も割高になる傾向があります。

 

一方、イソパラフィン系成分は異なる分子サイズが混在するため、沸点範囲が広くなり、蒸留再生時に再生品質のばらつきが生じやすいという課題があります。結果として廃液量が多くなり、長期的にはコスト増になるケースもあります。ただし、沸点範囲を狭める精製技術の進展により、イソパラフィン系でもノルマルパラフィン系に近い再生効率を実現する製品が市場に登場し、コストパフォーマンスの最適化が進んでいます。

 

蒸留再生機を併用した運用では、洗浄剤を常時リサイクルすることで消費量を最小化でき、環境負荷と経済性の両立が可能になります。

 

炭化水素系洗浄剤 成分と金属腐食リスクの関係

金属部品の洗浄において、洗浄剤の選定ミスは製品品質に直結する問題です。水系洗浄剤では脱脂後に水分が残存することで、鉄製品に赤が発生するリスクがあります。これに対して、炭化水素系洗浄剤に含まれる成分は金属表面への腐食性がほぼゼロに近く、部品に付着した微量の洗浄剤も自然蒸発するため、錆発生リスクが著しく低いという大きな利点があります。

 

特にステンレス鋼アルミニウム合金などの非鉄金属に対しても、炭化水素系成分は優れた相容性を示し、洗浄後の部品品質を長期間維持できます。ただし、成分の種類によっては樹脂やゴム製品を溶解・劣化させるリスクがあり、複合材料で構成された部品の洗浄には慎重な成分選定が必要です。特にハイブリッド型の選択や、事前の相性試験を実施することで、こうしたリスクを最小化できます。

 

炭化水素系洗浄剤 成分の引火性と消防規制への対応

炭化水素系洗浄剤の大きな制約条件が引火性です。成分に含まれる炭化水素分子は常温で蒸気圧を持ち、適切な環境下では引火する可能性があります。「燃焼の三要素」である①可燃物(炭化水素成分と蒸気)、②点火剤(火源)、③酸素供給体が揃わないようにすることが安全管理の基本です。

 

成分の引火点は、一般に炭化水素の沸点と相関関係を持ちます。低沸点成分ほど引火性が高く、高沸点成分ほど相対的に低くなります。製造工程での加熱作業が必要な場合、成分の引火点より十分低い温度管理が必須です。真空蒸気洗浄システムでは、洗浄槽内を減圧することで沸点を低下させ、加熱温度を90~120℃程度の低温に抑えることで、引火リスクを最小化する工夫がなされています。

 

消防法では、炭化水素系洗浄剤(成分による分類で乙種四類危険物・第2石油類または第3石油類)の貯蔵・取扱について規制があり、管轄消防署への届出や防爆構造の洗浄装置導入が基本的な対応となります。万が一火災が発生した場合の消火方法は、成分の水への不溶性を踏まえ、泡消火剤、ハロゲン化物二酸化炭素、粉末消火器などが有効です。

 

炭化水素系洗浄剤 成分選択による洗浄作業環境と労働安全への影響

洗浄作業現場の環境整備において、成分選択は作業者の健康と安全を左右する重要な判断軸です。ナフテン系成分を含む洗浄剤は強い独特の臭気を発生させ、長時間の作業環境では作業者のストレスになるだけでなく、十分な換気設備がない場所では健康被害のリスクも高まります。

 

対照的に、パラフィン系成分、特にノルマルパラフィン系成分は臭気が少なく、作業環境としての快適性が高いという利点があります。さらに、大多数の炭化水素系洗浄剤は有機溶剤中毒予防規則の対象外(毒性が低い)であるため、労働安全衛生の観点からも、水系洗浄剤や塩素系溶剤よりも規制負担が軽減されています。

 

ただし、引火性への対応コストは別問題であり、防爆構造の装置導入や定期的な安全管理体制の整備は必須です。このため、洗浄剤成分の選択には、短期的なコスト だけでなく、長期的な作業環境改善と法令遵守のバランスを考慮した戦略的な検討が求められます。

 

JFE商事エレクトロニクス「【洗浄とは?基礎編④】金属加工油汚れに最適、炭化水素系洗浄剤」では、パラフィン系、ナフテン系、ハイブリッド型の3つの主要タイプについて、分子構造と具体的な用途例を詳細に解説しています
NCC洗浄部門「炭化水素洗浄剤の特徴と洗浄方法」では、パラフィン系内のノルマルパラフィン系とイソパラフィン系の再生効率の違いや、真空ベーパー洗浄乾燥システムの具体的な運用フロー、消防法乙種四類への対応手順について説明されています
ジュンツウネット21「炭化水素系洗浄剤の適正使用について」では、4つの分類体系(ノルマルパラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系、芳香族系)と、蒸留再生可能性、金属腐食性の低さ、有機溶剤規則との関係について包括的な解説が提供されています

 

 


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