旋削加工の基本と種類とバイトの選び方
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旋削加工のポイント
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加工精度の向上
適切なバイト選択で、製品品質と加工精度が大幅に向上します
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効率的な作業
加工内容に適したバイトの使い分けで作業効率が向上します
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コスト削減
バイトの寿命を延ばし、材料のロスを減らすことでコスト削減に繋がります
旋削加工とは:基本原理と工程の理解
旋削加工は、被削材を回転させながらバイトと呼ばれる切削工具を押し当て、材料を削り出す加工方法です。この加工法の大きな特徴は、円筒形状の部品を高精度で加工できることにあります。旋削加工は金属加工の基本技術として、様々な産業分野で活用されています。
旋削加工の基本的な仕組みを理解するには、以下の3つの要素が重要です。
- 被削材の回転運動 - 工作物を回転させることで、バイトの刃先が円周上を連続的に切削します
- バイトの送り運動 - バイトを軸方向や径方向に移動させることで、様々な形状の加工が可能になります
- 切込み量の調整 - 切削深さを調整することで、粗加工から仕上げ加工まで対応できます
旋削加工では、切削条件(被削材と刃物の接する角度)が重要な要素となります。この角度が適切でないと、切りくずの排出が悪くなったり、バイトの摩耗が早まったりする原因となります。
旋盤工作の基礎として、バイトと被削材の位置関係も重要です。バイトの刃先の高さは、被削材の中心軸と同じ高さに調整することが基本となります。この高さが適切でないと、仕上げ面の精度が低下するだけでなく、バイトに過剰な負荷がかかることになります。
旋削加工の主な種類と特徴
旋削加工には様々な種類があり、それぞれに特徴のある加工方法があります。目的に応じて適切な加工方法を選択することが重要です。
1. 外周加工
外周加工は旋削加工の中でも最も基本的な加工方法です。主に片刃バイトや剣バイトを使用して行います。
- 外丸削り - 加工ワークの外周を削り、外径を小さくする基本的な加工
- 段削り - 加工ワークに段差をつける加工
- テーパ削り - 加工ワークに勾配をつけ、円すい形状に仕上げる加工
- 曲面削り - 加工ワークを曲面状に削る加工
2. 端面加工
加工ワークの端面を削る旋削加工です。こちらも片刃バイトや剣バイトを使用します。
- 端面削り - 加工ワークの端面を平面に整える加工
- 正面削り - 端面に段や溝をつける加工
- 面取り - 角にできたバリを削り落とす加工
3. 穴あけ加工
加工ワークに穴をあける旋削加工です。
- 穴あけ - ドリルを使用して加工ワークの中心に穴をあける加工
- 中ぐり - すでにあいている穴をさらに広げる加工
4. ねじ加工
加工ワークの外周や内面にねじ山をつくる旋削加工です。
- おねじ切り - 外周にねじを削り出す加工
- めねじ切り - 内面にねじを削り出す加工
5. その他の加工
- 溝入れ - 加工ワークの外周に溝をつける加工(突っ切りバイトを使用)
- 突切り - 加工ワークを切り離す加工
- ローレット切り - 滑り止めなどのための模様付け加工
これらの加工方法は、製品の用途や要求精度によって使い分けられます。特に高精度が要求される場合には、複数の加工工程を経て仕上げることも一般的です。
バイトの種類と構造:選択の基本知識
バイトは旋削加工において材料を削り取るための重要な工具です。適切なバイトの選択は、加工精度や効率に大きく影響します。バイトの構造を理解し、加工内容に合わせて適切に選択することが重要です。
◆ 構造による分類
バイトは構造によって以下の3種類に分類されます。
- ムクバイト - シャンクから刃先まで一体化したバイト。完成バイトとも呼ばれ、刃先を自由に成形できる特徴があります。
- 付刃バイト - シャンクに刃先をロウ付けしたバイト。ロウ付けバイトとも呼ばれ、ムクバイトと同様に使用前に刃先の成形が必要です。
- スローアウェイバイト - シャンクと刃先(チップ)が別になっており、チップを交換できるバイト。研磨の必要がなく、使いやすさや作業効率に優れているため、現在の主流となっています。
◆ 形状による分類
バイトは形状によっても様々な種類があり、用途に応じて使い分けられます。
- 片刃バイト - 片側だけに刃があり、外周加工や端面加工など基本的な旋削加工で使用される最も一般的なバイト
- 剣バイト - 先が尖った形状のバイト。曲面削りやテーパ削りなど複雑な形状の加工に適しています。
- 中ぐりバイト - 穴の内径を切削するためのバイト。ボーリングバイトとも呼ばれます。
- 突切りバイト - 溝入れや突切り加工に使用される薄い形状のバイト
- ねじ切りバイト - ねじ山を形成するための専用バイト。先端は一般的に60°の形状になっています。
- ローレット工具 - ローレット(ギザギザの模様)を付けるための専用工具
◆ バイトの各部名称と役割
バイトは「シャンク」と「チップ(刃部)」から構成されています。チップには以下の重要な部分があります。
- すくい面 - 被削材を削り取った際に切りくずを送り出す面
- 逃げ面 - すくい面と垂直方向にあり、被削材に対して切れ刃部分のみが当たるように角度を持たせる面
- 切れ刃 - すくい面と逃げ面が交わる稜線部分
- コーナR(ノーズR) - 刃先の角の部分の丸みで、刃先の剛性や切れ味に関係する
スローアウェイバイトのチップは、材質によっても選択肢があります。一般的な超硬合金のほか、サーメットやセラミックなど、被削材に合わせて選べるようになっています。
材料別:適切なバイト選びのポイント
旋削加工においては、加工する材料(被削材)の特性に合わせてバイトを選ぶことが重要です。材料ごとに適したバイトを選択することで、加工精度の向上、バイトの寿命延長、作業効率の改善につながります。
◆ 材料別の選定ポイント
1. 軟質材料(アルミニウム、銅など)
- 切れ味の鋭いバイトを選択する
- 切削抵抗が小さいバイトが適している
- すくい角が大きめのバイト(正のすくい角)が効果的
- 滑らかな表面仕上げが可能なバイトを選ぶ
アルミニウムのような柔らかい金属を加工する場合、切れ味が鋭く切削抵抗が小さいバイトを選択すると、滑らかな表面仕上げが可能になります。
2. 硬質材料(ステンレス、鉄など)
- 耐久性の高いバイトを選択する
- チップ材質は超硬合金やサーメットが適している
- 切削熱に強いバイトが必要
- すくい角が小さめのバイト(負のすくい角)がチッピングを防ぐ
ステンレスや鉄など硬度の高い材料を加工する際には、耐久性の高いバイトを選ぶことが重要です。
3. 切削条件による選定
バイトの選定は、切削条件にも大きく影響されます。
- 荒加工用 - 剛性が高く、大きな切込みに耐えられるバイト
- 仕上げ加工用 - 刃先が鋭く、表面粗さを良くするバイト
- 連続加工用 - 耐熱性に優れたバイト
- 断続加工用 - 耐衝撃性に優れたバイト
◆ チップ選定のポイント
スローアウェイバイトのチップ選定も重要なポイントです。
- チップの形状 - 様々な形状(三角形、菱形、四角形など)があり、加工内容に合わせて選びます
- コーナーR - 大きいほど仕上げ面が良くなり、小さいほど正確な形状加工ができます
- チップブレーカー - 切りくずを適切に処理するための形状で、連続切りくずの問題を防ぐ役割があります
◆ バイトホルダーの選定
スローアウェイバイトでは、チップを固定して保持するバイトホルダーの選定も重要です。
- 外径加工用と内径加工用で求められる機能が異なる
- 剛性や切り込み角によって行える加工が左右される
- チップの固定方式によって適している加工の種類が変わる
材料の特性を理解し、加工内容に最適なバイトとチップの組み合わせを選ぶことで、高品質な製品を効率よく生産することが可能になります。
旋削加工の精度向上:バイト角度と切削条件の最適化
旋削加工の精度を向上させるためには、バイトの角度設定と切削条件の最適化が不可欠です。適切な設定により、仕上がり精度の向上だけでなく、工具寿命の延長やコスト削減にもつながります。
◆ バイト角度の最適化
旋削加工において、バイトの角度は加工精度に大きく影響します。主要な角度として以下のものがあります。
- すくい角 - 切りくずの排出方向を決める角度。材料によって最適値が異なります。
- 軟質材料:大きなすくい角(正のすくい角)
- 硬質材料:小さなすくい角(負のすくい角)
- 逃げ角 - バイトと被削材の摩擦を減らす角度。一般的に5~15度が使用されます。
- 小さすぎると摩擦熱が増加
- 大きすぎると刃先強度が低下
- 切れ刃角 - 切れ刃の角度で、切削抵抗に影響します。
- 鋭角:切れ味が良いが刃先強度が低い
- 鈍角:刃先強度が高いが切削抵抗が大きい
この中でも特に重要なのが、被削材と刃物の接する角度です。この角度が適切でないと、切削性能が低下し、バイトの摩耗が早まる原因となります。
◆ 切削条件の最適化
切削条件の適切な設定も精度向上のカギとなります。
- 切削速度 - 被削材の材質や硬さ、バイトの材質によって最適な速度が異なります。
- 高速:生産性向上、表面粗さ改善
- 低速:バイト寿命延長、難削材に適する
- 送り速度 - 表面粗さと生産性のバランスを考慮します。
- 速い:生産性向上、但し表面粗さが悪化
- 遅い:表面粗さ改善、但し生産性が低下
- 切込み量 - 一度に削る深さで、工作機械の剛性や出力に合わせて設定。
- 大きい:生産性向上、但しバイト寿命が短縮
- 小さい:バイト寿命延長、精度向上
◆ 構成刃先現象への対策
旋削加工において、「構成刃先」という現象が発生することがあります。これは被削材の一部がバイトの刃先に溶着し、実質的な刃先形状が変化する現象です。
構成刃先が発生すると以下の問題が生じます。
- 加工面粗さの悪化
- 加工精度の低下
- バイト摩耗の促進
対策
- 切削速度の適正化(特に低速域での加工を避ける)
- 切削油剤の適切な使用
- バイトの材質や形状の見直し
- すくい角の調整
◆ 精度向上のための実践的テクニック
実際の加工現場での精度向上のためのテクニックとして。
- バイトの正確な取り付け - バイトの高さを被削材の中心に正確に合わせることが重要です。
- 段階的な切削 - 特に精密加工では、荒加工から仕上げ加工まで段階的に行うことで精度が向上します。
- 荒加工:大きな切込みで形状を作る
- 中仕上げ:適度な切込みで形状を整える
- 仕上げ加工:小さな切込みで表面を仕上げる
- 振動対策 - 旋削時の振動(びびり振動)は精度低下の大きな原因となります。
- バイトの突き出し量を最小限にする
- 工作物の支持を強化する
- 切削条件(特に回転数)の最適化
以上のようなバイト角度と切削条件の最適化を通じて、旋削加工の精度向上とコスト削減を実現することができます。特に高精度が要求される部品製造においては、これらの要素を総合的に考慮した加工計画が不可欠です。